INTERVIEW

もっと広がりたい 再び歩み始めたSSWの現在地 ASAYAKE 01インタビュー

MUSIC 2020.02.21 Written By 阿部 仁知

再生の日々、映画から受けた影響とpara-diceブッカー時代

──

活動をやめてからはどんな風に過ごしていたんですか?

ASAYAKE 01

音楽に対する熱が全くなくなっちゃって、はじめの一年間はライブハウスにもほぼ行かず、音楽を好んで聴くこともなく、ひたすら映画を観てました。

──

映画なんですね。

ASAYAKE 01

ライムスターの宇多丸さんのラジオ番組で、サイコロを振って出た新作映画を観に行って、その映画を批評する『シネマハスラー』っていうコーナーがあったんですよ。あの方の批評がめちゃくちゃ面白くて、「映画ってこういう見方があるんや、すごく奥が深い」って思いましたね。そうしていくうちに、そのラジオ番組で宇多丸さんがかける音楽とか、東京で流行ってる音楽を自然と聴くようになって。

──

ある種のリハビリのような感じですね。今振り返ると映画から影響受けたっていうところはありますか。

ASAYAKE 01

曲の作り方に関して影響を受けました。特に『S S W』に入ってる“ゴースト”とか“S S W”、”湯船オーシャン”もそうだし。表面と奥にあるテーマ。その映画の構築のされ方、「ものづくりってこういう芯があるんや」ってところで、曲作りも意識するようになっていくんですね。浅はかなものですが。

──

先ほど言っていた奥の世界ですね。表現の裏では実はこういう意図が込められてるみたいな。

ASAYAKE 01

そうですね、僕は今まで表面上のことを勢いで歌って、自然と意味が後付けされていく感じだったんですけど、作る根本から意識するようになったのは映画の影響です。

──

なるほど。曲作りにもつながっていくんですね。

ASAYAKE 01

そこから時間をゆっくり使いながら曲を作るように自然になっていきました。元々カバーをせずにいきなり路上にギターを持ってオリジナルをやり始めた人間なので、音楽をする上での知識や技術もなく出てくるものが癖でしかなったんですが、この時期にいろんな事を試すようにもなってました。

──

例えばどんなことをしてたんですか?

ASAYAKE 01

もちろんカバーもしてみたり、ノートPCやインターフェース、マイクを買って俯瞰しながら作ってみたり。例えば今までギターを弾きながら曲を作ってたんですけど、一度ギターだけ録音して、それを聴きながらメロディや歌詞を考えたり。歌ってると気持ちいい歌詞でも録音して聴いた時にどう聞こえるかとか、曲の尺とか。それで一番最初にできたのが“群青”って曲で、休止後初めて作った一曲になります。

 

他にはひまわり畑の小田切くんのトラックに歌を乗せた“Go Away”や、『S S W』でも何曲かピアノで参加してもらった黒川雄司(ex.片足ズボン)の“彼女は殺し屋”という曲のピアノ伴奏に全く別の歌をつけた“26日のサイレントナイト”とか、他の人の癖にどう自分が合わせるかみたいな試みは沢山しました。そうやっていくうちに曲作りにまたのめり込んでいって、2015年にできたのが“ゴースト”ですね。自分本意な考え方から、他者にはどう聞こえるかって意識が少し芽生え出した気がします。

──

それは面白い変化ですね。自分の癖をいかに乗り越えようかと苦心する中で、自然と枠が広がっていったような。作曲活動以外でも何か身の周りの変化はあったんでしょうか?

ASAYAKE 01

ちょうどその時期に始めたpara-diceのブッカーも今の自分にとってすごく大切な時間だったと思います。社長の瀧井さん、活動を始めた頃から世話になっている志村さん、そしてこの仕事に誘ってくれた安井さん、para-diceを介して知り合ったお客さんや演者の方々にはすごく影響を受けました。

──

どんな影響でしょうか?

ASAYAKE 01

お三方とも現役のミュージシャンでもあるんですよね。だからこそわかる演者目線のライブハウスのあり方や振る舞い方、いろんな事を学びました。それとは逆に演者側だと見えないライブハウス側の部分も体感したし、何より僕よりも年上なのに20代かのように毎日戦っていた。そんな姿を見ていると、「この人たちがこんだけ頑張ってるんだから年下の自分ももっと頑張らな」って感じて。そんな事を思っていくうち頑張るベクトルを音楽活動にもう一度向けようってなれたんだと思います。

──

すごく重要な時間だったんですね。

ASAYAKE 01

バーカウンターにも立っていたのでハコに足を運んでくれたお客さんとも話す機会が増えました。ASAYAKE 01のお客さんじゃないにせよ、ライブ活動をしてた時よりも話す機会は圧倒的に増えて。演者ではなくスタッフとして接する事でフラットに話せる事が増えたんだと思います。その事でお客さんの気持ちも以前より少し知る事ができた。それぞれの生活がある中でライブハウスに集っている。思いや目的は様々やけど中には僕らに負けなくらいライブハウスを愛し楽しんでいる方がたくさんいて。

