INTERVIEW

第七藝術劇場 / シアターセブン

MOVIE 2019.06.17 Written By 川合 裕之

ミニシアターも複数スクリーンを持つ時代?

──

七藝とシアターセブンの二つ合わせれば、実質3つのスクリーンとイベントスペースを持つようになったわけですが、何が変わりましたか?

小坂

動員数やお客さまの反応を見て柔軟に番組を編成できるようになりました。スクリーンが1つだけだと、どうしても上映予定作品をギチギチに詰めてしまいがち。すると、評判がいくらよくても「これ以上延長できない」という状況に陥ってしまいます。

 

現在はシアターセブンの番組編成はわざと空きの余裕を持たせています。こうすることで七藝で人気だった作品をシアターセブンで引き続き上映できるようになりました。

──

なるほど。『人生フルーツ』も2年半近くのロングラン上映をされていますが、そういう手法の結果実現できたものなんですね。

小坂

当初はまったく別の映画館としてスタートを切りましたが、最近では2館での連携をより意識した編成を心がけています。例えば2館で1つの特集上映を開催することで、できる限り多くの作品を組み込むことができるようにしたり、七藝でかかる新作の監督過去作上映をシアターセブンで企画したりもしています。

──

「第七藝術劇場」とせずに「シアターセブン」とした理由はなんでしょうか?また別の場所を作りたかったという意図があったのでしょうか?

小坂

当初は単に運営母体の違うからという理由で意図したものではありませんでした。結果として毛色の違う場所になったというくらいです。ただ、お互いに連携できるようになってからはこの違いを意識しはじめました。

 

内装も全然違いますし、カラーも違います。お客さまの層も微妙に異なります。シアターセブンではお笑いのイベントなどもやっているので、その時はまったく映画に興味のないようなお客さまもいらっしゃいます。七藝(上の階)はいわゆる「1スクリーンのミニシアター」ですが、シアターセブン(下の階)は映画でもイベントでも面白いことならある意味で「何でもあり」の劇場。下の方がきもち若干年齢層も低いです。

──

では今後はそのギャップも埋まっていくのでしょうか?

小坂

将来の経営的なところはわかりませんが、七藝とシアターセブンの、ふたつの劇場の個性は分けたまま残すかもしれません。

 

上はこういう映画、下はこういう映画という差別化をしたうえで、両方のお客さまが両方の劇場に足を運んでもらえるようになるのが理想ですね。本来であれば興味のなかった映画に興味を持ってもらえればよいなと思います。若い人にももっと社会派とされるドキュメンタリーも見て欲しいですし。

 

統一感が無いと言ってしまえばデメリットですが、それぞれ違うカラーが楽しめるのは大きなメリットです。

若い人にもっと映画体験を

──

「若い人に来てほしい」と先ほどから繰り返し仰っていますが、七藝のお客さんの年齢層は高いということでしょうか?

小坂

七藝に限らず、多くのミニシアターのお客さまの年齢層は高い傾向にあると思いますが、上映している作品ラインナップによるところもあるかもしれません。「こういう社会問題に向き合った映画が上映されている」と新聞記事になったりすることがあるので、そこでまた上の世代のお客さまが増えることもありますね。しかし若い人は、新聞を読んで「この映画にいこう」とはならないでしょうし。

──

やはり若いお客さんにも来て欲しいですか?

小坂

はい、そうですね。理由は2つあります。

 

まず劇場の文化を残すためにも、いまから若い人に注目しておいて欲しいと考えています。シネコンの限られた作品だけをみるのもいいんですけれど、いわゆるミニシアター系の作品をスクリーンで見たいという人だっていると思うんです。この文化を続けるためには若い人の参加が今後不可欠になってくるのではと。

 

もう1つは、いまの若い人は全然「ハズレ」を引かなくても生きていけるんですよね。けれども、そうした経験をしてもらう場を提供するのがミニシアターだと思っています。

──

ハズレを引く場所がミニシアターということですか?

小坂

うちの劇場やミニシアターでかかっている作品に「ハズレ」が多いという意味ではもちろんなく(笑)。ミニシアターというのは、まだ世間的な評価の定まっていない映画がかかる場所なんですよ。そういう未開拓の地へ足を運んで、自分のアンテナに引っかかりそうな原石を探しに来るという体験は人生において損ではないと私は考えています。こういう体験は最近の世の中では減ってきているのではないのかなと思います。上からの押し付けになってしまうのかもしれませんが、こうした経験をする人をもっと増やしたいという想いがあります。

──

ハズレはもっと引いたほうがよい?

小坂

いまの時代は「安全」だからハズレを引かずに生きていける。映画ならネットで星3つとか星5つで評価されていますよね。わざわざ評価が低いものを見に行く必要もないので、おのずと高い評価のものばかりを見てしまう。評価が定まっているものだけで生きていけるような世の中になってきたんですよ。

 

けれども、本当に自分の好きなものに関してはもう少しくらいハズレを引いてもよくない?という気がします。極論映画ではなく音楽でも良いです。気になったミュージシャンは、売れていようがいまいがライブハウスに見に行くとか。

──

自分のフィルターを通して評価する機会がいま必要なんでしょうか?

小坂

そう思います。「ハズレなんか引かんでいいやん」、って言われたらそれはそうですけれど。ただ映画館は、暗闇の中で2時間かけて作品と対峙するので、その作品や作家の深層を考える場所になると思います。おもしろくない映画や薄っぺらい作品に対しては怒りが沸いてきますからね(笑)。でもその怒りも結構面白かったりします。自分で深く考えるきっかけになるのかな。

 

気軽な気持ちで見るテレビや、短いスマホの映像では得られない経験ではないでしょうか。僕もはっきりとした意見があるわけではないんでが、そういう考え方もあるのではと思っています。

「でも、ミニシアターも変わらなくては」

──

ハズレを引かない社会を変えていきたいということでしょうか?

小坂

大げさにいえばそういう想いもありますが、「自分たちが変わっていかなきゃ」という焦りもあります。「面白い映画があるから見てくれ!」という気持ちが半分と、「もしかしたら面白いことができていないのでは?」という不安も半分。さっきの話とは打って変わって、我々に魅力がないという説もありますから。

 

80年代90年代はミニシアターといえば流行に敏感な若者の集う最先端の場になっていたのかもしれませんが、今は必ずしもそうではないじゃないですか。かといって若者が流行を追わなくなったというわけではもちろんないでしょうから、違う所に興味が向いているはずです。

 

映画好きの人であってもミニシアターではなくて例えば配信サービスの方に魅力を感じているかもしれません。なので、10代~20代の人にも振り向いてもらえるように試行錯誤していかないとなと考えています。

──

そのために「付加価値」をつけていく?

小坂

そうですね。上映後のトークであったり、ラインナップであったりライヴ感であったり。七藝やシアターセブンに限らず、各ミニシアターが生き残るために、そうした付加価値を生み出していくという路線はほぼ確立されたと思います。

 

「これはミニシアター系」「これはシネコンの作品」という住み分けも無くなったいま、シネコンとガチンコでやってもミニシアターが100%負けます!(笑)。本来であれば『カメラを止めるな!』(2017)とかもミニシアター中心に上映されるはずだった作品だと思いますが、そんなんもう関係ないですよね。

今後のミニシアターは映画だけでなく、空間を提供する場になる必要があると思います。やっぱり映画館も変わっていかないといけないです。

 

いまは色々と迷っている部分もありますが、5年、10年としたら「ミニシアター」という場所は確実に変わるんじゃないかな。今よりもっと面白くなっているはずです。

──

ありがとうございました。

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