INTERVIEW

「人が動くアプリ」OTONOTO ーーわたしたちと音楽の新たな関わりかたを提示してくれたOTONOTOとは

MUSIC 2015.01.07 Written By 岡安 いつ美

あなたはどのようにしてライブの情報を手に入れていますか?
好きなアーティストのホームページ?たまたま手にしたフライヤー?それとも友達の誘い?
…こう考えていくと音楽業界ってとてもアナログなツールが今でも活躍している場なのだなと思います。

そんな中、彗星のごとく出現したライブナビゲーションアプリ・『OTONOTO(オトノト)』。
岡山発信のこのアプリ、今では関西から西日本全域にまで守備範囲を広げ“現場主義”の音楽フリークたちの中ではすでになくてはならない存在にまで成長を遂げています。

そんな私たちの味方、『OTONOTO』って一体何者?誰が、なんでこんなことを始めたの?
考え出したらキリがない、『OTONOTO』の裏側に迫ります。

今回は『OTONOTO』代表である金本聖也さんにお話を伺いました。

──

まずOTONOTOとは、一体どんなものなのでしょうか?

金本

「あなたの街の音楽をてのひらに」をコンセプトに、音楽(ライブ)イベント情報をまとめたスマートフォンアプリです。

最初に自分の住んでいる県を選ぶだけで、あなたの街のライブ情報がズラーッと並び、いつ、どこで、だれのイベントがあるのかが分かります。さらにアーティスト名をタップするだけで動画もズラリと並ぶので、MVチェック等も簡単にできますよ。

──

いつからスタートされたのですか?

金本

2013年から岡山県のみでiPhoneアプリをリリースしました。
Android 対応や、エリア拡大をし、現在では西日本全域 (沖縄以外)に対応。OTONOTO主催のイベントや、ライブ会場との共催イベントなども展開中で、今後もエリア拡大を予定してます!

──

ライブハウスにおいてあるフライヤーでOTONOTOの存在を知ったのですが、とても衝撃的でした。こういったものってライブハウスの集中している東名阪などの首都圏で始まるイメージがあるのですが、西日本カバーから始められたのはなぜでしょうか?

金本

ノマドワーカーがいるように、ITの仕事はネットがあればどこでも出来るじゃないですか。
東京は人も仕事も集まってやりやすいのは分かるんですが、住みたい場所とか、地方でこの仕事ができないと嘘だなと思ったんです。なので自分の第2の故郷である岡山で始めました。

近県までライブは見に行く人が多いので、足を運べる範囲を意識し「隣の県、隣の県」と進めていったら自然と今の西日本カバーという形になりました。

──

OTONOTOが出てきた時はまさに「こんなの欲しかったー!!」というニーズをどんぴしゃで押さえているあたり、してやられた感もものすごくありました。
そもそもOTONOTOを始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

金本

最初の最初は、諸々の事情で前職を辞めることになったのがきっかけではあるんですが…せっかくだから次の仕事は自分でやってみようと思ったのが始まりです。

 

OTONOTOは「生の音楽を生活の一部として楽しむ環境、いい音楽を続けやすい環境を作りたい」という想いと、「人が動くアプリを作りたい」という想いで始めました。

──

『人が動くアプリ』とは?

金本

作り始める2012年頃はスマートフォンによって人の生活が大きく変化してきていた時期。
便利な反面、いつでもどこでも皆がスマートフォンにかじりついていて、友達が横にいてもスマホを触ったりするのを見ると「寂しいな」と感じてました。…なので、スマホあんまり好きじゃなかったんです。長い間ガラケーを使ってました。

金本

それは驚きです。アプリ作っている人って、携帯好きな人なのだと思い込んでいました(笑)

金本

そんな状況とは逆に、スマホのグルメアプリを使い、地図アプリを使って目的地まで移動し、ご飯を食べたなんていう話をよく聞いていました。「アプリで人の足が動くのはすごいな」と思ったのです。

インターネットとかアプリとか、ふわふわしたもので人の足が動いて、人が出会えるのはいいなと。なので、実際に『人が動くアプリ』を作りたいと思ったんです。

私自身、音楽活動をずっとしていて「こんなものがあったらな」という想いは常々ありました。まず人が動くには情報が必要だろうということで、まず情報整備のためにもこのアプリ「OTONOTO」を作るに至りました。

──

ご自身が音楽活動をしていて見えてきた部分なのですね。
悪い意味ではないのですが、自分で音楽をやっている人が、他のアーティストの宣伝を行う仕事を始めるってなかなかないことだと思います。それはやはり、現場であるライブハウスやインディーのアーティストの界隈がもっと盛り上がってほしいという思いからでしょうか?

