【もっと身近なクラブカルチャー】vol.1:GROOVER
クラブに行ったことはありますか?日常の中でモヤモヤする時、どうにもやりきれない気持ちを抱えている時に、大音量の音楽を浴びながら踊っているとなんだか気分がスッとする。そんな体験ができる場所がクラブです。連載『もっと身近なクラブカルチャー』では、主催DJの言葉を交えて関西の魅力的なクラブイベントを紹介していきます。「なんだか敷居が高そうだな」、「僕なんかが行ってもいいのかな」と感じている人も身近に感じられるように。そして、あなたが音楽ライフの新たな一歩を踏み出せるようになれば幸いです。
第一回は今年20周年を迎えるGROOVERをはじめ、数々のロックDJイベントを手がける、SEOさんに話を聞いてみました。
GROOVER -All Genre Rock Event-
日時:毎月第三金曜日 21:00〜翌4:30
場所:NOON+CAFE 大阪市北区中崎西3-3-8JR京都線高架下
出演:【DJ & VJs】SEO, GAMMY, KiM, CASE
料金:当日 ¥1,500 (1ドリンク代別途)
Webサイト:DJ seo’s Nevermind
※現在の開催日程や詳細についてはWebサイトなどでチェック。
非日常のライブ体験を日常のクラブでも
はじめにGROOVERの概要を教えてもらえますか。
大阪梅田、中崎町にあるクラブ<NOON+CAFE>で毎月第三金曜日に開催されている、オールジャンルロックイベントです。海外のインディロック、パンク、ヒップホップやダンスミュージックなどの音源を用いて、<NOON+CAFE>の大画面のスクリーンを使ってMVやライブ映像を交えながらDJしています。ここ5年くらいの曲を中心とした新し過ぎず古過ぎないスピード感で、音楽をよく聴いてる人から、詳しくはないけど音楽が好きで好奇心がある人まで、バランスよく楽しんでもらえるよう心がけていますね。ゲストDJを呼ぶ月もありますが、通常は僕とGAMMYとKiMの3人のレギュラーDJで毎月まわしています。
SEOさんが得意なロックやポップスだけでなく、ハードコアやワールドミュージックも飛び出してきて、いつもジャンルが幅広いなって思ってます。やっぱり他のDJの影響も大きいですか?
イベントとしての大きな方向性はあるけど、それぞれの得意分野から幅が広がっているので、3人でやっている意義は大きいです。僕一人の選曲だとどうしても幅が狭まってしまうし。GAMMYはダンス系やワールドミュージック全般、僕の知らないところも幅広くカバーしていて、刺激になっています。KiMは比較的若くて、2000年代後半から現在までの音楽、最近ではヒップホップ(トラップ)もよくかけている。ラウドなサウンドをプレイすることが好みで、僕にはないグルーヴ感がすごく特徴的。見た目もわかりやすいし(笑)。
GROOVERの大きな特徴としてライブ映像を使うことがひとつあると思います。今年だとBillie Eilishの映像はすごく盛り上がりましたよね。ライブ映像を使う意図を聞かせてください。
海外のアーティストの来日ってあまり多くないじゃないですか。だから大きな音でライブを楽しめる機会ってのがそこまでなくて、その繋ぎとして、クラブで楽しみたいというのが根っこにあります。僕は音楽体験の中でもライブで体感することがとても大事だと思っていて、それをクラブで補うという考え方ですね。
ある種疑似的なライブ体験ということですね。
そうですね、YouTubeが普及しだして、家で集まってダラダラ喋るみたいな遊び方も増えてきたと思うんですよ。それをクラブで大音量でやりたいなってのがあります。特にあまり音楽に詳しくないお客さんにとっても、映像があると全然知らない曲でも興味が湧くと思うので。眺めてるだけでも退屈しないし、遊びにきたときの満足感や居心地は違うんじゃないかって思うんですよ。ライブの演出や振りをお客さんが真似て遊んだりするのもいいですよね。
映像は昔から使ってるんですか?
