各々の孤独が折り重なりあい共鳴するアンセムたち
僕は数万人のベクトルが一方向に集約する、フェスティバルの一体感が好きだ。一方で、フロアに集った各々の孤独で無軌道な没入が奇跡的に折り重なるような、クラブナイトの一体感も好きだ。大阪を拠点に活動するニューポップ・バンド・プロジェクトVANILLA.6の1stフルアルバム『VANILLA.6』には、そんな両極にも思える2つの「共感」が折り重なる様子が鮮やかに表現されている。
そのことが最も象徴的に描かれているのがアルバムのスタートを飾る“Prime”だろう。しっとりしたKANA(Vo / Key)のシンセと刻みを異にしたook-boy(Vo / Gt / Organize)の歌声が合流し、遅れてTK(Dr)のドラムもまた違うリズムを歩みだす。バラバラな響きに僕らは一瞬当惑してしまうが、TKのキックで事態は加速し、KOHEY(Ba)の登場で各々の孤独がカチッと重なり合うフレーズは “We all sing along emotions”。なんとドラマチックな展開だろう。モータウンビートも織り交ぜ、目まぐるしく展開する中でも、サッカーのチャントのようにフロアを鼓舞するヴォーカルは、はじめてこの4人組の音楽を耳にする聴衆でも2巡目にはシンガロングできる親しみが溢れている。
だがこの共有が画一的なものにならないのは、全体を貫く1枚のヴェールをまとったようなプロダクション。2015年の結成からメンバーチェンジも経ながら歩んできたVANILLA.6は、一貫してパワフルな演奏と耽美的なライブパフォーマンス、男女混声ヴォーカルが魅力的だったが、今作では生音の躍動とシンセに彩られた電子の煌めきの間を、縦横無尽に行き来しているのが特徴的だ。抑制の効いたギターとシンセから一転、ダイナミックにユニゾンするバンドとディレイがかったヴォーカルが空間を埋め尽くす“Side Effect”。BOOM BOOM SATELLITESやTHE NOVEMBERSのような数万人のフィールドを包み込むエネルギーを一身に浴びつつ、ミニマルでフロアライクな叙情性が織り混ざる様はThe xxのようでもある。
そして、はじめてCDに同梱された日本語訳によって、日々の葛藤や内面を物語に乗せたook-boyに幾分か近づけるが、それでも英語で紡がれる彼の言葉は微妙な距離感を持っている。だが、この距離感こそが、共感と孤独という本作の両義性を更に引き立てているのではないか。初期からの代表曲“90’s Milan”を彷彿とさせるきらびやかなシンセポップ風のリフと、小気味の良いリリックが絡み合う“CRUSH”のキャッチーで身体が自然と動く音像の中でも、近からず遠からずなこの距離感が各々の物語を投影する余白となっているのだ。
終盤の“Rose My Shadow”では、2019年に加入したKANAの勇敢なリードヴォーカルがスケールを広げていき、ラストの“Wasted Song Ⅲ”では本作で一番のシャウトをするook-boyの熱量に、僕らはグッと拳を握りながらシンガロング。ここには作品全体を通した孤独でも共感でもないオルタナティヴが表現されている。「ボツ曲3」という意味らしいが、活動初期から披露され、DJも交えた主催イベント『VANILLA NIGHT』をはじめ多くのフロアとともに育ってきたこの曲が本作を締めくくるのは、半ば皮肉のようでもありつつとても象徴的だ。
ひとりになりたい一方でたまらなく人恋しく思ったりもする、一見矛盾しそうな僕らの感情をまるごと受け入れ讃えるVANILLA.6の表現。各々の孤独を完全には分かり合えなくとも、僕らはそれを認め合い手を取り合うことがことができる。新たなパフォーマンスを模索するVANILLA.6の4人とともに、僕らは再び集い各々の感情を共鳴させる。そんな未来を想像させてくれるアルバムだ。
VANILLA.6
アーティスト:VANILLA.6
仕様:CD / デジタル
発売:2020年3月18日
価格:¥2,500(税込)
収録曲
1. Prime
2. OWLS
3. Side Effect
4. Nightfall
5. CRUSH
6. DONT SING
7. Rose My Shadow
8. Wasted Song Ⅲ
9. CRUSH (Bathroom Mix)*
10. Rose My Shadow (A Letter to Rose)*
11. Goodbye Golden Girl*
(* CD bonus tracks)
Webサイト:https://vanilla6-official.tumblr.com
Twitter:https://twitter.com/vanilla_6_
Instagram:https://www.instagram.com/vanilla.6/
WRITER
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はろーべいべーあべです。フェスティバルとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。fujirockers.orgでも活動中。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。hitoshiabe329@gmail.com
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