COLUMN

お歳暮企画 | アンテナとつくる2019年の5曲 Part.2

MUSIC 2019.12.27 Written By 阿部 仁知

ハユル&ユースケ(ザ・リラクシンズ)

ザ・リラクシンズ
2016年夏、兵庫県西宮市のスタジオモンジャクシンにて結成。4人組日本語ロックンロールバンド。独特の馬鹿げたワードセンスとシンプルかつポップなメロディー、そして交通事故的ライブパフォーマンス。あくまでビートを中心に据えた音楽で、独自の新しいロックンロールを追求している。2019年11月27日、2ndフルアルバム『morning call from THE RELAXIN’S』を発売。初の全国ツアー『ザ・リラクシンズTOUR 2019-2020「MORNING CALL TOUR」』を行う。
Webサイト:https://therelaxins.wixsite.com/official-web-site
Twitter:https://twitter.com/relaxin_s

 

ハユル(Vo / Gt) ユースケ(Gt)

“Train In Vain (Stand By Me)” The Clash
“キングスネーク” サンハウス
“All This Music Must Fade” The Who
“Promised Land” Chuck Berry
“ローリン” ザ・リラクシンズ

“Train In Vain (Stand By Me)” The Clash
今年40周年記念盤がリリースされた、ザ・クラッシュの超名盤「LONDON CALLING」より。アルバムの最後を飾るスウィートでどこか切ないナンバー。リードギターのミック・ジョーンズがボーカルを務める名曲です!(ユースケ)

 

“キングスネーク” サンハウス
2019年末に発売された、1974年8月に福島県で開催された「ワン・ステップ・フェスティバル」のライブ音源。デビュー前のフレッシュさも感じられ、汗が飛び散ってきそうな程生々しい!(ユースケ)

 

“All This Music Must Fade” The Who

1曲目のギターが鳴った瞬間「ザ・フーだ!!」と最高に興奮しました。今年は映画「さらば青春の光」のリマスター上映も観たのですが、最初のシーンでザ・フーの曲が流れて来た時と同じ興奮でした。(ハユル)

 

“Promised Land” Chuck Berry
50年以上前の楽曲ですが、今年の自分を彩ったという意味ではチャック・ベリーがそうかもしれません。迷った時はチャックベリーを聴くことにしていて、いつも新鮮な驚きと勇気をくれます。(ハユル)

 

“ローリン” ザ・リラクシンズ
今年のリラクシンズは十三ファンダンゴでの毎月企画「すきやき」や初のワンマンライブ、そしてGt. ユースケの復帰から新しいアルバムの発売&全国ツアーのスタート、怒涛のように駆け抜けた一年でした。転がらない日々をRock’n Rollで転がして行く。音楽的にもまさに新しいリラクシンズのやりたいことが詰まった象徴的な曲です。(二人)

パラシオ(Superfriends)

Superfriendsというバンドで、音楽を作っています。好きなことは、小さいおもちゃを集めること、映画を見ること、いい音楽を聞くことなどです。

 

Twitter:https://twitter.com/superfriends2
Webサイト:https://superfriends2.tumblr.com

“1955” Billy Cobb
“Nothing’s a Sure Thing, Shelly” Macseal
“To The Ground” Death Cab for Cutie
“Bitter Musician” Blueprint Blue
“Second Day of School(Piano Version)” Lullatone

まず、Billy Cobbのことは実はこの『Zerwee』というEPを聞くまで知らなかったんですが、とにかくいい曲を出し惜しみせず、インスピレーションの赴くままにストリーミングなどを通じてどんどんリリースしている人、という印象です。そういう意味ではGuided By Voicesっぽさもある。『Zerwee』というのは初期Weezerへの愛をオマージュたっぷりな楽曲で表現したEPなんですが、その声質、メロディー、アレンジ、すべてが僕の大好きなBlue Album、Pinkerton期のWeezerそのままで、あっちゅう間にノックダウンされてしまいました。これを機に一部のファンの間では「Weezerの過去作ばっかりもてはやすのは懐古主義的態度だ!」ってなお決まりの論争が起きていましたが、やっぱり僕も、その頃の曲が大好きでたまらないのです。自分が作ってる曲で、もし昔作った曲ばっかりもてはやされたら傷つくしムカつくだろうな…と思いつつ、別に新しい曲を無理してまで好きになってもらいたいとも思わないな、というのが僕の考えです。作ってる曲を作った当人が好きになれれば、それが一番よいのかなと思う所存です。

