COLUMN

【東日本編】ライブハウス・クラブでの思い出のエピソード

MUSIC 2020.04.12 Written By 堤 大樹

募集の経緯

こんにちは、編集長の堤です。

 

2ヶ月前、コロナウィルスが中国で発症したとのニュースを見た時に、ここまで大きな火の粉が自分たちに降りかかることを予測した人がどれくらいいたでしょうか。僕自身、かなり甘くみていた節がありますし、のんきに3月の旅行のことを考えていました。その状況が大きく変わるのにたいして時間がかからなかったことは、みなさんもご存知の通りです。

 

今、多様な人を受け入れ、また人間としての豊かな営みを生み出してきた多くの場所が存続の危機に瀕しています。ライブハウス・クラブ・映画館・ギャラリー、文化的な場に限らずバーやカフェも似たような状況でしょう。なによりも厳しいのは政府や行政に自粛は求められるが、補償も給付も約束されていないこと。

 

私たちはインディーのメディアです。今できることは多くないかもしれません。なにができるかを悩んだ末に、まずは「少しでも文化的なものを身近に感じてもらえないか」という考えにいたりました。先日、実施された「Save Our Space」という自粛要請に伴う助成金交付のための署名活動では、予想を上回る30万もの賛同が集まりました。こういった活動をもっと後押ししたい。そのために「暮らしの中にある文化や芸術、それを一人ひとりのエピソードを通じて伝える」ことで、社会の中での文化・芸術のあり方を可視化したいと思ったのが、今回の募集の経緯です。

 

映画館やギャラリー、イベントなど多くのものごとをテーマに公募したいと感じてはいるのですが、まずは「ライブハウス・クラブでのエピソード」からスタートさせていただけますと幸いです。ぜひみなさんがそれぞれの場所で、どのような体験をされてきたのか、そしてあなたをどのように形づくっているのか、その声を聞かせてください。

募集概要はこちら

西日本編はこちら

北海道:札幌 KLUB COUNTER ACTION

寄稿者:Cossackさん

漠然と何かのクリエイターになりたいと思い、ロクに学校行かずにバイトしながら週5で通い詰めたライブハウス。気づけばそこでバイトしていた。

 

クラブに来る外人と毎回のように喧嘩していたらスタッフになった先輩1。会話のほとんどがラップになっている先輩2。そしてすごい才能溢れてかっこよかったけど、結果的に墨汁やボンドをよく口から吹き出していた先輩3。

 

3人にだいぶ雑に教えてもらいながら1年ちょっと働いた。13人でパグパイプを演奏する屈強なガテン系スコットランド好きバンドと角煮を振る舞うバンド、寺山修司について熱すぎるくらい語る、元暴走族の特攻隊長がボーカルで、入場曲がなぜか白鳥の湖のバンド。これまでインストだった曲にボーカルが何かを思い、「となりの海のワカメは青い」と歌ったあのバンドは、解散してもずっと忘れることがない。

 

ちょっと極端な世界観もあったけども、あの場所があったから、世界の広さとか人の違いを楽しむことができています。

東京:TSUTAYA O-Crest(渋谷ON AIR)

寄稿者:75さん

ライブハウスと音楽が繋いでくれた嘘みたいな本当の話。

 

2018年3月、渋谷のTSUTAYA O-Crestで開催されたハンブレッダーズのレコ発を観に行った。対バンはナードマグネット。私は当時21歳。熱くぶつかり合う2バンドがあまりにもかっこよくて、胸がいっぱいになりながら道玄坂を下った帰り道を今でも覚えています。

 

それからハンブレやナードを好きなったおかげで「パワーポップ」に出会い、聴き漁って偶然辿り着いたJellyfishというアメリカのバンド。サイケデリックなジャケ写が目に止まり、再生してみるとどこかで聴いたことがある気がした。そういえばこのジャケ写も見たことある。

 