2005年くらいにDVDでDJができるDVDJっていうものができて、「これだ!」と思ってビデオクリップ集を買いあさるようになったんですね。そういうことを5年くらいやって2010年あたりからPCでやるようになりました。
時代の変遷ですね。今と違って作業が大変そう。
あの頃はめちゃくちゃ忙しかった。DVDは音質がよくないから、レコードで音を流しながら映像だけDVDを流すってことをやってて。今もミュージックビデオを編集したりするので手間はかかりますが、現場ではだいぶ楽になりましたね。でもその根幹にはミュージックビデオやライブ映像で踊るっていう新しい遊び方を提案したいという思いがありました。
これから先もテクノロジーでクラブの遊び方も変わるんですかね?
僕が生きてる間に絶対やりたいのは3Dですね(笑)。DJブースの前にホログラムステージみたいなのを作ってスターウォーズみたいに投影して、それこそライブ会場にいるような体験ができたらいいななんて思ってます(笑)。
それはめちゃくちゃ面白そう(笑)。
自分が遊びに行きたくなるような場を作りたい
あと特徴的だなって思うのは、GROOVERでは用紙を設置して広く楽曲のリクエストを募ってるじゃないですか。クラブイベントとしては結構珍しいなと思うんですけど、あれはどういった意図があるんですか?
自分が遊びに行きたくなるような場を作りたいという思いが根底にあります。やっぱりせっかくクラブへ行くなら自分の好きな曲が聴きたいじゃないですか。実際にリクエストが流れてめっちゃ嬉しそうなお客さんを見るとこっちも嬉しくなります。それとDJってのはフロアの空気を読み取ってお客さんの好みのフロアに仕上げるってのがある種仕事なんですけど、リクエストをとってしまえばそれがわかるので手っ取り早いって側面もあります。
僕もリクエストが流れるとアガります(笑)。でも逆に難しさもあるんじゃないですか?
もちろんあります。やっぱりDJ個人の選曲の流れに乗せるのには頭を使いますね。DJって、3〜4曲後のイメージを常に持って曲をかけてるんですけど、こっちの方が面白いなって曲がリクエストされたら変えたりもするんですよね。だからお客さんにヒントをもらってる部分もあるし、全部はかけられなかったりもするけどもらったからには応えたいって思いもあります。常にその場その場のせめぎ合いですね。
リクエストを書いてる側としては「これをかけさせてやろう」とか「DJをだしぬいてやろう」みたいな気持ちもあったりします(笑)。それもまたリクエストの面白さだったり。
そういう遊び心もまた面白いですよね。射幸心みたいなので書いてる人も中にはいますからね(笑)。 DJにヤジじゃないんですけど、「これかけてみろよ!」みたいな曲が入ってくるとDJとしても「おう!」って気持ちになりますね(笑)。
いいコミュニケーションになってると思います。あと21時からっていう時間設定もフレンドリーですよね。終電で帰る時もあるんですけど、そういう時でもちゃんと盛り上がりがあるなって。そこらへんは意識されてますか?
そうですね、金曜日なんで終電で帰る人も楽しめるようにはしたいなって思ってて、日が変わる前くらいまでには一回いいかたちを作って、そのあとまた朝に向かって整えていくって意識は持ちながらやっていますね。お客さんそれぞれの遊び方があるので、必ずしもオールナイトじゃなくても楽しめるようにはしています。
海外フェスのラインナップから現在のシーンを紐解く
近頃は海外フェス特集もよくやってますよね。
ここ数年は“海外フェスのラインナップから現在のシーンを紐解く”というコンセプトで「Music Festivals in the World」という企画を度々やっています。世界のポップシーンの流れを掴むのにはとてもいいし、月ごとに遊びにきてもらう理由づけをちゃんと作ろうということで毎月テーマを変えてやっていますね。それまではかなり昔からフジロックとサマーソニックの特集をしてたんですが、海外フェスっていうのは3年前くらいから特集しだして。
それはなんでですか?
