REVIEW
8songs
Forbear
MUSIC 2024.03.20 Written By ivy

歪な自己内省の衝突音が、荒々しくもメランコリックに響き渡る

いつになく不穏で気怠く、生々しく、そして、重々しい。

 

「Tokyo Positive Emogaze」を標榜し、繊細で抒情的、かつどこか痛みや空虚さを含んだ良質なシューゲイザー、ドリームポップを鳴らしてきた4人組バンド、Forbear。Whisky Yoko(Vo / Gt)の物憂げな女声ヴォーカルがノイジーで重厚なギターのアンサンブルの中を漂うサウンドは、My Bloody ValentineやPale Saintsなどのアーリーオルタナティブ、黎明期のシューゲイザーに通じるものがあり、美しさや儚さと共に幾分かの毒気を感じさせるところが魅力だ。

 

そんな彼らだからこそ、2年ぶりの音源である2ndアルバム『8songs』を聴いて、面食らいながらも妙に腑に落ちた。

まず、歪んだ金属的なディストーションギターが飛び込んでくる“Open Up”、“The Fiend”のオープニング2曲が強烈だ。ざらざらとした硬質で棘のある音でありながらメランコリックで繊細なメロディを奏で、Smshing Pumpkins、そして彼らが影響を公言しているHumを思わせる。こうしたグランジ / オルタナに接近した音は、これまでの彼らのイメージからは意外なアプローチだといえる。

 

その中でも彼らの音として確固たる印象を植え付けてくれるのは、サウンドに負けず劣らずのエネルギーを持つ男女ツインヴォーカルだ。Sunny Day Real EstateやMineralといった90年代のインディーエモの影響を感じさせるYoshigazer(Vo / Gt)の男声ヴォーカルは、力強さと内省的な響きが同居していて、完全にサウンドの世界観に溶け込んでいる。反対に、Whisky Yokoの歌い方はいつも以上に冷たくローテンションな声色で、演奏の荒々しさと美しい歌声の対比が際立つ。

 

やはり、元々彼らのサウンドが持っていた立体感、奥行き、重厚さはこれまでと少し異なる味付けでも明確に感じられた。本アルバムでも一貫して、楽曲の中で4人それぞれがエモーショナルな表現をしている。その表現は、4人それぞれが別のベクトルの感情をぶつけ合うような形に近い。ノイジーなサウンドに複雑に絡み合った感情が内包されている。危ういまでの濃度と密度を持った感情が爆発一歩手前で吐き出されていくようだ。恐らくライブで聴いても、相当凄みのある仕上がりになることは間違いないだろう。

 

その後は冒頭の流れを汲んで、Deftonesを彷彿とさせるようなずっしりとしたベースがメタリックなリフと共にザクザクと刻まれていく“No Name”、パンキッシュでありながら物悲しいエモ“Empath”と続いていく。

 

後半のハイライトには、メランコリックでスローなエモナンバー“Sinking”を挙げたい。曲名の通り、沈み込んでいくような一曲だ。抑え込んだようなイントロからノイジーなギターがうなりを上げ、ここまで存分に威力を発揮してきた金属的なギターとメロディアスな曲調が同居しながら、躍動感やパワフルな印象は決して受けない。徹底して内省的で後ろ向きなYoshigazerの歌声が聴き手の心臓に突き刺さり、澄んだWhisky Yokoのコーラスが、冷たい夜の海を思わせる。ここまでそれぞれが違うベクトルの感情をぶつけ合っていたのが、この曲では一つのベクトルに向いている。荒々しいサウンドと感情表現が前面に出てきたこの作品において、その流れを汲みつつも一つの着地点として印象に残った。作品全体を通して、特に彼らが表現したかったことがこの一曲に詰まっているといっても過言ではない。

 

実は、Forbearはハードコアパンクにルーツを持っているバンドだ。彼らのドロドロとした感情を内包したような不穏さであったり、それぞれの表現がぶつかり合う危うさは、その出自に通じているのかもしれない。元々は別のバンドで活動していたメンバー4人、それぞれが志向してきた音楽や楽曲に込める感情が異なっているからこそ、楽曲の奥行きや生々しさが作品の核として強烈なエネルギーを持っている彼ら。そのスタイルは、個々が持つエネルギーを結集させる、リスナーを突き動かすハードコアパンクの精神性に近しいものがある。

 

ずっしりとした後味を残しつつも、どこか胸につっかえているものがとれたような、すっきりとした感覚があるこのアルバム。この1枚に吐き出された4人による自己内省の中に、共鳴するものがあるかもしれないし、聴き手として感じ取るものはメンバーが意識していることとは全く異なるものかもしれない。どちらにせよ、この生々しい音の塊には普段目を向けていないけれど胸の内に存在する“何か”を見つめさせる力があることは確かだ。


配信リンク:friendship.mu/release/8songs

8songs

 

アーティスト:Forbear

仕様:デジタル / CD

発売:2024年3月1日

 

