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【SXSW2020私ならこれを見る:小川 あかね】Alice Longyu gao:セーラームーンからインスパイアを受けている、中国出身の女性アーティスト

MUSIC 2020.03.12 Written By アンテナ編集部

コロナウィルスの影響でキャンセルが決定したSouth by Southwest 2020(以下:SXSW)。彼らが掲げる「The show must go on」の精神にのっとり、ライティングワークショップ(音楽編)の受講生が注目していたアーティストのレコメンド記事を掲載します。

2020年のSXSWには、明らかにセーラームーンからインスパイアを受けている、女性アーティストが出演する。名前はAlice Longyu gao。DJであり、ソングライターであり、はたまたV Magazineなどで記事を書いたり、インスタレーションアートも制作するなど、マルチな才能を持ち、LGBTQにも高い関心を示すアーティストだ。彼女の作品は、軽やかでポップな「Chew!」やDylan Brady(100 gecs)がプロデュースした、重ったるくノイジーなビートの “Rich Bitch Juice” など、曲調はさまざまだが、「自分の欲に従い生きる」という一貫した主張が感じられる。そして、きゃりーぱみゅぱみゅなどの日本のkawaii文化に影響を受けた、カラフルでユニークなアートワークが、その主張を押し広げている。

kawaii日本アニメの代表といえば、美少女戦士セーラームーンだ。

 

1992年に漫画の連載とアニメ放送が始まったセーラームーンは、単なる女児向けコンテンツの域を超え、これを観て育った者の、あらゆる価値観の形成にまで影響を及ぼした。このことは、書籍「セーラームーン世代の社会論」の著者、稲田豊史氏も指摘するとおりで、私も、紛れもなくその1人である。

 

中でも、とりわけ強く刷り込まれたのが、「ジェンダー観」だろう。セーラームーンには、同性愛者、女性言葉を使う男性、トランスジェンダーなどの、いわゆる、セクシャルマイノリティがたくさん登場するが、重要なのは、それらのLGBTQのキャラクターが、当たり前に物語に存在し、しかも、カッコよく、魅力的なキャラクターとして描かれていることだ。最も有名なのが、“百合界のカリスマ”と尊ばれる、天王はるか(セーラーウラヌス)と海王みちる(セーラーネプチューン)の女性同士のカップルだろう。これは、女か男か、そんなことにこだわるのはダサいし、それよりも大切なことは他にあるという教えだった。そして、それは、自分の個性を愛すという「自己肯定感」の植えつけにも繋がっている。

さて、そんなセーラームーンの影響を受けたと思しきAlice Longyu gao。中国の厳格な家庭に生まれた彼女は、抑圧された環境から逃げるように、17歳でニューヨークへ渡ったという。J-POPにはローティーンの頃から親しんでいたそうだが、大学時代、京都に住んだ経験があるらしく、その頃、原宿や日本の伝統芸能に多大な影響を受けたと語っている。

 

正直、「中国人の女の子」が、セーラームーンのコスプレのような出で立ちで、たどたどしい日本語を交えながら歌う様子は、奇妙だ。英語も中国語もできる彼女が、わざわざ日本語で歌うその姿勢からは、誰かの感性に合わせて自分を繕うのではなく、自分にとっての「カワイイ」を表現することへの執念すら感じられる。

 

中国での生活に違和感や不自由を感じていたアリスにとって、自分らしく、己の感性でいきいきと輝くセーラー戦士は、幼少期の私たち以上に、強い憧れを抱くものであり、自由の象徴だっただろう。アリスの表現から感じられる、生まれた性別や環境に縛られず、他者の美的感性に囚われず、自分のセンスを信じて生きぬくという主張は、確かに、セーラームーン的価値観と通ずるものがあるのだ。

寄稿者:小川 あかね

 

 

プロフィール

セーラームーン&SPEED世代。ヴィジュアル系村の住人。ガンダムはシャア派。モビルスーツはシナンジュ。好きなタイプは空条承太郎。声優沼に腰くらいまで浸かってます。

 

Twitter:https://twitter.com/akam00n

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