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駆け抜けた一年の果てにとがると見た光 – 12カ月連続企画『GUITAR』Vol.12 ライブレポート

12月20日(水)に東京の〈新代田FEVER〉で行われた、ナカニシイモウによるグランジィJ-POPプロジェクトとがる主催のイベント『GUITAR』Vol.12に足を運んだ。downtとLOSTAGEを共演に迎え、3rdアルバム『この愛が終わったら、さようなら。』のレコ発も兼ねたこの日。たくさんの仲間とともに駆け抜けた、とがるの12カ月の果てに見た光景をぜひあなたと共有したい。

MUSIC 2023.12.31 Written By 阿部 仁知

Photo:稲垣ルリコ

仲間の熱い気持ちに演奏で応えるdowntの気概

いくつか挙げるだけでも、ルサンチマン(Vol.2)、Apes(Vol.3)、アンと私(Vol.5)、ひとひら(Vol.6)、pavilion(Vol.9)など、この一年でじりじりと火がついてきたアーティストが出演してきた『GUITAR』。とはいえ、そうやって振り返って「今が旬」みたいに語るのは結果論でしかない。場内の転換SEではこれまでの出演バンドの音源が流れていたが、あらゆるアーティストに直接声をかけてきたナカニシイモウの胸にあったのは、集客や注目度といった話以上に、『GUITAR』をみんなで作り上げたい、ともに成長していきたいという想いだったのではないかと思う。そんな『GUITAR』もこの日で12回目。トップバッターはかつて《ungulates》の仲間として苦楽を共にしてきたdowntだ。

 

富樫ユイ(Vo / Gt)と河合崇晶(Ba)が「こんばんは、downtです」と軽く挨拶をし、ぬるりとはじまったこの日のdowntだったが、なんと冒頭から未音源化の新曲を連発。富樫のポエトリー気味に歌うしんみりとした感傷に浸る楽曲もあれば、河合とTener Ken Robert(Dr)のリズム隊が駆動するバンドサウンドが唸るハードコア、あるいはクラウトロックやニューウェイヴの雰囲気ながらThe Smileのようなひりつくドライヴ感を見せたりと、あらゆるレンジでバンドが深みを増しているのをはっきりと感じる。富樫の歌声も息を多分に含んだ情感豊かな歌唱から、もっとストレートに歌を聞かせる歌唱に変化しているように感じられた。

 

MCでは控えめな富樫と対照的に、河合はいつものようにふてぶてしく「12カ月連続企画に意味があるのかどうかは知らないけど、やったことあるやつしかわからない。でも13日連続でスタジオに入ってきたから俺らのほうが上なんで」と語る。『SAKANA e.p.』(22年)のリリース前に未発表の収録曲を演奏した時もとがるが共演だったそうだが、彼らしい不敵な威勢の良さの中に、とがるへのリスペクトもひしひしと感じてグッときたものだ。最後は今年リリースの9分近い大作の“13月”と、初期からの人気曲“111511”を披露。数々のシーンを彩ってきたキラーチューン“minamisenju”はやらない。そんな新境地を感じさせる攻めた姿勢は、とがるがこの日にかけた熱い気持ちを汲み取った、仲間でありライバルでもあるdowntなりのはなむけのようにも感じられた。「これからも俺たちは俺たちの道を行くし、お前はお前の道を行けよ」と。

downt - 13月 (Official Music Video)

LOSTAGEとフロアが共鳴するどこまでも純粋な光景

続いて登場したのはLOSTAGE。“巡礼者たち”、“平凡”と、ソリッドなサウンドがフロアにじりじりと浸透していくようで、“錆”の冒頭では五味岳久(Throat / Ba)が奏ではじめたベースラインに即座に歓声が上がる。downtやとがるとは初の共演というLOSTAGE。MCでは「ナカニシから直接クソ長いメールが来て、長いメールは無視することにしてたんだけど、気になる感じがして。だって、いいタイトルつけるなって思って」と、『GUITAR』への想いを語る五味。このプリミティブで混じりっ気のない響きに呼応するように、無骨なスリーピースの存在感だけでねじ伏せるLOSTAGEの貫禄に、フロアはどんどん熱量を増していく。

 

だが“SURRENDER”や“こぼれ落ちたもの”でも、貫禄や円熟味と同時に、むしろそれ以上に、「今が一番若いんじゃないの?」と感じる青い熱情がほとばしる3人のパフォーマンス。その姿は20歳近く年下の後輩バンドたちや、フロアに集った若いオーディエンスに背中を見せるようでもありながら、同じ地平を等身大で駆ける、いわば仲間のようでもある。MCで「他府県のライブハウスのやつとか業界人、知ってる顔たくさん見たぞ」と“大人”に向けてあえて語る姿もとても象徴的で、訳知り顔の打算や功名心がライブを通して削がれていった果てに残った、清廉で純粋な光景がフロアに広がっていた。最後の“瞬きをする間に”で思い思いの感傷に浸るオーディエンスの顔を見ていると、とがるがLOSTAGEを熱望した理由も伝わってくる。このライブを『GUITAR』で僕らと分かち合いたかったんだなって。