 

次に、Macsealはアメリカのバンドですが、初期はエモ/ポストロック寄りの楽曲が多かったのがここにきてめちゃめちゃいいメロディーのポップな楽曲をどんどん量産しており、僕はUseless IDとか聴きまくっていて高校時代を思い出して涙しながら聴きました。この曲は去年出た『Map It Out』ってEPにも入ってたんですが、改めて『Super Enthusiast』というアルバムの中に収録されて先日リリースされました。みんないい曲。

 

Death Cab for Cutieは2015年にリリースされた『Kintsugi』というアルバムが好きすぎて昨年のアルバム『Thank You for Today』にイマイチのめり込めなかったんですが、このEPはいい意味でアクセル振り切ってる感じがしてよかったです。全部いい曲だし、なんか後半になって爆音になるアレンジとか一線を超えちゃってる感じがしてとても良くて、夜中に高速道路とか走りながら聞いてました。この曲の最後も最高で、聞いてるとドーパミン的なものが出るのを感じました。

Blueprint Blueはイギリスのバンド。BASEMENTBARの片山くんがプレイリストで紹介していたことが頭に残っていて、たまたま地元のタワレコに売っていたので買ったんですが素晴らしかったです。AOR的文脈で語られることもあるようですが、もっと遡って60年代のアメリカ音楽への愛を感じる瞬間がたくさんあるアルバムだな、と思いました。この曲は売れないミュージシャンの心情吐露みたいな曲なんですが、スローテンポとビタースウィートなメロディーが相まってめちゃくちゃ沁みました。「これが最後のステージだったらどうする? なぜ育ちもしない種を撒き続ける?僕にはビールを買うお金もないし、ここには誰もいない。僕たちは冷たい反応とぬるいビールを受け取った」そんな歌詞を聴きながら、それでも音楽をやってしまうのは、やっぱり自分のためだからかな、などと感傷的な気持ちになりました。だからと言ってやらないなんて、考えられないのですけれど。

 

最後に、Lullatoneが出した『Music for Museum Gift Shops』からの一曲。これまでに出したいろんな楽曲をピアノだけで演奏し直したとても静かなアルバム。『美術館のギフトショップ用の音楽』なんてタイトルがそもそもかわいくて、夜中、持ち帰った仕事をするときにいつも小さい音で流していました。ピアノという楽器の、雄弁さよりも可愛らしさみたいなものがすごく感じられて、押し付けがましくなくて疲れているときにちょうど良い。これからもたぶんずっと聞いていく一枚になると感じています。

 

すっかり長くなってしまいました。それでは、みなさん良いお年を〜!

盆丸一生(ベルマインツ)

ベルマインツでボーカル・ギターを担当。

Twitter: https://twitter.com/cazoo3d
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCGFPaPBo8QL4ppfSZrzdZHg

“ニューライフが待ってる” 金子駿平
“遠視のコントラルト” 君島大空
“ニケ” YAJICO GIRL
“Layer” sumahama?
“愛はスローにちょっとずつ” サザンオールスターズ

どうも、盆丸です。ベルマインツというバンドを始めてから最初の音源をリリースした2019年。私の今年を彩った音楽といえば、間違いなく自分達の楽曲であるわけですが、それは一旦置いておくとして、心身ふるわせたこの5曲を。

 

まずは金子駿平“ニューライフが待ってる”。春先、神戸のライブハウスへ向かう途中、掠れた声とたった4小節の短いサビに体の内側をギュッと掴まれた瞬間が忘れられない。続いて、不安定な声と分厚い音がどうしたって美しい君島大空“遠視のコントラルト”もまた衝撃的だった。先日訪れた、吉澤嘉代子氏のライブサポートでギターを弾く彼も眩しいほどに素晴らしかった。

 

次に、YAJICO GIRL“ニケ”。これまでの作品から音楽性を急転回した彼ら。暗中模索ではあるだろうが、歌詞からも見て取れるよう、深海のどろっとした塊からキラキラした心惹かれるものだけを拾い集めるような情景に心打たれる。sumahama?の“Layer”は夢と現実の境目で歌をうたっているような、存在しないようできっと確かに存在する楽園を想起させた。

 

そして、ついにサブスクも解禁されたサザンオールスターズの新曲“愛はスローにちょっとずつ”。長年音楽と共に歩んできた彼らだからこそ紡ぐことを許された名曲ではないだろうか。

