【Dig! Dug! Asia!】Vol.1:Stars and Rabbit
「台湾のシーンが熱い」と透明雑誌が日本のインディーシーンを騒がせて、早くも10年近くになるだろうか。その間にもアジア各国を行き来するハードルはどんどんと下がっていった。LCCの就航は増え、フェスなどのリアルな場、そしてSNSや各種プラットフォームが整備されていくことで、文化的な交流も随分と増えたように思う。
その中で日本はどうだろうか?十分に交流が生まれているだろうか?アジア各国からの発信を待つだけでなく、もっとこちらから知ることが必要ではないか。なぜならとっくのとうに、アジア各国はつながっているから。そんなことを感じたのは台南で開催されている『LUCfest 2019』に訪れたときだ。アジア各国からの発信を待つのではなく、こちらからももっと近づきたい。
そんな思いからはじまったこの連載。アンテナのライターが月替りでそれぞれにピンときたアジアのアーティストを今昔問わず紹介することで、読者の方とアジアのシーンにどっぷりつかってみることができればと思う。
紹介するアーティスト:Stars and Rabbit
拠点:ジョグジャカルタ / インドネシア
活動年:2011年 –
公式サイト:http://starsandrabbit.com/
今巷でホットなインドネシアシーンからの刺客
Stars and Rabbitをはじめて見たのは2020年2月。Big Romantic Recordsがオーガナイズして台北・日本をまわるツアーのひとつで、台北のTHE WALL MUSICでのライブだった。その時僕は仕事で一週間ほど台北に滞在しており、業務が一段落した日の夜に遊びにいけるイベントを探していた。すでにコロナウィルスの影響が少しずつ出てきていたタイミング。開催されるイベントの数は多くなかったので、各ライブハウスに名前が載っている出演者の名前を片っ端からYoutubeで検索しては音源を聴くこと1,2時間。イントロのギターリフだけで心惹かれたアーティストがいた。それがVo.Elda SuryaniとGt.Didit Saadのデュオからなる、インドネシアのジョグジャカルタを拠点に活動するStars and Rabbitだ。
昨年のLUCfest 2019でもインドネシアのシーンの盛り上がりを感じたこともあって、興味がわいたのですぐにその場でチケットを予約。新譜のリリースツアーではあったものの、まだサブスクにもリリースがされていなかったのでリードシングル “Little Mischievous” のMVだけを見てライブへ向かった。
魅力はインドネシアの文化らしい混然とした楽曲群と、ヴォーカルEldaの歌唱力
Stars and Rabbitに一発で虜にされてしまったのは、Sigur Rós・Radiohead・Portishead、などのヨーロッパを中心とした90sの内省的なオルタナティブ・ロックを昇華した多彩な楽曲群にある。ある時は“Little Mischievous” のようなリスナーもシンガロングができる軽快なギターポップを、また “Attic No.7” ではトリップ・ホップさながらのジャジーでダークな一面を見せている。
この楽曲群に一本の筋を通しているのは、Diditの古き良きロックからの影響を隠そうともしない小気味良いバックビートのギターだろう。プレイの引き出しも多く、ソロではギターヒーローらしさを見せることもあれば、リズムギターを弾き裏方に徹することもある。ギター一本で様々な楽曲を成り立たせていたり、作曲もEldaと一緒に行っている点からThe Smashing Pumpkinsにおけるジェームス・イハを思い出す存在だ。
またライブを見てなにより印象に残っているのはEldaの歌だった。小さな身体のどこから出ているのか、というほど大きな声は会場全体を震わせ、メロディは神秘的ながらエスニックで、アジアらしい路地裏の湿度を感じさせる。そしてキュートながらハスキーな歌声は時にThe Cardigansのニーナ・ペルソンを、ディーヴァらしい立ち居振る舞いと芯の強さはBjorkを彷彿とさせた。いずれもアイスランド・北欧と寒い国のアーティストだが、真逆の風土であるインドネシアのアーティストが同じ風をまとわせていることが興味深い。ともにスケールの大きさを感じるのは、各国に共通して存在する壮大なランドスケープゆえだろうか。その原風景に触れてみたくなる。
今回、僕がStars and Rabbitに出会ったのは2020年2月だが、実はすでにインドネシアではかなりの知名度を誇っていて、UKツアーなども成功させている。2017年にリリースした “Man Upon The Hill” はYoutubeでは再生回数は1500万回再生に迫る勢いだ。でも音楽との出会いはいつだって遅すぎることはない。彼らに興味を持ってくれたのなら、インドネシアという今アジアで最もホットなシーンのひとつを一緒に掘り下げてみて欲しい。
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WRITER
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26歳で自我が芽生え、とうとう10歳に。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が持てる荷物の量を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
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