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アジアのインディーシーンが見せる進化と深化-BiKN shibuya 2024 クロスレポートNo.1

2024年11月3日、アジアの音楽シーンにフォーカスしたサーキット型ライブショーケース『BiKN shibuya 2024』が開催。「アジアで注⽬を集めるアーティストが⼀堂に介する」というコンセプトのもと、2度目となる今回も国外20アーティストを含む、バラエティに富んだ全38組が出演した。昨年に引き続き、ANTENNA編集部2名がそれぞれの視点で当日の模様をレポートする。

MUSIC 2024.12.04 Written By ivy

Cover photo:Chiaki Machida

アジアミュージックのショーケース、再び

ショーケースという概念を考えたときに、ここまでコンセプトに忠実に行われているイベントは稀有だ。リスナーはもちろん、レーベルやメディアに携わる人間もまだ見ぬ音に触れる場。だからこそ、毎年似たような顔ぶれになってしまえばイベントそのものの存在意義が揺らぎかねないし、ただ毎回違うメンツというだけでなく、その回全体を通して訪れた人に実感させたいメッセージ性を持ってこそ“色”が出る。

 

今年のラインナップを見て、まず気づいたことはShallow LeveeとLucy,Tooを除くすべての出演陣が昨年と異なる顔ぶれということだ。中には初来日のアーティストや、音源も情報も少なくキャリアが浅いバンドも見られる。昨年の『BiKN』から急激に海外での活動を増やしたアーティストや間を置かずに来日ツアーを行ったバンドもいることを考えると、まさに日本のリスナー、そしてシーンに対するお披露目としての意義を今年も守っているようだ。

 

この『BiKN』も然り、日本以外のイベントでも言えることだが、アーティスト同士、リスナー間の国境を越えた交流が以前よりもさらに活発化している。筆者が全体を通して得られた実感として、今年観たアーティストの多くはアジアのインディーミュージックシーンにおけるグローバル性が顕著であり、「この国のシーンはこういう特性がある」というようなステレオタイプにはハマらないものが多かった。既存のシーンの中で影響を与え合うだけでなく、国内外の音楽に目を向け、自身の活動域も広げたうえでアーティストごとに独自の音楽を追究していることの現われだろう。

 

EP1枚を出したばかりのニューカマーもいれば、『SUMMER SONIC』への出演歴もあるベテランもいる。その中で、この傾向を体現しているアーティスト5組にフォーカスしたライブレポートをお届けする。

やさぐれたようでどこか切ない、ロックンロールをかき鳴らしたCommmon People Like You

ドライなようでウェット、ビターなようで甘酸っぱく、ストレートなようでひねくれている。そして、クールな顔をした熱血漢。“タイのArctic Monkeys”とでも呼びたい、タイ出身の4人組バンド、Common People Like You。剥き出しのガレージロックから無機質なポストパンクまで、UKの大先輩よろしく、緩急が効いたセットリストで会場を温めていく。

 

冒頭、金属的なギターとタイトなリズム隊、ローテンションなヴォーカルが80年代ニューウェイブの香りを感じさせる“Stay Down”でフロアを躍らせた。かと思えば直後にはサイケデリックで官能的なギターフレーズがずるずると不安定に這いずり回る“SUN”のような変化球をかましてくる。疾走感があるポストパンク”Not Today”で再びボルテージを上げ、4つ打ちを取り入れたきらびやかなダンスロック“Be Mine Then You’ll Be Good”でラストを飾った。

 

ゆさぶりをかけていくようなスリリングなステージは、オーディエンスの目をくぎ付けにして離さない。そんな彼らのステージにおいて、根底で共通して感じられたことは、ほんのり侘しさを感じるような良質なメロディと、強烈なインパクトのあるパンチの効いたリフが同居していることだ。90~00年代のUKロックの影響を大いに受けながらも、メロディの質がUKのバンドたちが鳴らすそれとは異なる。

 