そんな曖昧な記憶の正体は中学生の頃の自分にあった。音楽に興味を持ち始めたばかりの私は、母からJellyfishのCDを譲り受けていたのであった。思わぬ繋がりが嬉しくてすぐにCDを取りに実家に帰ると、母はJellyfishの来日ライブを渋谷の<ON AIR>というライブハウスで見たと教えてくれた。そんな名前のライブハウスあったっけ、と思い調べてみると<TSUTAYA O-EAST>の前身となる箱らしいことがわかった。そして、1993年に<ON AIR>でJellyfishの来日ライブを観た母も当時21歳だった。

 

21歳の母と、21歳の私。同じライブハウスで大好きなパワーポップスターを観て、余韻に浸りながら道玄坂を歩いた夜があったなんて。名称や形態が変わっても20年以上の時を経て繋がった奇跡みたいな偶然は、歴史があるからこそ起きたこと。音楽好きにとって何よりも大切なライブハウスを守って、これからも沢山のドラマで歴史を紡いでいけますように!

東京:下北沢Club Queでのエピソード

寄稿者:村田タケル(SCHOOL IN LONDON)さん

2012年。深夜の下北沢Club Que。10人にも満たないお客さん。その一人こそおれ。

 

就職に伴う上京。ロックが好きだったからロックのパーティーに行きたかった。ライブの折込フライヤーで知ったパーティー。行ってみて、お客さんが少ないことなんて自分には関係無かった。

 

自分が知らないカッコいい音楽。新しいものも古いものも。自分が知っている音楽。しかし、DJが作る曲の流れで自分が知らない良さに気付く。興奮した曲の繋ぎを思い出しては、買ったばかりのDJプレイヤーで真似してみる。そんな日々をずっと過ごした。

 

いつの日か自分自身もDJになっていた。今では中規模イベントにも出演できる機会がたまにあるけど、あの日の10人にも満たないアンダーグラウンドで起きていたことが礎としてあることは確か。小さなものでもプライオリティな価値観として実践できるインディペンデントな場所がそこにはある。人との出会いに価値を置く人も多いけど、自分の中ではクラブとはそんな場所。

東京:新宿Nine Spicesでのエピソード

寄稿者:貧乏暇なしさん

岡安嬢(アンテナ副編集長)にはお世話になったり、少しの嫉妬心を抱きながら関東で活動しているカメラマンです。

 

昔、ずっと好きだった人といろんなライブに一緒に行ったり、 好きな音楽や色んな趣味を共有していたけど色々タイミングが合わず付き合うという事はなく、ただ仲のいい友達という感じでそれ以上は近づきもせず離れるもしない感じで過ごしていて、僕から海外のバンドKittyhawkを勧めたら相手もとても気に入ってくれて、お互い来日を楽しみにしていたけど、いつの間にかそのバンドは解散してしまって一度も見れずに終わっちゃたなぁと残念な気持ちとちゃんと大人にならなきゃいけない年代(未だにちゃんとした大人になってないけど)というのもあり、お互い連絡もあまり取らなくなってしまい、SNSとかで何しているかを知る程度になってしまって数年。

僕が敬愛して聞いているmalegoat・The Firewood Projectのベーシストの岸野一氏が今年の1月にthe lost boysという名義でまさかの解散したKittyhawkのJapan tourを組んでくれて、真っ先に連絡をしようと思ったけど相手は結婚もして生活も変わっただろうと思い、直前で思いとどまり連絡する事なく来日公演最終日の新宿<Nine Spices>に行くと、その子が旦那さんとライブに来ていて色々思い出しちゃったのとずっと見たかったバンドを見れたので複雑な感情になってしばらくはポカーンとしちゃってたけど、いつまたこんな出来事があるか分からないからしっかりフンドシ締め直してかっこ悪いところ見せられないなと自分に一喝。

 

音以外にもいろんな出会いや感情が渦巻くライブハウス。 今は大変な時期だけれどもまた素敵な出会いやドラマを作ってくれる日がまたすぐ訪れますように。 僕が勧めた音楽をずっと好きでいてくれてありがとう!

