
映画のすゝめ 第4回
ずっと“映画”というジャンルに苦手意識のあったアンテナ編集部。半年前からコラムを書いてくれている川端安里人さんのおかげで、アンテナにも映画のコラムが充実してきています。そんな中でも安里人さんほどの映画フリークでない人に向けて始まったのがこの連載、“映画のすゝめ”です。
このコラムは毎回異なるターゲットに向けて、映画フリークの安里人さんがその人が今見たい映画を勧めるというものです。映画を探す場所は、京都市内のレンタルビデオ屋さんに限定しています。(これを読んでいただいている方が気軽に見れる映画でないと意味がないので)簡単に概要をまとめると以下の通りになります。
①ターゲットの背景などを読み解き、その人におススメしたい映画を安里人さんが選ぶ
②映画は街にあるレンタルビデオ屋で選ぶ
③最後にゲストが1本映画を選び、感想を書く
人によって見たい映画はさまざま。その人それぞれのバックグラウンドにあぴったりな映画を探すコラムです。このコラムが、多くの人にとって、映画を見るきっかけになれば幸いです。
ターゲットについて
今回のターゲットは……
20代サブカル女:別にサブカルになりたくてなっている訳じゃない!おかげでメインストリームからも俗に言う「サブカル」からも遠ざかろうとして、結果こじれている。
映画遍歴について
・映画を見たい気持ちはあるが、時間が捻出できないのでなかなか見れない。
・好きな映画は『イングロリアス・バスターズ』、『インシディアス』、『ロック・ユー!』。
・最近はマイナー映画を紹介するtwitterアカウントから気になる映画を探ることが多い。
今回選んで欲しい映画
ターゲット:好みが偏っている20代女性
ターゲットの背景
・洋画ホラー映画が特に好き。グロ要素もある程度大丈夫!
・基本レンタルでしか見ない。シネコンよりは単館系の方がまだ足を運ぶことが多い。
・先日「カルト映画 エロ」で気がつけば3時間ネットサーフィンしていた。
ターゲットの要望
ストーリーも大事だけどビジュアル面も映画は重要だと思っている。ビジュアルが刺激的な映画が見たい!
–:さて、どんな映画を安里人さんは選んでくれるのでしょうか。今回は京都地下鉄松ヶ崎駅から徒歩30秒の某有名レンタルビデオ屋さんにやってきました!
安里人:早速ですが、これは知ってます?
①サンタ・サングレ/聖なる血

内容紹介 (Amazon より)
「サンタ・サングレ」は、サーカス団長のオルゴとその妻でブランコの名手コンチャと、息子フェニックスの奇妙な物語である。放蕩者のオルゴは酒びたりで、彼に色目を使う団員“刺青の女”を公然の愛人としてはばからない。一方コンチャは、両腕のない少女像を崇拝する異端の宗派“SANTA SANGRE”の狂信的な司祭でもある。ある日、曲芸中のコンチャがオルゴ達の不倫現場を偶然目にし、憤激した彼女は、オルゴの股間に硫酸を浴びせかけるが、苦痛に呻く夫が手にしたナイフにより両腕を切り落とされ、更にオルゴは、自ら喉を掻き切り自殺する。この惨状を目の当たりにしたフェニックスは、ショックのため精神病院に入院する。何年かが過ぎ、フェニックスは回復できぬまま病院で成人を迎えるが、その彼の前に両腕のないコンチャが突然姿を見せる。フェニックスは、彼女に引き寄せられるように病院を抜け出す。そして、彼女の両腕代わりとなり、父親のかつての愛人である刺青の女を手始めに、出会った女達を次々と殺害していく……。
サブカル女:『サンタ・サングレ』……?いや、知らないです!
安里人:お!じゃあこれ1本目で。これは自分の好きな映画ベスト10に入ってくる映画。ラブロマンスあり、ホラーあり、ラテンイズムありの何でもあり映画。
サブカル女:なんとこのジャケットでラブロマンスとな……!
安里人:いわゆる「カルト監督」って呼ばれている人は沢山いると思うんだけど、この映画の監督、アレハンドロ・ホドロフスキーって人はまさにカルト映画の開祖。ジョン・レノンとかデニス・ホッパーとか、そういうサブカルチャーの先駆者の人たちが当時こぞって熱狂していたのがこの監督。
サブカル女:ひぇ~、レジェンド……。安里人さん的にトップ10に入るぐらい好きな要素って何ですか?
安里人:この1本に何でも詰まっている感っていうのもおいしいし、あとカルト的な面だけじゃなくて意外と普通の映画としてもちゃんとしている。
サブカル女:映像的にもかっこいい系ですか?
安里人:見たことないような映像が沢山入っていると思うよ。ラテン系だから原色強め。
サブカル女:「バンッ!」って直接視覚に訴えてくる感じですね。ジャケット・裏ジャケットからも伝わってきます!それじゃあ、二本目お願いできますか?
安里人:よし、ちなみにデヴィット・リンチ作品は見たことあります?2本目はこれ、『ロスト・ハイウェイ』。
②ロスト・ハイウェイ

