静岡県浜松市出身の3ピースバンドTomato Ketchup Boysが2ndアルバム『The Second Escape From The Summer Darkness』を2024年10月9日(水)にリリースした。1stアルバム『The First Encounter Of This Odyssey』(2020年)から実に4年ぶりとなる。2021年に活動休止を発表してから2年半を挟んで再始動した彼ら。新ベーシストにVVoodyを迎え、持ち前の刹那性を残しつつも、その抒情性に磨きをかけたウェットで繊細な仕上がりとなっている。
ウェットで甘酸っぱく、刹那的なエモーションが駆け抜ける
前作とはテクスチャが大きく異なるアルバムだ。アートワークからも伝わってくるようにウェット、湿っぽい。歌いまわし、サウンドメイク、ギターが奏でる旋律、本作の構成要素すべてに言える。
CD盤の売り切れが続出した1stアルバム『The First Encounter Of This Odyssey』(2020年)は、ガレージロック・リバイバルの匂いを感じる荒々しいサウンドに乗せて、鈴木(Vo / Gt)が無防備に吐き棄てるかのようにとげとげしく歌い上げる痛快さが印象に残る作品だった。メロディには、優しさやもろさを内包したエモーショナルさがありながらも、全体的にカラッとした空気に満ちている。
それに比べ、活動休止期間を挟み4年の歳月を経て放たれた2ndアルバムとなる本作『The Second Escape From The Summer Darkness』では、元々のエモーショナルな側面をより丁寧に、繊細に描き出し、前面に曝け出したと言える。他のバンドを例に挙げるなら、Sunny Day Real EstateやBraid、Mineralら90年代終わりから00年代初頭のミッドウェストエモ、パワーポップがわかりやすい。パンキッシュで疾走感があり、基本的に手数は多い。ただ、メロディは抒情的で哀愁を帯びており、高めのキーで歌い上げるヴォーカルは甘酸っぱく、どこかあどけなさとナイーヴな響きを持っている。
だから、ウェットな印象を持つからといっても決して大人しくなったわけでも、丸くなったわけでも、ましてや感傷に浸った辛気臭さに満ちているわけでもない。むしろ持ち前の刹那性には磨きがかかったといっていい。よりタイトなドラムとアップテンポで疾走感があるパンキッシュな楽曲が並ぶ。全体として引き締まっていて、通しで聴いても体感はあっという間だろう。
この傾向が特に顕著なのは中盤以降。メランコリックなギターの調べが響き渡り、淡々と刻まれるドラムの中で焦燥感を増幅させる“Walking Distance”、重々しいディストーションギターが暴れ回るハードな“Dungeons And Dragons”、軽快なリフと弾けるようなポップネスが躍動するメロディックパンク“Unnamed Place”などが、象徴的な楽曲として挙げられるだろう。いずれも耳に焼き付くようなキャッチーさ、荒々しいパンキッシュさ、そして本アルバム全体に漂うナイーヴな空気感が凝縮された仕上がりと言える。
その一方で特筆しておきたいのは序盤の3曲と最後の曲ではこうしたパンキッシュなアプローチだけに留まらない面を見せてくれていることだ。
ほとんどアンビエントミュージックといってもいい“Intro”で幕を開け、スローなノイズロックから疾走感あるエモへと曲調が大きく変わる“Secret Order”へとなだれ込み、先行シングル“Build”へと続く。この一連のオープニングの流れは、本作の世界観を一歩離れた視点からリスナーへと伝える導入部としての役割を果たしている。そして、ラストの“Boys In The Spaceship”の後半で彼らの曲としては珍しい日本語詞が登場。直球勝負というよりはむしろ変化球寄りの楽曲を導入とフィナーレに持ってきている。
エモーショナルでありながら、感情表現の幅は大きく拡大。それは、ときに脇目も振らず走り出したくなるような思いの爆発であり、時に言葉にならない感傷に浸ることであり、時に鬱屈した不安定な思いを吐露することでもある。
Tomato Ketchup Boysというバンドが持つ、パンク性とエモーショナルさという揺るぎない軸を残しつつ、表現の幅とアプローチにおいて新たな方向性を打ち出した意欲作となったこの2ndアルバム。1stアルバムとは大きく異なる印象ながらも、その根底で通じる部分を残していることから、“続編”とも考えられる。活動再開を発表してから早々に、こうしてバンドとしての前進を印象付けた本作が持つ意義は、今後の彼らにとっても大きいと言えるだろう。
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The Second Escape From The Summer Darkness
アーティスト:Tomato Ketchup Boys
発売:2024年10月23日
フォーマット:デジタル
収録曲
1. Intro(Something’s Coming)
2. Secret Order
3. Build
4. Walking Distance
5. Dungeons And Dragons
6. Summer Majestic
7. Unnamed Place
8. Message
9. Your Friendly Neighborhood
10. Boys In The Spaceship
Tomato Ketchup Boys
静岡県浜松市出身のインディーロックバンド、2017年、同郷の鈴木(Vo / Gt)、石川(Ba / Cho)、武知(Dr / Cho)の3名で結成された。No BusesとのスプリットEP『Boys Missed The Bus』(2019年)や1stアルバム『The First Encounter Of This Odyssey』(2020年)が即完売となるなど高い評価を受けるも、2021年に石川の脱退と共に活動休止。2024年には新ベーシストにVVoodyを迎え、活動を再開。活動再開後は、地元浜松に活動拠点を置く。
Instagram自主レーベルアカウント:@tomato_ketchup_boys
X(旧Twitter) : @ketchup_boys
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後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、あまり役に立たない文章を愛でています。旅の目的地は、何もないけれど何かが起こりそうな場所。
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