「働きながら音楽活動をする」トークイベント① -上杉隆史(Endzweck)-
※こちらの記事は先日東京で行われたイベントレポートの寄稿となります。
働きながら音楽活動をすることを考えるトークイベント「働きながらバンドってできるの?」が行われました。登壇者は、鳥居 大氏(ATATA)、小川 保幸氏(DEEPSLAUTER)、上杉 隆史氏(Endzweck)の3名。
働きながらバンド活動をしていく方法を考える
好きな音楽を続けたいと思っていても、年齢をリミットにしてアーティスト活動をあきらめたり、行き詰まりを感じでバンドを解散することは少なくありません。それでも、うまく活動を続けられる方法はないのでしょうか?
今回はのトークイベントの中では、バンド活動と仕事の両方で活躍している3名それぞれの経験談やアドバイスとともに、「どうしたらしっかり仕事をしながら上手くバンド活動を続けられるか」を考えていきました。
トークイベントは和やかな雰囲気で行われ、何度も会場に笑いが起こりましたが、登壇した皆様のお話はどれも説得力があるものばかり。
本イベントレポートでは、3名の登壇者それぞれのトーク内容を、アーカイブ化も兼ねて、全3回に分けできるだけ全てお伝えしていきます。
第1回目は、Endzweck / 株式会社Fablic VPoE 技術部長 / エンジニアの上杉隆史(うえすぎ・たかし)氏のトーク内容をお伝えいたします。
働きながらバンド活動はできるの?への回答
ゴール。今日のプレゼンテーションの目的とか考えた方がいいかなと思っていて。ゴールは何だろうか、と言ってて、Twitter見てたら言い合いしてる*1のを見ちゃって。
(鳥居氏:俺です、俺ですそれ)
僕も両方知り合いの人なんですけど、言い合ってるわーと思って。
まあ、これ、分かってて。育児もすごい大変だと思うし、あのアレだけど、その前にそもそもバンドとか、ね、やってないとだめだし。
何言ってんだ。わかんねー!わかんないんだけど。
あのねえ、この世代、すごい才能が揃ってた世代で。There is(THERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUT)、YSIG(YOUR SONG IS GOOD)世代って。良いバンドいっぱいいました。
しかし、むかしこの人たちのfanzine読んだ時、仕事へのリスペクトをあまり感じなかった。あくまで個人の感想としてですが、そういうニュアンスを感じました。
僕、そのときもう働いてたんだけど、仕事超好きで。しかもバンドもすごい好きだったの。だから、僕が今日言いたいこと先に結論から言うけど、仕事も好きになって楽しんで欲しいし、バンドも好きになって楽しんでほしいなっていうのが、はっきり言うと結論です。
ここにいる人も、みんな働いていると思うんですよ。ここに来てるから。
じゃあ、解決しました。はい、ありがとうございました…いや、違うでしょ、って話。
さっきの結論に行くには、仕事を楽しみながら音楽をたしなむという文化、これはサブカルチャーのことを言ってるんじゃなくて、「音楽もやってない大人は、立派な大人じゃないだろう」っていうぐらいの文化を僕は作りたいと思っています。
みんなで作っていきませんかと。
働きながらバンド活動をするために必要なこと
そこでなにが必要かと考えると、「ノウハウ」。
みんなどうやって仕事続けながら音楽をやるかとか、「活動の不安の解消」。(会場に集まった)これだけの人が不安なのかな、って勝手に感じてるんですけど。そういう不安をみんなで解消していけたらなと。
あと、社会的にバイアスかかってて、音楽やってる人って、やっぱり「いつ紅白出れるの」って聞かれると思うんですよ。でもそういう音楽やってないしって思うし。
中学の卒業文集に「将来アーティストになりたい」と書いた友達に、「上ちゃんまだバンドやってんの?」って言われて。お前アーティストになるんじゃねーのかよ、って思ったことがありました。
みんなに言いたいことは、「まずは続ける」という強い意志を持ってほしいな、と。
まずは不安を明確にする
