歪な自己内省の衝突音が、荒々しくもメランコリックに響き渡る
いつになく不穏で気怠く、生々しく、そして、重々しい。
「Tokyo Positive Emogaze」を標榜し、繊細で抒情的、かつどこか痛みや空虚さを含んだ良質なシューゲイザー、ドリームポップを鳴らしてきた4人組バンド、Forbear。Whisky Yoko(Vo / Gt)の物憂げな女声ヴォーカルがノイジーで重厚なギターのアンサンブルの中を漂うサウンドは、My Bloody ValentineやPale Saintsなどのアーリーオルタナティブ、黎明期のシューゲイザーに通じるものがあり、美しさや儚さと共に幾分かの毒気を感じさせるところが魅力だ。
そんな彼らだからこそ、2年ぶりの音源である2ndアルバム『8songs』を聴いて、面食らいながらも妙に腑に落ちた。
まず、歪んだ金属的なディストーションギターが飛び込んでくる“Open Up”、“The Fiend”のオープニング2曲が強烈だ。ざらざらとした硬質で棘のある音でありながらメランコリックで繊細なメロディを奏で、Smshing Pumpkins、そして彼らが影響を公言しているHumを思わせる。こうしたグランジ / オルタナに接近した音は、これまでの彼らのイメージからは意外なアプローチだといえる。
その中でも彼らの音として確固たる印象を植え付けてくれるのは、サウンドに負けず劣らずのエネルギーを持つ男女ツインヴォーカルだ。Sunny Day Real EstateやMineralといった90年代のインディーエモの影響を感じさせるYoshigazer(Vo / Gt)の男声ヴォーカルは、力強さと内省的な響きが同居していて、完全にサウンドの世界観に溶け込んでいる。反対に、Whisky Yokoの歌い方はいつも以上に冷たくローテンションな声色で、演奏の荒々しさと美しい歌声の対比が際立つ。
やはり、元々彼らのサウンドが持っていた立体感、奥行き、重厚さはこれまでと少し異なる味付けでも明確に感じられた。本アルバムでも一貫して、楽曲の中で4人それぞれがエモーショナルな表現をしている。その表現は、4人それぞれが別のベクトルの感情をぶつけ合うような形に近い。ノイジーなサウンドに複雑に絡み合った感情が内包されている。危ういまでの濃度と密度を持った感情が爆発一歩手前で吐き出されていくようだ。恐らくライブで聴いても、相当凄みのある仕上がりになることは間違いないだろう。
その後は冒頭の流れを汲んで、Deftonesを彷彿とさせるようなずっしりとしたベースがメタリックなリフと共にザクザクと刻まれていく“No Name”、パンキッシュでありながら物悲しいエモ“Empath”と続いていく。
後半のハイライトには、メランコリックでスローなエモナンバー“Sinking”を挙げたい。曲名の通り、沈み込んでいくような一曲だ。抑え込んだようなイントロからノイジーなギターがうなりを上げ、ここまで存分に威力を発揮してきた金属的なギターとメロディアスな曲調が同居しながら、躍動感やパワフルな印象は決して受けない。徹底して内省的で後ろ向きなYoshigazerの歌声が聴き手の心臓に突き刺さり、澄んだWhisky Yokoのコーラスが、冷たい夜の海を思わせる。ここまでそれぞれが違うベクトルの感情をぶつけ合っていたのが、この曲では一つのベクトルに向いている。荒々しいサウンドと感情表現が前面に出てきたこの作品において、その流れを汲みつつも一つの着地点として印象に残った。作品全体を通して、特に彼らが表現したかったことがこの一曲に詰まっているといっても過言ではない。
実は、Forbearはハードコアパンクにルーツを持っているバンドだ。彼らのドロドロとした感情を内包したような不穏さであったり、それぞれの表現がぶつかり合う危うさは、その出自に通じているのかもしれない。元々は別のバンドで活動していたメンバー4人、それぞれが志向してきた音楽や楽曲に込める感情が異なっているからこそ、楽曲の奥行きや生々しさが作品の核として強烈なエネルギーを持っている彼ら。そのスタイルは、個々が持つエネルギーを結集させる、リスナーを突き動かすハードコアパンクの精神性に近しいものがある。
ずっしりとした後味を残しつつも、どこか胸につっかえているものがとれたような、すっきりとした感覚があるこのアルバム。この1枚に吐き出された4人による自己内省の中に、共鳴するものがあるかもしれないし、聴き手として感じ取るものはメンバーが意識していることとは全く異なるものかもしれない。どちらにせよ、この生々しい音の塊には普段目を向けていないけれど胸の内に存在する“何か”を見つめさせる力があることは確かだ。
8songs
アーティスト:Forbear
仕様:デジタル / CD
発売:2024年3月1日
収録曲
1. Open Up
2. The Fiend
3. No Name
4. Empath
5. On Sand
6. Sinking
7. Seventh Bell
8. Glide Down
9. The Fiend[IRONSTONE Remix*]
10. Glide Down[KanouKaoru Remix*]
Forbear
「Tokyo Positive Emogaze」を標榜する2017年結成の4人組バンド。これまでに東京・新代田にあるインディーミュージック専門のレコードショップ兼レーベル《Like A Fool Records》より2枚の音源をリリースしている。2022年リリースのEP『4songs』からは、Hollow SunsやCastaway、Super Structure、And Protectorらを手掛けてきたDevuをエンジニアに迎えている。
Instagram:@forbearband
X(旧Twitter):@ForbearBand
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後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、あまり役に立たない文章を愛でています。旅の目的地は、何もないけれど何かが起こりそうな場所。
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