若き奇才たちがつくりあげる“ポップ・ミュージック”の最新形ーーHitotonari『Rinkaku』リリースインタビュー
アンテナ内の連載『今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト』にて、京都GROWLY・安齋店長やSIRMO STADなども彼らを絶賛していたことから、早く見たいと思っていたバンド、それがHitotonariだ。若き奇才たちを実際に見たのは、昨年の京都GROWLYだった。透明なギターを抱え儚げなメロディを歌うヴォーカルと、骨太なグルーヴをうねらせるベース、複雑なリズムを刻むドラムが一直線に並んで淡々と、でも根っこには熱量を感じられるパフォーマンスを見せてくれた。
京都のライブハウスシーンは常に循環を続けているから、たまにこんな職人気質のバンドが紛れ込んでは来るけれども、それにしてもその感性と才能に、久しぶりに驚かされたことをよく覚えている。
2013年結成、活動6年目を迎えている彼らが7月13日(土)に1st Album『Rinkaku』をリリースし、それを記念したワンマンライブを京都GROWLYにて開催する。リリースを機に彼らの今までと、新譜について聞いてきた。
まず結成の経緯について教えていただけますか。
Hitotonariは2013年10月に今の3人と辞めたメンバーの4人で結成しました。僕と元メンバーのノムラが高校の同級生で。大学に入ってから「なんか面白いことしたいな」という話から、バンドを始めたんです。でもノムラは、東京に住んでいたんですよ。
3人京都で、1人東京。いきなり遠距離だったわけですね。
平塚は僕の後輩で、Radioheadのコピバンから付き合いが始まったんです。“Little by Little”をツインドラムでやりたくて、元々やってたバンドにもう1人誘ったドラムが平塚でした。
高校まではクラシックばっかり聴いていて。大学に入ってからロックやポップスをコピバンを通して聴いていきました。だからRadioheadもよくわからないままに叩いてましたね。
僕とノムラ、平塚、そして大学で同期だった家田を誘って4人でバンドは始めたんですけど、ノムラが一年くらいで都合がつかないことが多くなり、フェードアウトして、今の3人になりました。
それで、今もメンバーは関東と関西で別れていると。
それが実は引っ越して今僕は浜松に住んでいまして。
わ、そうなんですね!では、今はメンバーがそれぞれ横浜、浜松、京都にいると。曲作りはどうやっているのでしょうか?
曲はひたすら城垣が作って、それを不定期で投げてくるというのを結成当初から繰り返しています。
作った曲はデモ音源として、ほぼほぼSoundCloudで聴くことが出来ます。デモを聴いてもらって、各々が練習して、ライブ前にスタジオに入って合わせるというやりかたです。基本集まって練習するのはライブの当日だけで。
音源にアレンジを加えたりとかはしないのでしょうか?
とにかくデモの完成度が高いんですよ。だからこそ、そこに上乗せして難しく叩くようにしています。基本ライブはアドリブで叩いているので、かなり自由にやってますね。
僕はデモを聴きながらイメージを固めます。自分で「こんなフレーズ入れたいな」と思ったものは練習して持っていきますが、あくまでデモのイメージを崩さないことを重視しています。
結成して6年。SoundCloudには30曲ほど音源が上がっていて、曲のストックがすごく多いイメージがあります。そしてこれまで細かくシングルの配信もされていて。今、このタイミングでアルバムを作ろうというモチベーションになったきっかけはなんでしょうか?
アルバム自体は2017年から意識していました。レコーディングも2014年くらいから毎年していて、録音するたびに「アルバムを作ろう」という話は出るんですが、形にならなくて。ようやく出来上がりました。
毎年夏に7〜8曲くらいレコーディングはしているんです。ほとんどがボツになってるのでリリースに至らなかった。
これまでは録ってはボツにしてきたとのことですが、今回は納得できる録音ができたからアルバムに至ったのでしょうか?
そうですね。今回も納得いく録音ができてなかったら、数曲だけの配信で終わっていたかと思います。ただ、長く自分たちも録音を続けてきましたが、確実にクオリティも上がっていて、ボツになる曲も減っていきました。
レコーディングも自分たちで全てされている理由はなんでしょうか?
2014年の4人だった頃にいわゆる商業スタジオで録音をしたことがあって。でも出来上がったものが自分たちのイメージとはかけ離れたものだったんです。
(全員頷く)
クオリティを追求するための時間もお金も、当時学生だった自分たちには足りなくて、妥協せざるを得なかったんです。納得のいくものができなかった。それなら、自分たちで納得いくものを、納得いくまで録ってみようということで次の録音から自分たちでやることにしたんです。
もちろんその時初めて録音したものを今聴くとひどいですけど、自分たちでレコーディングをやりきることに意味は見出せました。だからそれ以降の録音は試行錯誤しながら、自分たちで続けています。
2015年に“Odoriko”と“Mayonaka”の2曲を録音したんですが、それは神戸アートビレッジセンターにあるスタジオでドラムだけ録って。他は各自が自宅で録ったものを城垣がミキシング、マスタリングしてまとめています。その後、5曲入りの1st EP『Sukima』を2017年1月から1年間限定でApple MusicとSpotifyで配信リリースしました。その後も続けて2017年12月に“Karappo”、2018年11月に“Rūju”、2019年5月に“Kumpū”と配信していきました。
アルバムを意識しながら、納得いったものから配信で刻みながらリリースをしてきたと。SoundCloudを見る限り曲ができた時期もバラバラですが、アルバムの全体像はありましたか?