「僕らが持っている不安てなんだろう」っていうことを話していこうと思います。不安を明確にしましょう。
バンドやってると襲われる漠然とした不安、みんなあると思うんですよ。結構まとわりついてくる不安。同級生の収入とか。これは気になるでしょ?俺貧乏なんじゃないか、とか思うと思うし。
あと、やっぱいつかは親死ぬんだよね。病気になったりもするし。
あと、レコードとかも欲しいじゃないですか。レコーディングできんのか、とか。ツアー行きたいけど時間とかあんの?とか。
そこらへんも含めてやりたいんすけど。
一つ言えることは、まず「不安をコントロールしましょう」 ということ。漠然と不安に思っていてもしょうがない。そこで、不安をちゃんと分類していく。
大きくは、「コントロールできる問題」と「できない問題」とってあります。たぶん、親が死んだり病気になるという問題はコントロール「できない」からあきらめましょう、と。
「自分でコントロールできること」に注力する。
そのうえで、僕らができることは「コントロールできること」しかないから、に注力していく。まあ、普通のこと言ってますよね。
自分なりに分類して、「どういう問題なのか、というのをカテゴライズして名前を付けていきましょう」っていうのをやってみようというのですが、そんな時間ないんで。
ぼくの持論。こんなもんは時間と所得の最大化。どうやって時間を分配して所得を増やしていくか、っていう最大化の問題になる。これは極論なんで、「それ違うよ上杉まじぶっ殺す」というのはツイートしていいです。
じゃあ、このためにどういうノウハウがあるんですか、ということを話していきたいなと。ノウハウです。
まず、ノウハウ言うまえに原則。これはぜったい掴んでおいてください。
「感情論じゃなくて、事実と論理で意思決定」を行ってください。どんなに悲しくてもつらくても、事実と論理上正しいものを選ぶようにしていかないと人生詰むんですよね。人生詰むと袋小路に入るから、立ち直るのにすっごい時間かかります。
感情じゃなくて、事実・あること・数値化とかして把握したものと、論理で意思決定は行ってほしい。詰まないように。
責任を負えば所得も増える
ノウハウと言いながらいきなりマインドセットね。
責任負いましょう。
バイトは時間が自由でバンドやりやすい、って思うでしょ?思うでしょ?思うでしょ?これね、ウソなんだよ。はっきり言って。まったくのウソ。これはバイト紹介雑誌作ってる会社がバイト雑誌を売るための都市伝説だから、ぜったい信じないでほしいんだけど。
リアルに「どれだけお金を使えるか」というのを考えるじゃないですか、人生って。そう考えると、単位時間あたりの所得を上げないと、自由な時間はできないんですよ。生活費でカツカツなんていうのは、時間が無いのと一緒だから。
※撮影禁止のスライド(上杉氏の給与の変化)が表示される
この中で、給料あげながら僕がどんなことをやってきたか、いまから言います。
逆に言うと、責任を負えばそれぐらいのことできるよ、っていうのを僕は証明したくて頑張ってるから聞いてほしいです。
まず、学生の時、運良くてミニアルバム出しました。その後、もう海外ツアーなんですよね。韓国ツアー行って、香港ツアー行って、そこでやっと就職なんすよ。で、そのあと25歳ぐらいでアメリカツアーやって、で、ミニアルバム出して、レーベル始めて、ヨーロッパでアルバム発売になって。
この頃、仕事始めたてで未熟者だったんですが、仕事、すごい頑張ってたんですよ、このとき。言いたいのはそれなんすよ。
その後、そのままバンド続けながら、仕事もしながら大学院行ってたんですよ。しかも恐ろしいことにその年に結婚してて。さらにヨーロッパツアー。時間をうまく使うと意外と出来て。で、ミニアルバム発売して、マレーシアツアー行って、大学院卒業しました、と。
この後、まじめにやってよかったと思うことが一個あるんですよ。父親が癌になったんですね。もう働けなくなって、親の経済的な意味での面倒も見なきゃいけなくなった。
もし、僕がアルバイトの生活を選んでいたらどうだったと思います?って思うとヤバいでしょ?
