北欧から鳴るインディーポップは、DIY精神を体現した姉妹の対話録―7ebra『7ebra Japan Tour 2024』
2024年11月18日(月)、東京の新代田〈FEVER〉でスウェーデンのインディーポップデュオ、7ebraによる『7ebra Japan Tour 2024』東京公演が行われた。2023年5月3日にリリースされたデビューアルバム『Bird Hour』はスウェディッシュポップの第一人者、トーレ・ヨハンソンがプロデュースを手掛け、シュールかつポップで中毒性ある楽曲が注目を浴びた彼女たち。他3公演よりも大きなキャパシティの会場でツアーファイナル、自らのアーティストとしてのスタンスやインディーミュージックの本質的な魅力を体現した、堂々たるパフォーマンスを披露してくれた。
ポーカーフェイスなのに親しみやすい、摩訶不思議なアルバム『Bird Hour』
それは、子どもが描いた絵を見ているのと近い感覚だ。特定のジャンルに縛られることもなく自由気ままで、膨らみ続ける夢を見ているような、極めて独創的なインディーポップを鳴らしている。内省的でシュールな、それでいてピュアにも思える歌詞は、淡々とした歌い方からは意外なほどにリリカルでキャッチーで親しみが持てるものだった。スウェーデン第3の都市、マルメを拠点に活動するイネス(Inez)とエラ(Ella)の姉妹デュオ、7ebraの1stアルバム『Bird Hour』(2023年5月5日リリース)から受けた印象はそんなところだろうか。
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『Bird Hour』のプロデュースを手掛けていたのは、トーレ・ヨハンソン。20代半ばの彼女たちが生まれた90年代、The CardigansやCloudberry Jamらスウェディッシュポップ・バンドを世に送り出したスウェーデンを代表する名プロデューサーだ。UKではNew OrderやFranz Ferdinandも手がけ、日本では2000年代にBONNNIE PINKやカジヒデキ、原田知世をヒットさせている。そんな日本とも縁深い彼のお墨付きということで、関心を持ったリスナーも多いことだろう。
本作がスマッシュヒットとなり、レコード店ではLP盤が売切続出するなど一躍脚光を浴びた彼女たち。待望の来日ツアーが2024年11月、実現した。東名阪(東京は2公演)の計4公演を回り、最終公演となったこの日。会場となった新代田〈FEVER〉には耳の早いインディーミュージックリスナーたちが老若男女を問わず集まった。
7ebraを知った経緯がどのような形であれ、彼女たちの音楽は単なるマニア消費に留まらないポップネスと、どんなバンドもリファレンスにあげづらいフレッシュさを兼ね備えている。ポーカーフェイスなようで、ユーモラスで甘く、愛らしい。そんな不思議な魅力を持つ彼女たちの音楽は、ステージで生の演奏、肉声を通すことでどのように響くのか。この日のポイントはそこにあった。
チャーミングで特別、「この二人じゃなきゃダメ」であること
「この二人だから、この音なんだ!」
リスナーたちにとっては一種の答え合わせともいえるような時間だったのではないだろうか。腑に落ちるとともに、ちょっと微笑ましい気持ちになるような、音楽を聴いてそんな感覚を味わうのが実に新鮮だった。
ギター / ボーカルのイネス、鍵盤とメロトロンを担当するエラ、という実にシンプルな編成の7ebra。そんな彼女たちの音源を聴くと、ローファイでミニマルながらも胸を打つ愛らしいメロディと、たった二人で鳴らしているとは思えないくらい目まぐるしく曲調が変わり、多彩なアプローチを使い分けるサウンドが印象に残る。だからこそライブを観るまでの間は果たして音源のクオリティがどこまで再現されるのか、一抹の不安がよぎったことは否めないし、ライブと音源ではもしかしたら全くの別物として楽しむモノであるかもしれないという期待もあった。
結論から言えば、彼女たちは見事なまでに音源を再現し、ハイクオリティなパフォーマンスに初見のリスナーたちも舌を巻いた。終演後、物販ブースにはほぼ来場したすべての人が並んでいたし、彼女たちの記念すべき日本初パフォーマンスに立ち会えた喜びが伝わってくる。
