REVIEW
IT'S NOT FOOD!!
pandagolff
MUSIC 2023.06.26 Written By ivy

言葉も、音も、声も、すべてを噛み砕き、消化する怪物の正体はいかに

ポップで、タイトで、エッジーで、ソリッドで、ダンサナブルで、サイケデリックで……。あらゆる形容詞の存在を嘲笑うかのような、なんとも「食えない」音の塊を突き付けてきた。

 

pandagolffが『Sweetie sweets medicine』(2022年)以来1年ぶりにリリースした4thアルバム、その名も『IT’S NOT FOOD!!』。神奈川県横浜市出身、東京を拠点に活動するインダストリアルポストパンクバンド。コンスタントにシングルをリリースし、ライブ活動も精力的に行っている。何も知らない人が偶然SNSで彼らのMVを目にして、その曲を耳にしてしまったら、脳裏や眼や耳に焼き付いて、夜も眠れず、眼をつぶっても瞼の裏で赤黒い影が彼らの曲に合わせて躍動してしまうだろう。それくらいのインパクトがある。

これは、限りなくフィジカルな手法を用いたサンプリングだ。レコードとターンテーブルではなく、彼らの右脳を回転させて本来は全く別のものであった音楽や非音楽をつなぎ合わせ、一つの作品にしてしまう。その曲がひたすらにキャッチーで踊れるのだから、気味が悪い。

 

金属的でノイジーなギターと弾力ある極太のベース、ローテンションなヴォーカル、機械的なドラム……。彼らが鳴らす、無駄をそぎ落とした鋭利なサウンドはポストパンクであり、インダストリアルミュージックでもある。同時にどちらをもってしても足りない。自ら標榜しているようにサイケデリックロックやアンビエントミュージックの要素も取り込んだ雑食性が、ミニマルなサウンドで表現されているからだ。そして、およそ解読できそうにない詞も、紛れもなく骨肉化された彼らの一部になっている。同時に、作中に登場する言葉一つ一つの意味であったり、音楽ジャンルそれぞれが持っていた意味は既に原形をとどめていない。pandagolffという怪物によって、取り込んだ音楽や言葉は噛み砕き、飲み込まれ、消化されている。

 

本作においては、必要最少限の楽器で構成された生のバンドサウンドを前面に押し出しているため、一聴すると「同じ音」の中にまとまっているようにも感じられる。しかし、これはあくまで怪物が持つ現在の姿であり、そこに至るまでに既存の音楽や言語表現(もしかしたら映画や小説も)がその怪物の胃袋へ収まり、別のものに変えられていく過程を経ている。

 

実は、これまでの彼らの作品では、ここまでサウンド面で統一された印象はなく、曲ごとに趣向を変えた幅のある作風だった。創作に対する基本的なスタンスは変わっていないことがその雑食性や歌詞の世界観から伝わってくるものの、「pandagolffの音」を明示したともいえる本作は、そこから新たな境地に到達したといっていい。

 

冒頭を飾るスローで不穏な“ハンバーグレモン”で聴く者の心にぽっかりと空洞を掘った後、その穴にずるずると怪物が侵入してくるような感覚を徐々に味わうことになる。

特に「ファンキー」といっていいくらい、柔軟に弾力をもって躍動するベースの音が全体的に無機質なサウンドの中で聴き手に迫ってくる。この音は前作までにはなかったアプローチで、この怪物が手にした、決定的な武器だ。シングルカットされている“ADDITIONAL LEMON”は、そうした本作の色が最も堪能できるハイライトといえる。淡々とシュールでナンセンスな世界観の中、野生動物のようにしなやかに動き回るベースだけが異様に攻撃的だ。

これだけ確信犯的な作風でありながら、このバンドが伝えようとしていることは何なのか、目指す方向はどこなのか。そういったことはアルバムを何度聴いても「しっぽ」だけでも掴ませてくれない。表題にある通り「食えない」作品であることは間違いないが、その「食えなさ」こそが魅力であることも間違いない。

Apple Musicはこちら

IT’S NOT FOOD!!