収録曲

1. Open Up
2. The Fiend
3. No Name
4. Empath
5. On Sand
6. Sinking
7. Seventh Bell
8. Glide Down
9. The Fiend[IRONSTONE Remix*]
10. Glide Down[KanouKaoru Remix*]

Forbear

「Tokyo Positive Emogaze」を標榜する2017年結成の4人組バンド。これまでに東京・新代田にあるインディーミュージック専門のレコードショップ兼レーベル《Like A Fool Records》より2枚の音源をリリースしている。2022年リリースのEP『4songs』からは、Hollow SunsやCastaway、Super Structure、And Protectorらを手掛けてきたDevuをエンジニアに迎えている。

 

Instagram:@forbearband
X(旧Twitter):@ForbearBand

WRITER

RECENT POST

REVIEW
Tomato Ketchup Boys『The Second Escape From The Sum…
REPORT
地域のライブハウス、フェスはどうやって生き残る?アジア各国での取り組みーTRENDY TAIPEIパ…
REPORT
台北都市型フェス“Jam Jam Asia”はアジア音楽の“今”を見るショーケース―TRENDY T…
REPORT
ANTENNAとTHREEが伝えたい、これが関東インディーミュージックで今一番見せたい4組だ!―Fi…
INTERVIEW
“開かれたローカル”葉山の入り口、ヴィンテージバイヤーが始めたフリーマーケット
INTERVIEW
ロンドン発、驚きと発見に満ちた一杯―Dark Arts Coffee Japan【MAKE OURS…
INTERVIEW
カルチャーを生む対話、きっかけをくれる自転車―Wood Village Cycles【MAKE OU…
REVIEW
GOFISH『GOFISH』 – 独白と連動し、鮮明に躍動する風景
REPORT
Like A Fool Recordsが放つ鋭く、深く突き刺さる、東京インディーズ四つ巴。Kidde…
REVIEW
aieum『sangatsu』―絶えず姿形を変え動き続ける、その音の正体は果たして
INTERVIEW
2024年台湾音楽シーンを揺らす、ローカルフェスとその原動力―『浮現祭 Emerge Fest』主催…
REVIEW
Sugar House『Sugar House』―寒空の下、まっすぐに前を向く音が鳴る
REPORT
パブが育むイーストロンドンのナイトカルチャー、ビール片手にインディーロックで酔う週末を
REVIEW
HOME『HOME EP』―低温多湿な沖縄産・世界基準のポップミュージック
REVIEW
Maya Bridget『That Girl / White Lies』―無数の音楽体験が持つきらめ…
REPORT
アジアからの未知なる音楽にリスナーは何を求めているのか-BiKN shibuya 2023 クロスレ…
INTERVIEW
高円寺のカフェSUB STOREで触れる、インドネシアの音楽と暮らし
REPORT
研ぎ澄まされた美意識が寄り添うものとは―『Lillies and Remains Japan Tou…
REPORT
刺激中毒なインディーミュージックギークヘ捧ぐ、狂気の一夜『pandagolff 4th album …
REVIEW
J.COLUMBUS & MASS-HOLE『On The Groove, In The …
REPORT
「聴いたことがない曲」に熱狂する、新たな音楽を目撃する場所―『BIRTH vol.9』ライブレポート
INTERVIEW
ちょっと不便な待ち合わせ場所〈Goofy Coffee Club〉から動き出した、東東京のユースカル…
REPORT
突然、平穏な日々に現れた非日常体験としての「オルタナ」 -『Fine, Great 1st EP “…
REPORT
「外向きの自己内省」それは、音楽を通して己を肯定するセラピー-『“Tough Love Therap…
REVIEW
郷愁の歌声が中毒性抜群な、インドネシア産ポストパンク – Bedchamber『Capa…
INTERVIEW
【Playgrounds Vol.2】「買い付けをしない古着屋」〈シャオ・そなちね〉が足を止めた人に…
REVIEW
Lillies And Remains『Superior』- 孤高のバンドが9年の歳月を経て到達した…
REVIEW
SAGOSAID『Tough Love Therapy』- ヒリヒリとじんわりと痛むのは、きっとその…
REVIEW
pandagolff『IT’S NOT FOOD!!』- 言葉も、音も、声も、すべてを噛…
REPORT
国境、ジャンルを超えた、音楽のピュアな熱量が交錯する祝宴 -『Sobs Japan Tour 202…
INTERVIEW
【Playgrounds Vol.1】3代続く老舗スポーツ用品店〈FUJIKURA SPORTS〉が…

LATEST POSTS

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…

REPORT
壁も境目もない音楽の旅へ‐『京都音楽博覧会2024』Day1ライブレポート

10月12日(土)13日(日)、晴れわたる青空が広がる〈梅小路公園〉にて、昨年に引き続き2日間にわた…

REPORT
自由のために、自由に踊れ!日常を生きるために生まれた祭り – 京都学生狂奏祭2024

寮生の想いから生まれたイベント『京都学生狂奏祭』 …