INTERVIEW

Radioheadのファミリーに憧れて。OAS / Radiohead Nightが描くファンベースの表現の営み

MUSIC 2021.10.27 Written By 阿部 仁知

後編ではOASのメンバー6人にコピーをすることの醍醐味や難しさについて話を伺った。取材中僕が何気なくDaijuさんをジョニーさんと呼び混乱させてしまう場面があったが、あくなき探究心でRadioheadを見つめるOASの背後に僕は間違いなく本人の姿を見ているし、彼も「一瞬でも大好きな人に成り代われることがこの上なくうれしい」と語ってくれた。そんな各担当パートへのこだわり溢れる、オリジナルともカバーとも違うトリビュートバンドの在り方を紐解いていこう。

【後編】OASに聞くRadioheadの再現へのこだわり

 

後列左からYuta(エド・オブライエン担当)、Takuro(フィル・セルウェイ担当)、Wakamatsu(クライヴ・ディーマー担当)、Daiju(ジョニー・グリーンウッド担当)、前列左からYasuko(コリン・グリーンウッド担当)、Yamakawa(トム・ヨーク担当)

どこまでも忠実に再現する姿勢とそれぞれのオリジナリティー

──

コピーをするときに再現性をかなり追求されてると思うんですが、一方で個々人のオリジナリティーを出したい欲求もあるのかなってことが気になっていて。皆さんはどのような想いでプレイしていますか?

Wakamatsu

クライヴのドラムは毎回やってることが違うし聞こえない音もあるので、完コピが一番難しいんじゃないかなって思ってます。だからできない部分はある程度諦めていて、一番僕が重要視してるのはクライヴが感じるフィールをコピーすることです。細かいリズムを叩いてるけど身体で感じているリズムは大きいとか。

──

譜面的なコピーではなくて、クライヴが何を感じて何を大切にしてるかというところですね。

Wakamatsu

そうですね。だからライブ動画を見て、例えば肘の上がり具合なんかでフィールを判断しています。それで実際に叩いてしっくりくれば多分そうなんだろなって。叩きにくかったら多分フィールが間違ってるので動画を見直したり、そういう作業をして「きっと、これなんだろうな」みたいなとこで落ち着かせてますね。

Yuta

僕もWakamatsuさんに割と近いんですけど、どちらかというとフィールとかメンタリティーとかそういう感覚の部分をシンクロさせていく感じがあります。逆にフォームを追いすぎちゃうとそれに気を取られちゃって。もちろん何を弾いているのかは確認するんですけど、実際に合わせるときは即興的なブレや余裕は残した状態でバンドに持ち込む意識がありますね。

──

そういう「エドだったらこうするだろう」という解釈の部分を、僕はOASのライブの際に独自性のように感じていた部分もあるかもしれません。

Yuta

上手い物真似って結構デフォルメだと思うんですよ。結果的に完成度が高くなるアプローチってそういうやり方なのかなって。解体して抽象化して自分の中に持ち込むというか。そういう意味ではRadioheadは大きい会場でやってるスタジアムバンドじゃないですか。自分たちはそこまでは大きくないハコでやってるから、同じノリでやっちゃうとハマらない部分もあるのかもしれない。

──

確かに!それは結構大きな違いなんですね。

Takuro

フィルはフレーズ自体はそんなに難しくないので完コピはできるんですけど、独特の揺れやグルーヴがあって。でもあえてヨレて叩いてみたりもするんですけど、後で聞き返してみると全然よくなくて下手に聞こえるんですよ。そういう意味では他人のグルーヴを真似することはできないなと思ってて、自分のリズムで叩こうと思ってます。

Wakamatsu

今の話を聞くと僕とは真逆だよね。

Yuta

それが一つのバンドの中にいるってのがまた面白いね。

Daiju

僕はジョニーがライブでやってることをとにかく再現することに徹してガッチガチに固めてるので、本当に人によって違うなって思いました。

──

いろんなバランスの中で成り立ってるんだなって感じますね。

Yuta

エドは本人が結構適当な感じなので、そこを「徹底的に100%やるんだ」って感じでやると逆にエドの感じにならないだろうなって感じてて。

Daiju

いやー、でもどうだろう。ジョニーの方が適当じゃない?

