REPORT

『ガザの美容室』特別トーク付上映。ガザ地区の今って?

提供:アップリンク、シネ ゴドー 配給・宣伝:アップリンク

残念ながら世界が平和でないことを知らしめられる映画です。映画『ガザの美容室』がテアトル梅田他で現在上映中。

 

舞台はパレスチナ自治区の小さな美容室。限られた空間の中で飛び交う13人の女たちの会話、そこに垣間見える人間ドラマが見どころです。離婚調停中の主婦、ヒジャブを被った信心深い女性、結婚前の女の子、お腹の大きな妊婦――さまざまな女性が日常会話を繰り広げます。ガザ出身の双子、タルザン&アラブ・ナサール兄弟の長編デビュー監督作。第68回カンヌ国際映画祭批評家週間に出品された話題作です。

映画『ガザの美容室』予告編

そんな『ガザの美容室』。テアトル梅田にて7月1日(日)の上映後、特別トークイベントが催されました。この記事ではその当日の模様について、ネタバレを避けながらも『ガザの美容室』の予習になるようなレポートをお届けします。

登壇したのは京都大学で現代アラブ文学、第三世界フェミニズム思想を研究されている岡真理教授。集まった沢山の観客に、映画の理解に必要なバックグラウンドや「あれってどういうことだったの?」という疑問に応えてくれました。

「ガザ」は都会?

「ガザはどんなところ?」という基本的なところから岡さんは解説してくれました。

 

ガザは意外にも都会。物価は東京並なんだとか。金沢大学の学生に写真を見せると「金沢より都会だ」なんて自虐交じりの笑いが漏れるくらいなんだそうです。シリア内戦のようなドンパチが日常的に繰り広げられているわけではありません。とはいえ戦闘状態が一切無いわけでもなく、2014年には大きな侵攻がありました。さらに今年2018年5月14日にガザ境界付近でのデモが激化したことで59人が死亡したことは記憶に新しいです。

 

給料はアフリカの貧困地域に匹敵するくらい。非常に苦しい状態での生活を強いられているんですね。

問題は「閉鎖」されていること

孤立を強いられているガザの人々。封鎖は直接的なジェノサイドをしているわけではないが、間接的な殺人に繋がっていると岡さんは語りました。

 

病気になっても適切な医療は受けられないし、学力があっても当局の許可が下りないから地区外の大学へ行くことはできない。映画作中ではこのような現状を、暗にまたは直接表すような場面も。物資も無く、貧困が悪化し、ひいてはそれが治安にも影響してくる。閉じ込められることによって、内部からじわじわと疲弊していくガザの惨状が描かれています。映画の中の“美容室”そのものが、このガザ地区の現状のメタファーになっていると岡教授は語ります。

原題は『デグラデ』

『ガザの美容室』の原題は『デグラデ』。これはlayer(層)の意味の美容用語ですが、それとは別に“劣化していく”という意味があるそうです。封鎖されることで次第にじわりじわりと弱ってしまい、ゆるやかな死へと向かうガザの人達の姿のことを指しているのではないかと岡さんは解説してくれました。過激な戦争状態、悲惨な無差別殺人にばかり目が行きますが、問題はそこだけではありません。悲惨な戦争で大勢の人達が血を流しているのは紛れもない事実ですが、かといって“血の流れない虐殺”に目を向けなくてはいいというわけではありません。

 

そのような“目に見えない暴力”を可視化した映画が、この『ガザの美容室』ではないでしょうか。

まずは劇場へ!

背景がわからないと少々難解な映画かもしれませんが、しっかりと前情報を掴んでおけば存分に楽しめる映画です。でも、その順序は逆でもOK。とりあえず映画を見てしまって、それから改めてガザの現状について色々と知っていくのも悪くないですよ。迷ったら、まずは劇場へ足を運んでみるのも良し。

 

7月22日(日)には神戸・元町映画館にて同様に『ガザの美容室』の岡真理さんのトーク付き上映が予定されています。気になる方はこちらにもチェックしていてはいかがでしょうか?

