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【SXSW2019 – まとめ】原点回帰へと向かうSXSW

MUSIC 2019.05.31 Written By 岡安 いつ美

SXSWの本質は、ミュージック部門で体感できる

毎年3月の第二週から10日間、テキサス州オースティンに世界中から人が詰めかける。私も毎年足を運ぶ一人となって3年目となった。SXSW期間以外にもオースティンを訪れるほどこの街が好きなのだが、やはりSXSWは格別だなあと、今年も滞在を振り返って感じている。

 

日本ではインタラクティブ部門への注目度は変わらず高い。2019年のトピックとしては落合陽一氏プロデュースの日本館『The New Japan Islands』や、今年もコンベンションセンターの目の前という超一等地に作られたSONYのブース『WOW Studio』や、迫力の映像体験に度肝抜かされたNHKの『8K THEATER』など日本企業の気合の入った出展が相次いでいたことだろうか。相変わらず日本人の参加者も増加中だ。

 

そんなことからも「SXSW=スタートアップやテクノロジーの祭典でしょ?」とよく周りからは言われる。もちろん、今インタラクティブ部門が一番盛り上がりを見せているのは事実だし、日本で取材記事を探しても、大半がインタラクティブの内容である。それが日本でのSXSWの認知のされ方であることは間違いない。

 

しかしSXSWはミュージックフェスティバルこそがイベントの起源であるのだ。10日間の滞在を通して毎年思うのは、ミュージック部門くらいだけが“SXSWらしさ”みたいな部分を今でも保持しているのではないだろうか、ということである。

The StrokesやFoo Fightersが名を連ねていた2011年に比べ、メジャーな目玉アーティストの出演は確かに減ったと思う。日本での注目度の上昇とは比例して「SXSWは大きくなりすぎた」と言う人や、「SXSW離れが進む」なんて記事を見かけることも多くなってきた。本当にSXSWは昔と変わってしまったのか?魅力的ではなくなったのか?否、ミュージック部門に関して言えばここを皮切りに世界に売り出される新人ミュージシャンたちが数多く集まり、未来を占う“見本市”としての機能がここ数年で取り戻されつつあるように感じる。

 

今や巨大フェスのヘッドライナーに名を連ねるようになったBillie Eilishは昨年小さなライブハウスで目撃できたし、フジロックやサマソニでの来日で日本を沸かしてくれたStarcrawler、Pale Waves、The Lemon Twigsをはじめ、昨年の秋にあったインディーロック来日ラッシュが記憶に新しいSnail Mail、Soccer Mommyといった日本でも注目度の高い新人がSXSWでは手の届くような距離でで見ることができる。世界市場への第一歩としてのSXSWという戦場は今でも確かに存在するし、それの流れを間近で見れることが、すっかり毎年の楽しみとなっているのは事実だ。まだまだうわべしかなぞれていないが、3年通ってやっと体感できるようになったのは私にとっても大きな収穫である。

直前までショーケースの詳細が出ないこともザラなので、毎年オースティンのホテルに到着してから1週間の予定を立てる。今年は到着してすぐにFacebookのショーケースの出演情報をキャッチして、Toro y Moiを見るために急いで会場に向かったくらいだ。事前に調べていても、現地で見つかるいいライブで予定はすぐに変わるし、直近で流れてくるアーティストからの情報が一番頼りになるので、ここ数年は開催半年前くらいから公開されるSpotifyの公式プレイリストを毎日垂れ流しで聞く以外は、下調べなしでオースティンへ向かう。

Toro y Moi

2019年注目アーティスト① - The Beths

今年一番初めに目についたのは昨年の夏にデビュー盤をリリースしたニュージーランド4人組・The Beths。DeerhunterやBroken Social Senceといった名だたるアーティストが出演するショーケースに名を連ねていて、チェックしているライブにことごとく彼らの名前があるのだ。大きなショーケースの出演、そしてこのライブの本数こそが、彼女たちの期待値の高さを示している。

The Beths

キャッチーで疾走感のあるなサウンドはどの会場でもオーディエンスの心をがっちり掴む。サイドを固める男性陣のコーラスも見事の一言だ。Courtney Barnettを引き合いに紹介されることが多いのだが、その辺は深みのある知的な歌詞ゆえ。会場をクスッと笑わせるMCや、期待に対する気負いが一切ないラフなステージングが本当に気持ちよくて、向かうところ敵なしといった感じの彼女たち。今後に期待大である。

2019年注目アーティスト② - 台湾インディーミュージシャン

SXSWの週半ばはオフィシャルのショーケースも徐々に増えてくる。今年のトピックのひとつはアジア諸国のショーケースやアジア人アーティストの出演が格段に増えたことじゃないか、と思う。もちろん今までも中国や台湾のアーティストは出演していたし、アンオフィシャルのショーケースも存在していた。しかし、今年は台湾がトレードショーに『Taiwan Beats』と銘打って、台湾の音楽を紹介するブースを出展。立派なCDやグッズを積極的に配布したり、SXSW Japan Repの老舗ショーケース『Japan Night』と同じElysiumという会場で『Taiwan Night』を開催したほどだ。ミュージック期間になると途端にいなくなるはずのアジア人が今年はかなり見かけられた。バッジを見ると台湾、中国の人が多く、今年の自国ショーケースの開催を契機に多くの人がオースティンへやってきているのだろうか。

 

台湾で音楽ライターをしている友人から勧められていたシューゲイズバンド・I Mean Usやスペインの大型フェス・Primavera Soundなどに出演、ヨーロッパツアーなども行なっている高雄のドリームポップバンド・The Fur、来日も記憶に新しいマスロックバンド・Elephant Gymといったラインナップからも『Taiwan Beats』の本気度が随所に垣間見える。

