ナードマグネット – 怒りのデス・ワンマン@天王寺Fireloop 2015.12.20
パワーポップの申し子としてその実力を誰もが認め、もはや関西の顔となりつつあるナードマグネット。節目となるこの日のワンマンでは、これまでの総括とも言えるセットリストのライブに加え、記念すべき1枚目のフルアルバムの全国発売が発表。約10年近く地道に活動を続けてきたバンドが花開く瞬間を目撃した、多くのファンにとってたまらない一日となった。
映画『マッドマックス4 怒りのデス・ロード』のパロディとして「怒りのデス・ワンマン」と銘打ったこの日、チケットは200枚が事前に完売。なんとワンマンを見るために「怒りのデス・ツアー」なるバスツアーが組まれ、東京からも熱心なファンが駆けつけた。驚いたのはオープンからスタートまで一時間あるにも関わらず、オープン直後からフロアに大勢のお客さんが集まったことだ。我先にとステージ前のスペースを確保していく。スタート10分前にはフロアは一杯になり、ファンの期待も最高潮に達したスタート予定時刻から遅れること5分。スターウォーズのテーマを入場SEにナードマグネットのメンバーがステージに現れた。
『スターウォーズ ep7』を見たことを前フリとして、自らのTwitterでもアピールしていたVo/Gtの須田。映画の話もそこそこに、彼がいつも通りの「ナードマグネットだこの野郎!」というあいさつをすると同時に、『ぼくたちの失敗』でライブはスタート。この日を待ちわびていたのだろう、メンバー全員が満面の笑みを浮かべ演奏を開始した。ファンもそれに応えるように拳を挙げる。その勢いのまま『ばくだんベビー』へ突入すると、拳だけでは我慢できなくなったファンが一斉にジャンプをしてノッていく。待ちわびていたのはメンバーだけでなくファンも同じなのだと感じた。その後の『ウェンズデイ』では早くもシンガロングが起き、のっけから大盛り上がりを見せていた。
5曲を一気に演奏するとMCを挟み、ここで須田がイベント名に触れた。「怒りのデス・ワンマンの何がデスって、普段6曲しかやらない僕達が20曲もやることだからね」と言って笑いを誘う。それと同時に、このワンマンに対する直前の期待と不安を口にしていたが、Fireloopの奥までパンパンになった会場を見て、そんな不安も吹き飛んだことは間違いない。
そこから「懐かしい曲をする」と言い『車窓』を披露。そのまま新旧織り交ぜたセットリストでファンの期待に応えていく。3曲程演奏したところで本日2度目のMCを挟み、そこでは今年1年の活動を振り返った。シングルの『Mixtape』のツアーで来日したThe Eversonsとのことが深く印象に残っているようで、その思いを語った後に彼らのカバーを演奏。この1年ナードマグネットを追いかけていたファンはついついニヤリとしてしまう場面だっただろう。その後「教室のスミで誰とも交われないようなやつに歌いたい」と、須田が歌に込めている思いを吐き、その象徴とも言える『プロムクイーン』を演奏。多くの人が踊り狂い前半のハイライトとなった。
後半戦は雰囲気を一転させ『グッバイ』でシッポリとスタート。この時ばかりは皆じっと耳を傾けて聞きいっていた。しかし『いとしのエレノア』のイントロが流れた瞬間にテンションが上がり、曲中では自然と手拍子が生まれる。続けて演奏された『恋は呪い』でがっちりと肩を抱き合いシンガロングする人たちまで現れて、ピースフルな空気が会場を満たしていく。
最後のMCでは須田がこの2年間の総括として、先日解散したHOLIDAYS OF SEVENTEENとの思い出を語った。学生の時から憧れていた存在として対バンできた喜びに加え、「解散して残念だ」と無念さを覗かせた。また「解散して世に知られるべき良い曲が知られなくなるくらいなら、僕たちが勝手にやってやる」と、HOLIDAYS OF SEVENTEENの『Is This Love?』をカバー。その直後にこの1年大切にしてきた『Mixtape』で、彼らなりのアンサーを見せる。「さよならなんて信じられないね、こんなにもこの景色は素晴らしいのにね」、「この夜は僕らのもの、大人には見えないもの、今はまだどこにも帰らないから」、先達への強い愛と彼らの決意にグッときたファンも多いだろう。しめっぽいのは嫌なのか最後は「pluto」で〆たのも彼ららしい。あっという間に20曲の演奏を終えて、楽屋に引き上げていった。
当然のようにアンコールの催促が起きると、少し長めの間が空いてから、ニューアイテムのパーカーに身を包みメンバーが再度ステージへあがった。いつもと少し様子が違い、楽器を持たず横一直線に並ぶメンバー。おもむろにパーカーを脱ぐと、その下のTシャツに「来年5月」「フルアルバム」「全国発売」とそれぞれ書いてあり、フルアルバムの発売が発表された。
この時この日一番の歓声があがり、彼らのCDがいかに多くの人に待ち望まれていたかがよくわかるシーンとなった。ちなみにBa.前川がオチとして、ライブでお馴染みのX JAPANのヨシキTシャツを着て笑いを誘った。須田が「これまで(の道のりは)長かった」と話し、関係者やファンに深く感謝を述べ、『アフタースクール』を披露。ここではとうとう我慢できなくなったのか、ファンがダイブするほど盛り上がった。
演奏終了後すぐにダブルアンコールを求める手拍子が起き、ファンからは「一曲目からやり直して欲しい」、「もっとちょうだい」と賛辞の声が上がる。心の底から発されるその本音に、どれだけナードマグネットがファンに愛されているかが見て取れる。そんなファンの希望に応え最後に、先日行われたGt.藤井の兄の結婚式で使用されたというWeezerの「photograph」をカバーして終了。大盛況のうちにワンマンライブを終えた。
ナードマグネットはこれまで脚光を浴び続けたわけではない。いくつかの大手オーディションで上位に食い込みながらも、受賞を逃してきた経験もある。HPに「優勝は逃しているあたりはご愛敬である」とさらっと書かれているが、その悔しさは一塩に違いない。彼らの素晴らしい所は、それでも誰かに頼ることなく地道に自分たちで経験値を積み上げてきたことだ。賛同者を増やし自分たちで居場所を作っていく、それがワンマンの成功という大きな実を結んだ。これから10年目にして1stフルアルバムの発売という大きな転機を迎えるが、なにも心配することはないだろう。最高のアルバムで私達の期待に応えてくれるはずだし、なにより彼らには多少の向かい風ではビクともしない立派な土台がある。ここからどこまで積み上げていけるか楽しみだ。
SET LIST
1.ぼくたちの失敗
2.ばくだんベビー
3.ウェンズデイ
4.TRAGICOMEDY
5.BOTTLE ROCKET
6.車窓
7.(Let Me Be)Your Song
8.ラズベリー
9.Could It Ever Get Better? (THE EVERSONSカバー)
10.ルーザー
11.プロムクイーン
12.グッバイ
13.いとしのエレノア
14.テキサス・シンデレラ
15.C.S.L
16.YOU&I
17.恋は呪い
18.Is This Love? (HOLIDAYS OF SEVENTEENカバー)
19.Mixtape
20.pluto
en1.アフタースクール
en2.Photograph( Weezerカバー)
WRITER
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26歳で自我が芽生え、とうとう10歳に。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が持てる荷物の量を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
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