【映画のすゝめ】第3回
このコラムについて簡単に説明をすると……
①ターゲットの背景などを読み解き、その人におススメしたい映画を安里人さんが選ぶ
②映画は街にあるレンタルビデオ屋で選ぶ
③最後にゲストが1本映画を選び、感想を書く
人によって見たい映画はさまざま。生活のバックグラウンドに寄り添った映画をセレクトしてもらおう!という企画です。
このコラムが、映画を見るきっかけになれば幸いです。
ターゲットについて
22歳女子大生:趣味は音楽や食べ歩きという、どこにでもいそうな大学生。この春から社会人。
ターゲットの映画遍歴について
・映画館に足を運ぶのは年1~2回、金曜ロードショーもたまに観る程度。
・最近映画館で観たのは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。
・好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『レ・ミゼラブル』。
今回選んで欲しい映画
ターゲット:22歳女子大生
ターゲットの背景:
・単館系の映画館には行ったことがない。ツウな人ばかりのイメージがあって入りづらい
し、そもそも進んでそういった場所を探すほど映画に興味を持ってこなかったから。
・グロテスクなもの、ホラーは苦手。かといって甘々な恋愛ものも気が進まない。
・長さは3時間くらいあっても飽きずに観られる。
ターゲットの要望:
日常系のヒューマンストーリーが観たい。当たり外れが大きそうで自分からはなかなか借りないし、展開は派手じゃないけど奥が深いような話が好きだから。
ーーさてどんな映画を安里人さんは選ぶのでしょうか。 今回は京都の今出川通りにある某有名レンタルビデオ屋さんにて映画を選んできました。
安里人:日常系かぁ……ジム・ジャームッシュって監督とか知ってる?
女子大生:……分かりませんね (笑)!本当に映画初心者です。
安里人:なら、これからいきましょう!
①ダウン・バイ・ロー
出演:トム・ウェイツ、ジョン・ルーリー 監督:ジム・ジャームッシュ
内容紹介 (Wikipediaより)
ニューオーリンズで暮らす落ち目のDJザックは、ある男から車を預かるが、それが原因となり無実の罪で逮捕される。刑務所の同じ房にいるジャックというチンピラとは、全くウマが合わない。しかし後から収監された陽気でやかましいイタリア人、ロベルトが脱獄を提案。ザック、ジャック、ロベルトの3人は脱走にあっさり成功するが、道に迷ってしまい、延々と続く沼地を放浪するはめになる。やがて、一行は道沿いに立つカフェに行きあたり、ロベルトは女主人のニコレッタと意気投合するが…。
安里人:さっき名前を出したジム・ジャームッシュって監督の作品。歌手のトム・ウェイツ含め、3人がメインのお話。囚人が主人公だけど日常系特有のぐだぐだ感みたいなものがあって、日常系といえばこのジャームッシュ監督って感じですね。
女子大生:グロ要素はありますか?
安里人:いや、全然ない。ほんとにおっさんがぐだぐだしてるだけだよ。おっさん3人が独房の中で仲良くなって外へ行くっていう……ストーリーはあってないようなものだね。でも主演はトムだぞっていう。
女子大生:へー!おもしろそうですね。ジャームッシュ監督、気になります。
安里人:次はこれ。
②少年と自転車
出演:セシル・ドゥ・フランス、トマ・ドレ 監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
内容紹介 (Amazon「キネマ旬報社」データベースより)
カンヌ国際映画祭で5作品連続主要賞受賞の快挙を成し遂げたダルデンヌ兄弟が手掛けた感動ドラマ。親に見捨てられホームで暮らす少年・シリルの願いは父親を見つけ出し再び一緒に暮らすことだった。サマンサとの出会いを機に、父親探しを始めるが…。
安里人:事件は起こるといえば起こるんだけど、基本は問題児の男の子と知り合った女の人がひょんなことから一緒に過ごすことになるっていうだけ。で、そのまま一緒に過ごせるのかなぁっていうフランス映画なんだけど……。
女子大生:フランス映画?
安里人:そうそう、ベルギーとフランスの映画ね。すごく良いよ。多分観たことないと思う、このテの映画は。
女子大生:どういった意味でですか?
安里人:いわゆるヨーロッパ系の映画ってあんまり観たことないんじゃないかなって思って。
女子大生:そうですね!フランス映画観たことないです。観てみたい。
安里人:そうそう、だからこういうのけっこう入り口にいいんじゃないかな。
女子大生:観やすいですか?
安里人:観やすいよ!短いし。これが2本目です。
女子大生:ありがとうございます。
安里人:ちなみに、候補は何本ぐらい挙げたらいい?
女子大生:優柔不断なので3本ぐらいで。選ぶのは1本ですもんね?
安里人:選ぶのは1本だけど、もう少し聞くだけ聞きたい!とかあったらそれでもいいです。
女子大生:じゃあ……4本ぐらいで (笑)
安里人:4本ぐらいね、はーい。……ちなみに、タバコは好き?嫌い?
女子大生:自分は吸わないですけど、嫌いではないです。
安里人:なるほど……。ちょっと保留。
女子大生:タバコの好き嫌いで何が決定するところだったんですか?
安里人:これ。
③SMOKE
出演:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート 監督:ウェイン・ワン
内容紹介 (Amazon「Oricon」データベースより)
ブルックリンのとある煙草屋に集まる人々の日常を、過去と現在、嘘と真実を巧みに交差させながら描いた、ポール・オースターの原作をウェイン・ワン監督が映画化した人間ドラマ。
女子大生:『スモーク』!そのままですね!タバコがテーマなんですか?
