岡山出身のシンガーソングライターさとうもかと大阪の4人組バンド・DENIMSが昨年より始動したチャンネル・レーベル「LIFE OF MUSIC」でコラボレーション!「さとうもかとDENIMS」名義で4月~5月にかけて3曲を配信リリースした。その中から“Loop With DENIMS”を編集部員5名で総力合評します。
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互いのクセが発揮された、これぞコラボ曲(峯 大貴)
今回のコラボで発表された中で、さとうもかの“Lukewarm”はDENIMSがカバーする形(さとうはシンセとコーラスで参加)であり、DENIMSの“Crybaby”はさとうをボーカルに迎えている。一方この“Loop”はDENIMSがさとうをプロデュースするようにリアレンジを施して演奏され、お互いの資質やメソッドを折衷させた3曲中、最もコラボとしての醍醐味が楽しめる楽曲となっている。
原曲のTomgggが手掛けたキュートなチェンバー・ポップ風味からはガラリと印象を変え、冒頭重たくビートをスウィングさせるところから、ファンク・ソウルの軽快なリズムに移行し、サビではサンバ・ボサノヴァに発展。ルーツに根差したアンサンブルはDENIMS印といえるものだが、さとうからもジャズやシャンソンからの影響を引き出すような狙いも感じさせる。一方でほぼコード進行が定型ながら、目まぐるしくグルーヴが転換していく構成は、メロディにバンド演奏が翻弄されているようにも聴こえる。さとうの彩り豊かで奔放なソングライティングの才覚にも改めて気づかされた。
シンガーソングライターを一つのバンドが自身の色を加えながら支えるこの構図。かつて活動休止中のCoccoをくるりたちが引き戻したバンド・SINGER SONGERのような相性の良さを感じた。この度、さとうはメジャーデビュー、DENIMSは土井徳人(Ba)が加わった新体制が始動。コラボ企画ではあるものの、確かな二組の変わり目を刻むような楽曲だ。(峯 大貴)
ひとりの永遠が、ふたりの触れられる今になる(小倉 陽子)
原曲“Loop with Tomggg”(2019)は、鍵盤打楽器や管弦楽器の色とりどりの音がキラキラと鳴る、キュートなシンセポップ。ひとり心の中に閉じこもり、過去にぐるぐると翻弄され続けるような恋する気持ちを、ファンタジックな音と繊細ながら抽象的なワードで表現し、共感を呼び起こす非常にさとうもからしい楽曲だ。
本作では、2拍子のスウィングからボサノバを取り入れたようなバンドアレンジなど、DENIMSと作り上げたことで、原曲よりも歌詞が客観性を帯びて聴こえてくるから不思議だ。それは特に、Cメロの釜中健伍(Vo/Gt)とさとうのハーモニーで顕著になる。原曲ではさとうの声を重ねていたひとりの世界だったものが、釜中に主旋律を渡しさとうがコーラスを重ねることで、<もうずっと前を>歩いていた二人がそこに立ち現れて、過去を越えていく痛みと強さが現実感を得る。
さとうはこれまでも自身の楽曲に他者のアレンジを多く取り入れていたが、それはシンガーソングライターとしてひとりで活動する「さとうもか」を拡張するようなアプローチであった。「さとうもかとDENIMS」では、さとうがDENIMSという他者と出会い、<美しくなるばかり>の過去をここで自らに折り合いをつけるように描き直した楽曲になった。(小倉 陽子)
世界はヴィヴィッドに色彩を帯びる。あなたの捉え方ひとつで(阿部 仁知)
こう言えば伝わるのかな?でも……。恋がスタートした頃のキラキラが色褪せたあなたの心には、伝えたくても伝わらないもどかしさが延々と駆け巡り、“左胸は熱を持って泣いて”しまう。そんなぐるぐるする感情を映したようなトラックメイカー Tomggg のサウンドがさとうもか(Vo)の屈折した心象を取り巻いていた原曲でも、確かに混迷の出口は見えていた。だが、DENIMSと邂逅した本曲では、その過程がより鮮烈に描き出されている。