LOSTAGE / 瞬きをする間に

とがると僕らがたどり着いた『GUITAR』の果て、そして

興奮冷めやらぬLOSTAGEの終演後、そわそわしつつもリラックスした雰囲気で、どこか心地のいい期待感がフロアを包んでいる。そんな中、サポートメンバーのたもつ(Gt)、真昼(Ba)、コウ(Dr)に続いて、ナカニシイモウ(Vo / Gt)が登場。

 

ユニゾンするギターリフが印象的な“Blue Boy”から、最新作『この愛が終わったら、さようなら。』の“*”と“19歳”で突っ走り、“純粋だった”でも次の瞬間には失ってしまうような刹那の感傷を轟音に託す4人。以前大阪や福岡で観た時よりもはるかに前のめりで荒々しい。シューゲイズやエモ、マスロックやグランジなどさまざまな要素を感じさせつつ、ジャンル名を置き去りにしながらあくまでポップに掻き鳴らす明快なギターサウンドに、フロアは早速酔いしれている。

中盤でSEとして流れた“青から堕落”ではチューニングの所作にも情感が宿り、続く“愛”でも加速する演奏とともに「あなたの命は終わらないように 歌う 今日も 歌う」と力強く叫ぶナカニシイモウ。その姿は悲痛と言ってしまってもいいくらい生々しいのだが、彼の歌は変にシリアスに響くのでなく、あたたかい希望を感じるから不思議なものだ。日常から持ち寄った痛みや苦悩を分かち合いながら、“19歳”で歌った「生きてて良いことなかったな 君と出会えてよかった!!」の絶望的な隔たりをどちらも抱えている僕たちの、ままならない生をそのまま讃えてくれているような感覚。それはわかりやすい共感ではないが、そこにあるのは奥底のものが震える共鳴だ。

 

「命懸けで作ったんで、みんなに届くように必死になって歌います」とナカニシが語り、はじまったのは最新作のリードトラック“十三月”。奇しくも同名のdowntの楽曲は、閉じ込められて行き場の無いようなやりきれない焦燥感に浸るサウンドが響いていたが、とがるの“十三月”はそこに光を見出そうともがいている。クライマックスに向かって加速する中、おそらく世界で一番有名なグランジのフレーズをモチーフとしたのであろう「With the rights out!!」がこんなに肯定的に鳴り響くなんて。ここに集ったみんなもそれぞれの鬱屈とした感情を投影したことだろう。

 

MCでは普段の話し声が小さいという自虐めいた話や、大学時代に組んでいたバンドの話、そして、downtやくだらない1日といったレーベルメイトが躍進する姿を横目に、遅れをとっているように感じていたことなど、不器用ながらも『GUITAR』を行った思いをぽつぽつと語るナカニシ。うんうん頷いたりしながら見守るフロアも、最終公演ながらしんみりした感じもなく、晴れやかな表情をしているのが印象的だった。そして、本編最後の“せめてきみだけは”とアンコールの“生きた証”で、この一年を締めくくるように昂らせた感情をフロアに残して終演。後には清々しい余韻だけが残った。

終演後のフロアで、マネジメントスタッフの一人でもある増田ダイスケ(『いい湯だな!』ディレクター)は、「とがるはストリートカルチャー」としきりに口にしていた。それはライブのクライマックスで天空に突き刺すファズギター(とハイハット)などに象徴される、独特の共有感と親密な空気感を捉えたものに思えるし、そんな爽やかな共犯関係を育んできたフロアに、親しみと頼もしさを感じるのだ。長々と言葉を尽くしてきたが、たもつがSNSで言っていた「みんな、とがるだ。」の一言がすべてだろう。

 

以前のインタビューで「間違いなく成長していっている所を間近で自分自身が見せることができれば、冴えない人間が懸命に何かをやって、少しずつ形にしていく様を見せることができれば、「私もやれるじゃん!ナカニシができてるから」となる」と話していたナカニシ。僕としてはそれまでのライブや音源の印象から「ナカニシくん別に冴えてないことないじゃん」と思ってたので、冬の取材当時はいまいち腑に落ちていなかったのだが、『GUITAR』や最新作を通して彼の表現は(本当なら隠したい)冴えない部分を生々しく曝け出すように変化し、ライブを繰り返す中で歌の強度と説得力を増してきたことを実感している。

 

その集大成となった今回のライブで、かつて彼が思い描いていた理想の景色を描けたのだろうか?その答えは追加公演の「Vol.13〜 十三月編 〜」が決定したことをMCで話す姿が物語っていたように思う。サプライズである以上に、ここまでやってきたナカニシとともにまた歩んでいこうという、フロアの雰囲気が印象的な瞬間だった。

世界情勢にせよ僕らの生活にせよ、綺麗事を言えばなんとかなるほど簡単ではない。でも踏みしめてきた足取りを感じさせたこの日のとがるは、単なる綺麗事ではない厚みを持って「俺と行こうぜ」と歌いかけ、僕らの心にほんのりとした希望を灯してくれた。その向かう先はユートピアではないかもしれないが、とがるとなら強く在れる。そんな小さな確信とともに、十三月を歩いていこうじゃないか。

『GUITAR』 Vol.13〜 十三月編 〜

日時

2024年1月26日(水)

open 18:30 / start 19:00

会場

下北沢近道

出演

とがる、ジュウ、SEVENTEEN AGAiN

料金

¥2,800(+1D)

高校生以下 ¥2,000(+1D) ※受付にて学生証提示

チケット

https://t.co/kZ8FaXtgS3

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