息がぴったり。絶妙なタイミングの歌い出しやリズムの切り替わりには思わず唸ってしまう。ステージにサポートメンバーはなし、二人だけ。絞り込まれた音だからこそ“間”やタメが肝心だ。二人だけの絞り込まれた編成の中でできることは出し惜しみせず、目一杯楽しませてくれた。
そして、もう一つの視点で言えば、音源ではわからなかった「この二人じゃなきゃダメ」という説得力である。
二人は演奏中、絶えず対話をしている。ライブ中もたびたび目配せをしたり、笑いあったり、談笑したりしながら進行していく。まるで姉妹が自宅のベッドルームで、楽器を手にしてテープレコーダーに録音しているのを見ているようだ。彼女たちが鳴らす音楽が作り上げられるまでの過程は、実際に目の前にしてその姿を見てこそ浮かぶものだった。
アルバム『Bird Hour』のオープニングトラック“Secretly Bad”で幕を開けると会場は、ローテンションなのにどこか楽し気な二人の世界へと呑み込まれていった。実に淡々とした歌い口だが、どうにも声に愛嬌があり、冷たい感じを受けない。やがて、二人のコーラスワークがドリーミーなメロトロンの音色に乗ってゆらゆらと宙に漂う。それがまた不思議と心地いい。
1stシングルでもあるアップテンポなポストパンク風の“If I Ask Her”や終盤で披露された“I Have A Lot To Say”など、キャッチーなナンバーが始まるとオーディエンスも楽しそうに体を揺らしだす。気がつく頃にはフロア全体が「初来日を見届ける」というシリアスな空気よりは、もう少し気楽で肩の力が抜けたような暖かい空気へと変わっていった。
音源で実現したクオリティを落とさずに、ライブでアーティスト自身のより人間臭い魅力に触れる。それこそが海を隔てたアーティストのパフォーマンスをライブハウスで見る醍醐味かもしれない。あまり今まで考えたことはなかったが、この日の彼女たちを見て認識を改めた人は筆者だけではないだろう。
インディーミュージックに流れるDIY精神
彼女たちの音楽に触れる際、SorryやWet Leg、Goatgirlら、UKシーンを中心に起きている90sインディーや80sアーリーオルタナティブロックへのリバイバルが引き合いに出されることが多い。7ebraの場合はその中でも特にBad Dream Fancy DressやThe Softies、Rocketshipらトゥイ―ポップと呼ばれたバンドと近い空気感が感じられる。特定のジャンルよりも、アティテュードやDIY性が垣間見えるライブの様子が80〜90sのインディーミュージックを彷彿とさせるからだ。
インディーミュージックシーンも成熟と共に解釈は広がり、その意味合いも大きく広がった。ジャズやヒップホップ、クラブミュージックといったジャンルとしてはもちろん、アーティストのスタンスも千差万別だろう。楽曲制作と宅録のみでライブを行わないインターネットミュージシャンのような活動をする者もいれば、メインストリームに接近して大規模なプロモーションやスタジアムライブを行うようなバンドもいる。
そうした中で7ebraの自由奔放でユーモラスな世界観、そして彼女たち二人の視点と“今できること”で構成された楽曲群は、よりプリミティブなインディーミュージックの魅力を体現している。この来日公演を通して、そんな彼女たちの在り方がリスナーに届いていたように思う。
ぜひともまた日本のライブハウスで二人の姿を見せて欲しい。彼女たちの音楽やスタンスに共鳴するアーティストはまだまだ日本のシーンにもいるはずだから。
撮影: kokoro
7ebra
スウェーデン、マルメ出身の双子姉妹インディーロックデュオ。トーレ・ヨハンソン(The Cardigans、Franz Ferdinand)に見出され、2022年にダブルA面シングル 『I Have A Lot To Say / If I Ask Her』でデビューを果たす。トーレがプロデュースを務めた1stアルバム『Bird Hour』(2023年5月5日)がスマッシュヒットを記録したことで一躍脚光を浴びる存在となった。
Instagram:@7ebra
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後ろ向きな音楽、胡散臭いメガネ、あまり役に立たない文章を愛でています。旅の目的地は、何もないけれど何かが起こりそうな場所。
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