INTERVIEW

デモ音源にみる隠せないこだわり アーティストの原点に迫る試聴座談会 with HOLIDAY! RECORDS

古今東西さまざまなアーティストが録音の前段階や配布用、PRのツールとしてつくってきたデモ音源。今回はデモ音源を通して京都シーンを振り返ろうと考え、 HOLIDAY! RECORDSの植野秀章さんとANTENNAの堤・阿部の3人でわいわい聴きながら座談会を実施。そこから見えてきたのは、隠そうにも隠せないアーティストのこだわりと、音楽で表現しようとする原点の輝きだった。

HOLIDAY! RECORDS

2014年から始まったWebショップ/ディストロ。実店舗はなく、店主・植野が厳選した国内のインディーズバンドのCDをWebとライブ会場で販売。福岡のCROSS FMでは隔週でおすすめバンドの紹介も。

https://holiday2014.thebase.in/

ANTENNA編集部:阿部仁知(以下、阿部)

まずデモ音源って近年もCDでもらうものなんですか?データだったり?

植野秀章(以下、植野)

HOLIDAY! RECORDSをはじめた2014年はCDが主流でしたが、数年前からGigaFile便やDropboxのデータが多くなり、近頃はサブスクのリンクが送られてくることが増えました。めちゃくちゃ変わりましたね。あと正規音源との区別も曖昧っていうか。デモも普通にタワレコで置くようになってるし、リスナーの僕らからしても正規音源と等しくなってきてます。

ANTENNA編集部:堤大樹(以下、堤)

サジェストで「デモ音源 どこまで」って出てくるし、定義自体も変わってきてるんでしょうね。実際受け取って違いは感じる?

植野

今日持ってきたのは久しぶりに見るCDがほとんどなんですけど、その時は感じなかった感慨深さがありますね。デジタルの画面で見てもあまりそういう気持ちにはならないだろうなって。「いつどこでこれもらったんだろう?」って思い出したりできるのは、モノがあるからなのかも。

たしかに。早速聴いていきましょうか。

バレーボウイズ『ファーストデモ』

バレーボウイズ『ファーストデモ』。2016年頃の音源。“あさやけ”、“卒業”などが収録され、音源は後に自主制作盤の『あさやけ』としてリリース。バレーボウイズは2020年に解散。
植野

これは確か大阪の〈knave〉でネギちゃんとツヅミちゃんが挨拶してくれてその時にもらったんですよ。ファーストデモって書いてあるけど実は世には出てなくて。音源自体はその後発売されたやつと一緒なんですが、ジャケットを見た時に「ちょっとイメージとちゃうな。パンクとかハードコアみたいだな」って思ってそれを伝えたら、変更されて発売されたっていう。でも後で知ったんですけど、これは今画家としても活動してる前田流星が書いたらしいんですよ。

流星くん、イラスト結構パンクだもんね。音源はサブスクにあったりします?

植野

サブスクにはないです。その前の自主のデモですね。

でもその方針転換がその後のアートワークに繋がってる感じがするね。この方向もこれはこれで見たかったけど。

植野

逆に京都っぽい感じもするし(笑)

絶対出演は〈CLUB METRO〉か〈LIVE HOUSE GATTACA〉ですよこれは。

植野

県外のバンドと話していると、京都は台風クラブとかバレーボウイズのイメージが大きいのかなと感じます。2015年あたりにnever young beachとかYogee New Wavesが流行って以降、言語化されたものをみんなが京都バンドに再発見したんじゃないかなって思います。

Set Free『Set Free(demo)』

Set Free『Set Free(demo)』。現在の5人体制となる前の2017年の音源。“くるくる”、“インスタントソング”などを収録。
阿部

この段ボールのやつもめっちゃ気になってるんですが。

植野

Set Freeですね。こうやってみると、モノだとやっぱ個性も出やすいんだなって思いました。一番最初の作品だと持っている個性を全部注ぎ込むのと、荒削りっていうか。でもこれはHOLIDAY! RECORDSで100枚近く売ってます。

阿部

綺麗な段ボールを選ぼうとさえしてない感じがいいですね。

植野

追加オーダーを頼んだら「バイト先で段ボール調達するんで待ってください」って(笑)。でも彼らがこういう感じでつくったのってこれ一枚だけで、この次はちゃんとしたジャケットになってたんですよ。

その後〈ファーストコール〉の谷川さんと録音してるはず。

植野

ジャケットも録音もプロの手で仕上げられる前の、自分たちのこだわりがそのまま出てる感じがしますね。それがデモ音源のよさなのかもって改めて思いました。

ナカノスズコ『砂利道/ある、あいのうた』

ナカノスズコ『砂利道/ある、あいのうた』。ベランダ加入前の中野鈴子(Ba / Cho)による2014年頃の音源。“砂利道”、“ある、あいのうた”を収録。
阿部

ナカノスズコさんは、ベランダの?