トップバッターの役割を見事に全うし、早くも日本のリスナーの心を掴んだかに見えた彼らの、次なるライブを心待ちにしたい。

Photo:Ruriko Inagaki

タイインディー界の若きベテラン、Yellow Fangが魅せた貫禄と可能性

Yellow Fangは、タイのインディーミュージックシーンの中でもいち早く日本に紹介されたバンドの一つだ。2012、2013年には『SUMMER SONIC』に出演を果たし、地元バンコクで開催されたフェスではBeach FossilsやThe Pains Of Being Pure At Heartらと共演を果たすなど、タイの国外ともリンクした活動を続けてきた。デビューから15年を超え、もはやベテランと言ってもいいかもしれない。現在活動しているタイのバンドにも少なからず影響を与えていることは想像に難くない。

 

全体としては初期シューゲイザーや00年代のローファイギターポップに影響を受けたざらざらと歪んだギターと抒情的で力強いヴォーカルが印象的。それでいて、タイの民族音楽を思わせるパーカッションのグルーヴが顔を出したり、耽美で妖艶な雰囲気がLUNA SEAら90年代のヴィジュアル系を彷彿とさせたりと、様々な味付けが顔を見せる。久々に日本のリスナーの前でのライブとなったこの日は新メンバーのKitty(Per)を迎え、4人の持つバンドとしての自在な表現力を見せつけてきた。

 

ハイライトには“I Don’t Know”を挙げたい。レパートリーの中でも特にストレートであろう、キャッチーでメロディアスな一曲である。オルタナティブな音楽を志向しながらも、抒情性を帯びた切なくストレートな歌ものロックとして、質の高さを堪能できるアンセムだ。バラードも単調にならず、エネルギッシュなPang(Vo)の歌声が響き渡る。

 

Yellow Fangは元々3ピースバンドとしてキャリアの大半を過ごしているがゆえに、こうしたシンプルな構成の楽曲が多い。ただ、今回は新加入したKittyの存在がバンドのサウンドに更に厚みと柔軟性をもたらしていたことにも特筆しておきたい。もはやフロントマンといってもいいくらい全身でグルーヴを表現し、踊るように手数多く、柔軟で動的なリズムを刻む。それは、どちらかといえばUK / USロック的なキレとパワー主体で硬質な印象を受けるPrewaのドラムと好対照だ。既存の楽曲でありながら、音源にないライブ感が加わり、これまでにないようなアプローチを感じさせる進化が感じられた。

 

ベテランと言われる域に入りながらもアーティストとしての可能性を感じさせる、前進を続けている様子が見て取れるライブに、感服せざるを得ない内容だった。

Photo:endo rika

Zoo Gazerのとびきり甘く穏やかでありながら瞬きも許されないスリリングなアンサンブル

中国出身のドリームポップ / シューゲイザーバンド、Zoo Gazer(動物園釘子戶)。Mac DemarcoやBeach Fossils、No Vacationら2010年代半ばのUSインディーを思わせる甘くセンチメンタルでナードなギターポップを鳴らす。

 

ほんのりオリエンタル / エキゾチックなムードを感じさせるのは、欧米のバンドたちが取り入れていたアジアのポップカルチャーを逆輸入的に取り入れているようにも見え、新鮮だ。ゲーム音楽をサンプリングした音や、死んだ僕の彼女、17歳とベルリンの壁といったジャパニーズシューゲイザーに近いキャッチーながらも物悲しいメロディーラインは、単に彼らの出身国の音楽や風土が産んだものとは言い切れないのが面白い。

 

2018年リリースのアルバム、『動物園釘子戶』から演奏された“大大大大大象”はそんな彼らが持つバックグラウンドの広さを感じさせる秀逸な仕上がりだった。滑らかなフィルインからの撫でるように繊細なドラムプレイ、冴え渡るベースラインとローテンションなヴォーカルの対比がシュールな印象を与える。そして、妖しくムーディーでロマンティックな世界観はどこか非現実的で、往年のシティポップや和製フュージョンを彷彿とさせた。

 

アジアのインディーミュージックが生まれる背景には、やはり諸外国の音楽の影響がある。そうした中でも、これまでスポットライトが当てられることが少なかった中国のアーティストたちがどのような流れで他国の音楽に触れ、シーンを形成しているのかは非常に興味深い。

