【阿部仁知の見たボロフェスタ2018 / vol.夜露死苦】And Summer Club / キイチビール&ザ・ホーリーティッツ / Seiho / imai(group_inou) / ゆーきゃんカラス・クインテット / おとぼけビ〜バ〜
京都の老舗CLUB METROは、世界の最先端と京都のカルチャーが交錯する日本有数のクラブハウスだ。そんなMETROに会場を移し開催されたvol.夜露死苦。ラインナップを眺めるだけでもここまでDJとバンドがジャンルも関係なくごちゃ混ぜにクロスオーバーしているイベントはなかなか見たことがない。
もしかしたらクラブイベントってなんだか怖いと思っている人もいるかもしれないが、ここにはただ「音楽が好き」という気持ちだけを媒介にして時が流れているように僕は思う。「今日どのバンドよかった?」 夢中で踊ってる時にゆーきゃんにそう話しかけられたことをよく覚えているが、あれだって主催者としての役割とかそんなんじゃなく、純粋な興味本位であろう。身分も立場も国籍さえも超えて、ここでは音楽が流れ続けるのだ。
多分「音楽が好き」という共通項さえあれば僕らはいろんなことを飛び越えられる。そんなことを感じたこの夜を振り返ってみたい。
Mogran'BAR
スタートはLive House nanoでお馴染みの月例イベントMogran’BAR。クルーのB2B方式によるバラエティに富んだ選曲は歓迎ムード全開だ。人が増えていくのに合わせるように徐々にテンポが上がっていき、十分にフロアが温まったところで待ち構える次のバンドにバトンタッチ。この人達がいれば今日は間違いないと思える上々のスタートだ。
Photo:Yohei Yamamoto
And Summer Club
バンドのトップバッターは、オオオトトキヨ(Gt. / Cho.)のリードギターが奏でるキャッチーなフレーズが耳に残るAnd Summer Club。なんとフレッシュなサウンドだろう。ガレージロックリバイバル、マッドチェスター、憧れの音楽への郷愁をそのまま英詞に乗せて歌う男女混成ヴォーカル。抑え目なその歌声がリヴァーブの効いた浮遊感漂うバンドサウンドに溶け込みフロアを幻想的に染める。“Surfer Girl”、幻想の中で輪郭がぼやけたあの女の子に各々の感情を投影させながらゆらゆら揺れる気持ちのいい時間だった。
Photo:岡安いつ美
HANDSOMEBOY TECHNIQUE
気づいたら超満員の中、DJアクトに戻るとHANDSOMEBOY TECHNIQUEの登場だ。ここMETROでもレギュラーイベントをやっている彼だけあってホーム感が凄い。ストレートなバンドサウンドからホーンで賑やかすガヤガヤした曲まで、僕らの踊りたい気持ちを絶妙に刺激する選曲にフロアはヒートアップ。そして最後に披露された曽我部恵一とのフィーチャリング曲“抱きしめた”がなんとも哀愁を感じさせる名曲で、僕らはしみじみと聴き入っていた。
Photo:Yohei Yamamoto
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ
続いてはキイチビール&ザ・ホーリーティッツ。キイチビール(Gt. / Vo.)のしゃがれた声によるものだろうか、極めてオーソドックスなロックバンド然とした演奏ながらなんだか気持ちよく揺られていられる。そこにみずみずしいピアノとKD(Cho.)の煌びやかな女性コーラスが絡み合い、ほんわかふわふわした気分だ。具体的なあの子を想像させるキイチビールの生活感溢れる歌詞は、どこか偶像的な憧れに想いを馳せたようなAnd Summer Clubとは対照的に響く。この非日常的な空間の中にふと顔を覗かせるリアルにそれぞれの想いを重ね合わせ、僕らはゆったり佇んでいた。
Photo:岡安いつ美
TORIENA
これでもかというくらい速いBPMでプレイするTORIENAのレトロフューチャーなチップチューンの応酬。さっきまでの哀愁を一瞬で変えてきた。キレキレの振り付けも相まって視覚的にも聴覚的にも刺激が強過ぎるパフォーマンスに最初は圧倒されていたが、ずっと観ていると癖になってくる中毒性でフロアも半狂乱状態。「これ危ないんじゃないか」とすら感じる嵐のような時間は瞬く間に過ぎ去った。
Photo:Yohei Yamamoto
Seiho
打って変わって深海のようなアンビエントサウンドを奏でるのは、世界的にも注目されるビートメイカーのSeiho。自分自身の内面からふつふつと感情が湧き上がってくるような没入感は、煽動的に引っ張られるようなTORIENAとは対照的なサウンドスケープだ。僕と彼以外誰も存在していないかのような、どこまでも広がる開放感と自由。これほどまでにプリミティブな音楽体験があるのかと、ただただ感嘆するしかなかった。
Photo:Yohei Yamamoto
imai(group_inou)