で、転職して、シングル発売して、シングル発売して、転職して、シングル発売して、でPodcastはじめて、アルバム出して、今年これからヨーロッパツアー行ってアメリカツアー行って。
何が言いたいかというと、責任を負えば所得が増えます。これは絶対間違いないです。どんなにダメな会社でも、責任を負ってくれる人の給料は上げてあげよう、という力は働くので、責任は負ってください。
責任を負うと、むしろ活動って増やすことが出来て。バンドのほうでも責任負ってるからっていうことなんですけど、責任を負うのに慣れちゃうんですね。だからあんまりプレッシャーとか感じないし。結論としては、責任負う習慣をつけるとバンド活動も増えます。
有給を上手く使う
正社員は有給休暇を使えます。みんなたぶん20日ぐらいじゃないですか?じゃあ20日でどれぐらいのことができるのか、まじめに考えよう。
2015年にアルバム制作した日程説明がこれで、有給使ったのはこの2日。6月8日の月曜日と7月23の木曜日。超余裕じゃないですかこれ。これでも出来ないっていう人は、もうちょっとマズいですよね。2日しか有給使ってないからね。
つぎはツアー予定はどうなるのかって話。
マレーシアツアー4日間なんだけど土日はさんでるから有給2日分なんですよ。韓国ツアー3日間だけど月曜帰ってきたから有給1日しか使ってなくて。ヨーロッパツアーとアメリカツアーの日程があって、計算すると17日。この計算だと3日間有給休暇あまるから、この後アルバム取ることも可能なんだよ。すごくないっすか?
結果何が言いたいかというと、責任とって仕事をすると時間を作れる、普通の会社員なら。自営だとまた話変わってくるかもしんないすけど、意外と有給20日は多くて。海外ツアーこれだけやって、使う有給17日でいいんだ、って思って。すげー日本て文化的な国だなーって。
だから、この20日をどう使うか。僕、明日から嫁と広島に遊びに行くんでここから1日減っちゃうんですけど。でもみんな去年からの有給の持ち越しあるでしょ?ありますよね?そう考えると、余裕だと思うんだけどな。
上杉氏が自分自身に対して思っていること
だいたい、海外ツアーに行くなんて生意気。5年から10年に一度ぐらいしか行けないと思ってるんです僕は。
自分は運が良すぎると思っていて、だから海外ツアーを基準に人生を送っちゃダメなんですよね。どうせ10年に一度くらいしかないのに。もしバンドで食えそうだったら、会社そのときに辞めりゃいいじゃないですか。なのに仕事はバイトしかやらないというのはよくないアイディアだと思う。
会社なんてバンドに比べればぶっちゃけ簡単なんですよ。バンドの人たちってケンカしがちじゃないですか。それを「いや、まあまあまあ」って。ロジックで言ってもわかんないし。
それに比べれば、会社の人は論理的に言えばだいたいわかってくれるし。「あっ、そうだよね、そっちのほうがいいよね」って話になるから。仕事、簡単なんです。会社でもそれができない人は、バンドでもたぶんダメっスよ。
と、僕は思っています。自分に対していつも問いかけてます。
あと仕事とバンドのスケジュール、全部把握しようとしていて、スケジュール帳はいつも持っていて頭にいれるようにしている。自分の意志で時間の使い方を決められるように意識をしています。それが責任。仕事やバンドの愚痴っていうのはあまりよくない。なぜなら、それは自分の責任で起きていることだって認識だから。自分でコントロールして、自分の責任で時間を使おう。
って、僕に呟いてるんですよこれ。
深夜テレビ見てる暇あるなら曲書けって。僕に対して思ってるんですよね。飲み会に行くカネあるのに個人連入るカネがないってことは無いだろうと。
バンドは何のためにあるのか
まとめると、「バンドを言い訳に使うな」ってずーっと思ってるんですよ、20代のときから。バンドを時間がない言い訳、仕事ができない言い訳に使っちゃいけないし、バンドを人間関係上手くいかない理由に使っちゃいけないと。
バンドは言い訳のためにあるのではなく、人生楽しむためにある。同様に仕事も、人生を楽しむためにある。
ちゃんと自分に責任を持つと、それなりの金銭的自由と時間的自由は得られる。逆に言うと責任をもたないと得ることができない。どちらかをなぁなぁにしようとしてもうまくいかない。
「仕事もバンドもちゃんと責任もってやる」という気持ちでがんばるといいことあるよね、と。
※1(このセミナーの前に、Twitter上で「バンドと仕事の両立はThire is世代やYSIGが解決済み。育児とバンドの両立のほうが課題なのでは?」「たしかに仕事と両立『できる』ことは証明されているけど、それ自体知らない人もいるはず」といった旨の意見が交わされていた)
第二回へ続く
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地域に根ざした世界中のインディペンデントな「人・もの・こと・場所」をおもしろがり、文化が持つ可能性を模索するためのメディアANTENNAです。
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