【もっと身近なクラブカルチャー】vol.5 SUNNY SUNDAY SMILE
現場で活躍するDJの姿を通してクラブカルチャーをもう少しだけ身近に感じてもらいたい。それが連載『もっと身近なクラブカルチャー』です!クラブのフロアは人種も性別も思想も超えた自由が交錯する場所です。そして、自由が故にフロアに集う人々それぞれの主体性が試される場でもあります。そんな姿を通して単なる遊び場にとどまらないクラブカルチャーの魅力を伝えられればと思います。
今回は〈京都CLUB METRO〉を拠点にこの秋に10周年を迎えるインディー / オルタナティブDJパーティー SUNNY SUNDAY SMILE(以下:サニサン)の様子をレポート。長らく続く新型コロナウイルスの影響もありこの日はデイタイムの開催で、検温や入場者登録、常時マスク着用で大声は出せないというフロアでしたが、そんなことでは決して損なわれないクラブの楽しさが溢れるような日でした。
この連載も数えること第5回。数々のフロアに足を運び、まったく予期しなかった昨今の状況の中でも力強く活動を続けるDJの方々に触れる中で、僕も連載開始当初以上にクラブカルチャーへの想いを深めています。それを一度自分の言葉で語りたい。今回は2021年7月17日(土)に開催されたサニサンの様子を媒介に、クラブカルチャーの魅力をお伝えできればと思います。もちろん感じ方に正解なんてないし、様々な異なる感情が渦巻くのもクラブの醍醐味なので僕のレポートもあくまで「ひとつの見方」ですが、このレポートを通して少しでもクラブカルチャーを身近に感じていただけると嬉しいです。
SUNNY SUNDAY SMILE
INDIE ALTERNATIVE CLUB NIGHT(フライヤーより)
〈京都 CLUB METRO〉を拠点に活動するDJパーティー。主催のOHNO SHINSUKEの地元大分にルーツを持ち、この秋で京都開催10周年を迎える。レコードにこだわる硬派なプレイやVJが繰り出すMVやライブ映像が特徴的で、ジャンルとしての枠に囚われずアティチュードとしてインディー / オルタナティブを捉える選曲が印象に残る。OHNO SHINSUKE、京都のクラブシーンを語る上で欠かせない往年の名パーティーLondon Callingの一員だったIWASAKI SHINとSAKAMOTO SATOSHI、2021年には神戸のUNKNOWN ORDERからAVE、大阪のFREE AGAINからYASが加入し現在の体制となった。ゲストライブとしてこれまでにthe twenties、THE FULL TEENZ、Homecomings、Tempalay、the McFaddin、Great Youthなど、京都のバンドを中心としながらも様々な面々が集う。またFREE THROW、CLUB SNOOZER、BRITISH PAVILION、mogran’BARといった各地のパーティーとのジョイントイベントのほか、2020年にはJELLY SPUNKの中村一元とともにポッドキャスト『SUNNY SUNDAY SPUNK』を開始。最近では大阪〈Alffo Records〉でも開催するなど活動の幅を広げている。
出演:【DJs】OHNO SHINSUKE、IWASAKI SHIN、SAKAMOTO SATOSHI、AVE、YAS 【VJs】FJOK、DAISUKE + Guest DJ, Live
Twitter:https://twitter.com/sunnysundaysmil
Instagram:https://www.instagram.com/sunnysundaysmilekyoto/
SUNNY SUNDAY SPUNK:https://soundcloud.com/user-240808024
※現在は不定期開催。開催日程や詳細についてはSNSなどでチェック。
ソーシャルディスタンシングなフロアで交錯する、各々の自由なフィーリング
イラストレーターの橋本とともに、河原町から鴨川沿いを北上する昼下がり。快晴の空の下で〈京都CLUB METRO〉に向かうことがすでに僕の中では異様なのだが、慣れていない人にとってはどうしてもハードルが高いオールナイト開催と違って、多くの人に開かれた時間設定だろう。もちろんこれはコロナ禍の次善策ではあるが、ある意味チャンスのようにも思う。14時過ぎ、〈京都CLUB METRO〉に到着。今日はどんな日になるだろうか。