スペインのPrimavera SoundやアメリカのAustin City Limitsなどに足を運ぶ中で、ここ何年かで国内フェスと海外フェスのラインナップに乖離を感じるようになって、海外のラインナップの方が時代性をダイレクトに反映している実感がありました。GROOVERとしては来日するアーティストや新譜のリリース、日本で起こっている洋楽シーンをすくい上げるという意識でやってきたんですが、海外のメインストリームとズレが生じてきたかなって感じて、その差をどうにかしたいと思った時に閃いたのが海外フェス特集ですね。
フェスって時代性やトレンドそのものだし、すごく面白い試みだと思います。
ラインナップをかければ今の流れがわかるっていう。もちろんそのピックアップの仕方もDJの腕の見せ所ですけどね。昔は1アーティストに特化してRadiohead特集だとかOasis特集だとかもやってたけど、リスナーの聴き方の変化もあってなかなか1アーティストを一晩で掘り下げていくってやり方は合わなくなってきた。特集アーティストを5つくらいピックアップしてかける時代も経て、海外フェス特集になってきたという感じです。でも時代がまた変わってきて、The 1975とかBillie Eilishとかみんなが好きなアーティストがまた出てきている。だから2020年代はまた1アーティストをピックアップすることはあるかもしれないです。そういう土壌がまた整ってきたかなという感覚はあります。
アーティストが来日する前にGROOVERが先回りしてリスナーを育ててるような感じがあって、例えば2019年のサマーソニックでBROCKHAMPTONを観た時「前の方知ってる人ばっかやん!」ってなったのがすごく面白かったんです。そういうシーンを育て上げていこうみたいな意識ってありますか?
そんな大層なものではないけど、単純に海外フェスで自分が観てよかったものをもっとみんなにも伝えたいなっていう思いでアツくかけてますね(笑)。だから僕の生き様を表してる部分も大きい(笑)。でもクラブから来日前に火を点けられてるって状況はすごくいいし、そういう話を聞くとDJとして励みになります。
海外フェスの影響はやっぱり大きいんですね。フライヤーか何かで「海外フェスに行く人を応援したい」みたいに書いてましたが、そういう意識はやっぱりありますか?
「海外フェスに行きたいな」って思ってる人の橋渡しとしてこの場を作っていきたいなと思っています。みんな行って欲しいし、もっと身近に感じて欲しい。単純に海外フェス友達が欲しいんですよ(笑)。お客さんの熱狂、みんなで歌う盛り上がりはやっぱたまらないものがあって、そういう姿を見てテンションが上がったり。海外に行くだけでも敷居が高い部分はあると思うので、交通手段で悩んでる人とか、予算の関係とか、色々相談に乗ってあげることもあります。なんでも聞くので、気軽に声をかけてもらえると!
時代とともに20年
そもそものGROOVERを始めたきっかけを聞かせてもらえたら。
97年くらいから僕はクラブで遊びだしたんですが、あの頃のロックDJは敷居が低かったのもあってみんな始めやすかったのは良かったんですけど、その分玉石混交な部分もあって舐められやすかったんです。それと90年代はヒップホップやテクノなどジャンルが多岐に広がって面白かった一方で、「ロックは卒業するもの」みたいな価値観がスタンダードでした。僕は「ろくに知らないのに何が卒業なんだ」って気持ちがあったので、ロックにこだわったDJをしたかったんです。それで「よっしゃ自分でやったろ!」と始めたのがきっかけです。
当時と今の違いは感じますか?
当時は今と違って情報もそれほどなくて、向かっていく方向や好きなものも一緒なので、爆発的なパワーがありましたね。でも10年くらいやってくると世代も変わってきて、自分の好きな音楽とお客さんの求める音楽が徐々にずれてくるんですよ。それぐらいから、いかにフロアを作っていくかというのを考えはじめて。「こういうのをDJとして推していきたい」っていう認知度の低いバンドや曲は常にあって、そのときは流行るんですけど一世代回ってしまうと新しいお客さんは知らなかったり、局地的なムーブメントは時が過ぎるとなくなっていってしまう。でもそういう流れを感じられるのも長く続ける醍醐味の一つですね。
今だとWeb媒体やSpotifyのようなストリーミングサービスの存在も大きいですが、影響は感じますか?
