Homecomingsが5月12日にメジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリースする。発売直前のこのタイミングで先行公開されている“Herge”を総力合評!編集部員7名で本曲を紐解きました。
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どうやったって変わっていくのだから(峯 大貴)
「引っ越し」や「変わっていく日々」との意であるアルバムタイトル『Moving Days』。実際にホムカミの4人は京都から関東に引っ越したし、また“Cakes”も映画『愛がなんだ』のヒットも手伝って今まで以上の広がりを見せた。そして今回メジャーデビューという状況も踏まえると、彼らに起こったドラスティックな変化を反映した分岐点となる作品になるのでは?と想像を巡らせていた。
しかし先行配信曲“Herge”の主題はサビでも歌われる「柔らかに変わる」ということのようだ。実に心地よく想像を裏切ってくれた。特筆すべきは福富優樹(Gt)の詞であり、1番では“いつものうた”、 “懐かしい匂い”と大切にし続けているものを愛でるのに対して、2番では“あたらしいうた”、“新しい窓”、“いま塗り重ねて”と呼応するように、鮮やかな変化のグラデーションを描いている。
もちろん親しみやすいメロディと畳野彩加(Vo / Gt)の声は変わらずホムカミの魅力の象徴だ。しかしわずかにスウィングするビートとベースラインが織りなすソウル感や、ギターを弾いている加藤修平(NOT WONK)の存在など、サウンド面でも微かに新鮮な変化を示している。
タイトルの“Herge”は福富が最初に好きになったという絵本の作者名。初めてある対象に触れた時、思わず心が動いたこと。そんな変化の集積が今の自分なのだと遡って胸を張ったらいいじゃない。ささやかに力がみなぎってくる。(峯 大貴)
柔らかに変わりゆく日々に寄せて(阿部 仁知)
冒頭のSEやベースのどことなく暗く曇ったニュアンスに、畳野のヴォーカルで晴れ間がのぞくように。はたまたふらっと立ち寄った奔放なギターがそっと歩み寄り、いつまでも続くような終わりのアンサンブルが響く頃には、さっきの暗愁など忘れているように。ほとんど気がつかないほどゆっくりと、しかし確実に変化を伴いながら日々は流れていく。ありふれた日常風景を定点カメラで映したリリックビデオにも象徴されるように、緩やかに移りゆく“Herge”には、日々の営みに対する慈しみとささやかな決意があふれている。
よく耳を澄ませてみるとリズム解釈や歌唱のニュアンスにこれまでの4人との違いも感じ取れる本曲だが、聴いていると心が安らぐ根っこの印象は何一つ変わっていない。もしかしたらまた新たな変化のために捨てる部分もあるかもしれない、でも一番大切なことは忘れない。歌詞の〈ひとつだけ〉にそんな意味を感じ取るなら、Homecomingsはなんと日々に寄り添ったバンドなのだろう。
東京への移住、そしてメジャーデビューという激動の第一歩を締め括るアルバム最終曲としては、決して劇的な楽曲ではないかもしれない。しかしここに描かれた日々へのおおらかな目線は、これまでもこれからも柔らかに変わり続ける、4人の『Moving Days』を象徴しているようではないか。日々の変化はささやかでも、振り返ると大きな歩みになっていたのだ。(阿部 仁知)
「変化」にまつわる人々の揺らぎを肯定してくれる(小倉 陽子)
Homecomingsの楽曲では、“HURTS”(2016年)が今もお気に入りだったりする。心にモヤモヤを抱えながらも、早歩きのような8ビートで力強く前に進む爽快感。京都のライブハウスでHomecomingsを含めた様々なインディーアーティストにたくさん出会った驚きと喜び、そんな個人的追想も相まって上位を揺るがない。
東京に居住地を移した4人が、2021年メジャー1stアルバム『Moving Days』のリリースに先駆けて発表した”Herge”。「変化」をテーマとしているように、イントロからこれまでにないような重くて揺れるリズムが印象的だ。スウィングしながらゆったり進むボトムの上で、柔らかに弾けるギターはNOT WONKの加藤修平がプレイとアレンジをつとめる。4人以外の演奏も取り入れながら、急激ではないじんわりとした変化を試みていく楽曲が、時に立ち止まりたくなる気持ちも尊重していくれているようだ。
“Herge”は変化を取り囲む揺らぎすらもやさしく肯定してくれるような楽曲。それは”HURTS”のように真っ直ぐな歌の中で人々の機微を描き出す歌詞や、Vo畳野彩加のやわらかな歌声など以前から持ち得ていたHomecomingsの変わらなさでもある。変化の中のどのグラデーションにいてもそこに包まれているような、確かな安心感も持ち合わせた豊かな一曲だ。(小倉 陽子)
明日も気ままにがんばろう(柴田 真希)
本楽曲はテレビ東京ドラマ25『ソロ活女子のススメ』のエンディングテーマに起用されている。江口のりこ演じる五月女恵が気ままに一人ならではの時間を楽しむ様子が各話で描かれるが、そんな一日の締め括りに流れる一曲だ。