僕が〈京都CLUB METRO〉に到着したタイミングではToresor Riziki & Beatenberg“Aphrodite”が流れ、IWASAKI SHINがチルめな立ち上がりを演出していたが、僕は特別熱心に聴くでもなく早くから集まっている面々と談笑をしていた(もちろんマスク着用だ)。しかし会話中でもアツい曲が流れてくるとあっさりフロア前方に行くなど楽しみ方に制約がない。このことは(本当はそんなことはないのだが)最初から最後までしっかり観ないといけない空気になりがちなライブとの大きな違いといえるだろう。6時間も延々と曲が流れ続け、バンドと比べると特に目立つ動きのないDJを楽しむというのは、あまり足を運んだことのない人にはイメージしにくいことなのかもしれない。だが実際にはクラブのフロアには、ひとつとして同じ瞬間が見当たらない様々な情感が溢れているのだ。
DJを引き継いだYASは、素直に高揚するUK / USインディーを中心としたプレイ。Radio 4“Eyes Wide Open”なんてここで聴くまで忘れていたほどだが、みんなが歌えるアンセムも「これ知ってるの僕だけじゃないか」なんて思うニッチな偏愛も流れるいい塩梅だ。一方AVEはダウナーなニューウェーブから入りFontaines D.C.“A Hero’s Death (Soulwax Remix)”へと展開。カバーやリミックスで原曲とは違う魅力を描くのもサニサンの特徴だが、DJごとに違う持ち味が早くも感じられる。
昨年のナノボロフェスタから一貫して感じていたことだが、ソーシャルディスタンスとダンスフロアはとても相性がいい。AVEが展開してきたビートに重きが置かれた音楽はもちろんのこと、ロックやポップスでもこの環境下なら気兼ねなく各々の身体のリズムに没入できるのは、ただただ疲弊するばかりのコロナ禍に見出せたひとつの光明と言ってもいいだろう。同じタイミングで一様に手を挙げるような一体感とは違う、「それぞれ好きなように踊っている」という唯一の共通項を通した一体感。そしてそれが不意に共鳴する瞬間。例えばOHNO SHINSUKEが繰り出した世代のアンセムThe Strokes“Last Nite”もそのタイミング。僕は各々の自由なフィーリングが交錯するこの瞬間が大好きなのだ。
しかし自由には一定の責任が伴う。もはやルールを破ることがロックやパンクだなどと考えている人はいないと信じたいが、僕から言わせればロックやパンクとは筋を通すことだ。集う人達もそのことをわかっているから、自由で気さくに振る舞う中でも他者への思いやりとリスペクトを忘れない。もちろん荒れている現場がないわけではないだろうが、少なくともこの日のサニサンは楽しみながらも節度のあるフロアだったことは、ここにいた人たちが証明してくれるだろう。
王道と裏切り、バンドの熱狂とフロアの高揚
そして登場するのはGreat Youth。延期に次ぐ延期で先延ばしとなっていたこともあり満を辞してのゲスト出演だ。回によってはバンドを呼んでいるサニサンだが、そのブッキングの基準は音楽性やポピュラリティより「ここで一緒に楽しみたい人たち」なのだろう。初出演の京都の4人組のパフォーマンスもフロアに自然と馴染んでいく。スペーシーなギターサウンドを展開する最新リリースの“SAD!!!”。現在制作中というアルバムからの新曲はYusuke Ijichi(Vo / Gt)とNanami(key / Cho)のユニゾンする歌声が光る。リズムトラックと生音のドラムを織り交ぜたビートとフロアを照らす鮮烈なライティング。「ハードコアな踊りを推奨してるけど次はエロいやつを」と語る“Loveless”ではメロウなムードが漂い、DJとは違うライブの高揚がフロアを包んでいた。
もちろんGreat Youthが目当てのオーディエンスも多かったのだろうが、ライブ中でもDJプレイ時と変わらずそれぞれ思い思いに楽しめるのは、パーティの良さであり〈京都CLUB METRO〉の懐の深さがなせるものだろう。ゲストDJのWATTANはついさっき物販で買ったマーチのTシャツを着て最前列で踊ったりと、クラブとライブの垣根を越えて様々な層が入り乱れるフロア。このご時世なので大きな合唱とはならずとも、サッカーのチャントのように声を上げる“Cure”では、先日のインタビューで村田タケルが語っていたような「集った人々のバイブスがすべて絡み合った瞬間」を感じたものだ。
だがこの日のサニサンがさらに深まっていくのはここからだった。バンドから流れを引き継いだのはゲストDJのWATTAN(BRITISH PAVILION)。僕はGreat Youthのサウンドからの連想で「The 1975なんかが流れるとドラマチックだな〜」なんて今思うと安直な想像をしていたが、彼が繰り出したのはスクラッチ音の応酬に、ハウス、テクノ、エレクトロニカ。頭の中に疑問符を浮かべながら踊る僕だったが、彼が最初に着ていた「100% HOUSE」と綴られたTシャツを掲げた時すべてに合点がいった。