感じますね。ジャンルや形態にとらわれずみんながフラットに楽曲を聴くようになったのは良い変化だと感じています。ただ、一ヶ月にリリースされてる曲の量も昔とは比べものにならないので、そういう意味では難しくなってきてはいます。GROOVERでは手広くいろんな音楽をかけてるので、すべてのお客さんを100%楽しませるというよりも、いかに7割楽しんでもらうかってくらいの感覚で今はやっていますね。でも、知ってる曲で盛り上がるのも楽しいけど、まったく知らない曲で「めっちゃいいやん!」ってなるのも楽しいと思うんですよ。そこでとっつきにくさを感じてしまうこともあるので、常に考えるところですけど。
難しいバランスだろうなとは思います。
DJ人生を通しての命題の一つですね。テクノとかハウスのパーティーならかかってる曲を誰も知らずに踊ってるのも普通なんですけど、ロックのDJは思い入れやアーティストへの愛情、「この曲が好き」っていうパワーを大事にしてるので、その辺が難しさでもあるし面白さでもあります。でもロックのこういう場ってのは本当に少ないので、こういう場が世の中にあってもいいんじゃないかなって思いでずっとやってますね。
次の2月で20周年ですね。ここまで続けられた秘訣はなんだと思いますか?
遊びに来てるみんなに作ってもらってるって実感がすごくあります。不思議と終わる気はしてなかったんですけど、これだけ長いことやってると10年以上来てくれてる人もいるんで、青春の何割かをGROOVERに来て過ごしくれてるのは本当にありがたいことで。お客さんからは「ありがとう」とよく言われて「こっちのセリフだよ」って感じなんだけど、そういう人たちのためにも中途半端なことはできないなって責任感みたいなものが強くあります。そういうみんなが楽しめる場所をこれからもずっと作り続けたいです。
普通なくらいがちょうどいい
クラブでの過ごし方に関して何か思うところはありますか?以前SEOさんが「こんなもんだろくらいで気負わずテキトーに遊んでくれたら」ってTwitterに書いてたのが僕はすごく励みになっていて。期待値が高過ぎても楽しめないこともあるので。
単独公演のライブとかだとそういうこともありますよね。近頃は沢山のDJが出演したりライブやケータリングがあったりと派手なパーティーも多いですが、僕はクラブは生活の一部という感覚で、普通なくらいがちょうどいい。ちょっと音楽を聴きたい、お酒飲みたいくらいの感じで気軽にふらっと立ち寄ってもらえたらなと思っています。そんなに身構えなくてもね。初めてくる人は落ち着かないかなってのもあるんですけど、<NOON+CAFE>だったらバースペースでずっと過ごす人もいるし、それでちょっと気が向いたらフロアに行ってみたり、そんなんでも現場の感じを楽しめていいんじゃないかと思います。一晩は長いので楽しい瞬間がいくつかあればそれでいい、あとはだらっと飲んだりして、「疲れたなー」って思ったら座ったりそんなんでいい。
僕がはじめて<NOON+CAFE>に行った時はカフェとして訪れたんですけど、遠くからThe Smithsが聞こえてきて「センスいいな」と思ったのが印象に残っていて。そういう遊び方もいいかなって。
カフェからダンスフロアに流れてってのもいいですよね。飲み会してもらったりとか(笑)。飲んだ後すぐ踊れるって最高ですからね。
あー、普通に友達と飲んだ帰りとか、今日なんかイベントがあったら最高だなってよく思います(笑)。
そうそう、そういう時にふらっと来れる場所であり続けたいなって思います。僕も普段は会社員をしてるけど、日常の息抜きというか、常に遊ぶ何かがあると生活も楽しいじゃないですか。かといってライブに行きまくれるほどお金の余裕もなかったりする。そんな中で1000〜2000円くらいで気軽に来れる場所ってのが大切かなって思いますね。
最後に来たことない人にメッセージを。
初めての人もぜひ一度遊びに来てリクエストをしてみてください。流れたら嬉しいと思うし、初めて来たって人のリクエストは贔屓してかけたりもするし(笑)。好きな曲を大きな音で映像を見ながら身体を揺らす、そういう楽しさをぜひ体感してもらえればと思っています。
WRITER
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はろーべいべーあべです。フェスティバルとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。fujirockers.orgでも活動中。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。hitoshiabe329@gmail.com
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