タイトル

『ガザの美容室』

上映予定

テアトル梅田】現在上映中

神戸・元町映画館】7/21~8/10

ほか、全国順次公開

イベント

トーク「“デグラデ”―《封鎖》によって崩れゆく社会」

【日時】7/22(日) 13:00の回上映終了後

【会場】元町映画館2Fイベントルーム

【登壇者】岡真理さん(京都大学大学院 人間・環境学研究科教授/現代アラブ文学)

※当日映画を観られた方対象、参加無料

公式サイト

http://www.uplink.co.jp/gaza/

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【脇役で見る映画】親の心もこの心も僕たちだけが知ってる『イップマン 完結』
COLUMN
【脇役で見る映画】ニール、かしゆか、天沢聖司『TENET』
COLUMN
【脇役で見る映画】 頼むから決めてくれ!『ショーシャンクの空に』
COLUMN
【脇役で見る映画】 役割をひとに頼らず生きていく『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
COLUMN
【脇役で見る映画】「エピローグ」:ローディーは部活をやめる
COLUMN
【脇役で見る映画】『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 せめて浮気でおってよね
REPORT
意味が溶解する水槽 SPEKTRA主催 『INTER+』 レポート
COLUMN
【脇役で見る映画】『トイ・ストーリー3』 バズよりもウッディよりも何よりも、アンディ母の育児の終わり
REPORT
集めて、分解して、理解する。デザイナーの後藤多美さんに聞くデザインの第一歩 言志の学校第2期レポート…
COLUMN
【脇役で見る映画】『アイアンマン』シリーズ スタークに寄り添うポッツ、ふしめのひ! 今日はにげきれ…
REPORT
「見つけてもらうために!」大垣書店の大垣 守可さんに聞く、流通視点の本の魅力 言志の学校第2期レポー…
REPORT
紙とインキも表現のうち!修美社の山下昌毅さんに聞く印刷の奥深さと面白さ 言志の学校第2期レポート② …
REPORT
超絶技巧は必要ない!物件ファンの森岡友樹さんに聞く心を打つ文章を書くための思考のステップ 言志の学校…
COLUMN
【脇役で見る映画】『愛がなんだ』 テルコより大切なのは仲原くん。赤いメガネのボスによろしく
INTERVIEW
第七藝術劇場 / シアターセブン
SPOT
修美社
COLUMN
【脇役で見る映画】『イット・フォローズ』 あの娘にはお願いだからセックスを他の誰かとしてほしくない
REPORT
言志の学校 第1期 まとめ
COLUMN
アンテナ的!ベストムービー 2018
COLUMN
【まとめ】編集部員が選ぶ2018年ベスト記事
REPORT
『言志の学校』第四回レポート ~発表! こんな本作りました!~
REPORT
『言志の学校』第三回レポート -デザインとは? 印刷って何? –
REPORT
『言志の学校』第二回レポート – 書くって?編集するって?文鳥社の2人に聞く –
COLUMN
もうダッシュできないオトナへ。映画『高崎グラフィティ。』が切り取った大人と子供のグラデーション。
REPORT
こんなフリペのアイディア出揃いました!TAKE OUT!! vol.2 レポート
INTERVIEW
『きみの鳥はうたえる』三宅唱監督インタビュー 映画の仕事は「見つめること」
COLUMN
『軽い男じゃないのよ』がレコメンド!『ズートピア』『ファインディング・ドリー』の後はコレ!「差別と戦…
COLUMN
千早の進路間違ってない?!組織運営ってそういうことか? 映画『ちはやふる 結び』を考察 面白かったけ…
COLUMN
アンテナ川合が選ぶ!4月に観ときたい映画!
REPORT
関西の映画シーンの今後は?「地域から次世代映画を考える」レポート
REPORT
「モテるフリーペーパー」大盛況で終宴。結局どうだった? All About TAKE OUT!!
COLUMN
誰だってマチルダは好きだ、僕だってレオンになりたい(『レオン』再上映へ寄せて)
COLUMN
アンテナ的! ベストムービー2017 (byマグナム本田・川合裕之)
REPORT
【川合裕之の見たボロフェスタ2017 /Day2 】 〜ステージの上も下も中も外も、全部ぜんぶお祭り…
REPORT
第五回 文学フリマ 大阪に行ってきました
INTERVIEW
「この作品のあるべき姿」映画『望郷』大東駿介・菊地健夫監督へインタビュー
REPORT
映画『獣道– Love & Other Cults』京都みなみ会館 舞台挨拶
INTERVIEW
学生映画って何?! 京都国際学生映画祭×関西学生映画祭 関係者に聞く!

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年11月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REPORT
『京都音楽博覧会』を糧に、可視化された京都のサーキュラーエコノミー-資源が“くるり”プロジェクトレポート

思わぬものが‟くるり”と変わる。それがこのプロジェクトの面白さ …

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…