内容紹介 (Wikipediaより)
ある朝、ジャズ・ミュージシャンのフレッドがインターホンに出ると、「ディック・ロラントは死んだ」と言って切れた。ある日、フレッドと妻のレニーは、玄関前に包みが置かれているのに気づく。中にはビデオテープが入っており、二人の家の玄関先が映っていた。次の日、2本目のテープが届く。そのテープには二人の家の内部―リビングを抜けて、二人の寝室に移動し、眠る二人が映っていた。ある日パーティーで、フレッドは白塗りの謎の男(ミステリーマン)に会う。 謎の男はフレッドに歩み寄り目を大きく開けて、
「前にお会いしましたね…」「お宅です…あなたの家です…」「ご記憶は?」「今も実際にあなたの家にいますよ…」「私の電話でご自宅に電話をしてみてください…」「早く…」すると、電話からは目の前に立っているはずの男の声が聞こえるのだった。
サブカル女:うーん、正直あんまりないですね。多分『イレイザーヘッド』だけ見たけど「うわー!」ってなった記憶しかないです。
安里人:これもカルト系監督だけど『サンタ・サングレ』が原色系だとするとこれは対照的でノワール系の映画。音楽もナイン・インチ・ネイルズとかデヴィット・ボウイを使っているから絶対かっこいいと思うはず。あとは絵画の引用とかもあって……。
サブカル女:絵画の引用?
安里人:そう、画面の構図がよく見たらエドワード・ホッパーの絵と同じような構図になっていたり。
サブカル女:へー、結構アート要素が強いんですね。そういうオマージュとかが隠れているのすごい好きです。気づけたらすごく楽しいですよね。アガる!

