『言志の学校』第二回レポート – 書くって?編集するって?文鳥社の2人に聞く –
2限目:「編集」はカセットテープ ――柳下恭平さん
講師:柳下恭平(やなした・きょうへい)
1976年生。文鳥社。ブックギーク(BOOK GEEK)
校閲専門会社, 鴎来堂代表であり、神楽坂かもめブックスの店長としてもお馴染み。
編集はミックステープを作ること?
「みなさんは High Fidelityという映画を知っています?」
柳下さんの編集講義は唐突にも映画についてから始まりました。今回の彼の講義は、驚くことに1本の映画だけを材料にして「編集」の仕事のエッセンスと本義を伝えるというものでした。自分にとっての身近な「編集」は “ミックステープを作ること”だと柳下さんは語ります。
一緒に聴く相手や、シチュエーションなんかに合わせて曲をつなぎ合わせていく。この作業がまさしく「編集」なんだとか。皆さんに馴染みはありますか?ちなみに残念ながら95年生まれの筆者にはこの経験はありません。でもやったことある。そう、プレイリスト。クラブDJが選曲する様も少しこれと似ていますが、現場の反応と照らし合わせるのではなく自分と向き合って作業をするというのが大切みたいです。
今回の講義はそんなミックステープが登場する映画が教材。言ってしまえばどうしようもない人たちばかり、とにかく音楽だけを愛している登場人物たちばかりの映画を土台にして、柳下さんは「編集」の極意をひもといていきます。
「月曜の朝のテープをあんたのために特別に作ったんだ」という台詞が飛び出すシーンを一通り見せてから、これが編集だと語ります。「月曜の朝のため」の音楽を「あんたのため」に「特別に」作るという姿勢。この姿勢こそがまさに編集に通じるんだそうです。
ねえ、知ってる?という原動力
「それはダサい」「これはイケてる」という美意識と、それを断言することが何より編集者には大事。その美意識に通ったもの、“自分の素晴らしいと感じるもの” を「ねえ、知ってる?」と人に教えてあげたい原動力こそが良いメディアを作っていくと柳下さんは繰り返し受講生に何度も伝えました。ペンをとる受講生に対して「そんなことメモらなくていいよ!」と照れながら制止していましたが、文字に残さずとも私はこの言葉が何よりも印象的でした。
また、その一方でいくら自分の美意識とは外れた原稿であっても、(文芸の場合は)自分でリライトすることだけはやってはいけないタブーだと柳下さんは熱弁します。むしろ作家が本当に何を書きたかったのかを、作家よりも先に気づく仕事なんだと彼は強く念押ししました。
またしても『High Fidelity』の引用に戻り、いくつかのシーンを見せてもらう。「他人の詩に自分の思いを託す劇中の彼らのやり方は編集術に非常に近しいものなんだ」と柳下さんは目尻を下げて笑います。膨大なレコードを改めて整理する様を引用して、秩序を作るのが編集者だと柳下さんは語りました。
編集は「編む」と「集める」
編集は読んで字の如く「集めて」「編む」作業です。
ここまで話してきた内容は主に「編む」という側面だと柳下さんは言います。「集める」という作業だってとっても大事。編集者にとって、日頃から様々な事物をひたすらインプットしていくことが大事。『High Fidelity』の作中人物たちは様々な音楽の「トップファイブ」を作ります。転じて理想の職業や恋人の良い所をトップ・ファイブにして列挙する遊びにまで。ここで重要なのはトップ・ファイブが作れるほどの豊富なデータが既にインプットされているということ。
膨大なインプットは様々な「編み方」の幅を与えますし、編んでいることがきっかけで、「集める」の部分がまた厚くなってきたりします。インプットだって大事な仕事だ、ということを再確認させていくれました。とても1日では成しえない気の遠くなるような話ですが、だからこそ文芸の世界は奥が深くて面白い。そう感じずにはいられません。
自転車のことは乗れるまでわからない
自転車は乗れて初めて「乗れた!」と思うもの。それは編集の仕事も同じだ、と語ります。大事なのはとにかくやってみること。自転車に乗れない人が座学で自転車のことについて知識を増やしても、乗れないものは乗れない。そんな風に柳下さんは私達を諭してくれました。自分はまだまだ立派な編集者だとは人に言い難い。ですが、この喩えは私にでもよく分かります。
そして柳下さんは、1本の映画を「編集」することによって――まさにそのスキルを実演する形で――その仕事の本質を私たちに伝えてくれました。映画を断片的に見せることで、柳下さんの伝えたいメッセージを乗せてしまう。こんな知的な手品みたいな行為が「編集」なんだと思いしらされます。この上なくコミカルでキャッチーな講義でしたが、恐ろしいほどに説得力のある授業でした。
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3限目 宿題のフィードバック
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WRITER
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95年生。映画ライター。最近大人になって手土産をおぼえました。
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「フラスコ飯店」というwebの店長をしています。