 

さあ、2019年も残りわずか。名曲は山ほどありますが、令和の世から、我々なりのええ曲を残すべくいそいそと曲をこしらえましょう。これからのベルマインツにどうかご注目くださいませ。

マーガレット安井(アンテナ:ライター)

大阪在住のしがない音楽好き。普段は介護施設で働きながら、鬱々とした毎日を過ごす。好きなジャンルはシティポップと女性シンガー・ソングライターと女性アイドル。

“SSW” ASAYAKE01
“バッド・レピュテイション” ナードマグネット
“旅気候” Easycome
“アホはくりかえす” 鈴木実貴子ズ
“くすりゆび” 葉山久瑠実

別に海外の作品や、日本のメジャー作品を無視した訳ではないが、「今、好きな曲」を選ぶと自然とインディーズ中心のラインナップとなった。この1年は本業も忙しく、アンテナも忙しく、暇さえあれば、ライブハウスに行ったり、音楽配信サイトで気になるバンドを検索し、リスニング。30代を過ぎて、こんなにあわただしく毎日を過ごしたのは初めてだったが、不思議と毎日楽しく過ごせた。

 

そんな自分の今年の5枚だが、まずは兵庫県出身のシンガーソングライター葉山久瑠実の“くすりゆび”。聴けばわかるが、話のつまらない女の子が男に浮気され、女友達がちょっと残酷な手法で男を懲らしめる、というサイコパスなナンバー。ただ、実は理論的には筋が通っており、葉山久瑠実の皮肉文学の傑作でもある。

 

そして名古屋のバンド、鈴木実貴子ズの“アホはくりかえす”。この曲の魅力は鈴木実貴子(Vo / Gt)のガラスのように繊細で鋼のように力強い歌声とバンドマンから舞台から降りたあとの生々しい描写。この生々しさはライブハウスを経営する人間でもある鈴木実貴子ズでしか描けない作品だ。

 

大阪のバンド、Easycomeの“旅気候”はCDやサブスクで解禁される前からライブハウスでよく演奏され、その頃からお気に入り曲。抜けのいいサウンドとちーかま(Vo / Gt)の明るく張りのある歌声がとにかく最高。あと、今の「無理をしないバンド感」に一番マッチしている曲だと、私は感じる。

 

ナードマグネットの“バッド・レピュテイション”はメンバーの須田良太(Vo / Gt)の言葉を借りれば「2000年代ポップ・パンク大博覧会」みたいな曲。ただそこにイケてる側にもスラット・シェイミング的な辛さもある、ことを歌にしており、まさに「2019年の音楽」というべきものに仕上がっている。個人的にはこの曲が収録されたアルバム『透明になったあなたへ』は時代に向き合った傑作だと断言できる。

 

最後は大阪のシンガーソングライターASAYAKE01の“SSW” 。別に今回の5曲は順位をつけなく選んではいたが、“SSW”だけは別格。ASAYAKE 01は6年近く活動休止をしている。この曲は活動休止前の自身を今の自分視点で歌っている。「無名のSSWごっこ」と過去の自身を皮肉りながらも、今改めてSSWとして歌う。その覚悟に、ライターである自分は涙する。そして、こう思う。「無名のライターごっこ」にならぬよう、これからも関西の音楽シーンを伝えていこうと。この曲は1人の男の人生を歌っただけかも知れないが、覚悟を持って何かに取り組む全ての人間の曲だ。誰がなんと言おうと、今年の僕の中でのベストはこの曲だ。

前田流星(バレーボウイズ)

皮肉とユーモアのある作品に定評がある。 バンド、バレーボウイズのボーカルとしても活動中。

Webサイト:https://ryuseimaeda0513.tumblr.com/

Instagram:https://www.instagram.com/ryusei_maeda/

Twitter:https://twitter.com/ryusei__maeda

 

バレーボウイズ

京都精華大学の学園祭「木野祭」出演のために2015年に結成。 異端でありどこかスタンダード。ノスタルジックで歌謡ライクなメロディと歌のハーモニーを青春に封じ込め、男女混声7人7様のキャラクターが奇跡的なバランスをもって歌と演奏を聴かせる。

 