安里人:ブルックリンのタバコ屋が舞台。
女子大生:へー!日常系ですか?
安里人:うん、ほんとにブルックリンの日常って感じ。文学とか本とか好きだったら、ポール・オースターって作家が絡んでるって聞いたら「おっ!」ってなるかもしれない。じゃあこれも候補に入れとく?おっさんが出てくる映画ばっかりだけど……。
女子大生: (笑) 。大丈夫です!でも自分からは選ばないでしょうね。というかまず、目に入らないと思います。だからこの企画はありがたいですね。
④街のあかり
出演:ヤンネ・フーティアイネン 、マリア・ヤンヴェンヘルミ 監督:アキ・カウリスマキ
内容紹介 (Amazonより)
『浮き雲』『過去のない男』に続く、アキ・カウリスマキ監督”敗者三部作”最終章。
2006年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式作品
友人も愛する者もいない夜警員コイスティネンは、マフィアの情婦ミルヤにだまされ、
強盗罪をなすりつけられてしまう。
1年の服役を言い渡されてしまったコイスティネンの運命はいかに…
安里人:今これを勧めるかどうかで迷ってて……フィンランドの映画なんだけど。
女子大生:へぇー、フィンランド! (ジャケットを見て) 男女のお話ですか?
安里人:一応ね。……やめよう (笑) 。独特のテンポ感の映画だから好きな人はたまらないと思うけど、よくわからないって言われたら困るなって思って……。
女子大生:話としてはどんな感じなんですか?
安里人:ヤクザ絡みなんだけど、多分想像とは全然違って日常の話。色とか本当にきれいだよ。
女子大生:ヤクザ絡みの日常系、とは……。
安里人:マフィアなんだけど、暴力的なシーンがあるわけじゃないっていうか、マフィア感ゼロ。きっと女の子は好きだとは思う。一応おすすめしときます。これで4本。もう1本いく?
女子大生:お願いします!
安里人:じゃあこれを。けっこうどの映画も一本調子なんだけど、これは……だいぶ変化球の日常系かな。
⑤トスカーナの贋作
出演:ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル 監督:アッバス・キアロスタミ
内容紹介 (Amazon「Oricon」データベースより)
『友だちのうちはどこ?』『桜桃の味』ほか数多くの名作で知られる巨匠アッバス・キアロスタミが、初めて有名キャストを起用して描いた作品。これはラブストーリーなのか、それともミステリーなのか?果たしてこの男女の本当の関係は!?夜にたどりつけない男と女。偽りの“夫婦”は、愛の迷路を彷徨う。夜9時の鐘の音が鳴るまでに…。ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメルほか出演。
女子大生:ラブストーリーなんですか?
安里人:それがラブストーリーでもないんだよね……。簡単にいうと、作家とギャラリーをやってるおばさんがちょっとしたことで一緒にいるようになるんだけど、夫婦と勘違いされるんだよ。それでしばらくの間夫婦って嘘つきながら行動する話。
女子大生:ふーん……。
安里人:もちろん物語上は夫婦じゃないんだけど、あれこの2人って夫婦だったっけ?って錯覚しちゃうような感じ。設定が途中でツイストして、実は本当に夫婦になってるんじゃないのかな……みたいなおもしろさがある。ひねりの効いた日常系です。
以上5点ノミネートで!
女子大生: (10分後) ……決めました!これです。
安里人:おっ、『スモーク』!意外。
女子大生:『少年と自転車』と迷ったんですけど……まずタバコがテーマっていうのがおもしろいなって思って。あと、いろんな人の人生がだんだん交差していくようなお話が好きなのと、英米文学を専攻しててポール・オースターの名前だけ聞いたことがあったので、脚本ってことで観てみたいなと。
安里人:ほうほう、いいね。ちなみに、この監督は日本で映画を作ってビートたけしが出たりしてるよ。監督はウェイン・ワンっていって中国系の人なの。
女子大生:へぇー!そうなんですね、日本とも関わりが……。楽しみです!
今日のおすすめの1本:『SMOKE』
■22歳女子大生のレビュー
冒頭のタバコ屋店主の語りが、この映画をすべて表していたと思う。タバコの煙は量ることができる。吸い殻は同じに見えても実は減っている、たしかに煙にも重さは存在するのだ……と。
『スモーク』に出てくる人物たちは、傍目にはなんら変わらない毎日を過ごしている。おそらく同じブルックリンに生きていても、彼らのことなどほとんど知らないまま一生を終える者が大半だろう。それでも胸が締め付けられる一瞬と、少しだけ幸せになれる出逢いの瞬間が確かにそれぞれの人生に存在する。「時間」「嘘」「煙」、このあたりに注目して観るとおもしろいと思う。
欲をいうと、この映画は二度観ることをおすすめしたい。きっと最初には気づかなかった伏線にあっと息をのみ、胸が痛くなることだろう。もっとも、私と違って鋭い人は一度見ただけで気づけるかもしれない。
手元に持っておいてふとした時に定期的に観たくなる、そんな作品。プレゼントにもぴったりだと思う。
さて、いかがでしたでしょうか? これからは様々なバックグラウンドのゲストターゲットを招いて取材をして行く予定です。 安里人さんに映画を選んで欲しい!という方がもしいらっしゃいましたら、アンテナ(kyoto.antenna@gmail.com)までご連絡ください。 (京都取材にいらしていただける方限定です!) 次回もお楽しみに!
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昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。
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