安里人:それじゃあ三本目はこれ。これはね、『イングロリアス・バスターズ』に色濃い影響を与えた作品なのでオススメしておきます。
③追想

内容紹介 (Amazonより)
1944年、第二次大戦下のフランスで外科医として黙々と働く男。戦火の拡大にともない愛する妻と娘を田舎へ疎開させるが、パルチザン狩りのドイツ軍小隊に娘は射殺、妻はレイプされ焼き殺されてしまう。溢れそうになる血の涙と嗚咽をかみ殺しながら、怒れる男は単身で反撃、ドイツ軍を一人づつ処刑していく…。この悲劇の実話を映画化したのは巨匠ロベール・アンリコ。当時低迷気味だったフランス映画界復活作として絶賛され、『冒険者たち』 (67) と並び、アンリコ監督の代表作となった傑作である。出演には当時人気絶頂期を迎えていた女優ロミー・シュナイダー、そしてフランス映画界の誇る名優フィリップ・ノワレ。近年のタランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』 (09) の元ネタでもある。
サブカル女:『追想』。へー、戦争ものですか?フランス映画かぁ。
安里人:うん。でもただの戦争ものではないかな。ビジュアル的にも結構面白い部分があると思います。
サブカル女:『イングロリアス・バスターズ』超好きなんですけど、どの辺に影響が見れるんですか?
安里人:それはもう、見てもらったら ( 笑 )
サブカル女:えーーーー!!!!教えて!!見たら「これだ!」ってちゃんと分かりますか?
安里人:勘のいい人だったら分かると思う。もうね、超バイオレンスだから。
サブカル女:なんかジャケットからはあんまりバイオレンス要素が想像できないですね。戦争、家族愛、みたいな印象。ストーリーのメインテーマは何になるんですか?
安里人:何かなぁ。やっぱ「暴力」かな。暴力がどういう影響を与えるのか、とか。
サブカル女:でも別に社会派ドラマって訳でもないんですよね。
安里人:うん、ちがうちがう。ビジュアル面でも暴力的な描写は多いかな。そしてこれはね、すごいラストが待っている。
サブカル女:すごいラスト……?ああ、もう!何も教えてもらえなくてもどかしすぎる!
安里人:うーん、あとなぁ。今二本で迷ってて。香港映画かちょっと変な映画かどっちがいい? ( 笑 )
サブカル女:最近台湾映画の『あの頃、君を追いかけた』と『花蓮の夏』を見て、アジア系映画が思いの外好きだなと思っていたので香港映画すごく気になる……!しかし「ちょっと変な」のベクトルも気になるなあ……!折角なので両方お願いします。
安里人:じゃあ変な方から。これです。『ブロンソン』。
④ブロンソン

内容紹介 (Amazonより)
最高に最低な生きざま。1974年、19歳のマイケル・ピーターソンは有名になりたかった。
お手製の散弾銃を作り、郵便局を襲った彼はあっさり捕まり、7年間の刑務所暮らしを宣告される…。マイケルは自分を俳優の【チャールズ・ブロンソン】の分身であると主張、そのキャラクターを通し、その後、34年間に渡り刑務所生活をおくることとなった「イギリスで最も有名な犯罪者」を描くバイオレンスアクション!
サブカル女: お、おっさんだ……!!
安里人:個人的に日本での知名度が低すぎるのが残念な作品。北欧の監督なんだけど、間違いなく今世界で一番尖っている監督がこのニコラス・ウィンディング・レフン監督。シンメトリーの構図を取り入れたり音楽もキレッキレのテクノ音楽とかを使ってて、現代の『時計仕掛けのオレンジ』って言われたりもしてる。
サブカル女:しかしジャケットがゴリッゴリで北欧感ゼロすぎやしませんか……!
安里人:そして大ヒットした『マッド・マックス怒りのデスロード』で主演をやってるトム・ハーディが海外でブレイクするきっかけになったのがこの映画。この映画以降、マックス役とベイン役(『ダークナイト ライジング』の最凶の悪役)を射止めることになる。
サブカル女:へー、じゃあこの映画って海外だと結構ヒットしたんですね。
安里人:そうそう。「なんで日本で公開しないんだ!」ってずっと言われてたんだよね。だからもっと日本でも有名になってほしい監督。
サブカル女:「超絶バイオレンスアクション!」って書いてありますけど、超絶……。
安里人:バイオレンスだけどアクションではないよね。アクション要素を期待するとちょっと違う気がするけど、ビジュアル的にかっこいいのが見たい!っていうのであれば絶対見て損はないよ。ただジャケットは完全に騙しにかかってきてる。
サブカル女:え、どういうことですか?!ジャケット見る限りこいつが超ワルで刑務所でどうせ人殴りまくって脱獄するんでしょ?!
安里人:全然そんな映画じゃないから ( 笑 )
サブカル女:まじか……。
安里人:刑務所が舞台で暴力的なおっさんが主人公、それでこんな芸術的な画面が撮れるっていうのが衝撃なんだよね。それにしても今日のラインナップ、完全に男の子向けだなぁ。
サブカル女:いいですね。ちなみにどれが一番男くさいですか?
安里人:あー、それはもうこれだね。5本目の香港のやつ。
サブカル女:おっ! (裏ジャケ見て) おお~~~マフィアだぁぁあ!!!!
安里人:タランティーノ含めて、男の子みんなが好きな映画。
⑤エグザイル/絆

