このレビューは、計8枚のアルバムから、中心に配置した1枚のアルバムのバックグラウンドを紐解く、ki-ft・アンテナ共同企画【3×3 DISCS】のレビューの中心となる1枚です。
企画詳細はこちらをご確認ください。
生活とともにあるポップソング
京都でHomecomingsが活動を開始したのが2012年、そのほぼ同時期の2011年に、福岡で結成されたNYAI。Homecomingsと同じく男女混合編成のバンドである彼らが、昨年リリースした『OUT PITCH』という作品がある。前作からのオルタナティブな音も感じつつ、より生活を近くに感じられるポップさが際立つミニアルバムだ。その表題曲でもある「Out pitching」は陽だまりみたいなギターから始まり、イノセントな歌声で、平熱のメロディーがゆったり進む。しかし歌詞には<この日々がいつか泡になっていくこと 君はきっと知らない>と、永遠の時間がないことを知る切なさが漂い、青春の甘酸っぱさには収まらない大人の視点を持っている。それは「Songbirds」の中の<今しか観られないような西日の中 ポケットに隠したチョコレートが溶けていった(和訳)>にも通じるところがあるだろう。永遠に続きそうな迷いや悩みもいつの間にか消えて、永遠に続いて欲しい関係や時間も、進んで変わっていく。少し客観的に描かれた学生時代の心模様は、ポップなギターサウンドの中でほろ苦く響いてくる。
おそらく、両バンド自体が実際に影響し合っていることはないと思うが、ルーツとなる音楽(90年代のUSやUKのギターロックなど)に共通点を感じるし、今自分たちの生活が続く京都と福岡でもその土地の文化をめいっぱい吸い込み、シーンに囚われることなく地に足をつけて活動をしていることにも、親和性の高さを感じずにはいられないのだ。
第三回【3×3 DISCS】:Homecomings『Songbirds』を中心とした9枚のアルバム
You May Also Like
WRITER
-
滋賀生まれ。西日本と韓国のインディーズ音楽を好んで追う。文章を書くことは世界をよく知り深く愛するための営みです。夏はジンジャーエール、冬はマサラチャイを嗜む下戸。セカンド俗名は“家ガール“。
OTHER POSTS