ANTENNA Writer’s Voice #1
ANTENNAライター陣の最近おもしろかったもの・ことを週替わりでざっくばらんに紹介する、『ANTENNA Writer’s Voice』をはじめます。音楽、映画、アート、演劇、小説、漫画などなど、それぞれの興味関心は千差万別で、それを語り分け合うことで緩やかな広がりになっていけばいいなと思っています。今回は3人のライターの最近おもしろかったもの・ことを紹介。編集部でも「みんな何を選ぶんだろう?」とそわそわしていますが、そんな気持ちで気ままにお楽しみあれ!
『BEACON – “ウォールフラワー”が集うZINE製作の舞台裏』@スタンダードブックストア
先日天王寺の〈スタンダードブックストア〉で行われたトークイベント、『BEACON – “ウォールフラワー”が集うZINE製作の舞台裏』に足を運んだ。コロナ禍の生存報告をテーマに、平成世代の語りを集めたZINE『BEACON』。縁あってVOL.2に寄稿した僕もこのZINEのことを一言で言い表すのは難しいが、編集の石垣慧さんが「寄稿者を集めて飲み会みたいなことは絶対したくなくて」と話していたことが妙に腑に落ちた。失われた30年しか知らない平成世代の僕らそれぞれの、コロナ禍を生きる語りの数々。僕はお話を聞いていて『賭博黙示録カイジ』の鉄骨渡りのくだりを連想した。僕らは交わらないし分かり合えない孤独を抱えているけど、確かにそれぞれの思いを持ってそれぞれの場所にいるんだ。その「いる」ということの集積がほんのりとした希望を描く、それがBEACONなのかもしれない。参加者のおばあちゃんが柳田國男などを例に挙げ、「綴られない思いはどこにも残らず失われていく」といったことを話していたことも印象的だったが、また何十年か後でコロナ禍を振り返ることもあるだろう。その時このZINEを片手に言ってやりたい。「大変だったよ。でもこんな思いを持ちながら僕らは生きていたんだよ」って。(阿部仁知)
『角田龍平の蛤御門のヘン』
現役弁護士である角田龍平が担当する〈KBS京都〉のラジオ番組『蛤御門のヘン』。角田は弁護士とはいえ、元々オール巨人門下の芸人であり、2009年には『オールナイトニッポンR』のパーソナリティーも務めた経歴を持つ達者な喋り手。現在も弁護士の傍ら、関西を中心にテレビ・ラジオでも活躍されています。2017年より開始した本番組は「世の中のあれこれを独自論法で弁護する、おもしろリーバル・バラエティ」と謳い、社会問題やゴシップ、ニュースを法律目線で「邪推」していく語り口が面白く、毎週聴いています。しかしこの番組が稀有なところはそんな「法律目線」よりも、関西土着カルチャーを意識的に引き継ぐ部分の方にあると思っています。角田が多大に影響受けた『誠のサイキック青年団』(1988年~2009年)の意志を受けて北野誠と竹内義和をゲストに招いた「サイキックミーティング」の開催も偉大な功績ですが、ここ数週は京都カルチャー路線の番組作りを行っているのです。〈ホホホ座〉の店主 山下賢二とアントニオ猪木談義をしたり(11月9日放送回)、『ジュリーの世界』の著書 増山実が70年代当時の京都河原町の風景を語ったり(11月16日放送回)、京都伝説のイベント〈MOJO WEST〉のオーガナイザー木村英輝をゲストに迎えて京大西部講堂周辺の当時について話を聴いたり(11月23日放送回)。「今、京都でそれをやってほしかった!」と言わんばかりの放送内容は我々ANTENNAも見習わなければと感嘆しているのです。(峯大貴)
『エルピス—希望、あるいは災い—』
「このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです」。これは今、放送中のドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』のオープニングで流されるメインテーマが終わると表示される注釈である。脚本が渡辺あやさんだと知った時から見ようと決めてはいたけど、視聴者への予防線ともとらえられる「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」とは一線を画す、この表現に心が強く揺り動かされたのを覚えている。その挑戦的ともいえる言葉通り、フィクションという衣をかぶっていても、ドラマと日常は地続きであるということを感じずにはいられない、そういう意味で生々しいドラマだ。ちなみに、このドラマの音楽を手がけるのはあまちゃんの劇伴でもお馴染みの大友良英。何気なく流れている劇伴のタイトルを知るとまた、ドラマが違って見えてくるかも。私が、渡辺あやさんに惹かれたのは2003年の映画『ジョゼと虎と魚たち』からだったが、この映画しかり、『ワンダーウォール』しかり、原作があってもなくても、彼女の作品には常に現実世界とのつながりを感じる描写があったように思う。このままどのようなラストを迎えるのか、これまで以上に見逃せない作品。幸か不幸か、胸がかきむしられるほど待ち遠しい月曜日があるということは、きっといいことだ。(乾和代)
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地域に根ざした世界中のインディペンデントな「人・もの・こと・場所」をおもしろがり、文化が持つ可能性を模索するためのメディアANTENNAです。
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