常に曲は一曲ずつ作っているので、アルバム全体を見据えての作曲はしていないです。このアルバムを作るにあたっては、曲のサウンド面や、曲順で物語性や一貫性を考えた上で1曲目“Yosame”と9曲目“Bansyō”だけはこのアルバムのために作りました。
このアルバムの一貫性とは、どんなものでしょうか。
例えばサウンド面では、全曲を通してドラムの音を生っぽく仕上げています。ドラムの音で参考にしたのはGOGO PENGUIN、リチャード・スペイヴン、クリス・デイヴ、ケンドリック・スコット、ブラット・メルドーとマーク・ジュリアナがやっているMEHLIANAといったジャズミュージ
平塚さんも、そういったドラマーを参照されていたりするのでしょうか?
実はほとんど聴いていないんですよね。自分はリチャード・スペイヴンやマーク・ジュリアナ、ジョジョ・メイヤーあたりはすごく好きだし、影響を受けている部分はあります。エレクトロを人力でやるドラマーが好きですね。Hitotonariのデモは打ち込みなので、それをいかに人力で工夫するかという部分で参考しています。
なるほど。ミキシング以外の部分で物語性を意識している部分はあるのでしょうか?
今回は4曲目の“Yoake”、5曲目の“Karappo”、6曲目の“Kumpū”が核で、繋がった物語があります。そこはぜひ聴いて確かめてもらいたいです。その3曲を軸に他の曲のサウンドや、曲順を決めていきました。この3曲があったからできたアルバムです。
なるほど。他に楽曲制作の上でこだわっていることはありますか?
楽曲全体を通して「ポップ・ミュージックを作る」ということを前提にしているので、メロディをおろそかにすることは絶対にあってはならない、と思いながら作っています。
ポップ・ミュージックへこだわる理由は何でしょうか?
自分の中にはスキマスイッチや、BUMP OF CHICKENのような、昔から聴いてた歌モノが根底にあるからですかね。そこに何を掛け合わて面白い音楽を作るか。でもやりすぎてポップ・ミュージックから逸脱しないようには気をつけています。
今回の音源はミキシング時に歌声を大きくすることをかなり意識しました。いわゆる他のポップスに比べたら小さいですが……。メロディを聴かせることへの意識が今強いので、今回ブックレットも用意して歌詞を聴かせる仕組みを作りました。
ここまで話を聞いてきて、城垣さんが主導して軸になってHitotonariは作られているように感じますが、家田さんと平塚さんはバンドを通してどんな表現をしたいと考えていますか?
もちろん自分がやりたいこととか、表現したいことはありますが、Hitotonariに関しては曲を作った人のイメージを一番に考えるスタンスでいます。できるだけデモの世界観は壊したくない。今回のアルバムで鍵盤のシンセベースを採用している曲があるんですけど、最初はベース+エフェクターでシンセ音をで録っていたものから「やっぱり鍵盤に変えていいか」と録り直したんです。
それは、ベースの音では城垣さんの表現したいものの根源とは違っていると判断したということでしょうか。
そうですね。ベースを使うこと自体にそれほどこだわりはなくて、城垣が作ってきたもののイメージに沿うことが一番理想です。
平塚さんはどうでしょうか。
Hitotonariの楽曲は曲の完成度はもちろん、音楽としての力があると思うんです。僕が何しても、曲が影響を受けない。だから家田とは真逆で、ドラムはデモ音源を壊しにかかっているようなアプローチを心がけてます。城垣の作ってきたメロディと歌は壊さず、城垣も家田も殺すつもりで。最後は全員殺して俺も死ぬ、くらいの……殺意高めでドラムは叩いていますね(笑)
叩いていくうちにリズムがポリリズムになって、リズムを取るためにメロディに耳が行ったりすると思うし。最終的に歌にお客さんの意識がいけばいいと思ってます。
家田さんと平塚さん、リズム隊の2人のスタンスが両極端なのが面白いですね。
ベースが一番まともです。
ベースを信頼してるから、ドラムは好き勝手できるんですよね。自分の感覚としてはリズム隊ではないというか。ドラムも上ものに近い立ち回りをしています。
最後に今後の活動について教えていただけますでしょうか。
直近は、7月13日(土)京都GROWLYで昼間にワンマンライブを行います。1時間ほど時間をもらっているので、ライブでできない曲もたくさんやる予定です。音源とは違った楽しみ方もできると思うので、ぜひ多くの人に見てもらいたい日です。ワンマンが終わったらツアーも予定しています。東京、浜松、名古屋、福岡と周って京都に戻ってきます。音源を通じて多くの人に出会えればと。
Hitotonari 『Rinkaku』
アーティスト:Hitotonari
タイトル:Rinkaku
発売日:2019年7月13日
価格:2,000円
【収録曲】
01. Yosame
02. #0
03. Rūju
04. Yoake
05. Karappo
06. Kumpū
07. Odoriko
08. Tobari
09. Bansyō
10. Yūyami
【配信一覧】
ライブ情報
日時 | 2019年07月13日(土) OPEN 12:00 / START 12:30 |
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場所 | |
料金 | 無料(ドリンク代のみ) |
出演 | Hitotonari |
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WRITER
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昭和最後の大晦日生まれのAB型。大学卒業後に茨城から上洛、京都在住。フォトグラファーをメインに、ライター、編集等アンテナではいろんなことをしています。いつかオースティンに住みたい。
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