植野

ナカノスズコさんのデモは中のライブ情報を見ると2014年。バンドでベランダと対バンしてますね。彼女のお兄ちゃんと喋る仲だったので昔から存在は知ってたんですが、後々「ベランダでベース弾いてるのはあのスズコさんだ!」ってなったんですよ。余談ですけど彼女にはお姉ちゃんもいて、加速するラブズのいくみちゃん。

阿部

音がかなりいいですね。デモながら音質へのこだわりを感じます。

スズコちゃんのこだわりが見える部分だよね。

デモ音源の中には、当時のライブ情報も

Shuta Sugimoto『WANG GANG』

Shuta Sugimoto『WANG GANG』。現在のWANG GUNG BANDの前身による2019年頃の音源。当時WANG GUNGとして活動していたが、このデモではWANG GANGと表記されている。
阿部

音質の話でいくとWANG GANGとの対比が面白いですね。割と最近の音源ですか?

植野

実は結構前なんです。WANG GANGっていう名義でいろいろ友達を集めて、河原で演奏するみたいなところからはじまったみたいなんですよ。だから今のWANG GUNG BANDはこの名義だけ名残として残ったのかな。でもめっちゃいいんですよ。英語のフォークみたいで、でも古臭くなくて。「ネギ、英語の曲もいいやん!」ってなる。

阿部

雑味が最高ですね。この感じめっちゃ好きです。

植野

いいですよね。あと謎の中国人アーティストっていうコンセプトで名前をWANG GANGにしたっていう。

WANG GUNG BANDはアートワークが台湾っぽいもんね。ネギちゃんはデモっぽいサウンドの曲が似合うんだよな。ラフでちょっと楽しそうで。

植野

スズコさんは音がめっちゃ良かったけど、その4年後にこれなのも面白い。性格も出てますよね。

でも俺らが「デモ聴くぞ」ってなってイメージしてたのはこの音質な気もする。それぞれのこだわる部分とこだわらない部分が見えてくるね。

The Papaya Collections『ジャムとマーガレット-single-』

The Papaya Collections『ジャムとマーガレット-single-』。同志社大学の4人組による2019年の音源。“ジャムとマーガレット”、“Bouquet”などを収録。
植野

The Papaya Collectionsは最近のバンドですね。同志社の現役の大学生。面白いのは完全に「台風クラブ好きです」っていう新しい世代ってところ。「Easycome好きでした、YMB好きでした」とか、「ズーカラデルとかベランダが出てたライブ見にいってました」とか、そういう若い世代のバンドがちらほら出てきてますね。

次がやっぱり芽生えてきてるんですね。

植野

京都への勝手なイメージですけど、規模感じゃなくて「その手があったか!」みたいなのをやるバンドが愛されるのかなって。台風クラブもThe Papaya Collectionsもデモ音源からそういう他の人と違う細部への意識を感じますよね。

10年以上前を振り返ると、デモって単純に「つくりたいからつくる」って側面も強かったと思ってて。とりあえずつくるけど、配る場所も決めてない。あと当時はHOLIDAY! RECORDSみたいなデモでも取り扱ってくれるところは多くなくて、ライブハウスの手売りの次はいきなりレコ屋だからハードルが高かった。デモ音源の流通を大きいところが手をつけはじめたのって、植野くんの存在の影響もあるんじゃないですか?HOLIDAY! RECORDSコーナーが新宿と博多のHMVにもできて、そこでもちゃんと売れてるのが目に見えたり。ネットで見るだけじゃない部分。

植野

自分で言うのも変だけどあるような気もします。デモ音源にも需要があるって示した一つなのかな。実際レコーディングが気軽にできるようになったからとか技術的なところもあって、流通盤もデモ盤も音自体のクオリティは変わらなくなってきたから成り立つようになってきたのもあるんじゃないですかね。

しかし、デモ音源を持ってきてもらって思ったのはHOLIDAY! RECORDSの足跡がすごく詰まってるってことだよね。大事に育んできたこの数年の植野くんの人間関係そのものだなって思った。距離感が見えるというか。そうだよな、デモって割と近い人からもらうものも多いものなんだよな。

植野

話してて、モノにすると絶対に誰かとの接点(リアルでの邂逅)が生まれるなって。それが重要なのかもしれないですね。

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