Yuta

ブレは少なくないですか?

Daiju

いやいや!毎回違うよ!でもそれをガチガチにやって、ガチガチを超えてジョニーに見せるというところに到達しようとしてるのかもしれません。僕の場合、余裕はまったくなくて、とにかくそこを追求することですね。

OASを通して見えてくるRadioheadのこだわり

──

本当に人によってさまざまですね。それがOASでバッチリ合うのがすごいなと思います。逆に揉めたりしないのかも気になるんですが、スタジオでの練習や個人でパート練習する時にどういう点で苦労していますか?

Daiju

コピーバンドは正解が定義されているからオリジナルバンドとは異なるんですよ。それぞれ研究してきて、合わせる時に差分をみんなで埋めていくというところなので。各自は多分苦労してるんですよ。何を弾いてるのかよくわからないところを一所懸命何回も聴いて。大変な中みんな毎回一発で拾ってきてくれるなって思いながらやってますね。「なんか雰囲気出ないね」ってこともあるけど、最近は一回である一定の基準を超えてきていて。

Yasuko

ほぼ出来上がった状態で持ってくるので、あとは微調整ですよね。一回スタジオに入ると「やべえ!この人すごくやってきた!」なんてことが各々あって(笑)。こういうことを感じられるのは、やっぱりバンドでやっていく良さですよね。

──

刺激し合ってるんですね。それはオリジナルって答えがないけど、先程言っていたコピーだと目指すべきところが共有されてるからってこともありますよね。

Daiju

作曲をするならスタジオに入ってからみんなで考えることって絶対あると思うんですけど、OASの場合そういうのがないので。

──

なるほど。再現は機材の制約もあると思うんですけど、そういう点では何かこだわりはありますか?ある種ギーク的な欲求もあるのかなと。

Daiju

実はまったくないんですよ。エフェクターを集めたいって気持ちもないですし。でもジョニーが使ってる機材は知りたいっていう欲求があって、それでコツコツ集めているところはありますね。キャリアの最初の頃から変わらないし明快なので、ジョニーの機材はすごく集めやすいんですよ。基本の形があってそこに増築を繰り返してきているので、どこかのタイミングでまるっきり変わってしまうことがなくて。

Yuta

エドとは違って。

Daiju

そうそう。専門的な話になりますがジョニーはエフェクターがほぼ全部一筆書きでつなぐことができて、プロっぽくないといえばプロっぽくないんですよね。もうちょっとエドのような効率的な組み方もできるんですよ。スイッチャーって機材を使ってこれを押せば一発でいろんな音が切り替わる、この曲はこのボタン押しときゃいい、みたいな。

Yuta

ジョニーはすごくフィジカルな感じですよね。身体の延長として扱えないと嫌というか。

Daiju

エフェクターはこういう風に踏まないと嫌だみたいな(笑)。だから簡単ではないけどちゃんと追っていけば単純明快なプロセスがあります。ジョニー自体もエフェクターにすごくこだわりがあるというより、ずっと使っている道具で身体に馴染んでるから使ってる感じな気はしますね。

──

ドラムのお二人はオリジナルバンドもやっていますが、OASの活動を活かしたり相互作用のようなことはありますか?

Takuro

Jan fluとGeGeGeというバンドで活動をしていますが、そこまでRadioheadから新しいスキルを身につけたりフレーズの引き出しを増やしたってことはあんまりないんですよ。ただ曲を分解して理解しなきゃいけないことが多いので、例えば“Pyramid Song”だと拍の構造が複雑に見えて意外と単純だったりとか、そういうのもやらなければわからなかったことですね。

──

確かに聴いてる分には複雑に感じるけど、実際叩いてみるとそうではないと。

Takuro

そうそう。作曲をやってると活かせるのかなと思いつつも、ドラマーなのでそんなに活かせてる感じはないかも。無意識のうちに何かあるのかもしれないですけど。

Wakamatsu

僕はAmia Calvaと5kaiというバンドで活動しています。クライヴが好きなのはフィールが面白いなって思うからなんですけど、一番苦労してるのは“Identikit”で、すごく手数は少ないけどノリ方の選択肢はめちゃくちゃあって。一人でやってるといい感じな気がするけどバンドでやってみるとよくないことが結構あるんですよ。なぜなのか考えた時に「多分ギターのこのフレーズとこのドラムのフィールがあってないからだ」とか、その理由がわかる。5kaiのボーカルは結構フィール重視なので、彼が思ってる正解に近づくスピードが速くなってるのは、OASの活動のおかげなのかなって思ったりもします。