ライブオーディション『TOKYO BIG UP!』でグランプリ、『FUJI ROCK FESTIVAL 2017』ではROOKIE A GO-GO枠で初出演。 今年4月にYouTubeで公開された“渚をドライブ”は15万再生され、7月にはデジタルシングル『雨があがったら/セレナーデ』をリリース。2020年3月には新曲が配信リリースされ、渋谷WWWワンマン開催決定している。

 

『まるごとバレーボウイズ』

日時:2020年3月21日(土)

開場 16:00 / 開演 18:00

前売 :3,000円

チケット先行購入でオリジナルキーホルダーをプレゼント

https://eplus.jp/volleyboys-web

 

HP:http://volleyboys.kyoto/

Twitter:https://twitter.com/volleyboys_band

Instagram:https://www.instagram.com/volleyboys_official/

“This Is Not Who I Want To Be” Joanna Sternberg

“僕は一寸・夏編” 細野晴臣

“Ottolenghi” Loyle Carner

“Ride On Time” 田我流

“Windows” Frankie Cosmos

“This Is Not Who I Want To Be” Joanna Sternberg

アルバムの一曲目、臨場感のあるピアノのイントロと繊細でどこか悲しげな歌声が重なった時、もう僕はJoanna Sternbergの世界に全身が包まれ、ただただ優しい雨に打たれるように聴き入っていました。彼女にあったこともなければ知ったのも今年に入ってからだけれど、ずっとずっと会いたかった友達に出会えた様な感覚。それは僕が、初めてDaniel Johnstonを聞いた時と似た様な感覚でもありました。これからも隣でそっと寄り添ってくれる音楽だと思います。彼女は絵も描いていてCDのジャケットにもなっています。僕はその絵もすごく大好きです。

 

“僕は一寸・夏編” 細野晴臣

今年の春、平成の終わりを目前にリリースされた「HOCHONO HOUSE」はこの時期はよくラジオでも流れていてよく聞いていました。「HOSONO HOUSE」をリメイクした作品んで、「僕は一寸・夏編」は歌詞が大幅に替わっていて自身の今までを振り返った様な内容の歌詞に、長い人生の旅路を歩んだ貫禄と渋みを感じ、煌々と輝いて眩しく思いました。その眩しい輝きには僕の胸を暖め込み上げて来るものがありました。

 

“Ottolenghi” Loyle Carner

僕は家でBGMとして音楽を聴く事が多く、Loyle Carnerのセカンドアルバム『Not Waving, But Drowning』は家の中で何度もループ再生していました。ジャジーでメロウでタイトなドラムスは、朝パンを食べている時も、昼寝している時も、風呂上がりにビールを飲んでいる時も、心地の良い落ち着いた雰囲気にしてくれます。もちろん歌詞を見ながら曲に酔いしれるのも良す。“Ottolenghi” の歌詞もめっちゃ好き。

 

“Ride On Time” 田我流

田我流さんのリリックにはいつもハッとさせられる事が多い。

社会の仕組みや生き方、シビアな現実をユーモラスな言葉運びで乗りこなす樣に強く心を動かされました。情熱的で人間味溢れる田我流さんの作品には、この社会で生きていく為の道しるべがあると思います。LIVEに行きたいな!!

 

“Windows” / Frankie Cosmos

Frankie Cosmosは2年前来日のツアーに来た際に京都編で共演した事があり、その時に見たFrankie Cosmosのライブがめっちゃめっちゃかっこよくて新譜が出る度によく聞いています。”Windows”のMVは映画『Ghost world』を彷彿させる女の子2人がとても可愛くて好きです。

松井文

平成元年横浜出身。1stアルバム『あこがれ』を大阪在住時にリリース し、フォークロックシーンで話題を呼んだ。2017年、折坂悠太監修の もと2ndアルバム『顔』を発表。「のろしレコード」旗揚げの呼び掛け人。2019年初冬、演劇ウンゲツィーファ『さなぎ』に俳優として出 演。少年性と女性性の間を行き交う歌声が、日常を激情に寄せてくる。

 

松井文のけせらせらブログ:http://piggyma.jugem.jp/

Twitter:https://twitter.com/matsuiayaya

“旅をするように” 尾島隆英
“ターニングポイントブルース” 三輪二郎
“光” 坂口恭平
“ダニーボーイ” 渋谷毅
“OOPTH” のろしレコード

今年は、上半期から三輪二郎さん尾島隆英さんといった仲の良い音楽家が名盤を出していて、繰り返し何度も何度も聴きました。アルバムの中でもこの二曲が大好きです。

 

