
2025年5月28日、東京を拠点に活動するインディーロックバンドThe Mighty ProjectがEP『The Best Die Immortalised』をリリースした。過去に2枚のアルバムをリリースしている彼らだが、過去作とは打って変わった世界観を打ち出している。ドロドロとした歪で“脱現実”的なサイケデリアは、宅録ソロプロジェクトとして活動をスタートしたバンドの原点回帰とも言えそうだ。
内省的な旅路の先に行き着く“脱現実”
子どもの頃、インフルエンザで学校を休んだ日の昼下がり、2時間ほど眠っている間のこと。高熱にうなされ、やたらと鮮明で気味の悪い夢を見た。この5曲入りEPを聴くと、ちょうどその感覚を思い出す。
曲ごとに浮かび上がる景色が実に鮮やか。目前の世界に我を忘れて没入するが、どこか現(うつつ)でない。教育テレビで午前中に流れていた不穏なクレイアニメの中に迷い込んだかのよう。踏みしめている地面は泥や枯葉なのに足が汚れないし、対面する生き物は布でできているし、上空は変な色で、なぜか手を伸ばしたら天井に当たってしまいそうだ。敢えて言うなら、“脱現実”的。
この5人組インディーロックバンドが、発起人であるケイト・オオツカ(Vo / Gt)の宅録ソロプロジェクトとして始まった経緯を考えると、そんな印象にも納得がいく。アルバムの中に登場する音や色形、すべてがケイトのパーソナルな空間の中にあるもので、そんな内省空間が聴き進めるほどに広がっていくからだ。
1曲目のキャッチーなギターロック“Jackanory”は人懐っこさがありながら、その歌い口やギターの音色にはどこかベタッとしたテクスチャがある。まだ不穏とまではいかないが、どうも様子がおかしい。「おやおや?」と思っているうちに、幻想的で朧げなサイケデリックロック“Cathy (Version 2)”へと続く。この流れが布石となり、リスナーは次第にケイトの内省へと引きずり込まれていく。
全5曲を通して印象に残るのは、巻層雲のように覆いかぶさる優しいコーラスと、じれったいほどに緩急を効かせたグルーヴ、脱力していながら情感のこもったヴォーカルだ。そして、ぎりぎりの均衡を保ちながら途中でぐちゃぐちゃとかき混ぜられるアンサンブルが意表を突く。気まぐれで実に脆く危うく、それでいて親しみやすい。
現在、彼らが制作中の3rdアルバムではUKのインディーロックバンド、The Vaccinesのフレディー・カァワンがプロデュースを務めるという。ただ、このアルバムを聴いたイメージとしてはダンサブルでキャッチーでタイトに引き締まった音を鳴らすUKロックよりも、北米のインディー / オルタナに近い系譜を感じた。Arcade FireやDeerhunterといった2000年代前後のほんのりダークで無気力、でも妙に親しみが持てる音楽を想起する。本当に触れてはいけない深刻さよりも、延々と続くやるせなさやうんざりしてしまう退屈さに背を向けたくなる、あの感覚だ。
過去にリリースされた2作のフルアルバムと聴き比べても、本作はそうした脱力感、そして“脱現実”感が実に強く感じられる。レトロフューチャーな打ち込みが躍動する初作『Total Football』は“超現実”的なほどに振り切っているし、流麗なドリームポップサウンドが支配する2作目『The Queen of the Silver Screen』は“非現実”的な印象を受ける。それらに比べて本作は、あくまで現実で触れられる自己内省のスケール感をはみ出さない。現実の延長線にある、一時的な離脱だ。むしろ、その中で広がるイマジネーションと深まる思索で作品が完成している。
筆者の想像では、ケイトが描いたストーリーをスタジオに入ったメンバーたちとともに膨らませていく様子が思い浮かぶ。それはジャズミュージシャンたちのセッションほど殺伐としたものではなく、正確さや緻密さよりも解釈の柔らかさや深い精神的なつながりが重要になりそうだ。音楽ではないけれど、ビートジェネレーションの詩人たちが夜な夜な暗い屋根裏部屋で興じていた即興のポエトリーリーディングの方に近いのかもしれない。たった一人の白昼夢に、5人の表現者が額を突き合わせて解釈を語り合う。そうしているうちに、緩やかに現実と日常を脱していく。こうして辿り着いたのが、本作の境地だろう。
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The Best Die Immortalised

アーティスト:The Mighty Project
発売:2025年5月28日
フォーマット:デジタル
収録曲
1. Jackanory
2. Cathy (Version 2)
3. May Blues
4. Trapped in the Neon Lights
5. Queensway (Demo)
The Mighty Project

東京都内を拠点に活動する5人組インディーロックバンド。当初はケイト・オオツカ(Vo / Gt)の宅録ソロプロジェクトとしてスタート。2020年にリリースしたアルバム『Total Football』の収録曲“Be A Fool”がシアトルのインディーラジオ局KEXPにてオンエアされる。またアメリカのカレッジラジオにおいてチャートインを果たす。2021年からヨーロッパに拠点を移し、2022年に2ndアルバム『The Queen of the Silver Screen』をカリフォルニアの《Spirit Goth Records》からリリース。2024年より東京に拠点を移し、現在のメンバー編成で活動開始。
Instagram:@mghtyprjct4eva
Twitter : @MGHTYPRJCTBAND
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後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、あまり役に立たない文章を愛でています。旅の目的地は、何もないけれど何かが起こりそうな場所。
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