神奈川:F.A.D yokohama

寄稿者:Yukiさん

11月中旬。寒気が街を覆い始めた頃、クリスマスの訪れをちらつかせる横浜の街並みを、僕は一人歩いていた。OGRE YOU ASSHOLEの新譜『フォグランプ』のツアーに参加すべく、F.A.Dという初めてのライブハウスへ向かっていた。

 

大人の入り口に差し掛かった年齢の僕が一人で来る、ほとんど初めての横浜。テレビで見ていたおしゃれな街を、ちょっとドキドキしながら歩く自分が少しイケてる男になれたかも、と錯覚していたのは、自分だけが知っている素晴らしい音楽を楽しみに行くんだ、というインディーキッズ特有の若気の至りもあったと思う。

 

店名のネオンが光り、様々なバンドのポスターが貼られているウインドウ。ちょっと怪しげな空気に、背徳感に似たわくわくを感じる。到着までの道すがらに中華街で買った肉まんなんかほおばってみたりして、白い息を吐きながら開場を待った。派手なことはなかったけど、この日の様子はなぜだかはっきりと覚えている。

 

対バンのおとぎ話のステージに飾られた、儚げなイルミネーションと多幸感のある演奏。MCもほとんどなく、淡々と演奏をするオウガの面々。大歓声が沸くわけでもなく、一心にステージへ腕を振る様な場面もなかった。だけれども、グラスを片手に、ほほえみをたたえながら、それぞれが気持ちよさそうに揺れる。終演後のフロアは一人ひとりの充実感で満たされていたように思う。

 

一人で来た僕も誰と話すわけでもなく、冷たさの強まった横浜の街を駅へと早々に引き返していった。自分だけの充実感を胸に。こころなしか、街の灯りが来たときよりきらめいて見えたような気もする。

 

ただライブハウスへ行き、音楽を聴いて、家路につくという、言葉にすればささやかな一日。けれど10年経った今でも、そのささやかな一日のほのかな温かさがこうして胸に残っているのは、街々にあるあの空間での体験があったからこそだと思う。

 

こうした何気ない日常への喜びを、これからも感じられる世界が続けられますように。

あなたのエピソードもお待ちしています!