 

Zoo Gazerが所属する上海のインディーレーベル《生煎唱片》には、共に『BiKN shibuya 2024』に出演したウイグル出身の缺省 Defaultも所属している。SlowdiveやDusterからの影響が色濃い耽美で壮大、幻想的なポストロック / シューゲイザーはまたZoo Gazerとは趣が異なり、レーベルの審美眼と豊富な引き出し、ニッチな方向性がうかがえた。今回来日した2組の他にも、同レーベルにはよりオールドスクールなシューゲイザーを思わせるSchoolgirl Byebyeや、チープな打ち込みと儚くも多幸感溢れるエモーショナルなメロディーが光るDeep Water水太深らクオリティの高いアーティストが名を連ねている。また、インディーズバンドを対象としたオーディション番組『乐队的夏天』への出演で人気を獲得した刺猬 Hedgehogはポストパンクリバイバルからの影響を感じさせるミニマルで疾走感溢れるバンドサウンドが特徴的だ。想像以上にその音楽性の幅は広く、それぞれにエッジが効いており、独自性が際立っている。まだ中国国外のリスナーに触れていない素晴らしいアーティストは数多くいるのではないか。その急先鋒として風穴を開けるのがZoo Gazerなのかもしれない。

Photo:Chiaki Machida

弾け飛ぶほどエネルギッシュで不安になるほど刹那的なSailor Honeymoonのパンクロック

もしかしたら、途中で力尽きてしまうんじゃないか。無事にライブが終わらないんじゃないか。それくらい、今この瞬間のステージを全力で楽しんでいる。ポジティブな刹那性がみなぎる韓国のガールズパンクバンド、Sailor Honeymoon。デビューEP『Saillor Honeymoon』を2024年4月30日にリリースしたフレッシュな3ピースだ。

 

サウンドは実にラウドで粗削り、ヒリヒリするような危うさをもった渋好みなパンクロックだ。そんな骨太なサウンドの中にもポップさ、キャッチーさがあり、その場に居合わせた誰もをライブの熱狂に引き込んでしまうエネルギーは、観ている側にとっても痛快この上ない。

 

耳をつんざくようなささくれ立ったノイズロック“PMS Police”はSonic Youth直系なアーリーオルタナティブの香りを感じさせ、The Stoogiesのカバー“I Wanna Be Your Dog”のようなオールドスクール・パンクも板についている。

 

最初は“お手並み拝見”といった具合に遠巻きで見ていたオーディエンスがライブの進行とともにステージ近くへと寄ってくる様子は、その音楽性がそれだけの人に刺さったことの表れと言えるだろう。

Photo:Chiaki Machida

ベストコンディションで一層輝く、Sobsの“Uncool Pop Music”

アジアのインディーミュージックにおいてまだまだ話題に挙がることが少ないシンガポール。目覚ましい経済発展を遂げ、多民族国家として国内外からの人の出入りも活発なことから様々なジャンルのマーケットとして注目を浴びている。そんなシンガポールを牽引するバンドとして、真っ先に浮かぶのがSobsだ。2022年リリースのアルバム『Air Guitar』が一躍注目を浴び、2023年3月にはアメリカの大型フェス『SXSW』にも出演するなど、シンガポール国内に留まらないグローバルな活動を見せている。

 

自らの音楽性を“Uncool Pop Music”と称し、1990~2000年代のポップパンクやギターポップ、80年代のニューウェイブ、そして日本の渋谷系やインターネット音楽といった様々な時代、国のナードなポップミュージックを昇華したサウンドが特徴だ。

 

筆者は2023年6月4日、下北沢《THREE》で行われた来日公演に足を運び、『ANTENNA』でライブレポートを執筆した。その時も素晴らしい盛り上がりを見せたが、Celine(Vo)の喉のコンディションが思わしくなかったことや、ドラマーが不在でドラムマシンを使用していたことなどから本人たちにとってベストな状態とは言えなかった。今回は来日公演限定で17歳とベルリンの壁の宮澤純一郎をサポートドラマーを迎えたことで全体に生々しさと力強さが増し、Celineの歌声も時にセクシーに、時にキュートに音源以上の見事な仕上がりを見せてくれた。