The Fur
I Mean Us

ドイツの『German House』をはじめとして、各国のショーケース会場が増加ている中で、台湾は音楽を武器に自国のPRに乗り出した。若手バンドが日本ほど多くはない台湾が今後『Taiwan Beats』でどんなアーティストを紹介していき、成長していくのか。個人的にはこれからの楽しみとして観察していきたいと思っている。

2019年注目アーティスト③ - おとぼけビ〜バ〜

おとぼけビ〜バ〜

今年のアジア勢で群を抜いて注目されていたのは京都のおとぼけビ〜バ〜であることは間違いない。3/13に行われたSXSW MUSICのキックオフパーティーではトップバッターを勤め、ど迫力のパフォーマンスで多くのオーディエンスを沸かせた。文字通り、今年のSXSW MUSICは彼女たちによって火蓋が切られたわけである。この日の写真はSXSW期間中に即時発行される『SXSW WORLD』にも掲載され、Vo.あっこりんりんの写真がこの冊子の表紙を飾った。(ちなみに昨年の『SXSW WORLD』の表紙はStarclawer)

様々な相乗効果で、今年どのおとぼけのライブを見に行っても超満員で、盛り上がりもかなりのものであった。SXSWはだいたいどのステージも30分程。ファストチューンで序盤から一気に畳み掛ける、彼女たちはいたっていつも通りのライブをしていたのが、またよかった。

2019年注目アーティスト④ - Amyl and The Sniffers

SXSWの終盤である金曜日の夜は、ミュージックのピークとも言える夜。街中の多くの会場で爆音が鳴り響き、6th streetは人でごった返す。私はHotel Veagasという会場に向かっていた。The Beths同様に、今年数多くのショーケースに名を連ね、口コミレベルで「彼女たちのライブはすごいから見ておくべき」と私の耳にまで伝わってきていたAmyl and The Sniffersを見るためだ。

 

昨年SXSWで話題をかっさらっていたStarclawerと同じく、イギリスの名門レーベルRough  Tradeからのデビューアルバムのリリースが発表されている彼女たち。オーストラリアはメルボルン出身の4人組で紅一点のVo.エイミー・テイラーのド派手なステージング、そしてストレートなパンクサウンドがとにかく印象的なパンクバンドである。

クラウドサーフは当たり前、ドラムによじ登ったり、ステージ上でいきなり腕立て伏せを始めたりはちゃめちゃな印象が強いが、サウンドのわかりやすいノリやすさは通りすがりのオーディエンスも巻き込んでがっちり心を掴んでいた。多くの人が口々に「彼らのライブを見に行った方がいい」と言っていたのも納得の一言であった。

まとめ

SXSWミュージック期間中ででおよそ30ステージ前後ぶっ通しで撮影を続ける。今回この記事では紹介しきれなかったアーティストや秀逸なショーケースはあげ始めたらキリがない。サイケデリックソウルデュオ・Black Pumasはオースティン期待の新人として昨年に比べ着実にファンを増やし、その美しい歌声を多くの会場に響かせていた。今年が3回目のSXSWとなるCHAIもすっかり英語のMCやオーディエンスとのコミュニケーションも板につき、安定してお客さんを集めていた。デビューからここ数年連続でSXSWに出演しているニューヨークを拠点に活動するガレージポップバンド・Charly Blissや、ワシントンが拠点のPriestsなんかも着実に出演するショーケースの規模が大きくなってきているし、若い女の子たちが黄色い声援を送り、シンガロングしている姿が印象的だったRico nastyを数百人規模のライブハウスではすぐに見れなくなるのだろうなあと思いながら撮影をしていた。Amanda Palmerが教会でライブをしている姿なんて、その美しさにため息しかでなかったし、元Cherry Glazer のキーボード/ボーカリストSasami Ashworthのソロプロジェクト・SASAMIのインディー色の強いサウンドも期待通りで感動した。注目していたポスト・パンク、ライオット・ガールの影響下にある5人組、香港のDAVID BORINGもサウンドや佇まい全てがアメリカのライブハウスにぴったりであった。オースティンのPeelander-Zは3ピースとしての結束が高まって自由度がより増していたし、White Denimの貫禄あるステージも見ものだった。

 

こんな感じで毎年SXSW後には動向を追いかけるバンドが無数に増えていくのだ。それがSXSWの楽しみの一つだったりもする。

Peelander-Z

SXSWは今確実に過渡期を迎えている。インタラクティブ部門でも「次のツイッター」を求める熱狂は影を潜め、巨大化したテック企業への疑問が噴出した (Wired 記事より引用)と感じているメディアも多いだろし、新しいものを求める姿勢にもどんどん変化が起こっていくだろう。

 

もちろん有名なアーティストのライブがあれば、そちらを見に行きたくなる気持ちはあった。でも滞在数日も経てば、実際そういった気持ちは薄れてくる。日本で見れる可能性のあるアーティストは来日を待って、ここでしか、世界へと羽ばたいていく前段階の今だからこそ見たいアーティストを掘り続けていくことの楽しさをSXSWで体感している以上、そういったアーティストを追いかけない手はない。ニューヨークのメインストリームに対して、南でも面白いことが起こっていることを示すためにスタートしたSXSW本来のあり方にミュージック部門もこの先数年をかけてさらに回帰していくであろう。これから先の10年が楽しみになる予兆を感じられた2019年のSXSWであった。

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