REPORT

超絶技巧は必要ない!物件ファンの森岡友樹さんに聞く心を打つ文章を書くための思考のステップ 言志の学校 第2期レポート① ライティング編

2019.06.20 Written By 川合 裕之

好きを掛け合わせて価値を作る

「自分の好きなものを見つけることが大切」と繰り返し話す森岡さん。興味のないことをやるのは時間や労力を無駄にしてしまうこと。好きであれば、好きでさえあれば、いつか時代が追いついてくる、10年もあれば過ぎた時間分の価値は回収することができるんだと森岡さんは力強く断言しました。

 

となると一生寄り添えるテーマを見つけることが必要ですが、それは必ずしもひとつでなくても構いません。好きなことは「情報」にも「切り口」にも「軸」にもなります。

 

好きなことをたくさん見つけて、自分の武器にしていくこと。あとはそれらを掛け合わせれば社会にとって新しい価値を提示することができます。

好きなものにカッコつけない

さて、ではここで読者の皆さんに質問です。1つだけ好きなことを教えてください。では、あと2つ絞りだしてください。

好きなものはたくさんあるはず。でも、意外とすんなり出てこない。自意識を出すのは恥ずかしいし、カッコつけて好きでありたいものや、人によく思われそうなものを好きと思い込んでしまいがち。

 

人の「好き」には実はプロテクトがかかっているのです。そのプロテクトを外して自由に「好き」を引き出せる思考回路を作ることが、クリエイターへの第一歩です。

メディアの特性を知る!ZINEの特徴は?

書くこと、つまり自分の「好き」の方向性が定まったら、それを載せるメディアの特性も意識してみます。

 

メディアの特性から制作物の内容を逆算する必要はありませんが、内容をどう効果的に伝えるか?という議論のためにメディアの特性を知っておいて損はありません。

令和時代のZINE, フリーペーパーの特性とは?

今の時代の紙モノの特徴は3つだという森岡さんの分析を教えてくれました。

 

  1. 比較的容易に誰でも制作することができる
  2. ニッチな流通も可能
  3. モノの存在観をコントロールできる

 

つまり、「昔のインターネット」に近い空気感を帯びることのできるメディアなんだとか。ユニークな切り口の、圧の高い情報を、ユニークな演出で伝えることがZINE やフリーペーパーでより多くの人へ愛を伝えるコツだと森岡さんは語りました。

只本屋と修美社が持ってきてくれたZINE, フリーペーパーの数々を眺めると、実際にその通りだということがわかります。紙質やレイアウトに関わらずしてニッチなモノには視線を奪われるし、修美社が手掛けたクオリティの高い印刷物はついつい手に取ってしまいます。フリーペーパーはどこでも手に入るわけではないからこそ価値があるし、だから「只本屋」が成立しているのです。

全ては(仮)で?! まずは手を動かす!

最初から名作を作る気で動くのはやめましょう。一度やってみて、それから調整すればよいのです。

 

どう表現したらもっと多くの人に深く刺さる? 客観的に見てその作品はどう?愛情を注いだ作品ですが、そこに込められた愛情が本当に伝わるかどうか検討してフィードバックさせます。好きを原動力にわがままに走ってもいいけれど、己の中の第三者の目を通したブレーキも必要です。

フィードバックの例:「私の思い出の木」

自分でつくったものに第三者的な眼差しを向けるとは、どういうことなのでしょう?実践的な例を交えて分かり易く説明してくれました。

【作品】

「思い出の木」を写真に撮ってみた。幼少期の長い時間をこの木のそばで過ごした。自分を象徴するような写真だ!

【フィードバック】

  1. 写真1枚だけでそれは伝わらない。第三者にとってその写真はただの木でしかないのだから。もっと説明のテキストや写真を足すべきでは?
  2. 写真にキャプションをするのが野暮だと感じて譲れないのであれば、企画自体を刷新してみるのはどうか? 「思い出の場所」という軸を設定して、改めて編み直すとうまく伝えられるかも。

まずはやってみる

仮のテーマを作って、まずは動いてみることが重要。と、そこで各席へおもむろにコピー用紙が配られます。「いま、やりたいことを3ページ構成でモックをつくってみてください。題材もページの方向も、すべて自由です。できませんでした、だけはナシで」。そう言い放たれてワークがスタート。飄々とした口調でヘビーな課題が出されます。

カロリーの高い内容の講義をきいている最中に、突如として現れる高いハードル。最初はずっしりと重い空気でしたが、ひとり、またひとりとペンを手に取るにつれて次第に会場の空気が解きほぐされていきます。

筆を執るまでのインプットが大切だと言ったばかりなのに!という悲鳴も聞こえてきそうですが、頑張りましょう。これまでの自分積み重ねを信じるのです。

 

「最初から名作を作る気で動くのはやめましょう」。筆が非常に遅い筆者にとっては大変耳の痛い言葉でしたが、やはりこれはひとつの真理なんだと実感します。

まとめ:過剰なる愛を形にするのが制作だ!