そして徐々にロックに移行しながらKula Shaker“Hey Dude”の最高潮から突如芸能山城組“Kaneda(From Akira Symphonic Suite Original Motion Picture Soundtrack)”を投下。ここには首都で始まろうとしていた催しの含みを感じざるを得なかったが、「ラッセーラ」の掛け声とともに金田や鉄雄、ミヤコ様が映し出されるVJを眺めていると妙なトリップ感を覚えたものだ。思えば(僕の聞き逃しでなければ)この日は誰もThe 1975をプレイしていない。素直に王道に乗るところは乗りつつ、安易な選択は拒否して大胆に裏切りもする。それぞれのDJの矜持がはっきり現れ始めたのはまさにこの時からだった。
「俺が主役だ!」と言わんばかりのDJたちの個性の協奏
WATTANが刺激したそれぞれのDJの自我がフロアに放たれ、終盤にかけて加速していくサニサンと〈京都CLUB METRO〉。雑談をする中でOHNO SHINSUKEは「どれほど優れたDJをしようがあくまで主役は楽曲」といったことを話していたが、僕のような音楽ライターもそれは同じではないかと思う。楽曲のサウンドやメッセージを自分なりに解釈し、DJプレイで(文章で)提示する。そしてオーディエンス(読者)がそれを受け取ってまた自分なりに考える。
そしてディスコグラフィという制約のあるミュージシャンとは違い、ほとんど無限に近い選択肢の中から半ば即興的に時代の空気を察知しながら場を作り上げていくのもDJプレイの大きな特徴だ。例えばなかなか意外な選曲だったフジファブリック“若者のすべて”は、この日2年ぶりにやっていた祇園祭を筆頭に、この時勢で失われていた「夏の象徴」達が活気を取り戻そうとする姿をささやかながら讃えているようでもあった。この日のサニサンの中盤から終盤にかけて、そんなDJの想いがサウンドに乗せて交錯していた。
「音楽を楽しむこと」と同じかそれ以上に、「交流を楽しむこと」もクラブの醍醐味のひとつ。「結構前にライブハウスで会った以来だけどあれからどう?」「先日のパーティー楽しかったですね!」なんて近況報告をしたり、SNSでは言いにくいような近頃の悩みを打ち明けてみたり。或いは少し勇気を出してゲストバンドの面々に話しかけてみたり。レジデントDJを中心に音楽で魅せることと同様に居心地のいい空間への意識があり、自由な立ち振る舞いが許容されているのがクラブのフロアだ。
WATTANからDJを引き継いだIWASAKI SHINが繰り出したのは、僕が思う2021年最強のクラブアンセムThe Chemical Brothers“The Darkness That You Fear”に、サニサンで新たなアンセムのようになってきたThe Strokes“Brooklyn Bridge to Chorus”。繰り返し開催する中でパーティー独自のアンセムが育っていくのもクラブの醍醐味だが、このコロナ禍でそのような共通体験は少なくなった。だが近年リリースの中でほとんど唯一の全クラブ共通のアンセムといえるBTS“Dynamite”の熱狂や、IWASAKI SHINの十八番THEE MICHELLE GUN ELEPHANT“世界の終わり”なども含めて、確かにサニサンのフロアで鳴ってきた楽曲にこもる感慨は、はじめてここに訪れた人にも伝わったに違いない。
GROOVER / ALTER-NITEからのゲストDJのCaseにしてもそれは同様だ。Fountains Of Wayne“Sink to the Bottom”に今の時期にぴったりなHAIM“Summer Girl”、The Smashing Pumpkins“Today”など、梅田の〈NOON+CAFE〉(GROOVER)や心斎橋の〈mizu no oto〉(ALTER-NITE)でも紡がれてきたサウンドが〈京都 CLUB METRO〉のサニサンにしかないかたちで立ち現れる。そして極め付けはYASがプレイしたThe Smiths“Panic”。「DJを吊し上げろ」というフレーズが繰り返される楽曲だが、そこには(街で流れる軽薄なポップソングしかプレイしないDJ)という含みがある。そういった楽曲に敬意を払いながらも、逆説的に「俺たちはそんなDJじゃねえ」というプライドを感じ取ったのは僕だけだろうか。
日常のモヤモヤごとフロアで昇華せんとするDJの想いと音楽の力
