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GOFISH
GOFISH

名古屋を拠点に活動するテライショウタのプロジェクト、GOFISHによる通算7枚目のアルバムにしてセルフタイトル『GOFISH』が2024年5月15日、リリースされた。アコースティックギターを中心とするそぎ落とされたミニマルなサウンドの前作『光の速さで佇んで』からは打って変わり、壮大かつ濃密な世界観を多彩なアプローチで表現したバンド編成のアルバムである。

MUSIC 2024.06.16 Written By ivy

独白と連動し、鮮明に躍動する風景

GOFISHの音楽は、独白である。

 

少年のような繊細さと脆さ、父親のような温かさ、優しさを併せ持つテライショウタの声は、喜怒哀楽を単純に振り切ることなく複雑な心情を言葉以上に雄弁に丁寧に描き出す。そして、ライブでは音源と同じ楽曲であることが信じられないほどにその空間を共にした人や、本人の心情などの要素と連動した生々しい演奏を届けてくれる。

 

前作『光の速さで佇んで』のミニマルな音は、そうしたGOFISHというアーティストの在り方を浮き彫りにする作品であった。アコースティックギターが彼の声に呼応し、さながら呼吸音のようにリスナーの耳へ届く。だからこそ随所に用いられる変拍子も、隠喩表現を用いた詩的な歌詞もその歌と連動し、触れたら崩れてしまいそうな危ういバランスと繊細な輪郭をダイレクトに感じることができる。

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約2年ぶりの新作となる『GOFISH』がそんな前作とは大きく趣の異なる作品であることは先行シングル“真顔”の時点で感じ取れた。レコーディングに参加したのは浮(Cho)、藤巻鉄郎(Dr)、墓場戯太郎(Ba)、井手健介(Cho)、元山ツトム(pedal steel)、中山 努(Pf)、潮田雄一(Gt)ら前作と同じ顔触れ。しかし、よりバンドのアンサンブルを前面に打ち出したスケールが大きく、立体的な仕上がりとなっている。

 

口笛で始まり、アコースティックギターとピアノが軽やかに響く温かみのあるフォーキーな楽曲。ただしサウンドとは裏腹に、牧歌的とは言い難い苦悩と空虚感に満ちた歌詞だ。

 

愛すること、対話すること、手を差し伸べること。それをしようとしてもできない、何も起こらない自身とその周囲への無力感とも受け取れる。

 

“ああ、沈みゆく舟を
ああ、岸辺に集まった
ああ、みんなで見ている
ああ、真顔で見てる”

 

という一節。岸から見ている人々には、乗っている人の声や舟の切迫した状況が直接聞こえることはない。むしろ、穏やかな風が吹いていて、そこには何事もなかったかのように時間が過ぎていく。目の前の光景を見て、どうすることもできなければ当人にとっては何も起きていないのと同じことだ。そんな光景が浮かび上がってくる。

 

アルバムに並ぶ曲は前作同様、特定の音楽ジャンルにカテゴライズすることが不能なくらい大きく表情を変化させていく。一曲目”うれしいだけ”は、アンビエントミュージックかと思うほど濃密で深遠な奥行きをもったスローな楽曲。朝霧が少しずつ晴れていくように、徐々に曲の全体像を顕わにする。薄暗い森に少しずつ灯りが差し込み、やがてみるみる光に包まれる……。そんな様子を見ているようだ。

 

そこからメランコリックなギターのフレーズが穏やかな進行の中で印象に残る”けもの”、アルバムで最もポップで軽快な仕上がりながらシュールな歌詞と危うさすら感じさせる歌いまわしの”肉球ダイアリー”、押しつぶされそうな不安を噛みしめるような力強さと閉塞感、吹っ切れたような清々しさが残るラストの”嘘とギター”などが並ぶ。音の選択肢と厚みが増したからこそ、表現する感情もアウトプットもより自由で広がりを持った印象だ。

 

『GOFISH』に収録された楽曲でも、過去の作品の例に漏れずテライ個人の語りであり剥き出しの生々しい歌が持つ迫力には一切の曇りがない。そして、多くを語らずとも繰り返し声に出したくなる印象的なフレーズを刻む歌詞も一貫して堪能できる。冒頭で述べたように、そこにあるのはテライショウタという人間の独白であり、心から漏れ出た声だ。

 

そんな歌と共にこの世界を創り上げるサウンドは、テライ自身とは切り離された存在といえる。彼を取り巻く人であり、木であり、風や光。その声を出すとき、彼はどんな場所でどんな人と何をしているのか。外界の景色をかたどることで、現世に生きる彼の姿を鮮やかに描き出している。

 

独白の音楽であるGOFISHの作品において、前作『光の速さで佇んで』は誰にも見せるはずのなかった手記を覗き読むのに近い。それに対して『GOFISH』は、テライという人間の生きている様を追体験しているように感じられる作品だ。共に内省の果てにあり、己の内面と向き合い続けることによって完成されたものでありながら、その意味では聴き手にとって対照的な作品といえる。

 

本人の声とは切り離されたサウンドが何を表しているのか。それは聴き手の各々に委ねられる。歌詞の字面通りを表す効果音ではない。かといって、何の関係もない音のはずもない。

 

筆者の結論として、彼が持つ危うさと優しさを包み込んでいくアンサンブルは、聴き手にとって、そしてテライにとってもある種の救いだ。歌詞に登場する世界がどれほど葛藤や苦悩に満ちていても、そこには必ず光がある。彼の歌声に共鳴したアーティストたちが集い、それぞれの形で彼の独白に返答をしている。

 

誰かが一人で思い悩み沈み込んだ時、遣る瀬無さに押しつぶされそうなとき。彼の声と、それを包み込む救いの音が聴き手にとって確かな手触りをもって届くような、そんな作品だ。


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GOFISH

 

アーティスト:GOFISH
仕様:デジタル / CD
レーベル:Sweet Dream Press
発売:2024年5月15日

 

収録曲

1. うれしいだけ
2. 果てしない路
3. この窓は
4. けもの
5. 肉球ダイアリー
6. サンシャイン
7. 真顔
8. 荒地にて
9. メロディ
10. 嘘とギター

GOFISH

 

愛知県名古屋市在住。3ピースハードコアパンクバンドNICE VIEWのGt / Voとしての活動でも知られるテライショウタによるシンガーソングライターとしてのソロプロジェクト。2024年5月15日(水)発売のセルフタイトル『GOFISH』が通算7枚目のフルアルバムとなった。8月29日(木)には渋谷〈WWW〉でのリリースライブを予定している。

 

X(旧Twitter):@gofish_info

Instagram:@shota_gofish_terai

 

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