REVIEW
SAKANA e.p.
downt
MUSIC 2022.08.25 Written By 阿部 仁知

今しかできないことを凝縮した鋭利なバンドサウンド

ライブを繰り返したからこそ見える景色があり、音源制作にのめり込んだからこそできるライブがある。リスナーにとってもそれは同じで、ライブの後に改めて聴いた音源にまったく違う広がりを感じることもある。2021年の1stアルバム『downt』に続いて2作目となるdowntの『SAKANA e.p.』は、そんなライブと音源のインタラクティブな相互作用を色濃く感じさせてくれる作品だ。

 

富樫(Gt / Vo)、河合(Ba)、ロバート(Dr)による、2021年結成のスリーピースバンドdownt。ソールドアウトした7月の大阪公演で心斎橋の〈LIVE HOUSE Pangea〉に足を運んだ時は、秘密の共犯関係のようなライブハウス特有の密室の響きに身体を揺らされ、はたまた『FUJI ROCK FESTIVAL’22』で観た時は、晴れ渡った空に抜けていくギターを爽やかに感じたりもした。極めてシンプルなプレイでバンドを駆動する河合とロバートや、テクニカルなフレーズも織り交ぜつつ臆面もなくクリーントーンをかき鳴らす富樫の姿は、本当に結成1年のバンドなのだろうかと末恐ろしくも感じる堂々とした佇まいだ。この3人のライブは様々な情感を描いていたが、その躍動を一切損ねることなく凝縮しているのが『SAKANA e.p.』ということもできる。

 

冒頭で富樫がささやくように歌う「世界を変えることはできない」「どこへでも行くことにだって限りがある」の言葉に惹かれる“シー・ユー・アゲイン”からはじまり、全編を通してしっとりとした肌触りで描かれている本作。だからこそ“シー・ユー・アゲイン”のダイナミックなアウトロに続いて、唯一アップテンポなギターロックをかき鳴らす、“minamisenju”が鮮烈に響いている。息を多分に含んだ歌唱の富樫がサビで吐き捨てるように叫ぶコントラストは本作随一のもので、シンプルなバンドサウンドは一発録りのようにさえ感じられる生々しさがある。

一方で緻密でコンセプチュアルなプロダクションを感じるのも大きな特徴だ。前作『downt』でコラージュされていた踏切の音などの外部的な要素を一切廃し、本作は徹底的にバンドサウンドのみで作り上げている。それがライブ感を生み出しているのは事実そうだが、巧みに織り交ぜた2曲のギターインストがほんのりと描くストーリーテリングや、弦の質感や息遣い一つひとつまで大切にしたサウンドメイクに表れている、この親密で生々しいライブ感こそが本作の作品性であり、単なるライブ風録音では断じてない風格を感じる。こういったライブ表現と作品性を両立させたバンドサウンドという意味では、The 1975やRadiohead、あるいはGEZANなども思い起こさせる。

 

ここで一つ思い当たるのは、『SAKANA e.p.』は作品を通して1番2番というリフレインをまったくしないこと。曲構成はポストパンク的とも言えるし展開の要所要所でマスロックのような複雑さも見せるが、あえて分析的に聴こうとしたときにやっと思い当たるくらいに縫い目がなく自然だ。様々な要素をストレートなインディーロックサウンドに昇華していることも、本作の作品性を如実にあらわしている。一切振り返らないパンクの性急さも持ちつつ、きっとこの若さや勢いは今だけのものと強く自覚しているからこそ、バンドの情感を徹底的に作品に凝縮できるのだろう。“minamisenju”の「きっといつか終わるんだ」があれほど儚くも象徴的に響くのもそのためだ。

 

6曲を余すことなく鮮烈に響かせることだけにすべてを注ぎ込むエネルギーを感じさせる『SAKANA e.p.』。だがまた次のライブや次の作品では違うステージにいることもはっきりと予感させる、今を凝縮した表現。今のdowntは今しかいないし、きっとこの感覚は二度と味わえない。そんな刹那的な感傷に揺られる、あまりにも濃い16分をあなたもぜひ体感して欲しい。

SAKANA e.p.

 

アーティスト:downt
仕様:デジタル / CD
発売:2022年6月22日
配信リンク:https://lnk.to/downt_SAKANA

 

収録曲

1. ー.1.ー
2. シー・ユー・アゲイン
3. minamisenju
4. Fis tel
5. ー.5.ー
6. I couldn’t have done this without you.

 

downt

 

2021年結成。富樫(Gt / Vo)、河合(Ba)、ロバート(Dr)の3人編成。東京をベースに活動。同年10月に1st『downt』を〈ungulates〉からリリース(現在CD&CTは完売)。緊迫感のある繊細且つ大胆な演奏に、秀逸なメロディセンスと情緒的な言葉で綴られ、優しく爽やかな風のようで時に鋭く熱を帯びた歌声にて表現される世界観は、風通しよくジャンルの境界線を越えて拡がりはじめている。6月22日に新作EP『SAKANA e.p.』をリリース、そして東・名・阪のリリースツアーとともに7月22日には『downt』と『SAKANA e.p.』の編集盤VINYLもUK/EUのレーベル〈Dog Knights!〉よりリリースされた。

 

Twitter:https://twitter.com/downtband
Instagram:https://www.instagram.com/downt_japan/
YouTube:https://www.youtube.com/c/downt

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