Indie Label Showcase vol.1レポート – レーベルを立ち上げる –
アンテナと五条にあるコワーキングスペース・MTRL KYOTOの共同企画『Indie Label Showcase』がスタートしました。音楽が売れない時代と言われて久しい昨今、音楽業界ではインディーレーベルがいきいきと活動できているようにも見えます。そんなインディーレーベルが培ってきた知識や経験を広く共有することで、裾野を広げ、音楽業界をより活発なものにしていきたいという想いを込めて、このイベントをスタートしました。改めてみんなで「インディー(INDEPENDENT)」であるということを考えていきたいと思います。
記念すべき第一回となる今回のテーマは「レーベルの立ち上げ・運営・仕事について」。
第一部では海外でレーベルを運営しているお三方とスカイプでトークセッションを行い、リリースするもののフォーマットへのこだわりや、それに対する想いを伺いました。また第二部では京都のインディーレーベル、bud musicから番下慎一郎さん、Second Royalから小山内信介さんをお招きし、インディーレーベルの実情を深く掘り下げました。このレポートでは本イベント第二部の模様を詳細にお届けいたします。「好き」を突き詰めて仕事をする、ということについて考えさせられるトークとなりました。音楽で仕事をしたいと考えている人必見です。
「明日からレーベルやります!」で、レーベルは作れる
それぞれなぜレーベルを始められたのでしょうか?
僕は元々某レコードショップのスタッフで、テクノやハウスのバイヤーをしていました。そこで出会って、現在もbud musicに所属しているNabowaというアーティストのCDを出すのがきっかけに、レーベルを立ち上げたのでが始まりです。
僕は大学生の時に西院のTSUTAYAという、セルのCDに力を入れている直営店で、学生アルバイトながらもバイヤーをしていました。そこは学生バイトにCDを100枚単位で卸させる、なかなか狂った店舗で(笑)。並行してART ROCK No.1という中古レコード屋と、京都のインディーズレーベルでバイトをしていました。バイトのかたわら、京都METROで『Second Royal』というレギュラーパーティのDJをしていて、そのイベントに集まった仲間のCDをリリースするためにレーベルを作ったのが、レーベルを始めたきっかけです。
小山内さんは学生の頃からレーベルをやりたいと考えられていたのですか?
当時、パーティを主催して、ZINEを作って、周りのアーティストたちのCDをリリースする、という先輩がたくさんいて。そういう人たちを間近で見ていて、好きな音楽を形にする仕事って素敵だなと思っていました。
レーベルを始めるプロセスを教えてください。
僕はレコードショップで働いていた経験から、レコードやCDができるまでの流れはわかっていたので、迷うことはあまりありませんでした。やればやるほど分かるようになってくるんで、自分が好きな方向に向かっていった結果が、いまのbud musicってかんじですかね。レーベルのあり方に正解も不正解もないし、人によって適正とかがあるわけではないと僕は思います。レーベルって、「明日からレーベルやります!」て言ったらレーベルなんです。会社じゃなくても、個人でもレーベルはレーベルなので。
CDを作りたいってなったら、あとは業者に自分でコンタクトするだけです、個人を受け付けないという会社なんか無いので。最初は片っ端から見積書をもらって試行錯誤していました。レーベルを作った8年前から付き合っている業者とかは、相性のよい業者と言えますね。それはずっと探し続けているかも。
具体的に相性がいい業者ってどんな業者でしょう?
困った時に相談に乗ってくれる業者、融通のきく業者……そのへんはさまざまですが、自分のやりたいことに対して、きちんとアンサーをくれる業者は頼りにしています。そういったことは先にレーベルを立ち上げていた小山内君に聞いたりとかもしていました。
ちなみにオススメの業者なんてありますか?
僕は昔から大阪鶴橋のトラップ(株式会社オリジン)というところを使っています。近かったんで、昔は直接足を運んで頼んだりもしていました。そこより安いところもたくさんあるんですが、ずっと作品を一緒に作り続けている担当者さんがいるのもあり、今でもトラップにお世話になっています。他にはスペース・シャワーから流通をかけてもらっているので、その関係の国内のプレス業者も使っています。
やはり国内の方がおすすめですか?
海外プレスは安いけれど、在庫を持つことがネックになってきます。スペース・シャワーさん経由で国内プレスを行なって、そのまま流通を委託すると工場で在庫を管理してもらえるんですが、その分コストがかかってきます。
場所代が乗っているってイメージですね。番下さんは国内・国外でこだわりはありますか?
価格が違うので、ケースバイケースで使い分けますね。海外だから悪いってわけでもないし、国内だからよい、というわけでもないと思っています。その都度、あった形を選んでいます。
音楽は安定した売り上げがたちにくいから、どうすればうまくいくか考えた
レーベル業務の内容を具体的に教えてもらってもいいでしょうか?
レーベルによって仕事の内容が違うんですけど、レーベルと事務所が一緒だと思っている人も多いと思うんです。いわゆるCDをリリースしているのがレーベルで、アーティストのマネージメントやプロデュースをしているのが事務所ですね。レーベルはメジャーだけど、事務所はインディーというアーティストもたくさんいます。
bud musicでは具体的にどのような業務をカバーされているんですか?