金本

そうですね。ライブハウスやインディーのアーティスト界隈が盛り上がってほしいという気持ちもありますし、いいアーティストが自分の街に来たときにはやっぱりたくさんのお客さんに来てほしいじゃないですか。そうしたらアーティスト側も音楽を続けやすいし、また来てくれる。アーティストの宣伝という気持ちよりは、環境作り的な気持ちのほうが強いですね。

私自身も音楽活動を続けたいなと考えているので、自分のためでもあります(笑)

──

話は少し変わりまして…OTONOTOの裏側がとても気になっているのですが、どのように運営されているのですか?

金本

各会場のHPからスケジュール情報を取得して入力しています。金銭が絡むので誤った情報を掲載しないためにも、短いスパンで更新しています。システムを組んではいますが、スケジュールのデータの記述はマチマチなので、人の目でも確認して情報入力しています。数百の会場のスケジュールを更新するのは大変な作業量です…

──

ぶっちゃけた話、何人で行ってるか教えてもらうことはできますか…?

金本

社員は4人で、あとはバイトですね。
エンジニアは私を含めた2人ですが、人数が少ないのでみんなマルチに頑張ってます。

──

OTONOTOだけで食べていけているのですね…!すごいです。『合同会社OTONOTO』として活動されていますが、なぜ起業の道を選ばれたのでしょうか?スタート時の収入をどう得ていたのかがとても気になります。

金本

実際OTONOTOのサービス自体はあまり利益を出すものではありません(笑)
なので音楽関係やイベントなどのWEB・アプリ制作などの仕事も並行して進めながら、サービスの拡大と浸透を図っています。

スタート時は前職で貯めていた資金を使いました。
起業を選んだ理由は、自分のやりたいことをやってみたかったからです。
他の会社に入ってやっても良かったと思うのですが、いきなりやりたいことをやらせてもらえる所はなかなか無いだろうと…。それにもう2~3年たったら絶対に自分の考えたアプリは出てくるとも思っていました。もし失敗しても、学んだ経験と技術は残るし、失うものはお金だけなら起業だなと(笑)

▲金本さんのバンド・6birds barked in the park。
キーボードのよこかわひろみさんはOTONOTOでデザインの担当をされているそうです。

──

OTONOTOが行っている様々なアプローチについて(webラジオ、イベント開催等)、アプリ発信で現場(ライブハウス)でも精力的な活動を行うのはなぜなのでしょうか?

金本

「生の音楽を生活の一部として楽しむ環境、いい音楽を続けやすい環境を作りたい」という想いがあるからです。

ライブに来るお客さんはアーティストのファン、またはアーティストの知り合いがお客さんで、一見さんはほぼ0。ライブにフラッと行ってみようという習慣がないからです。

集客・プロモーションもアーティスト活動の重要な要因として取り上げられますが、僕はそうは思わないんです。いい音楽作る人が、集客が得意じゃなかったとしても、自然とフラッとお客さんが来て音楽をやれる環境があったらいいなと。

──

海外はそう言った土壌がある国もありますが、日本はまだまだですもんね。音楽が日常にない人や音楽と関わる環境が全くないというか…。

金本

そうですよね。まずは、フラッと足を運んでもらうきっかけづくりとして「楽しそう、行ってみたい!」って思えるコンテンツが必要だと思っています。なのでアプリラジオやイベントで楽しみを出せるようにチャレンジしています。

アプリ内の、『注目度』『オススメ』『キニナル』もその中の一つですが、ユーザーがオススメやお気に入りを押すことによって、今どんなイベントが人気なのかランキングで見れるようにしています。ちょっとでもライブに興味をもって貰えたら嬉しいですね。

──

知らないバンドのライブに行くきっかけってなかなかないですよね。ライブハウスに通う習慣のない人は特にそうだと思います。

金本

アプリラジオは現在はアプリリニューアルに向けてお休み中ですが、もっと訴求力のあるコンテンツはないか模索中です。12月には「ライブハウススタッフのオススメアーティスト ◯選」なコンテンツも開始しました。

──

それは面白そう!定期的にチェックしたくなるコンテンツが充実していて確実にユーザーの心を掴んでいるなあ、という印象を受けます。
実際OTONOTOを始めてのユーザーの方からの反響はどんなものがありましたか?

金本

とてもいい反響を頂いていています。嬉しいことに一部のライブキッズの方には「これがもう手放せない」と言ってもらえたりして恐縮です。「OTONOTO見なかったら行ってなかった」ってツイートとかを見たりすると本当に嬉しいですね。

一番よく言って頂くのは「便利」です。でも「便利」って言われなくなるように頑張りたいですね。
便利なのは前提なので、どんどん他の面白いものを前に出していって、「便利」なことはどんどん隠していきたいですね。

──

金本さんがOTONOTOをやっていて、面白いことをやっているなと思うライブハウスはありますか?

