耳を幸せにしてくれる音楽も素晴らしいけれど、聴き手の心にかまってくれる音楽はもっと愛おしい。大阪を拠点に活動するバンドEasycomeは、そのリリックやサウンドから様々な感情を伺うことができるバンドだ。
昨夏Easycomeと出会い、その活動を楽しみに暮らし始めた私のもとにさっそく届いたのは、彼らのバンド名をタイトルとしたフルアルバム『Easycome』だった。
アルバムの最初を飾る”旅気候”は、彼らの音楽を紐解くキーワードのひとつ「懐かしさ」がよく表された一曲だ。そのイントロから響き渡るどこか懐かしいのびやかなギターの音と、リズミカルなメロディーは、渋谷系や歌謡曲など日本の80-90年代のポップスからの影響を隠すことがない。歌心は、幼い頃、中島みゆきからドリカム世代の母とよくカラオケに行っていた私にとっては、懐かしさと新鮮さを持って受け止められる。
以前より評価の高いVo.ちーかまの歌唱力の高さは本アルバムでも健在で、 “ルフラン”ではレコーディングならではのちーかまの声を重ねたハッピーなコーラスは音源だからこその表現力の妙を味わえる。
力強さと豊かな表現力で繊細な言葉たちを包み込む彼女の曲は、バラード曲で特にその魅力が光る。アルバム終盤、9曲目の “something”は何度聴いても耳と心を放っておかない名曲だ。
しかしこのアルバムの全ての楽曲は、Gt.落合によって作詞・作曲されている。私自身、このバンドを聴き始めた頃はリリックを書いているのはVo.ちーかまであると勝手に思い込んでいたのでとても驚いた。しかし、同時にそれがEasycomeの音楽にこんなにも親しみを抱くことができる理由のようにも思えた。聴き手の私は、作詞者である落合の言葉から伝わる感情に自分のそれを重ねたり、その美しい表現に気持ちを昇華したりすることで、よりEasycomeの曲を大切に思うようになった。それと全く同じことをメンバー全員が丁寧に施して完成したのがEasycomeの曲ではないだろうか。それぞれのパートがその役割を果たしながら、楽曲に込められた感情に自らの思いと音を乗せることで彼らの音楽は生まれた。四人分の解釈が重層的に折り重なって生まれた楽曲は、聴き手をも受け入れる余裕がある。だからこそこのアルバムを聴き終える頃には、彼らの音楽をひとごとには思えない自分がいた。
最終トラック『春になったら』でこのアルバムを締めくくる最後の言葉は、軽快なメロディーに乗せられた「麗かに〜!」というひとこと。その言葉に「春になったら遊ぼうぜ!友よ!」と呼びかけられているように感じてしまうのだから、私はもう完全にEasycomeに心奪われ、厚かましくも彼らの音楽を自分ごとのように思ってしまっているのだろう。
人生の中で出会ってきた多くの人たちと異なった関係性があるように、愛する音楽たちと私の間にもそれぞれ違った関係性がある。多くの音楽に彩られながら生きることを選んだ私にとって、いつでも懐かしさと優しさを届けてくれるこのアルバムはなんとも心強い存在だ。明日目を覚ますと、自分の全く知らない何かが爆発的に流行しているかもしれない。そんな風に目まぐるしいスピードで変化を続ける今を生き抜こうとするとき、どこか戸惑いを覚えてしまうことがある。私自身、自分に納得がいくまで変わり続けたいと願っているし、新しい音楽との出会いもいつだって歓迎したい。けれど何か大切なことを忘れてしまっていないか時々不安になるのだ。
Easycome『Easycome』
収録曲
1. 旅気候
2. Caravan
3. Night Skip
4. 想い出にさよなら
5. 雨を待つ
6. パラシュート
7. 夢中にならないで
8. ルフラン
9. something
10. 春になったら
定価:2,420円(税込)
フォーマット:CD
HOLIDAY!RECORDS購入リンク:HOLIDAY! RECORDS(SOLD OUT)
寄稿者:彩(saya)
うたうたい、いまはひとり、19歳、さやとよんでね
ひとりでうたいたいわけじゃない
Twitter:https://twitter.com/outano_sa
Sound Cloud:https://soundcloud.com/qmgnnwe71cpg
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地域に根ざした世界中のインディペンデントな「人・もの・こと・場所」をおもしろがり、文化が持つ可能性を模索するためのメディアANTENNAです。
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