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ANTENNAとTHREEが伝えたい、これが関東インディーミュージックで今一番見せたい4組だ!―Fight Club Vol.2

2024年9月1日(日)、下北沢〈THREE〉にて我々ANTENNAとTHREE共催のライブイベント『Fight Club Vol.2』が開催された。結成5年以内の若手アーティストに焦点を当て、東西それぞれで行われた本イベント。6月に京都で実施したVol.1とは音楽的にも空気感も大きく異なった今回は、紛れもなく今関東のライブハウスで繰り広げられているカルチャーの魅力、生々しさが詰まった濃密な一夜となった。

MUSIC 2024.09.17 Written By ivy

あいつに「ライブハウスへ遊びに行こう」って言いたい

ある日、青年はライブハウス〈THREE〉へ立ち寄る。特に目当てのアーティストもいなければ誰に誘われたわけでもない。ただなんとなく、その日いいアーティストがいるんじゃないかと、何も調べずにドアを開けたという。数時間後、彼が行きつけのバーでその顛末を話すと、別の常連客が「おしゃれだね」と茶化す。

 

2021年の映画『街の上で』のワンシーンだ。実際にライブハウスでそういう遊び方をするのは相当音楽好きな層だろうし、その中でも相当な好奇心と探求心がある人だろう。知らない音楽をわざわざ愉しもうとする心の豊かさや感度の高さがここで言う“おしゃれ”であり、実際に私が理想とするライブハウスの在り方はそれに近い。

 

全く知らないバンドを、その日偶然見たらすごくいいかもしれない。そんな期待感がある場所がライブハウスであり、ライブイベントであって欲しい。そのバンドのネームバリューは、ライブを通して得られていくものであって欲しい。

 

全く知らないバンドのライブに来るきっかけは「〈THREE〉ならいいバンドが出ているだろう……!」という期待感だろうし、『ANTENNA』もそんな期待を感じてもらえるようなメディアでありたいと願っている。だから、そんな期待感を持っていく場所であると、映画の中でネタにされてしまう〈THREE〉には心から敬意を払いたいし、そんなライブハウスとこのイベントを共催すること自体、私たちにとっても非常に大きな意味がある。

 

今回出演してくれた4組は、足を運んでくれたらきっと届いてくれるであろう関東を拠点に活動する結成5年以内のバンドだ。そこは、彼らのことを知らない来場者の方が多いシビアな空間だ。どう転ぶかわからない中でも、終えたとき、確かな手ごたえを得ることができた一夜となった。

 

写真:服部健太郎

ベタっと劇的、濃い味、醤油系ギターロックMANGA HOUSE

冒頭からギターがギャンギャンぶっ放す。そこに乗るのは、鼻にかかった少し少年っぽさが残る声と、郷愁を誘うメロディ。まるで少年漫画のように劇的だが、かといって感情剥き出しに叫んだり、勢いのまま突っ走るというものでもない。若々しく青いような、でも渋いような、ありそうでないタイプのロックだと思った。

トップバッターを飾った4人組、MANGA HOUSE。1曲目“ファンクラブ”はミドルテンポのブリットポップ風味なロックナンバー。オールドスクールロックを思わせるノスタルジーな仲田(Gt / Cho)のギターの音色は、他の曲でも強く印象に残り、このバンドが鳴らす音の奥行きを感じさせる上で一役買っている。その後も現在3カ月連続でリリース中であるシングル曲“赤い月”、“ライター”など、名刺代わりのようなセットリストで進行していった。

このライブのハイライトとしては、最後に演奏された“傍観者”を取り上げたい。キャッチーでほんのり哀愁漂うメロディをコーラスで歌い上げるエンディングに相応しい一曲だった。

歌詞も楽曲もどちらかというとストレートな部類に入るが、聴き終わった後に曲の本筋とは少し違った目線の余韻が残る、その意味でMANGA HOUSEというバンドの根底で通じる本質が見えたように思う。それはまるで、少年漫画アニメを読み終えたときの感覚に近い。ページをめくるたびに感じるインクの匂いかもしれないし、土曜日の夕方にアニメを見ながら夕食が出来上がるのを待っていた感覚かもしれない。嫌らしくならない余韻がある音を出せること。それ自体が他でもない彼らにしかない魅力だ。

静寂とどよめきを生んだニソクサンモンのセッション

“いいライブ”の定義というのは難しい。好みによる部分が大きすぎるし、個人目線でもその基準は揺らぐものだ。だから、安易に「このバンドがベストアクト」とは言いたくない。ただ、この日の空気を明らかに一変させたバンド、インパクトを残したバンドという意味では、ニソクサンモン以外に思い当たらないだろう。

ステージで向かい合うトスモト(Gt / Vo)とハヤシ(Dr)。二人だけでこの音を鳴らしていることにオーディエンスは舌を巻く。そこで生み出されるグルーヴは、ジャズセッションを見ているかのような緊張感に満ちていながら、有機的で滑らかだった。