金本

やはりライブハウスそれぞれが独自に面白いことをされているので、どこも面白いと思うのですが… 京都GROWLYビル丸ごと面白そうですね。「音楽+◯◯」な複合的な動きがある所に今は興味があります。

GROWLY(ライブハウス)、公◯食堂(カフェ・イベントスペース)、antonio(スタジオ)、ビル丸ごとで音楽に関わる面白いことを全部やってやろうという感じがあってとても面白そうです。

先日増税したときに、「公◯食堂のただでさえ安いビールを値下げしました」という心粋にも惚れました(笑)

──

あれはものすごく反響あったみたいです(笑)

金本

地元の岡山では、同じようにサウダーヂハウス(城下ビル)というビルがあって。
城下公会堂(カフェ・ライブスペース)、サウダーヂな夜(同じく)、Lyoba(古本&カフェ)、デザイン・アーティストレーベル・イベント製作会社があります。
実はOTONOTOもそこを事務所としてもよく使わせてもらっていて、ちょっとしたコワーキングスペースみたいになってるんですが、「音楽+◯◯」を他業種含めたチームで楽しみながら進めていくということに面白みを感じています。

──

岡山にもそんな面白そうなビルが存在するのですね…!とても気になります。お店同士で交流があるのですか?

金本

もちろんあります。
1Fの城下公会堂でライブが終わったら、2Fで打ち上げへ。そのライブのPAは5FのPAエンジニア、などは日々の風景で。今年、大友良英さんが出演した岡山の廃校を使ったフェス「マチノブンカサイ」のイベント・WEB制作や屋台出店はこのビルのみんながフル稼働でしたね。ワクワクできる場所です。

──

OTONOTOをやっていて今まで気になったイベントはありますか?

金本

情報更新をしてて気になるイベントは毎月たくさん出てきます。
“バンドマン大喜利大会”とか、“書き初め大会”とか、“ゴザライブ(ゴザを敷いて座って見る)”とか気になりましたが…

“ラブソング大会”これは気になって、実際に見に行きました。

担当パート関係なく、1人づつステージに上がってこの日のために作ってきたラブソングを1曲づつ歌うというイベント。普段は全く歌わない人がギターを持って歌ったり、ドラムの叩き語りだったり、それぞれがそれぞれの形でラブソングを歌うというイベントです。約40人が出演し最後に投票が行われてましたが、皆が子供や家族や彼女へのラブソングを歌った中、「自分が好き」という自分へのラブソングが優勝してましたね。

──

音楽にとても密接な媒体として、最近の音楽業界の流れはどう思いますか?

金本

難しいことはよくわからないということは、前置きさせて頂きます(笑)

今は本当に音楽を好きな人が音楽を楽しむようになったように感じます。昔はTVが主な娯楽と情報源で、情報が限定されてトップダウン的に・受動的に入ってきていた時だと思うんです。なので、そこでプッシュされた音楽がミリオンセラーにまで届く。

今は情報や娯楽が増えて、それぞれの人がやりたいことや趣味をボトムアップ的に・能動的に選ぶようになったと思うんです。音楽じゃなくても楽しめることが沢山ありますし。なので毎年音楽業界の売上がダウンするのも当たり前の流れだなと思います。

 

でもその分、今は本当に音楽を好きな人が音楽を楽しむ環境なんだろうなと感じてます。
スクラップ&ビルドしたら良いものが出来るってよくいいますので、異常な音楽バブルが終わった今、この環境でコミュニティとかノウハウとか、何かをつくり上げることができれば、流行り廃りに関係なく長く続く良いものができるんじゃないかと思っています。

──

今後の事業展開について教えてください。

金本

まずは、OTONOTOを日本全国に向けて進める予定です。
それと同時にいくつか楽しみのあるコンテンツやサービスも開始したいと思っています。

どれだけネットやWEBやSNSで全国・世界と繋がったとしても、実際に足が動くのは自分の住む地域だということは変わらないので、音楽の分野で人の足が動くこと、直接人が会うことに拘ってみたいと考えてます。

──

今後の発展も楽しみにしています!ありがとうございました!

OTONOTO
http://otonoto.com

 

インターネットは世界中に広がっていて、誰とでもスグ繋がれる社会。
音楽はインターネットの中じゃなく、生であってほしい。
音楽を好きな人達がもっとつながってほしい。
いい音楽をもっと続けやすい街にしたい。
そんな想いからOTONOTO(オトノト)は始まりました。
これからもっとたくさんの「あなたの街」の音楽と人をつなげていきます。どうぞお楽しみに。

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