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修美社

DESIGN BOOKS 2019.05.21 Written By 川合 裕之

これからの印刷と修美社

――

これから印刷業界や修美社はどう変わっていくとお考えですか?

山下

新しい技術は入れていきたいですね。(印刷は)設備産業というのもありますし、これまでの枠を超えるような領域にも挑戦していきたい。

 

たとえば電子書籍。電子書籍というものが世に出た時に、印刷業界はビビったわけですよ。「紙は無くなる?!」と。なので紙も作って電子書籍も作る、という会社もあるにはありましたが、結局のところ電子と紙の両方を取り扱う会社はあまり増えなかったんですよね。

 

最近になって「紙の本を作ったら、電子書籍も作って一緒に販売すればいい」という意見をきいて確かにそうで「頑なに避ける理由もないな」と思いました。紙の手触りを電子的に伝える「ハプティック」という技術もあります。そうした技術も取り入れながら積極的に電子書籍の方も展開していければなと思っています。

――

デジタルな領域にも敏感になっていくと。

山下

しかし、一方で超アナログな方法にも注目しています。活版印刷なんかも面白いなと感じていて。例えば親父が娘の名前の活字を自分で選んで、自分で活版印刷する……みたいにして作ったアルバムは一生残るんだろうなと思います。モノに、その過程までが刻まれているというか。キーボードを叩くだけや、オフセット印刷では出せない価値だなと思うんです。

――

活版印刷もまだ健在なんですね。

山下

そうですね。活版印刷をやっていた人達は、今はもう80歳と90歳とかになります。当時のことを知る彼らと話ができるのは、もう今しかないんですよね。「今よりもアナログな本がある」というのを伝えるための情報を聞くのは、今しかない。活版印刷の付加価値は、オフセット印刷には出せません。だから今のうちにこのアナログな方法を受け継いでおきたいと感じています。

――

アナログならではの価値って、山下さんはどんなものだと思いますか?

山下

元々、モノに込められたストーリーとか手作業のディティールが好きなんですよね。これは修美社に入社する前に雑貨屋で働いていたころからです。ずっと残るモノにこそ、付加価値が付くと信じているのかもしれません。製品になって印刷屋の手から離れた後も、紙の本ってずっと残るじゃないですか。そういう風に思い入れや時間がモノとして残っているのは面白いなと。

――

そうしたアナログな付加価値は今後も重要視されてくるのでしょうか。何か具体的な展望があれば教えてください。

山下

修美社2号店の工房が入る予定です。どう盛り上がるのかは、やってみないと分かりません。しかし「作っている姿を一般消費者に見せる」ということは、絶対に今後の紙の未来に繋がると思っています。こうした工夫を施すことで、今よりも紙に魅力を感じてもらえればと。

 

本や印刷物の過程を知らない人が大多数だと思いますが、そうした人たちに作り方を見せることで「じゃあこれは?」「あれはどうやって綴じている?」と興味を持ってもらえるのかなと。こうした視点を持つ人が増えれば、紙の本そのものの付加価値も自然と見つけてもらえるのではないでしょうか。それで印刷物の面白さがもっと色々な人に伝わればなと思います。

――

山下さんの思う「印刷物の面白さ」とは何でしょうか?

山下

何でこの色で、この紙で作ったんだろう?ってことですよね、うん。(数秒沈黙)

 

インクの種類も印刷の方法もたくさんあるし、その組み合わせは無限なんですよね。色だけじゃなくて紙によって質感も違います。それだけ選択肢がたくさんある状況で、まだないものを1からつくって、自分の美意識を具体的な形にしようとするのがおもしろいと感じています。

 

定番はありますが、やったことがないパターンもいまだに沢山あります。未知の組み合わせを
「うわ、こんなんなった!」って立ち合える瞬間ですかね。

――

ありがとうございました。

編集後記

紙の価値、情報の寿命、コミュニケーションの大切さ。どれもこれもwebマガジンでありながらフリーペーパーでもある弊紙アンテナにとっては非常に興味深いお話でした。

 

印刷物が整然と並ぶPringinh Lab に足を踏み入れると、自然と背筋が伸びて、気持ちが引き締まります。緊張ともまた違うこの雰囲気のその理由は、印刷物に刻まれた作家と印刷会社の熱量が空気にまで滲んできていたからなのかもしれません。私もまた、人の呼吸を整え直すような文章を発信したいと再確認した次第です。

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