言葉も、音も、声も、すべてを噛み砕き、消化する怪物の正体はいかに
ポップで、タイトで、エッジーで、ソリッドで、ダンサナブルで、サイケデリックで……。あらゆる形容詞の存在を嘲笑うかのような、なんとも「食えない」音の塊を突き付けてきた。
pandagolffが『Sweetie sweets medicine』(2022年)以来1年ぶりにリリースした4thアルバム、その名も『IT’S NOT FOOD!!』。神奈川県横浜市出身、東京を拠点に活動するインダストリアルポストパンクバンド。コンスタントにシングルをリリースし、ライブ活動も精力的に行っている。何も知らない人が偶然SNSで彼らのMVを目にして、その曲を耳にしてしまったら、脳裏や眼や耳に焼き付いて、夜も眠れず、眼をつぶっても瞼の裏で赤黒い影が彼らの曲に合わせて躍動してしまうだろう。それくらいのインパクトがある。
これは、限りなくフィジカルな手法を用いたサンプリングだ。レコードとターンテーブルではなく、彼らの右脳を回転させて本来は全く別のものであった音楽や非音楽をつなぎ合わせ、一つの作品にしてしまう。その曲がひたすらにキャッチーで踊れるのだから、気味が悪い。
金属的でノイジーなギターと弾力ある極太のベース、ローテンションなヴォーカル、機械的なドラム……。彼らが鳴らす、無駄をそぎ落とした鋭利なサウンドはポストパンクであり、インダストリアルミュージックでもある。同時にどちらをもってしても足りない。自ら標榜しているようにサイケデリックロックやアンビエントミュージックの要素も取り込んだ雑食性が、ミニマルなサウンドで表現されているからだ。そして、およそ解読できそうにない詞も、紛れもなく骨肉化された彼らの一部になっている。同時に、作中に登場する言葉一つ一つの意味であったり、音楽ジャンルそれぞれが持っていた意味は既に原形をとどめていない。pandagolffという怪物によって、取り込んだ音楽や言葉は噛み砕き、飲み込まれ、消化されている。
本作においては、必要最少限の楽器で構成された生のバンドサウンドを前面に押し出しているため、一聴すると「同じ音」の中にまとまっているようにも感じられる。しかし、これはあくまで怪物が持つ現在の姿であり、そこに至るまでに既存の音楽や言語表現(もしかしたら映画や小説も)がその怪物の胃袋へ収まり、別のものに変えられていく過程を経ている。
実は、これまでの彼らの作品では、ここまでサウンド面で統一された印象はなく、曲ごとに趣向を変えた幅のある作風だった。創作に対する基本的なスタンスは変わっていないことがその雑食性や歌詞の世界観から伝わってくるものの、「pandagolffの音」を明示したともいえる本作は、そこから新たな境地に到達したといっていい。
冒頭を飾るスローで不穏な“ハンバーグレモン”で聴く者の心にぽっかりと空洞を掘った後、その穴にずるずると怪物が侵入してくるような感覚を徐々に味わうことになる。
特に「ファンキー」といっていいくらい、柔軟に弾力をもって躍動するベースの音が全体的に無機質なサウンドの中で聴き手に迫ってくる。この音は前作までにはなかったアプローチで、この怪物が手にした、決定的な武器だ。シングルカットされている“ADDITIONAL LEMON”は、そうした本作の色が最も堪能できるハイライトといえる。淡々とシュールでナンセンスな世界観の中、野生動物のようにしなやかに動き回るベースだけが異様に攻撃的だ。
これだけ確信犯的な作風でありながら、このバンドが伝えようとしていることは何なのか、目指す方向はどこなのか。そういったことはアルバムを何度聴いても「しっぽ」だけでも掴ませてくれない。表題にある通り「食えない」作品であることは間違いないが、その「食えなさ」こそが魅力であることも間違いない。
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IT’S NOT FOOD!!
アーティスト:pandagolff
発売:2023年6月7日
価格:¥2,200(税込)
フォーマット:カセットテープ / デジタル
収録曲
1.ハンバーグレモン
2.ZETTON
3.RADIO PAPA, RADIO MAMA
4.ADDITIONAL LEMON
5.お裁縫リフレッシュ
6.フリース LOVE YOU
7.MIKEありがとう
8.GURUGURUGU
pandagolff
神奈川県横浜市出身。東京を拠点に活動するインダストリアルポストパンクバンド。2019年、machiko(Vo、Gt、Syn)、eisuke shiroyama(Ba、Syn)の2名で活動を開始する。数多のシングルに加え、これまでに4枚のアルバムをリリースしており、非常に精力的な活動を続けている。
HP:pandaagolf.wixsite.com/pandagolff
Instagram:instagram.com/pandagolff/
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後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、あまり役に立たない文章を愛でています。旅の目的地は、何もないけれど何かが起こりそうな場所。
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