WRITER

RECENT POST

REPORT
【SXSW2024】再起や復活とは距離をおく、中堅バンドと継続のすごみ
REPORT
【SXSW2023】移りゆくアジアの重心と、裏庭に集う名もなき音楽ラバーたち
REPORT
【SXSW2022】地元に根付いたバカ騒ぎの種火たち、3年ぶりのオースティン探訪
INTERVIEW
あの頃、部室で – 夜音車・頓宮敦がDo It Togetherにつくりあげた果実と、その界隈
INTERVIEW
25万人集まる海外フェスも、30人規模の地元のハコもやることは同じ 手探りで進み続ける、おとぼけビ~…
INTERVIEW
失われた「ジャンク」を求めて – WHOOPEE’Sというハコと、GATTACA / GROWLYの…
INTERVIEW
土龍さん、この10年どうやった? 最小で最愛な私たちのライブハウス、nanoの旅路
COLUMN
未来は僕らの手の中(か?)|テーマで読み解く現代の歌詞
INTERVIEW
“エゴ”だけじゃ形にならない。『フリースタイルな僧侶たち』初代・三代目の編集…
COLUMN
書評企画『365日の書架』4月のテーマ:はなればなれになって
COLUMN
書評企画『365日の書架』3月のテーマ:ここじゃない場所に生まれて
COLUMN
書評企画『365日の書架』1月のテーマ:時間が経つのも忘れて
INTERVIEW
バランスのいい選択肢が無い!!多様な価値観の都市で育った〈汽水空港〉店主・モリテツヤさんが人生の選択…
COLUMN
書評企画『365日の書架』12月のテーマ:もっと読むのが好きになる
COLUMN
【西日本編】ライブハウス・クラブでの思い出のエピソード
COLUMN
【Dig! Dug! Asia!】Vol.1:Stars and Rabbit
INTERVIEW
自分たちで責任を取り続けられる企業であるために。FREITAGの創業者Markus Freitag来…
INTERVIEW
台湾インディーシーンの最前線を走り続けるSKIP SKIP BEN BENこと林以樂、初の本名名義と…
COLUMN
【2019年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年09月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年08月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
制作もライブも自然体で。京都のシンガーソングライターいちやなぎインタビュー
COLUMN
【2019年07月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年06月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年05月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年04月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年03月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年02月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年01月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年12月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年11月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年10月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年9月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
Homecomings – Songbirds
INTERVIEW
ボロフェスタ主催のひとり飯田仁一郎に聞く、ナノボロフェスタでトークイベントを行う理由
INTERVIEW
出町座
INTERVIEW
【モーモールルギャバン / ゲイリー・ビッチェ】好きで好きでたまらない!スーパーノアは俺に語らせて!…
INTERVIEW
【くるり / ファンファン】好きで好きでたまらない!スーパーノアは俺に語らせて!3rd mini a…
COLUMN
【2018年7月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年6月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
Siamese Dream – The Smashing Pumpkins
REVIEW
MISS YOU – ナードマグネット
COLUMN
【2018年5月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
「自分たちが面白いことが一番面白い」この二年間の活動の変化を、踊る!ディスコ室町Vo.ミキクワカドに…
COLUMN
【2018年4月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
【SXSW2018】国別に見る、良かったアーティストまとめ
REPORT
【SXSW2018】世界のミュージックフリークスに聞いた、今年のおすすめ出演者
REPORT
【SXSW2018】日本のミュージシャンの世界への接近と、各国のショーケース
COLUMN
ki-ft×アンテナ共同ディスクレビュー企画『3×3 DISCS』
REVIEW
Man Of The Woods – Justin Timberlake
COLUMN
【2018年3月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年2月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
ライブハウス店長・ブッカーが振り返る、2017年ベストアクト
COLUMN
HOLIDAY! RECORDS / 植野秀章が選ぶ、2017年ベストディスク10
COLUMN
【2017年12月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【月一更新・まとめ】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
映画『MOTHER FUCKER』京都みなみ会館 特別先行上映レポート
COLUMN
【2017年10月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -堤大樹 ③広島東洋カープ編-
INTERVIEW
【特別企画】ミュージシャン、好きな映画を語る – バレーボウイズ・本日休演・踊る!ディス…
REPORT
【SXSW2017】vol.0 まとめ
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -堤大樹 ②音楽編-
REPORT
終わらない孤独な旅で見つけた、彼女の”光”とは?Laura Gibson ジ…
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -堤大樹 ①初めてのひとり旅編-
REPORT
the coopeez 『キネマBANPAKU』 @ みなみ会館 2016.05.21
SPOT
朧八瑞雲堂
SPOT
吉靴房
SPOT
BOLTS HARDWARE STORE
REPORT
ナードマグネット – 怒りのデス・ワンマン@天王寺Fireloop 2015.12.20
INTERVIEW
CARD×椎木彩子の関係について:後編
INTERVIEW
CARD×椎木彩子の関係について【前編】
INTERVIEW
鈴木実貴子ズは何故ライブバー&鑪ら場を始めたのか?
REPORT
斑斑(skip skip ben ben) “台湾から来た二人” @公○食堂 2014.11.01
REPORT
スキマ産業vol.39 @ 木屋町UrBANGUILD ライブレポート
REPORT
the coopeez newbalance tour @京都MOJO ライブレポート

LATEST POSTS

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…

REPORT
壁も境目もない音楽の旅へ‐『京都音楽博覧会2024』Day1ライブレポート

10月12日(土)13日(日)、晴れわたる青空が広がる〈梅小路公園〉にて、昨年に引き続き2日間にわた…

REPORT
自由のために、自由に踊れ!日常を生きるために生まれた祭り – 京都学生狂奏祭2024

寮生の想いから生まれたイベント『京都学生狂奏祭』 …