 

特筆したいのは“Friday Night”。ノスタルジックなシンセサイザーが煌びやかに彩るポップなナンバーだが、曲の終盤にブレイクビーツのようなインストパートがある。このパートはライブの見せ場の一つであり、一部のインディーミュージックリスナーには「例のパート」として話題となっていたこともある。

 

まず、ヴォーカルパートはCelineがステージを所狭しと歌い踊り、オーディエンスをくぎ付けにする。そして終盤のインストパートで一気に会場の空気が変わる様はまさに圧巻の一言だった。バンドサウンドで作り出すクラブミュージックの切れ味と破壊力は音源で何度も聴いた曲であってもやはり格別だ。それまで抑えていたものが爆発するような、時空が違う異世界へ飛ばされたような感覚すら覚える、多幸感に溢れた体験だった。

 

〈O-nest〉のトリとしてアンコールも含め、約1時間ほどのステージを充実の内容で終えた。コンスタントに活動を続けている様子からも、次の新曲のリリースや新たなドラマーの加入にそれほど時間はかからなそうに思える。貪欲にポップミュージックを追求し続けるSobsのこれから生まれる作品にも期待したい。

Photo:endo rika

成熟が進むシーンと、今後の向かう先

音楽シーンの成熟を図るうえで指標は様々だ。ただ、インディペンデントな音楽に限った話としては、そのシーンにどれだけ独自性があるかと同じくらい、どれだけ多様な音楽が存在し得るかということもあるように思う。その意味では、今回取り上げた5組が見事なまでに全く異なるベクトルの音楽をそれぞれの形で追究し、且つ国内シーンを超えた活動を見せていることからも、アジアのインディーミュージックシーンは成熟していると断言できる。

 

Yellow Fangが活動を始めた2000年代終わりから2010年代初頭は、タイに限らずまだアジアのインディーミュージックそのものにスポットライトが当てられること自体が少なかった。Yellow Fangだけが『SUMMER SONIC』のような大型フェスに出演したとしても、そこからリスナーが他のアジアのアーティストへ興味を持ったり、楽曲に触れたりといった深まり、広がりを生むには至らなかった。シューゲイザーやエクストリームメタル、ハードコアパンクといった特定のジャンルや、その専門誌でアジアのアーティストが取り上げられることはあったものの、多くの場合はそうした情報に接点を持つリスナーはごく限られたものとなってしまう。結果としてそのジャンルを超えた文脈に結びつくことや実際にリアルタイムの音楽として、アーティスト間の交流や継続的なシーンの動きには繋がりにくい。

 

昨今では『BiKN shibuya』のようなライブショーケース、『りんご音楽祭』や『ONE MUSIC CAMP』といったローカルなフェス、そしてアーティスト単独での来日公演や情報を紹介する個人やレーベルの存在もある。こうした情報と作品の交流が進んだ結果、リスナーにとって新たなアジアのアーティストに触れるハードルはぐっと下がった。更に言えば、アーティストがリスナーと出会うまでの道筋がより広く、且つより様々なベクトルに張り巡らされている。

 

2023年の『BiKN』では、アジアの音楽が紹介されること、届けられる音楽がリスナーにとって新たな熱を生み出していることが体感できた。今年はそこに加え、音楽を受け取るリスナーと届けるアーティストやレーベルに起きている変化が国を超えたものであることが見て取れる内容だった。

 

全く畑が違うように思えるアーティスト同士が同じステージに並び、リスナーと共鳴することで、その瞬間にしかないシーンの色を創り出していく。そこには、様々な音楽が存在するだけでなく、新たな音楽を生み出すアーティストをリスナーが見つけて後押ししていく空気が醸成されていた。

クロスレポートNo.2はこちら

保護中: 日本とアジアの音楽をつなぐ祭典であり運動体、再び-BiKN shibuya 2024 クロスレポートNo.2

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