
真冬の夜空、色とりどりの音楽が煌めく
2026年1月1日、東京の夜は雪が降っていた。排気ガスやゴミの匂い、喧騒、交通渋滞、都会に漂うあらゆるノイズを、雪は静かに、柔らかに包み込んだ。Special Favorite Music(以下SFM)の実に8年ぶりとなるフルアルバム『亜銀河∞』はそんな冬の街がよく似合う。
滑らかな男女混声のハーモニー、湿り気を帯びたグルーヴとブラスの音色、そして甘いメロディ。これらが一体となって鳴り響く煌びやかなサウンドは、過去の作品から一貫している。そんなSFMは、元々7名の大所帯。2019年に4名が脱退し、以降は久米雄介(Gt / Vo)、シンジョウ(Dr)、ドイノリト(Ba)の3名で活動してきた。本作は、2024年12月にサトーカンナ(Vo / Cho)が加入して以来、4名体制で初のアルバムとなる。
結論から言えば、前述したキラキラとした魅力は損なわれず、4人それぞれの色が強く出ることで幅が広がっているたように感じられた。元々、年齢や嗜好が異なるメンバーたちが各々の色を出しながらもスウィングしたアンサンブルを持ち味としてきた。ゆえに小粋に躍るアシッドジャズや、Chicagoばりのソウルフルなブラスロック、セピア色の情感漂う和製AORまで、カラフルなサウンドが並びつつも、それぞれの楽曲が決して過度に主張せず、同じ世界観で鳴るバランスの良さこそが特色だったと言える。言い換えれば、様々なポップミュージックをメロウで洗練された味わいにまとめあげるという意味でシティポップの文脈にもあてはめられやすかった。
本作で特筆したいのは、4人という絞られた編成で再構築されたからこそ、これまでのバランスが動き、それぞれの持つ個性や意向が強く反映された仕上がりになっている。結果として、シティポップという枠からは離れ、その上で一曲ごとの“彩度”が増した。レコーディングには旧メンバーが参加していることを考慮しても、バンドとして大きな変革を迎えていることが伝わってくる。最大のポイントは、エレクトロ色が強く打ち出されていることだ。
The 1975やNEIL FRANCESのようなインディーポップとチープなシンセサウンドが近接したムードは、これまでの楽曲の中では見られなかったアプローチだろう。レトロでオリエンタルなムードが時折漂う様は、明らかに毛色が異なる。これはあくまでサウンドの表層的・装飾的な変化ではなく、バンドの重心がわずかに移動したことを象徴している。
ちなみにこの変化は、4人のうち誰がもたらしたものであるのか、考えてみると一筋縄にいかない。というのも、新規加入したサトーのキャリアにおける他2バンド(Kurhaus、グッド・ライフ・フェローズ)は、決してエレクトロ寄りのバンドではなく、ドリーミーなインディーフォークを鳴らしており、むしろ有機的な音を志向してきたからだ。あくまで4人がアイディアを持ち寄り、バンドの今を形にしていく中で自然に生み出された回答なのだろう。
久米とサトーの美麗なツインヴォーカルが堪能できるAOR調のグルーヴと、トロピカルハウスやチルウェイヴを連想する打ち込みサウンドが加わった“KIARA”はこうした今のSpecial Favorite Musicを象徴する一曲だと言っていい。生のバンドサウンドがあくまで基軸にあり、多幸感溢れるポップネス、甘く温かいムード、洒脱で多くを語らないリリック、どこかに残る浮遊感といった構成要素がしっかりと同居している。その上で、一つの作品にまとめるキーとして新たなアプローチのエレクトロ風味を利かせる。
また、ポエトリーリーディングのようにシュールなリリックを読み上げる“☾ galaxy ch1 [kaze no uta]”や、架空の映画音楽と言われても違和感のない“⭒ galaxy ch2 [night on earth]”といったキャッチーさとは一線を画した楽曲も見逃せない。
新たな方向性を打ち出しながらも、これまで築き上げてきた音楽を決して否定しない。ただ、7人でバランスが取れていた音がより揺らぎない安定感のあるものだったことと比べれば、4人でのSFMはより動的な存在である。これは、決してバンドとしての歩みを戻すものでも、軌道修正でもなく、確かに前へ進む足取りの証だ。
Apple Musicはこちら
亜銀河∞

アーティスト:Special Favorite Music
仕様:デジタル
発売:2025年11月19日
購入リンク:https://friendship.lnk.to/a-ginga_sfm
収録曲
01. あけないひみつ
02. 君は Future Girl
03. トーキョー・シュガー・ウィークエンド
04. KIARA
05. ☾ galaxy ch1 [kaze no uta]
06. Be With U霊¿
07. Night Misty Park (ginga edit)
08. 低空遊泳
09. ⭒ galaxy ch2 [night on earth]
10. 走れ、ロマンス1号
11. Last Train Seaside
12. 魔法がとけたら
13. ∞ galaxy ch3 [re:re:]
Special Favorite Music

2014年夏に結成。当初は7人で活動を開始するも、2019年に4名が脱退。一時は3人体制で活動後、2024年にサトー・カンナを加えて再出発した。それぞれ異なる音楽性や嗜好、年齢のメンバーが持つ才能を結集した、多彩なアプローチのポップミュージックが特徴。
X:@SPCL_FVRT_MSC
Instagram:@special_favorite_music
WRITER

- ライター
-
後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、あまり役に立たない文章を愛でています。旅の目的地は、何もないけれど何かが起こりそうな場所。
OTHER POSTS
