千早の進路間違ってない?!組織運営ってそういうことか? 映画『ちはやふる 結び』を考察 面白かったけど、これだけ言わせて!
画像:(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社
『ちはやふる 結び』、面白かったですね。
派手なアクションや緊迫のミステリー要素なんてものは皆無。それなのにずっと見ていられる。ず~っと見てたい。終わって欲しくない。そんな映画でした。まるで常にアロマオイルでマッサージをされているような気分になる作品でしたね。(いやマッサージされたこと無いんだけど)
筆者の推しである森永悠希くん演じるか弱くも強い机くんの可愛いさは今作でも健全でしたし、初登場の賀来賢人の塞ぎこんだクールな役にも引きこまれました。もう大満足。
もう言うことないです。映画としてはもう言うことないのだけれど、ひとつだけ言わせてください。「千早の選択」は合ってますか? 僕は彼女の選んだ道が引っかかってならないんですよ。今回はそんな僕のモヤモヤにお付き合いいただきます。張り切ってどうぞ。
注意:このコラムでは『ちはやふる 結び』のネタバレが含まれます。
この映画のテーマは「脈々たる系譜」。これは間違いないでしょう。
千年以上も謳い継がれる百首の短歌、そしてそれとパラレルに重なるこれから歴史を刻む瑞沢かるた部。この二つがこれからも気が遠くなるほどの時間をかけて受け継がれ続けるであろう、という開かれた未来が描かれています。
また、これを映画という記録メディアで鑑賞していることからコンテンツそのものの在り方へと置き換えて考えることもできますね。素晴らしい!
これを象徴するような印象的なエピローグで映画が締まります。
それはあの決戦を繰り広げた数年後、母校のかるた部の顧問として再び近江神宮で部員を取りまとめる千早の姿が!……という着地。
次の世代へ想いを託す立場へと転身した千早。部員の数はかつてとは比べ物にならないほどで、たしかにあれからかるた部が大きくなってきたことを予感させます。
…………あれ?
いや主導権わたしていないじゃん。広瀬すず、まだ主役なのかよ。
顧問としての指導者が優希美青の演じる花野(結びで初登場する新入生女子)なら僕も納得したんですけどね。千早がバトンを渡し、さらに次の世代へと受け継いでいく……というような綺麗な構図が成立したはずです。しかしそうではなく、あくまでも千早が主人公としてかるた部の主役の座をキープしているんですよ。
千早、そこにいちゃダメじゃない?
不可逆で不断な川の流れのような世代の移り変わりをせき止めるような真似しちゃいけないんですよ。同じ川なんて1秒も存在しないんだよ。方丈記を読めよコノヤロー。
僕は組織を引っ張ることと、組織を持続可能に育てることは全くの別だと思うんですよ。飢えた人には魚を与えるのではなく魚の釣り方を教える必要がある。まあ50年くらいは良いとして、その後どうするの?この映画が相手にするテーマの時間は最低でも1000年ですよ?三十六万五千日以上の膨大な時間を通してかるた部の精神を持続させていく必要があるのに。よしんばかるたのスキルは伝えられたとして、「部員だけで団結してレベルアップしていく」という瑞沢かるた部の本質は完璧に失われてしまわないかなあ。
千早が教員として部活に戻ってくることで『ちはやふる』シリーズのテーマたる「受け継ぎ、脈々と続く」というテーマを水で薄めるような形になってしまうんですよ。賀来賢人演じる周防はかるたを辞めてしっかり野村周平演じる太一に意思を受け継いだのにさ。
とまあそんな所に引っかかってしまいましたが、他は文句なく満点。冗談抜きでまた見たい映画でしたね。なんか変なこと言ってごめんね?まずはディスクを買って、それを息子なり娘なりに見せないといけませんね。
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そして数年後、そこには若手ライターの書いた陰湿で陰湿を煮詰めたようなろくでもないコラムに目を通すある男の姿が。そのコラムは以下のように結ばれている。
「――そんなわけで川合さん、そろそろアンテナ編集長の座を譲ってくれませんかね?」
WRITER
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95年生。映画ライター。最近大人になって手土産をおぼえました。
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「フラスコ飯店」というwebの店長をしています。