そのことが最も顕著なのが、“過去の日々 変えられない”と受け入れるブリッジだ。ここにきて自らの心模様を俯瞰するようなさとうのコーラス、主旋律を譲り受けた釜中健伍(Gt / Vo)も、あくまで彼女の歌声に寄り添う姿勢。そこに岡本悠亮(Gt)のギターも合流した三重のハーモニーは、まるで終幕に向けて加速するようにドラスティックに物語を掻き立てていく。そう思うと、それまでは甘酸っぱく響いていたリズム隊のジャジーなサウンドも、視界がひらけた喜びの音色に変わったようにも聞こえてくる。
タイトルのようにブリッジを前後して似たパートが繰り返される本曲だが、毎日はそれほど変わらなくても、捉え方一つで世界はヴィヴィッドに色彩を帯びる。そしてそれは他者がいるからこそ気づくことができるのだろう。最後に“左胸は熱をもって泣いてる”のは、終わりの見えなかった混迷が明けて、世界が明るく照らされた喜びからなのだ。(阿部 仁知)
両者の色が重なったコラボレーションの真骨頂(柴田 真希)
昨年始動したレーベル「LIFE OF MUSIC」から配信リリースされた本楽曲は“さとうもかとDENIMS”名義での3曲目となり、客演に止まらない予感を孕む作品だった。さとうもかの元楽曲“Loop with Tomggg”をDENIMSがバンドサウンドにアレンジした上でゆったりとしたボーカルに空気を合わせることで、DENIMSとしても新しい柔らかく甘美なサウンドに仕上がっている。一方でさとうもかの歌声が元楽曲より伸びているのは4人の演奏の上に乗せることを意識したライブ収録ならではの効果だ。
1曲目“Lukewarm”、2曲目“Crybaby”の淡いブルーとピンクの写真にロゴが乗ったジャケットは、DENIMS/さとうもかそれぞれのイメージカラーだろう。そして3枚目、2色を混ぜたような薄い紫色のジャケットは、“さとうもかとDENIMS”を名乗る中で曲名から「with DENIMS」と改め、一緒に着想した新しい作品だということを表している。
DENIMS『more local』などでファンにはおなじみの岩本美里が今回のジャケットデザインも担当しており、「LIFE OF MUSIC」自体のロゴデザイン、そして“さとうもかとDENIMS”のロゴも手掛けている。先日“スチャとネバヤン”の結成が一部を賑わせたばかりだが、ロゴが出るということはただのコラボレーションに止まらないことを暗に示しており、彼らにも本楽曲を起点とした今後を期待せずにはいられない。(柴田 真希)
永遠のループとの、切なくも伸びやかな離別(出原 真子)
もう戻れないと分かりつつも、あなたと過ごした日々をループする切なさ。自分でも気づかないうちに、現実を受け入れ始めた切なさ。さとうもかがそんな切ない恋心をキラキラとはじけるようなサウンドに合わせて、軽やかに歌い上げた原曲“Loop with Tomggg”。対照的に本作は DENIMS のリアレンジによって切なさを一層際立たせつつ、甘美で艶っぽい一曲に仕上がった。
本作における切なさは原曲とは異なり、メジャーデビューを機に故郷・岡山を離れたさとうの心情とも重なっているのではないだろうか。愛しい人たちに別れを告げるような寂しさと、新天地への期待。さとうは色んな感情を綯交ぜにして、2回目のサビが終わった後の“ラララ~”を切なくも伸びやかに響かせている。さらに“過去の日々”から入る釜中健伍(Gt / Vo)のハモリが、新しい一歩を踏み出した彼女の背中をそっと押しているようだ。
ループしたくなる思い出は誰しも持っているはずだ。でも、ちゃんと時間は流れて、自分でも気づかないうちに“多分もう ずっと前を歩いている”。それを自覚してしまった時が、永遠のループとの離別になるのかもしれない。(出原 真子)
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地域に根ざした世界中のインディペンデントな「人・もの・こと・場所」をおもしろがり、文化が持つ可能性を模索するためのメディアANTENNAです。
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