 

それと出演者の方々。この瞬間を集まった人たちとどう楽しむか。売れる売れないとかじゃなくライブハウスと自分の演奏を中心におきながら音楽活動をどう楽しんでいくか。携わらせてもらううちに僕にいろんな今後の選択肢を教えてくれました。若い世代の音楽にも触れる機会が増えて彼らのスキルの高さに驚いたり、休まず続けてきた同世代の音の凄みを体感したり、とにかく刺激的でしたね。そして演者としてこのままでは終わりたくないって思いにさせてくれました。真面目な話、かけがえのない時間です。

2020年。本当の意味で今のASAYAKE 01を出していく

──

改めて活動を始めて、以前と周りの反応の違いは感じますか。

ASAYAKE 01

以前のライブは一部のコアな人に熱狂的に受けたんですけど、今はコンスタントにいろんな層に受けるようになってるなって感じます。それがすごく嬉しくて。“S S W”も歌詞が重い分、軽快なアレンジにして少しでも聴いてもらえる幅の広さを意識してみたり、そういう試行錯誤もあったので今まで届かなかった人に届くのはすごく嬉しいです。

──

伝わってるって感じた瞬間はありますか。

ASAYAKE 01

あります。曲単位で褒めてもらえる事が昔より増えた気がします。特に新曲たちをきっかけに僕を知ってもらえる事が増えたかも。『S S W』の収録曲の“ギター”は昔の曲ですが、活動を止めてSoundcloudにあげてから広がっていったんですよね、あんなにライブしてたのに何年後かに広がっていくというのは、少し悲しくもありますが、楽曲だけの強度やインパクトって大切やなとつくづく思いましたね。

──

曲の強度が重要っていう考え方の変化と、強度を持った楽曲を作れるようになったっていう自信がついたってことですよね。なんかシンガーからソングライターになったんだなって気がしまして。

ASAYAKE 01

あー、面白いですね、繋がりますね。今ずっと模索してるんで、まだまだ足りてない部分もあります。かといって勉強してカチカチになるのは嫌なんで、自分のバランスを保ちながら吸収はしていこうと思います。でも前より少しずつ強度が出てるような気がします。

──

ライブを観た時“Don’t Look Back In 夕暮れ”がとても響いたんです。Twitterで歌詞を拾ったというのは結構面白い試みですが、どういう経緯で行ったんですか?

ASAYAKE 01

インストのトラックをTwitterにあげたらフォロワーさんが何気なくそのトラックに対して呟いてくれた言葉がすごく詩的だったんですよ。それで「このトラックを聴いて閃いた人はなんでもいいんで言葉をください」って呟いたら44個のフレーズが集まって。

 

セッションした人がその日の特別バンドメンバーになると考えた時に、SNS上でフレーズをくれた44人はその曲のためだけに集まった特別メンバーだなと思って。強引かな(笑)。 でも、その場その場で居合わせた人たちと特別な何かを作るって発想で面白い音楽やパーティーも沢山生まれてきたと思うけど、SNSでさらに進化していくと思う。

──

それは今の時代の面白さですね。みんなで曲を作るってみんなをつなぐ行為だなって思います。

ASAYAKE 01

この曲は今ずっとライブの最後にやってるんです。44人の中に知らない人もいて、この前東京で自主企画をしてイベントが終わった時に、「実はあのフレーズ私なんです。あれがきっかけでASAYAKE 01さんを知って来ました」って人がいて。

──

それ死ぬほど嬉しくないですか。

ASAYAKE 01

めちゃくちゃ嬉しかったですよほんとに。自分が出した言葉がそのまま採用されてライブで歌われてるってのにすごく感動されてて。お客さんとアーティストだけど、ただのお客さんとアーティストではないちょっと不思議な関係性ができるなって。実はこの企画はまたやろうと思っています(※)。期待しておいてください。

 

2020年元日に「2020年元日に思う事」というテーマで実施済。

──

最後に今後の展望を聞かせてもらえたらと。

ASAYAKE 01

今は新曲を作っています。それとまだ音源化されてない曲をまとめたミニアルバムをまた出したいなって思っています。今だと配信限定で1曲2曲って発表できるので、2020年中に最低でも何かを発表したいですね。並行して歌詞のフレーズを募集するみたいな閃いた企画をどんどんやっていきたいです。あとはバンド編成のライブかな。『S S W』は弾き語りの音源じゃないので、あれを限りなく再現できる編成のバンドでライブをやりたいですね。頻繁にはできないでしょうけど大きなライブハウスを借りて。

──

おお、バンドは楽しみです!

ASAYAKE 01

ASAYAKE 01バンドですね。そして東京大阪京都とか、再現に近いライブをしたいなってのは僕の一つの目標です。ただストリングスとかホーンとかパートが多すぎて、再現するのがめっちゃ難しいんです。でも実現したいな。その前にもっとこの音源を広げる活動をしていきたいですね。7年間を埋めるとういテーマで2019年をやってきたんで、並行しつつ今のASAYAKE 01を出していくのを2020年からもっと意識してやっていけたらと思います。

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