坂口恭平さんの“光”は今年出演させてもらった、ウンゲツィーファの演劇『さなぎ』の主題歌として使われていた曲。稽古に行く道すがら、坂口さんの他の楽曲もよく聴いていました。

 

今年観たライブで一番印象に残っているのが、月に一度、西荻窪アケタの店で深夜0時から始まる渋谷毅さんのソロピアノ。ひっそりとした街中を自転車でひとりアケタの店まで。ダニーボーイは毎回最後の方に演奏するのですが、ふわりと天使が舞い降りるような気がします。

 

そして、今年はなんといってものろしレコードの年でした。表題曲“OOPTH”はレコーディング合宿後に夜久さんが作った曲なのですが、これを聴くたびに小渕沢の暑さが思い出されます。みんなで行くハイエースでのツアーもとても良かったです。皆さんにとっても長く愛してもらえるアルバムが出来たと思います。

松葉ケガニ(松ノ葉楽団)

松ノ葉楽団のボーカル・ギター担当。
アルコールの匂いのする生活の歌を、ハネ返ったリズムへのせて歌う。
赤ら顔がチャームポイントと自負しているけれど、評判は不明である。

 

Webサイト:http://matsunohagakudan.jimdo.com/
Twitter:https://twitter.com/matsunohag

“跳べない魚” 谷澤ウッドストック
“フォーマルハウト” 富山優子
“無職” こつぶと楽しいお豆たち
“夕暮れ電車” 江口優
“満員電車で会いましょう” はるまつあるふゆ

いち音楽人として今年もさまざまな音楽に触れたけれど、その中でもとくに突発的に出会い、中毒的に聴いていた5曲を順番に挙げてみる。

 

シンガーソングライターの谷澤ウッドストックさんによる“跳べない魚”は、シンプルながらも温かいバラード。多作な彼ならではの洗練されたメロディと歌詞が、嫌味なく情感的メッセージを届ける。

 

作曲家でピアニストの富山優子さんによる“フォーマルハウト”は、冒頭のコード進行と壮大なテーマで激しく揺さぶりつつもサビの部分ですとんと安定させる、濃厚な曲想が心地いい。ピアノのバッキングもリズムも、必要なもの以外はていねいに取り除かれていて何度聞いても同じ後味にならない。

 

ボーカリスト木村美保が率いる職人音楽家集団、こつぶと楽しいお豆たちの“無職”は、サイケデリックでどこか懐かしいMVも含めて、じつに中毒性のある楽曲。演奏ににじむルーツ音楽への造詣と、それを自由に飛び回る歌唱が耳に心地よい。

 

マーヴィン・ゲイのような優しい歌声をもつ江口優さんの“夕暮れ電車”は、夕焼けに染まる電車内のワンシーンを切り取る。日常がかくもドラマチックだということを思い出させてくれる名曲。

 

男女ボーカルが心地いいバンド、はるまつあるふゆの“満員電車で会いましょう”は、別離の詩情に彩られた歌。毅然と別れを歌っているのに、その余韻は新しい恋愛のようにいつまでも響いている。

 

こうしてみるととても個人的なリストになってしまったけれど、どれも素晴らしいのでぜひ探して聴いてほしい。みなさまの新しい年にも、いい音楽との出会いがありますように。

三浦佳奈

1994年生まれ 福島県いわき市出身
代官山のライブハウス『晴れたら空に豆まいて』のブッキングマネージャーとして働くかたわら、現在はのろしレコード(松井文、折坂悠太、夜久一)のマネジメントを担当している。

 

Twitter:https://twitter.com/miura_kana
Instagram:https://www.instagram.com/kknmurr/

“おもいで” 三輪二郎
“ghost” 踊ってばかりの国
“ノヴァ・エチカ” GUIRO
“My Outside” Alice Phoebe Lou
“コールドスリープ” のろしレコード

気づけばあっという間に2019年が終わろうとしています。選ぶのが非常に難しかった年間ベスト5ですが、上にあげた曲のみならず、これはとくにアルバム単位でリピート再生していたな、という作品を選びました。

 

まずは三輪二郎の5年ぶり4枚目のアルバム『しあわせの港』より“おもいで”。楽器が一切演奏できない私がはじめて「これはギター弾きながら歌ってみたい」とか思ってしまった楽曲です。

 