一転してディスコサウンドを鳴らしたAVEに続いて、ゲストDJのナカシマセイジ(Alffo Records)のターン。最初こそいまいち捉え所のない入りだったが、KH“Only Human”などのエレクトロでグルーヴを深め切った後にblack midi“John L”をドロップ。オーケストラのような緊張感のある「間」さえもDJの煽りに昇華できるのだから改めてこの楽曲の強大さを思い知ったが、その緊張を即座に弛緩させたのが東京スカパラダイスオーケストラ“カナリヤ鳴く空”。そして間髪入れず大アンセムArctic Monkeys“ I Bet You Look Good On The Dancefloor”なんかを投入された日には、もう踊らずにはいられない。このようなドラスティックな展開は、やはりシームレスに続いていくDJプレイならではのものだろう。
そんな多種多様なDJの協奏が見られたこの日のサニサンだったが、最後のOHNO SHINSUKEのプレイは僕にとって象徴的なものだった。Pet Shop Boys“Go West”にThe Lightning Seeds“Three Lions ’98”とサッカーでおなじみの楽曲をプレイする裏のVJは、EURO 2020のイングランドの試合。ここで起こってしまった人種差別的な騒動に心を痛めたと彼は僕に語ってくれたが、その想いがどの程度フロアに届いていたのかは僕にはわからない。でもきっとそれで構わない。なぜならここはアジテーションではなく楽しむ場だから。オーディエンスの前では多くを語らずプレイで魅せる彼の姿に僕はそんなことを感じ取っていた。パーティーは一瞬で過ぎ去り、それ以外のなんてことのない日常を僕らそれぞれの力で生きていかなくてはならない。でももしかしたらここに織り交ぜた想いを居合わせた人がある日ふと思い出すかもしれない。きっとそれでいい。
思えばSNSでは様々な言葉が飛び交いギスギスしていたこの頃。その様相はさらに加速しているように思える。だが思想や信条以前に他者にリスペクトと思いやりを持って認め合うことはできないだろうか。最後の楽曲Artists United Collective“All Together Now”にゆらゆら揺れながら、僕はそんなことを考えていた。でも少なくともこの日のサニサンには年齢も性別も考え方も違う人々が素晴らしい音楽のもと集っていたのだ。クラブは、音楽はそんな未開の荒野を切り開くものだと僕は信じていたい。
再三の緊急事態宣言でまだまだオールナイトのパーティは難しいのかもしれないし、デイタイムの開催にせよ特段の注意が必要なことは言うまでもない。だがソーシャルディスタンスや広い層に開かれた時間設定など、この状況はある意味では新たな可能性を内包しているはず。この日少し早めに帰った橋本は帰路で祇園祭を眺めていたようだし、途中から合流した別のANTENNAメンバーは映画を観てから来たらしい。これはフロアに残る以外の選択を取りにくいオールナイトのパーティとは違ったデイタイムならではの良さであり、必ずしもずっと居る必要もなくそれぞれが自由に楽しむクラブの在り方と合致しているのではないだろうか。
そして、パーティーにはひとつとして同じ瞬間はなく、サニサンの中でさえ次回行った時にはまったく違う情景が見られるだろう。だがそのすべてに共通するのはあらゆる人々を分け隔てなく受け入れようとするDJ達の想いと音楽を愛する気持ち。あなたも気が向いたらぜひクラブに足を運んでみてほしい。そこには今まで知らなかった様々な音楽の楽しみと新たな自分が待っているはずだ。
次回公演情報
日時:2021年9月18日(土)15:00〜21:00
会場:Alffo Records
料金:¥1500
出演:【DJs】OHNO SHINSUKE、IWASAKI SHIN、SAKAMOTO SATOSHI、AVE、YAS
【Guest DJ】 ナカシマセイジ(Alffo Records)
日時:2021年9月25日(土)14:00〜21:00
会場:京都CLUB METRO
料金:¥2000+ 1ドリンク代別途
出演:【DJs】OHNO SHINSUKE、IWASAKI SHIN、SAKAMOTO SATOSHI、AVE、YAS
【VJs】FJOK、DAISUKE
【Guest DJ】 KiM(GROOVER / Vandalism)
【Live】the twenties
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はろーべいべーあべです。フェスティバルとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。fujirockers.orgでも活動中。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。hitoshiabe329@gmail.com
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