ANTENNA Writer’s Voice #6
ANTENNAライター陣の近頃おもしろかったもの・ことを週替わりでざっくばらんに紹介する、『ANTENNA Writer’s Voice』。音楽、映画、アート、演劇、小説、漫画などなど、それぞれの興味関心は千差万別で、それを語り分け合うことで緩やかな広がりになっていけばいいなと思っています。今回も3人のライターのおもしろかったもの・ことを紹介。編集部でも「みんな何を選ぶんだろう?」とそわそわしていますが、そんな気持ちで気ままにお楽しみあれ!
『フェイクドキュメンタリー「Q」』
「空洞の美学」そういう言葉が『フェイクドキュメンタリー「Q」』を形容するには最もふさわしいような気がする。
本作はYouTubeで展開されるモキュメンタリー作品だ。モキュメンタリーと言えばフジテレビ系列で不定期に放送されている『放送禁止』を思い出す方も多いかもしれない。本作品の中にも“フェイクドキュメンタリー”や“献花”といったものは『放送禁止』のような対象物を追う手法で撮影されている。しかしそれ以外にも、“光の聖域”や“来訪”のような動画投稿的な作品や、“或るブログ”のような都市伝説を語るような作品まで、本作ではさまざまな角度からフェイクドキュメンタリーを紡ぎだしていく。
そしてそのどれもが禍々しく、薄気味悪い。そしてその薄気味悪さを何かしらの理屈で塗り固めたい、という欲を掻き立てるものばかりである。その証拠に各作品群のコメント欄は視聴者の感想だけでなく、動画の考察であふれかえっている。なぜ『フェイクドキュメンタリー「Q」』は考察欲を刺激するのか。それは本作に明確な答えがないからだ。どの作品も理由・目的・正体がどれも不明であり、大きな謎がまるで空洞のようにボコッと空いているのだ。そして作品の空洞をより際立たせるため、映像のクオリティやシナリオはかなり綿密で強度の高いものに仕上がっている。だからこそ余計に大きく残された空洞を埋めないと気がすまないのだ。その感覚は黒沢清の『cure』や『回路』を見終わった後に残るようなものと、かなり近い。
現在、1stシーズン全12回が終了し、2ndシーズンの第1話“ノーフィクション”が公開されている。この機会に是非、本作を見て、空洞の美学を体感してほしい。(マーガレット安井)
谷小夏個展『nuda』
個展【nuda】
京都・東京でヌードの絵の個展をします。◯京都
2022年12月12日~12月25日
11時~20時@karaS_staff
在廊日 : 金土日12時~19時
◯東京
2023年1月16日~1月22日
11時~20時
※初日(16日)は15時オープン
※最終日(22日)は18時閉店@GalleryConceal
在廊日 : 全日程12時~19時 pic.twitter.com/QjArKG3OXG— 谷小夏 (@konatsu_e) December 10, 2022
谷小夏さんが描く女性と言えば、纏っているものがお洒落でかっこよくて、みな凛としているという印象。今回は女性のヌードを描いた作品ばかりの個展ということでとても興味深かった。そもそも自分は女性の一糸纏わぬ姿というのが好きなのだけど、そのことについて近年折に触れ考えていて、薄っすらとその意味は見つけていたとはいえ、谷さんの作品に触れて言語化が進んだように思う。世の中に溢れるやたら凹凸を強調した不自然な女性の身体と違って、谷さんの描く柔らかでたおやかな身体のラインがとても愛らしい。そして描かれた子たちの顔がみんなとてもいい。イキイキだとかアンニュイだとか、なんとでも言いようはあるが、一様に作り込まれていない自然な表情をしている。
女性のヌードはしばしば(特に男性に)見られるためのものであるとか、品評の対象であるかのように語られる。でも本来女性の身体はその女性本人のためのものでしかないはずだ。誰かのためのものではない極めて個人的な時間と空間にある女性たちに自分を重ねたり、元気というより安堵をいただく。すべての女性に安心で安全なヌードの時間と空間がたくさん訪れますように。お気に入りの絵のポストカードをお守りに買う。
トレーシングペーパーを表紙に使った作品集も柔らかでしなやかでとても良いです。東京での個展は1/16〜22まで。(小倉陽子)
makomo art works『はずれ』
音楽まわりのアートワークで惹かれるものがあっても、その作者がどんな人か知る機会が少ない。それでこのANTENNAでも企画『音楽のラッピング』を立ち上げたのだけれど、東京のライブハウス〈新代田FEVER〉内にあるチキン屋〈pootle〉に併設されたギャラリーは、〈FEVER〉にゆかりのあるアーティスト周りの展示が常に行われているので、ライブで訪れた時に自然と関わりのある展示を観ることができてとても楽しい。
昨年末から1月9日(月祝)まで開催中のmakomo art works 『はずれ』に伺った。年末に公演があったフラワーカンパニーズ『ネイキッド!』のジャケットイラストの繋がりから開催されたとのこと。
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makomoさんのイラストの特徴である、動物をゆるく表現した愛らしい原画を数点見ることができて、雑貨もたくさん販売中。絵柄を見て気がついたが、以前『紙博』に吉祥寺の文房具屋〈36(サブロ)〉さんが出店されていたとき、そのオフィシャルキャラクター「吉ぞうさん」の虜になりグッズを買い集めたけれど、どうやら「吉ぞうさん」もmakomoさんが産み出していたらしい。愛らしくゆるい空気をまとった動物をこじんまりとした展示空間や日常の色んな場所に放たれていて、癒される。まるで道端で野良猫に出会った時のよう。
グッズはたくさんの生き物たちがあしらわれた手ぬぐいを購入させていただいた。1,000円以上の飲食またはお買い物でもらえるポスターも無事ゲットしたので、部屋に貼ります。ご近所の方、週末にお散歩がてら立ち寄ってみてはいかがでしょうか。(柴田真希)
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地域に根ざした世界中のインディペンデントな「人・もの・こと・場所」をおもしろがり、文化が持つ可能性を模索するためのメディアANTENNAです。
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