 

トスモトの声は、フォーキーで温かみがあり、歌い回しにも愛嬌がある。決してとっつきづらい声質ではない。そんな歌声が緻密に練り上げられた二人のグルーヴと一体化したとき、途端に狂気じみて感じられるから面白い。

そんな緊張感を最も堪能できたのは、中盤に演奏された“飽きたら潮時ね”だ。タイトなリズムを刻みながらも楽曲を弄ぶかのように躍動するハヤシと、低温度なトスモトの歌声が主導権を奪い合う。曲間に起きる静寂は、この曲を境にどよめきへと変わった。「何だ、これ」、「めちゃくちゃいいぞ」ひそひそと湧き上がる声は、どんな大きな歓声よりも正直な賛辞だろう。

エレガンスハイツポピーのしなやかで強靭なアンサンブル

まだあどけなさを残す3人組。ぶれない軸があるが故の、柔軟さがあるバンドだ。UKロックの影響を受けながらも、メンバーそれぞれが違った音楽を嗜好し、それがそのまま音楽性に反映されている。エレガンスハイツポピーのライブは、その過程を目の前で見ているような、そんな感覚になる。

 

3ピースとは思えないくらい、広がりのある音像は、自由自在に姿を変え、ステージを所狭しと暴れまわる。kosuke(Ba)が力強いベースソロを披露したかと思えば、yumi(Dr)の刻むタイトなリズムで曲の硬度が増し、すべてを包み込むようなサトウ(Gt / Vo)の声と繊細なメロディが合わさって完成する。自らの鳴らす音を具現化したようなパフォーマンスは、初めて彼らを目にした人にも惹きつけるものがあっただろう。

ハイライトは、2022年リリースのシングル曲“マライカ”。伸びやかなメロディと、3人のアンサンブルが堪能できる珠玉のアンセムだ。サイケデリックな雰囲気が漂う、90sライクなロックサウンドは厚みのあるグルーヴとアンニュイな歌声をもって一層説得力を増していった。

 

トリの前、会場の空気が温まりつつも、来場者の印象には絶妙に残りづらい出番ながら、楽曲の魅力を余す所なく届けた技量に拍手を贈りたい。その柔軟さは、確固たるバンドの武器だ。

わかりにくさを全力で表現する力強さ、Fine, Greatってなんだっけ

「最後にこんな……。わかりにくいバンドが出てきてすみません(笑)」

 

照れくさそうにMCで話していた。たしかに、Fine, Greatはわかりにくい音楽かもしれない。彼らの特徴は、変拍子を多用し、シュールな歌詞とそれぞれ個性の異なるプレイヤーがぶつかり合いが生む化学反応。他のバンドに例えようとしても絶妙に思い当たらないし、軽音サークルの友人を誘うときに「○○が好きなら絶対ハマるよ!」みたいなことは言いづらい。

ただ、一度ライブを見れば、これほど魅力が伝わりやすいバンドもあまりいないのではないだろうか。底力というか、爆発力というか。それだけ引用しづらい、独創的な音楽をやっていながら、全力疾走でその日のライブを突き抜けるエネルギーこそ、最大の魅力だ。

 

6月にリリースされたシングル“I’m fine. I’m great.”、ザクザクとしたリフが身体を揺さぶる“Project-QUEEN-”、ラストに演奏された“I don’t care. I need more alcohol.”。汗しぶきを飛ばしながら、体当たりのライブを繰り広げてくれた。

パンキッシュで、エネルギッシュで、ナードで、エクスペリメンタルで……。形容する言葉はいくらでも思いつくが、一度見ればそれらの全てが一度に脳に押し寄せるような強烈さがある。ライブが終わった後、来場者と話していても話題に挙がることが多かったFine, Great。この日居合わせたオーディエンスには、確実に彼らの音楽が届いていた。

ありがとう!最後まで見てくれて

今回のイベントで印象に残ったのは、一度入場したら最後までフロアに残った人が多かったことだ。もし出演4バンドのうちどれか一組のファンや友だちであれば、その前後のバンドは見ないという人も一定数いる。まるで入れ替え制の映画館のように、ライブが終わるとごっそりフロアが引いてしまう景色を何度も見てきた。

その点、今回終演まで見届けてくれた人が多かったのは、「次のバンドもよさそうだ」という期待感を生むことができた証だろう。その時点までの演者の力でもあり、その場に居合わせたオーディエンスによって生んだ空気感の賜物である。また終演後もしばらくフロアに残り、出演陣や我々ANTENNAメンバーとの歓談の場にスムーズに移行していたのも喜ばしかった。

 

ライブハウスへ遊びに行く。そのための期待感を生みだせる場として、まだ見ぬバンドが見たくなる空間として、今後も続けていきたいと思った。どんなバンドと出会えるのか、どんな音楽がどんな反応を持って受け入れられるのか。その意味でも続けていく意義はあるはずだ。

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