昼や夜は毎日違うものを食べるけれど、朝はいつもヨーグルトを食べるみたいに、「ありふれたメロディ」は朝に馴染む。イントロのドラムにベースが参加し、歌が乗って、ギターが参加してはまた離れる。そして「なめらかな午後」となり、ボーカルが参加しない夕方少しの休憩時間を経て「月」の出る夜。アウトロで複数の音色のアンサンブルが澄んだ空に輝く星のような盛り上がりを見せ一日を終える。安定したリズムの上で、色々な人とも柔軟に関わるような懐を感じられるこの曲のムードは、 「ソロ活」に主軸を置きつつも一人きりではなく、ただ自分の「好き」に正直に生きている五月女恵のようだ。
一日の終わりにその日の出来事を振り返り、彼女のように充実した気持ちで締めくくると翌日への活力が生まれるだろう。楽曲により聴きたい場所や時間は違うけれど、この曲は家に帰った後、一日の終わりにゆるやかに寄り添って、「明日もがんばろう」と思わせてくれる。(柴田 真希)
普段着の毎日に光をあてるように(松原 芽未)
“Herge”は冒険の歌だ。ささやかな生活を歩む小さな冒険者の歌。タイトルのHerge(エルジェ)は、福富優樹(Gt)が大好きな「タンタンの冒険」の作者の名前だ。タンタンが旅する「月」と「砂漠」という壮大なモチーフに挟まれた歌詞は、「懐かしい匂い」「あざやかな画材」「手にもてるだろう」など、五感をくすぐる表現をちりばめながら、あくまで日常を送る生活者の視点で描かれる。
活動拠点を京都から東京に移したHomecomingsのメジャー・デビューアルバムとなる『Moving Days』に収録されている本作。温かな音色のアンサンブルと優しさをたたえた畳野彩加(Vo / Gt)の声は健在で、1番のAメロの冒頭、「いつものうた」が2番で「新しいうた」に変わるように、新天地に軽やかに足を踏み出す4人の門出を飾る楽曲になっている。
タンタンのように月まで行くのは難しいかもしれないけれど、新しい街に引っ越し、生活していくことそれ自体も、本当は冒険なんじゃないだろうか。 “Herge”を聴くと、ささやかな発見に満ちた普段着の毎日が、「柔らかに変わる光」のようにきらきら輝いて見えるのだ。(松原 芽未)
引っ越しでの変化があらわれた一曲(マーガレット安井)
先日、タナダユキ監督の『100万円と苦虫女』を観た。前科持ちになり、実家を離れて各地を転々として生活をする主人公を描いたロードムービーだ。主人公が人間的に成長する姿を見ながら、「引っ越しは人間に変化をもたらす」と感じたが、その時と同じ印象を“Herge”にも持った。
昨年、長年ホームとして活動していた京都から、東京に引っ越しをした Homecomings。メジャーデビューアルバム『Moving Days』の先行曲として公開された“Herge”だが、本作は福田穂那美(Ba)、石田成美(Dr)のリズム隊の存在感が際立っている。この点においては畳野彩加(Vo / Gt)がインタビューで「ふたりの今まで出せていなかった部分がもっと引き出せたらいいな……という気持ちから生まれた曲」と話していたことからも明白であろう。ではなぜリズム隊に焦点を当てたのか。
Homecomings は作詞と作曲を福富優樹(Gt)と畳野の2人が担当してることもあり、メンバー全員のパワーバランスが上手くとれているバンドではなかった。だが解散の危機を乗り越え、4人が東京へ引っ越し。メンバーで同じ時間を密に過ごすことが増えたとインタビュー等で語っている。その時間の流れが、リズム隊の良い所を畳野や福富に教えたのではないか。そう考えると、“Herge”は引っ越しで変化したHomecomings を示す1曲なのかもしれない。(マーガレット安井)
冒険を始めた彼らの“はじまりのうた”(乾 和代)
『めざすは月』。これはベルギーの漫画家Herge(エルジェ)の代表作『タンタンの冒険』シリーズの中の一冊。世界中で冒険を繰り広げる少年記者タンタンとパートナー犬・スノーウィが月世界探検に向かうという話である。
地球から月へ向かったタンタン達とは場所は違えど、京都から東京へと旅立ったHomecomings。拠点を移し、メジャーから初のリリースとなるアルバムから先行してリリースされたのが『Herge』だ。石田成美の刻むドラムにのって、福田穂那美のベースと福田穂那美のギターリフが重なり、伸びやかに日本語で畳野彩加が歌う。これまで4人で積み重ねてきたHomecomingsらしいサウンドのようにも思うが、大人びた空気を纏ったベースのサウンドや歌声を引き立てるようにキラキラとつま弾かれるギターの音色に、化粧をはじめた社会人を見るようなちょっと大人びた表情が垣間見える。
最初は、これから大きく変わってしまうのかと、ノスタルジックな気分にもなったが、曲の最後で“はなさないで月までいってもさ”と歌うの聴いた時に思ったのだ。京都で過ごした日々というのは変わらず彼らの中にありながらも、彼らの目指す新しい場所で冒険を続けていくそんな決意を歌っているのではないかと。さて、この『めざすは月』には『月世界探検』という続編がある。めざす先には何があるのか、この曲も収められたアルバムの発売が楽しみでならない。(乾 和代)
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