 

アーティスト:pandagolff
発売:2023年6月7日
価格:¥2,200(税込)
フォーマット:カセットテープ / デジタル

 

収録曲

1.ハンバーグレモン
2.ZETTON
3.RADIO PAPA, RADIO MAMA
4.ADDITIONAL LEMON
5.お裁縫リフレッシュ
6.フリース LOVE YOU
7.MIKEありがとう
8.GURUGURUGU

pandagolff

 

神奈川県横浜市出身。東京を拠点に活動するインダストリアルポストパンクバンド。2019年、machiko(Vo、Gt、Syn)、eisuke shiroyama(Ba、Syn)の2名で活動を開始する。数多のシングルに加え、これまでに4枚のアルバムをリリースしており、非常に精力的な活動を続けている。

 

HP:pandaagolf.wixsite.com/pandagolff

Instagram:instagram.com/pandagolff/

WRITER

RECENT POST

REVIEW
Tomato Ketchup Boys『The Second Escape From The Sum…
REPORT
地域のライブハウス、フェスはどうやって生き残る?アジア各国での取り組みーTRENDY TAIPEIパ…
REPORT
台北都市型フェス“Jam Jam Asia”はアジア音楽の“今”を見るショーケース―TRENDY T…
REPORT
ANTENNAとTHREEが伝えたい、これが関東インディーミュージックで今一番見せたい4組だ!―Fi…
INTERVIEW
“開かれたローカル”葉山の入り口、ヴィンテージバイヤーが始めたフリーマーケット
INTERVIEW
ロンドン発、驚きと発見に満ちた一杯―Dark Arts Coffee Japan【MAKE OURS…
INTERVIEW
カルチャーを生む対話、きっかけをくれる自転車―Wood Village Cycles【MAKE OU…
REVIEW
GOFISH『GOFISH』 – 独白と連動し、鮮明に躍動する風景
REPORT
Like A Fool Recordsが放つ鋭く、深く突き刺さる、東京インディーズ四つ巴。Kidde…
REVIEW
aieum『sangatsu』―絶えず姿形を変え動き続ける、その音の正体は果たして
INTERVIEW
2024年台湾音楽シーンを揺らす、ローカルフェスとその原動力―『浮現祭 Emerge Fest』主催…
REVIEW
Forbear『8songs』―歪な自己内省の衝突音が、荒々しくもメランコリックに響き渡る
REVIEW
Sugar House『Sugar House』―寒空の下、まっすぐに前を向く音が鳴る
REPORT
パブが育むイーストロンドンのナイトカルチャー、ビール片手にインディーロックで酔う週末を
REVIEW
HOME『HOME EP』―低温多湿な沖縄産・世界基準のポップミュージック
REVIEW
Maya Bridget『That Girl / White Lies』―無数の音楽体験が持つきらめ…
REPORT
アジアからの未知なる音楽にリスナーは何を求めているのか-BiKN shibuya 2023 クロスレ…
INTERVIEW
高円寺のカフェSUB STOREで触れる、インドネシアの音楽と暮らし
REPORT
研ぎ澄まされた美意識が寄り添うものとは―『Lillies and Remains Japan Tou…
REPORT
刺激中毒なインディーミュージックギークヘ捧ぐ、狂気の一夜『pandagolff 4th album …
REVIEW
J.COLUMBUS & MASS-HOLE『On The Groove, In The …
REPORT
「聴いたことがない曲」に熱狂する、新たな音楽を目撃する場所―『BIRTH vol.9』ライブレポート
INTERVIEW
ちょっと不便な待ち合わせ場所〈Goofy Coffee Club〉から動き出した、東東京のユースカル…
REPORT
突然、平穏な日々に現れた非日常体験としての「オルタナ」 -『Fine, Great 1st EP “…
REPORT
「外向きの自己内省」それは、音楽を通して己を肯定するセラピー-『“Tough Love Therap…
REVIEW
郷愁の歌声が中毒性抜群な、インドネシア産ポストパンク – Bedchamber『Capa…
INTERVIEW
【Playgrounds Vol.2】「買い付けをしない古着屋」〈シャオ・そなちね〉が足を止めた人に…
REVIEW
Lillies And Remains『Superior』- 孤高のバンドが9年の歳月を経て到達した…
REVIEW
SAGOSAID『Tough Love Therapy』- ヒリヒリとじんわりと痛むのは、きっとその…
REPORT
国境、ジャンルを超えた、音楽のピュアな熱量が交錯する祝宴 -『Sobs Japan Tour 202…
INTERVIEW
【Playgrounds Vol.1】3代続く老舗スポーツ用品店〈FUJIKURA SPORTS〉が…

LATEST POSTS

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…

REPORT
壁も境目もない音楽の旅へ‐『京都音楽博覧会2024』Day1ライブレポート

10月12日(土)13日(日)、晴れわたる青空が広がる〈梅小路公園〉にて、昨年に引き続き2日間にわた…

REPORT
自由のために、自由に踊れ!日常を生きるために生まれた祭り – 京都学生狂奏祭2024

寮生の想いから生まれたイベント『京都学生狂奏祭』 …