続いては、踊ってばかりの国の最新作『光の中に』の1曲目“ghost”。長い前奏から早足で駆け抜ける音、音、音。しばらく今作しか聞いてない時期があったほど、周りを巻き込んでどハマりしました。今のところ年間ベストアルバムです。

 

次に選んだのは、名古屋の宝 GUIROの『A MEZZANINE』より“ノヴァ・エチカ”。森、道、市場の海辺のステージで見た彼らのライブに一目惚れ、心がキュンときた瞬間でした。その後、晴れ豆でもワンマンでお世話になったりと、個人的に大切にしているバンドです。

 

2019年に忘れられない出来事といえば、Alice Phoebe Louの2度目のジャパンツアーもそのひとつです。無邪気で色っぽい彼女のアルバム『Paper Castles』は最初から最後までハズレなしで、選ぶのに一番時間がかかりましたが、ツアー中幾度となく聞いた“My Outside”はぜひチェックしてもらいたいです。

 

最後に選んだのは、アンテナで峯さんにインタビューしていただいたのろしレコード(松井文、折坂悠太、夜久一)の2枚目のアルバム『OOPTH』よりリード曲“コールドスリープ”。今年の私は彼らなしには語れないのです。衣食住を共にしたレコーディング合宿からリリースツアーまで、すべて関わり、考え、悩み、そして楽しくて仕方なかった。主観なしには聞けないのでアレですが、自信を持ってオススメできる一作になりました。

 

こうやって1年を振り返るってとても大事なことですね。誘ってくださった峯さん、ありがとうございました!

峯大貴(アンテナ:副編集長)

北摂から現在高円寺、会社員兼音楽ライター28歳になりました。昨2018年末の今頃はちょうど京都で第2回の『うたのゆくえ』が開催されることが発表され、「これこそアンテナで全力特集すべきイベントやろ!!」とみんなに言ってた気がする。一年早いですね。

 

Twitter:https://twitter.com/mine_cism

“コールドスリープ” のろしレコード
“むかしぼくはまともだった” HoSoVoSo
“オマージュ – ブルーハーツが聴こえる” リクオ
“AZUMI説法(おかんのブルース)” AZUMIと久下恵生
“中央線” butaji

自分が副編集長となり、アンテナをメディアとしてのネクストステージに押し上げるために取材し、書きまくった1年。そしてこれまで歌で繋がった「ご縁」を一つ一つ形にしていった1年。今年出会った音楽の中で、常に自分と伴走してくれていた5曲を選びました。だからすべて日本の曲になってしまった。

 

2015年の発足から見届けてきた、のろしレコードが再び動き出したのは今年随一のニュースでしたし、その上で“コールドスリープ”はフォーク・ソングというフォーマットを借りながらも、全く新しい歌世界を作り上げた大名曲。この先もこの曲を聴けばいつだって2019年にタイムトラベル出来てしまいそうです。

 

HoSoVoSoのこの曲は皮肉満載ではありますが、彼が歌い手として生きていく宣言ともとれる。誰かを突き放してまで自らの音楽を信じ、歌っているHoSoVoSoの歌に、自分の書き手としての姿勢も照らし合わせながら支えられていました。

 

また今年リクオさんに取材が出来たことも大きなトピックですが、きっかけはこの曲を聴いた感想を私がツイートしたことからです。周りの音楽からの引用の手法と高い熱量に溢れていて、一年通して背中をグイっと押してくれました。

 

ベテランになってもなお年々進化し続けているという意味ではAZUMIさんも。この曲が収録されているのはドラムの久下恵生さんとデュオ編成で行ったライブ盤ですが、22分に渡る長尺説法でのインプロビゼーションと縦横無尽に怒号&喋りたくるAZUMIさんに降りてきた「おかん」は絶品。聴くたびに笑えて泣けて、関西に帰りたくなる。

 

そして最後はこの年の締めくくりに届けられたbutajiさんの美しいシングル曲。中央線を舞台に愛する人との別れやすれ違いを受け入れながら、晴れやかに未来へ向けて進んでいく逞しさ。もうちょっとの間、この曲の力を借りながら生きていこうと思えました。

 

こう書き連ねてみると新しい音楽と出会うことで、新しい人と繋がっていくような不思議な年でした。来年は身の回りの小さな輪に閉じこもらず、より外に目線を向けて行ければと思います。自分もアンテナもまだまだ発展途上。人生を進めよう。共に行こう。私たちの好きな音楽で。

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