俺の人生、三種の神器 -堤大樹 ③広島東洋カープ編-
▼俺の人生、三種の神器とは?
人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。
折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!
僕のインディペンデントスピリットおそらくカープに育まれた
みなさんは野球がお好きだろうか?実は僕は中学校の頃野球部に所属していて、今でも休日にキャッチボールやバッティングセンターに行くくらいには野球が好きだし、もちろん見る方も好きで、特にプロ野球が大好きだ。広島生まれの僕は物心が付いた頃から広島東洋カープを応援していて、今でも毎日18時になると速報をチェックしてしまうくらいには、シーズン中は気がそぞろになる。平日の夜にスマートフォンを気にしていたら大体は野球の速報を見ていると思っていただいて問題はない。
生まれというものが転機にあたるかどうか知らないが、自分がアンテナで掲げている「インディペンデント」「ローカライズ」というものを考えた時に、まんま我らがカープのスピリッツではないかと思ったので、今回はそのことについて話をしたい。結論から言うと、僕のインディペンデントスピリットはカープに育まれたと言っても過言ではない。
そもそも広島東洋カープってどんな球団なのか
昨今「カープ女子」なる言葉がもてはやされ、ファンは急増しており、もはやカープ戦は巨人・阪神戦に次ぐほどのドル箱と言われるまでの人気球団に成長した。その勢いに乗ってか、昨年は25年ぶりのリーグ優勝を果たし、今年も去年の勢いそのままに現在(2017年06月15日)も交流戦首位・リーグ首位をひた走り、リーグ連覇も少し現実味を帯びてきた。今の野球ファンに「カープはどのような球団か」と聞くとカープは「強い・人気」球団だという答えが帰ってくるだろう。
しかし、長年カープを応援し続けている身からするとこんな状態は初めてで、全くと言っていいほど慣れてこない。考えてもみて欲しい、前回カープが優勝したのは1991年、僕はまだ3歳である。それ以降は万年最下位、五位が定位置、セ・リーグのお荷物と他の球団ファンから揶揄されていたのだ。確かに試合に勝利することはめちゃくちゃ嬉しいが、慣れるはずがない。25年間の間に刷り込まれたひどい負け方の数々、今でも僕は毎日試合に勝利できるか緊張を強いられている。
そもそもカープという球団の成り立ちは特殊で、12球団の中で唯一親会社を持たない。その他の球団は全て親会社を持ち、自社のPRや認知度のアップ、純粋に利益を生むために球団を運営している。例えば巨人で言えば、読売新聞が親会社だし、ヤクルトや楽天はそのままヤクルトと楽天が親会社だ。
元々カープは戦後に「原爆で壊れた広島の街の復興」を旗に掲げ発足し、親会社がなかったため、市民がお金を出し運営をしていた。そのため何度か球団消滅の危機を迎えるものの、なんとか無事に乗り越えることで現在までなんとか球団を存続させられている(これが有名な樽募金)。一応現在はマツダ自動車が株式の1/3の保有をしているが、特定の企業に依存せず球団経営を行っている。
この運営形態の一番の大きな問題点は赤字を出せないことにある。親会社がいないということは、球団経営で赤字になった場合、補填することができない。そのため選手への年俸は膨大な資産を持つ巨人や阪神に比べだいぶ安く、これまで随分と選手も引き抜かれてきた。もちろんプロ野球選手だってひとりの人間なので、同じ条件なら地方の球団なんかより、関東の人気があってお金がたくさんもらえる球団がいいのもよくわかる。あとはここに裏金問題や、ドラフト制度の仕組みなど色々な問題が絡んではくるのだが、今回は割愛。「弱いから不人気」なのか「不人気だから弱い」のか鶏と卵のような話だが、こうした理由からカープはずっと貧乏球団として、セ・リーグの地の底を這うこととなった。
足りないなら作ればいい
そんな球団がいつの間にか「強く・人気」の球団になったのである。おそらく転機は球場を建て替えたあたりで、その頃からスタンドがファンで埋め尽くされるようになった。球場はただの球場ではなく日本初のボールパークで、ファンにとっても選手にとっても居心地の良い空間となった。球場の人気投票でも常に上位をキープしており、これは大きな変化である。球団経営による黒字はそのまま設備の投資や、選手の引き止めに使用されることになったと予想される。そしてもう一つこの頃から他の球団に先駆けて初めていた取り組みがあり、。それが今でもよくやっているTシャツの販売である。
さよなら打や、なにかメモリアルがあったタイミングで枚数限定でTシャツを刷り始めたのだがこれが当たった。このTシャツというやつ、なかなかの便利なアイテムで、「ユニフォームほど高くなく」「ネタとして作ることが可能」なのだ。しかも枚数も500枚程度限定のため入手も困難で、コレクター魂をうまく刺激している。このあたりから妙なグッズが量産され始め、どれも売れるというよくわからない事態が起き始めていた。こうした簡単な話題作りから始め、露出をどんどん増やしていっている。
それに加え、元々他の球団から選手を引っ張ってくる資金力のないカープは元々選手を育てるノウハウだけはあった。話題性や人気が出て来るにしたがって、選手の流出も減り、良い選手も揃うようになり現在のカープが出来上がっていく。実際応援する側からしても、他所の球団から来た有名選手が活躍するよりも、新人の頃のイマイチだった時から知っている選手が活躍する方が嬉しい。もはや気分は親戚のおじちゃんである。こうして「強いから人気」なのか「人気だから強い」と、先程とは全く逆の現象が起きていた。
なんだって足りない中で工夫する序盤が面白いでしょ?
自分がもし、関東に生まれ巨人を応援していたらどうだっただろうか?おそらく「メディアがないから自分で作ろう」とか「自分が思い描く最高のイベントは誰もしてくれへんから自分で作ろう」などの発想にはなっていなかった気がする。もちろん音楽だって自分が思う一番良い音楽を作れるから、やっているようなものだ。もちろん出入りが激しいものはその中で競争が生まれるとか、いい部分もたくさんあるのは承知している。それでも僕は足りない状況で工夫することが好きで、苦労している瞬間が好きなのだ。ゲームをしていても、アイテムもレベルも揃わずに苦労する序盤を繰り返しプレイするほどにはカープに調教されている。
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WRITER
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26歳で自我が芽生え、とうとう10歳に。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が持てる荷物の量を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
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