内容紹介 (Wikipediaより)
1999年、中国返還前のマカオ。フェイの暗殺に失敗したウーは妻のジン、生まれたばかりの子供と静かに暮らしていた。ある日、彼の家に4人の男が現れる。ウーの命を狙うブレイズとファット、守ろうとするタイとキャット。ウーの帰宅と共に銃撃戦が始まるが、子供が泣いたために銃を下す。かつて仲間だった5人は1つの食卓を囲んだ。ウーは最後の願いとして妻子に財産を残すことを望む。斡旋屋の紹介によりキョンの殺害を試みる5人だったが、そこにフェイが現れたために思わぬ方向へ進んでいく。
サブカル女:男の世界ッ……!くぅ、いいなぁッ……!
安里人:もうね、ブロマンス (男の友情) しかない映画。だからタランティーノを始め世界中の映画男子はこの映画のことが大っ好き。
サブカル女:香港映画って実際どうなんですか?アジア系の映画とかドラマってどことなくビジュアルが古臭いイメージを持ってしまっているんですけど。
安里人:それはもうピンキリなんだけど。監督にもよるけど、スポットの当て方とか照明の使い方が日本とは全然違うっていう特徴があって、絵作りの面では面白いかな。風景とかも香港って熱帯寄りで独特な雰囲気があるから日本とは違うし。そういうところがツボに入る人にとっては「たまらん!」っていうポイントになってると思う。
サブカル女:なんとなくわかる気がする、九龍城とか……!安里人さんがグッとくるこの映画のポイントを教えてください!
安里人:もうね、おっさんたちが仲良くイチャイチャしながら撃ち合うっていう ( 笑 ) 。超かっこいい空間で超かっこいいおっさんたちが超かっこいいことをしているのにグッとくるかこないかだけの話。
サブカル女:北野映画と似たような雰囲気はあるんですか?
安里人:フランスの方では「香港のジョニー・トー、日本のキタノ」みたいな並べ方はされてるみたい。でもこの映画は北野映画っぽくはないかな。

サブカル女:ほんとに超超超迷ったんですけど、ジャケットのイメージに裏切られたい!この中から1本選ぶなら『ブロンソン』にします!
サブカル女のレビュー

本編が始まってすぐから「は~!そういう映画か!」と思わされる演出には脱帽。思いっきりジャケットに先入観を持ってもらって、早々に裏切られる爽快感がこの映画最初のおいしいところかもしれない。
暴力描写は多いんだけど明らかにコミカルに描かれているので、思わず拳が繰り出されるたびに「ふふっ」となってしまうし、殴りそうで殴らない場面にもやっぱり「ふふっ」となってしまう。一触即発の緊張感が溢れるたびに「くるか?!くるのか?!」なんて乱闘シーンを期待してちょっとワクワクしてしまう感じ。主人公が完全にヤバい奴なんだけどいちいちお茶目というか、そのダーティなキュートさがとても魅力的で新しいアンチヒーロー像を私の中に確立してくれました。実在している囚人 (現在も収容中) がモデルとなっているのだが、元々のキャラクターとトム・ハーディの怪演が最強にマッチしていて、「狂気と愛らしさの共存」という奇跡としか言いようのない結果に仕上がっています。男の子はもしかしたらこの「愛らしさ」を「かっこよさ」と取るのかもしれないな、と思いました。
シンメトリーの構図や独特のカットも始終続くわけではなく、あるシーンに切りかわるときや、ある程度狙っている場面でだけ使われるのでそれが逆にはっとさせられる。やはり『時計仕掛けのオレンジ』を知っていると二割増しぐらいで楽しめる作品であると思うので、機会があれば踏まえて見てもらうことをオススメしたい。

さて、いかがでしたでしょうか? これからは様々なバックグラウンドのゲストターゲットを招いて取材をして行く予定です。 安里人さんに映画を選んで欲しい!という方がもしいらっしゃいましたら、アンテナ(kyoto.antenna@gmail.com) までご連絡ください。 (京都取材にいらしていただける方限定です!) 次回もお楽しみに!
WRITER

- フォトグラファー
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昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。
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