大好きな人に一瞬でも成り代わって、同じように愛するファンが観てくれてくれることが何よりもやりがい

──

OASでの積み重ねがあるからこそなんですね。改めてコピーすることの醍醐味ってなんですかね?

Daiju

なんだろう、楽しいからかな(笑)

Yamakawa

結局好きだからやってることだから、一瞬でも自分がその好きな人と同じことができてるっていううれしさはありますよね。

Daiju

このクオリティーで6人のフルメンバーで活動していることは多分世界的に見てもすごいことなので、やればやるほどプレッシャーになったりもしますけど、楽しい気持ちが常にベースにありますね。

Wakamatsu

クライヴは本家でもサポートなので、自由に楽しくやらせてもらってますけどね。バンドで合わせないとうまくいってるのかいってないのかがわからないので、そのプロセスをこのクオリティーの中でやっているのはめっちゃ面白いしためになってるし、できるだけ続けたいなって思ってます。

──

皆さんのお話を聞いてると、Radioheadがめちゃくちゃ好きだからってところが根幹にあるんだなと感じます。

Yasuko

それはもちろんです。私にとって生のライブ体験は特別で本当に楽しくて、自分たちも誰かをそういう気持ちにさせてあげられるかもしれないという主催者魂みたいなものもありますね。

Daiju

お客さんからの反応もすごくやりがいを感じます。熱量が本当にすごいですよね。最初にライブをした時に衝撃を受けて。

──

それで言えば僕は「ジョニーさん」ってつい呼んじゃいますけど、ジョニーと重ねてる部分がすごくあって、Daijuさんを通してジョニーを見ているところもあるんだと思います。それもある種やりがいなのかなって。

Daiju

それが一堂に会して6人が集まってることが大きいですね。再現だけだったらコンピューター上でもできると思うんですけど、軸足がそういうところにはあまりなくて。ライブのためのバンドなのでそこが一番だと思ってます。生で観てもらってちゃんと伝わる実感がある。そういうところが醍醐味かな。

──

あと横浜や東京を活動の中心としながらも、関西のことをずっと気にかけてくれてるのがうれしくて。大阪の開催だからこそ思うことってありますか?

Daiju

2018年の初めての大阪開催がめちゃくちゃ楽しかったんですよね。

Yamakawa

楽しかったねー。

Daiju

沸き方もすごくてそれが原体験としてあって。東京でやるのもいいけど、あれだけ熱狂的に迎えてくれるんだったらもう一回やりたいよなってずっと思ってました。

Yasuko

あの時の大阪の反応は忘れられないものがありましたよね。自分たちも初めての遠征なこともあったのですごく不安だったんですよ。「関西の人はこうだよ」って話はいろいろ聞いてたので、「半端なことをやってたらけちょんけちょんに言われるんじゃないか」って(笑)。でも6人になったばかりだったし、あちこちで見せたかったんですよね。それでやってみたらあたたかく迎えていただいたのでそれが思い出深いです。

──

そう聞くと参加した僕らもうれしいなって思います。

Yasuko

自分たちもRadioheadを追って東京・大阪と行くんですけど、そのノリがそのままうちでも出てるなって感じて、そうすると自分たちを試すって感覚もあったし。

Yamakawa

そもそもけちょんけちょんにするくらいの人数が来るのかすらわかんなかったし、わざわざ時間をつくってお金を払って来てくれるのかなって、それが不安でしたよね。でも開催を発表したら予想以上の人がチケットを予約してくれて、熱烈に歓迎してくれて……。やってる甲斐があるなと感じました。最高でしたね。

──

明日の『Radiohead Night』も楽しみにしてます!

イベントレポートはこちら!

保護中: Radiohead Night @ESAKA MUSE イベントレポート

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