弊社はレーベル業務と事務所業務を両方しているアーティストが多いです。CDをリリースしたり、ツアーを組んだりするのが主な仕事です。
CDが売れないと言われている昨今ですが、一番現場に近い立場としてどのように感じられいますか?
僕がレーベルを始めた時って、ちょうどCDが売れなくなってきた時期なんですね。だから、CDが売れる時代を知らないので、あんまり実感はないですね。年々売れにくくなってきているのは事実かと思います。
お金の周りやスタッフ数など、ちょっと踏み込んだ実情を教えてもらいたいのですがよいでしょうか?
Second Royalは最近レーベルの運営に携わってくれるスタッフが1人入ってくれました。
レーベルは、僕ともう1人ですね。音楽以外に飲食事業も展開しているので、会社全体の従業員は15人くらいです。その中で事務の仕事などは兼任してもらっています。
bud musicは音楽レーベルでありながら、飲食店なども経営されていますよね。それはなぜなのでしょうか?
音楽はなかなか安定した売り上げがたちにくいんです。CDを作っている間はお金を使うだけで、ライブも公演が終わるまでは売り上げがない状態で、日々の売り上げがない、現金がない状態なんですよ。莫大な資本があるわけでもなかったので、日々売り上げがたつにはどうすればよいかを考えました。CDを作るにも、それなりのお金がかかるので、音楽以外の売り上げに助けられることもあります。
システムとしてはうまく回ってきていますか?
飲食を始めた頃は、飲食のノウハウがなかったので効率的に回すことができずに、逆に音楽に助けられていました。もちろん8年やってきて今は飲食に助けられたりしてますけど。CDのリリースは投資だと思っているのですが、おかげさまでお金がないからリリースがができないということはないです。
どんなバンドでも、好きになったら面倒を見ずにはいられない
アーティストはどうやって探しているんでしょうか?
昔は友達や知り合いの音楽をリリースをしていたのですが、少し前はmyspaceで探したりもしていました。2009年にリリースしたnew houseというバンドは、面識もなかったのですがmy space経由でコンタクトを取ってリリースが決まったバンドです。最近ではSoundCloudやTwitter経由からバンドを知ることが多いです。そこで得た情報からライブを見に行って、気に入ればその場で声をかけます。それで見つけたのがHomecomingsだったりします。
小山内さんが良いと思うバンドの基準ってなんなのでしょう?
感覚でしかないかもしれません。売れるなぁって感じよりも、自分が良いと思えるかどうか、好きになれるかどうかが大事です。
全力でサポートしたい、と思わされるかどうか、っていうところですかね。
そんな感覚もあります。パッと見たり聞いたりして「これは絶対に売れないけど……(自分が)好きやなあ……」と思うアーティストはやります。そういうアーティストにほど、活動しやすい環境は提供したいんです。良い音楽が埋もれている状況は作りたくなくて。
先程から小山内さんのアーティストへの愛がすごいですね。所属しているアーティストが聞いたら、とても喜びそうです。番下さんはいかがでしょうか?
僕も売れるか売れないかの判断よりも自分が好きかどうかを大事にしています。一緒にやるかどうかの最終的なところは相性もあるので、ある程度コミュニケーション取った上で判断しています。音楽だけでは判断しないかもしれない。結局人とやることなので僕とやって上手くいくアーティストもいれば、そうじゃないアーティストもいるので。インディーなので、人間的にやれば良いと思っています。
音楽をやるのに、不利な時代ではない
昨今、音楽のストリーミング配信が主流になりつつある中、あえてレコードやCDを出す意義を教えていただけますか?
単純にアナログというフォーマットが好きなんだと思います。Second RoyalのカタログもCDよりアナログのリリースの方が多いくらいで。レーベルとしてレコードやCDを出す意義は、運営上必要だからです。売れたら次を作れるって商業的な部分もあるし、アーティストが活動していく上も必要であると思っています。
作り手側の思いとして、僕はものづくりをしているという実感を持つためにCDを作り続けています。音楽の楽しみ方は十人十色でなので、CDでもレコードでも、それこそストリーミングでも、フォーマットはなんでも良いと思っていますが、音楽好きを減らさないようにするのが僕らの仕事なので、時代に柔軟に対応することが大事だとは思っています。だからフォーマットにこだわらずに、良い音楽を提供できればそれで良いはずです。
CDが売れなくなったから音楽業界が不況だと言われてるけど、反対にライブの動員は増えているじゃないですか。一つの視点だけで見るのではなくて、全体を見渡したら、そんなに音楽をやるのに、不利な時代ではないと僕は思います。
番下さん、小山内さんありがとうございました!
よい音楽を世に広げ、人に伝える仕事がレーベルの仕事。そんなレーベルを運営する人たちは、一般の音楽リスナーよりも深い愛情を持ってアーティストに向き合っていることがよくわかるお話を聞くことができました。音楽を仕事にするひとつの形として、深くアーティストに関わりたい人には、レーベル業がおすすめかもしれません。
Indie Label Showcaseは第二回開催に向けて動き出しております。次はどんなレーベルの方にお会いできるのか、今から楽しみです。今回参加できなかった方はぜひ次回の参加をお待ちしております!
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昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。
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