森岡さんが講義の最初に提示してくれた結論がこちら。

 

・好きなものにカッコつけない

・一生寄り添えるテーマを探る

・滑稽に見えるくらいの過剰な愛情

・いいところを見つける力こそ力

 

この4つです。とにかく「好き」を磨くこと、見つけたら逃さずに磨くこと、磨いたら「好き」をいち早く形にすることが大切です。

 

長いスパンで愛を育てて、スピーディーに可視化する。これを繰り返すことで愛が実るのです。昨日蒔いた種が実らなくたって、明日忘れて枯らさないために今日の自分を耕なければいけないのです。

 

自分でモノを作る。なんでもありのこの遊びには、代償として厳しい覚悟が求められます。でも、憧れてしまったからにはもう後戻りはできません。その魅力に気付いてしまったからには手遅れ。私たちは、もうやるしかないのです。

>修美社山下さんの講義レポはコチラから!<

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【脇役で見る映画】親の心もこの心も僕たちだけが知ってる『イップマン 完結』
COLUMN
【脇役で見る映画】ニール、かしゆか、天沢聖司『TENET』
COLUMN
【脇役で見る映画】 頼むから決めてくれ!『ショーシャンクの空に』
COLUMN
【脇役で見る映画】 役割をひとに頼らず生きていく『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
COLUMN
【脇役で見る映画】「エピローグ」:ローディーは部活をやめる
COLUMN
【脇役で見る映画】『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 せめて浮気でおってよね
REPORT
意味が溶解する水槽 SPEKTRA主催 『INTER+』 レポート
COLUMN
【脇役で見る映画】『トイ・ストーリー3』 バズよりもウッディよりも何よりも、アンディ母の育児の終わり
REPORT
集めて、分解して、理解する。デザイナーの後藤多美さんに聞くデザインの第一歩 言志の学校第2期レポート…
COLUMN
【脇役で見る映画】『アイアンマン』シリーズ スタークに寄り添うポッツ、ふしめのひ! 今日はにげきれ…
REPORT
「見つけてもらうために!」大垣書店の大垣 守可さんに聞く、流通視点の本の魅力 言志の学校第2期レポー…
REPORT
紙とインキも表現のうち!修美社の山下昌毅さんに聞く印刷の奥深さと面白さ 言志の学校第2期レポート② …
COLUMN
【脇役で見る映画】『愛がなんだ』 テルコより大切なのは仲原くん。赤いメガネのボスによろしく
INTERVIEW
第七藝術劇場 / シアターセブン
SPOT
修美社
COLUMN
【脇役で見る映画】『イット・フォローズ』 あの娘にはお願いだからセックスを他の誰かとしてほしくない
REPORT
言志の学校 第1期 まとめ
COLUMN
アンテナ的!ベストムービー 2018
COLUMN
【まとめ】編集部員が選ぶ2018年ベスト記事
REPORT
『言志の学校』第四回レポート ~発表! こんな本作りました!~
REPORT
『言志の学校』第三回レポート -デザインとは? 印刷って何? –
REPORT
『言志の学校』第二回レポート – 書くって?編集するって?文鳥社の2人に聞く –
COLUMN
もうダッシュできないオトナへ。映画『高崎グラフィティ。』が切り取った大人と子供のグラデーション。
REPORT
こんなフリペのアイディア出揃いました!TAKE OUT!! vol.2 レポート
INTERVIEW
『きみの鳥はうたえる』三宅唱監督インタビュー 映画の仕事は「見つめること」
REPORT
『ガザの美容室』特別トーク付上映。ガザ地区の今って?
COLUMN
『軽い男じゃないのよ』がレコメンド!『ズートピア』『ファインディング・ドリー』の後はコレ!「差別と戦…
COLUMN
千早の進路間違ってない?!組織運営ってそういうことか? 映画『ちはやふる 結び』を考察 面白かったけ…
COLUMN
アンテナ川合が選ぶ!4月に観ときたい映画!
REPORT
関西の映画シーンの今後は?「地域から次世代映画を考える」レポート
REPORT
「モテるフリーペーパー」大盛況で終宴。結局どうだった? All About TAKE OUT!!
COLUMN
誰だってマチルダは好きだ、僕だってレオンになりたい(『レオン』再上映へ寄せて)
COLUMN
アンテナ的! ベストムービー2017 (byマグナム本田・川合裕之)
REPORT
【川合裕之の見たボロフェスタ2017 /Day2 】 〜ステージの上も下も中も外も、全部ぜんぶお祭り…
REPORT
第五回 文学フリマ 大阪に行ってきました
INTERVIEW
「この作品のあるべき姿」映画『望郷』大東駿介・菊地健夫監督へインタビュー
REPORT
映画『獣道– Love & Other Cults』京都みなみ会館 舞台挨拶
INTERVIEW
学生映画って何?! 京都国際学生映画祭×関西学生映画祭 関係者に聞く!

LATEST POSTS

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…

REPORT
壁も境目もない音楽の旅へ‐『京都音楽博覧会2024』Day1ライブレポート

10月12日(土)13日(日)、晴れわたる青空が広がる〈梅小路公園〉にて、昨年に引き続き2日間にわた…

REPORT
自由のために、自由に踊れ!日常を生きるために生まれた祭り – 京都学生狂奏祭2024

寮生の想いから生まれたイベント『京都学生狂奏祭』 …