放心している中横っ面を殴られたようにバッチバチのビートが飛んできた。group_inouの敏腕トラックメイカーimaiのサウンドだ。鋭い眼光でフロアを睨みつける彼は初っ端から臨戦態勢。これは彼 vs 僕の戦いだ。「ついてこれるか!」とばかりに突っ走っていく彼に応えるように手を挙げるオーディエンス。身体が反応するままに我を忘れて踊り、リアルタイムで感覚がアップデートされていくような体験だったが、僕は彼に負けたとは思っていない。多分imaiも思っていない。フロア中の誰もが「俺が一番楽しんだ」という満足感に浸っていた。最高ってこういうことなんじゃないか。
Photo:岡安いつ美
Mogran'BAR
三者三様のエレクトロサウンドでピークタイムを迎えたvol.夜露死苦。流石に身体にガタがきはじめ、少しだらっとチルしようかなんて考えていたが、生粋のパーティーピーポーMC土龍とMogran’BARの面々は踊ってない夜を許してくれない。振舞われるテキーラ、突如始まるリンボーダンス。この空間、なんでもありか。Mogran’BARのプレイも先を競うように一番盛り上がる曲の連続で、DJ卓を取り囲むようにオーディエンスが溢れワイワイガヤガヤどんちゃん騒ぎ。夜はまだまだ続く。
ゆーきゃんカラス・クインテット
そんな空気を引き継ぎ、盟友4人を引き連れたボロフェスタ創始者がステージに立つ。歌を基調にしたバンドサウンドが奏でられる中、彼の消え入りそうな歌声はクラブの喧騒にかき消されそうなほどで、彼をよく知る馴染みの面々からは野次のような声も飛ぶ。しかし何より驚いたのはそれがまったく嫌な光景ではないということだ。僕は今夏の『Fuji Rock Festival』で観たボブ・ディランのステージを思い出していた。タバコの煙、お酒の匂い、聴き入る人、疲れて寝ている人、そんな空間に当たり前のようにいてくれる彼らの安心感。この一夜の風景をすべて包み込み完成するような、今この瞬間にしか存在しない演奏。「音が大きいからいいんじゃなくて、踊れるからいいんじゃなくて…」彼の声は小さいから最後が聞き取れなかったが、それでいい。何かわかった気がする。
Photo:岡安いつ美
CLUB80’s
続いて登場したのはMETROのレギュラーパーティーCLUB80’s。DJの煽りってもっとクールにスマートにやるものじゃないのか。そんな固定観念をぶち壊すように大げさな身振り手振りでみんなでやろうぜと踊り出すクルーの5人。こんなバカをみせられたら踊らにゃ損というものだろう。あまり上手に真似できなくてもやってみればそれだけで楽しい。それにしても、吉川晃司、長渕剛、“September”に“Bohemian Rapsody”…… 生まれてもいない時代の音楽にこんなに郷愁を感じるのはなんなのであろうか。ギラギラしたあの時代の空気感を肌で感じながらゲラゲラ笑い、パーティーナイトは佳境へと突入する。
Photo:Yohei Yamamoto
おとぼけビ~バ~
そんな楽しいステージを「クソ男ども前座ありがとうございます」と一蹴するのは、今や海外フェスにも抜擢される女性4人組バンドおとぼけビ〜バ〜だ。オーディエンスの軽口も雑に流す彼女達。こんなやりとりが暖かく見えるのは、ここ京都から駆け上がってきた彼女達への愛と信頼感ゆえであろう。もはや疲れを通り越して変なテンションになりつつあるフロアに、矢継ぎ早に京都弁ハードコアが叩き込まれる。陽気に踊っていた外国人の首根っこを掴んでフロアにダイブなんて一幕もあり、アヴァンギャルドな彼女達のパフォーマンスはこの夜に鮮烈に刻まれた。
Photo:岡安いつ美
Mogran'BAR
そしてトリを飾るのはやはりこの人達Mogran’BAR。最後まで残ったオーディエンスに感謝を示すかのように、音が鳴った瞬間から歓声があがるような名曲ばかり。先ほどの外国人とハイタッチをしたり、もはや僕らに遠慮はいらない。中でも印象的だったのはKBSホールの会場SEでも何度となく流れていたデヴィッド・ボウイの“Heroes”。「僕らはヒーローになれる たった1日だけなら」と繰り返すこの曲。そう、全身全霊で楽しむ僕ら一人一人がヒーローなのだ。そんな勲章をぶら下げそろそろパーティーもおしまい。名残惜しくも最後まで遊び抜いた晴れやかな気分でvol.夜露死苦は幕を閉じた。
Photo:Yohei Yamamoto
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はろーべいべーあべです。フェスティバルとクラブカルチャーとウイスキーで日々をやり過ごしてます。fujirockers.orgでも活動中。興味本位でふらふらしてるんでどっかで乾杯しましょ。hitoshiabe329@gmail.com
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