REPORT

乾和代の見たナノボロ2022 day1

京都の夏の音楽フェスティバル『ナノボロフェスタ』。今年からは『ナノボロ』を正式名称とし、昨年同様KBS京都ホールで2日間に渡って開催されました。ANTENNAでは今年も編集部あげての総力取材!2日間の模様を各日1名のライターによる独自の目線で綴っていきます。本記事では8月20日の模様をハイライト。

MUSIC 2022.09.02 Written By 乾 和代

今や、夏の終わりの風物詩。10月の『ボロフェスタ』に先駆けて開催される『ナノボロ』。本来は、〈livehouse nano〉(以下、nano)を中心に複数の会場で行われる小型サーキット・フェスだが、コロナの影響で2020年から会場を〈KBSホール〉に変えてフェスを続けてきた。行動制限はないが、第7波が続くという状況下。密にならないことを逆手に、ホールのメインステージを“GREEN SIDE STAGE”、“ORENGE SIDE STAGE”と左右に分け、後方にはそれぞれのPA席とVJ席という計3席が設けられた空間を贅沢に使ったセッティング。それは、小さなライブハウスが二つ隣り合っているようで、同じ会場でも秋に行われる『ボロフェスタ』とは違う、いつもの〈nano〉でライブを観ているような空気感を漂わせていた。恒例のオープニングではnanoの店長土龍が「(立ち位置を指定する)バミリのテープはないけど、いい距離感でホールを使って楽しんで」と声をかけていたが、祇園祭も甲子園のブラスバンドもようやく戻ってきた今年の夏。3回目となった〈KBSホール〉での『ナノボロ』は、とびっきりの祭りの景色を見せてくれた。

令和と昭和。対照的なステージで幕開けたナノボロ2022

二つのステージが肩を並べていても、まるで二つの会場を行き来しているような空気にしてくれたのが“GREEN SIDE STAGE”トップバッターのフリージアンと“ORENGE SIDE STAGE”の一番手の赤犬だ。

フリージアン

フリージアンのメンバーは、マエダカズシ(Vo)、MASASHI(Gt)、隆之介(Ba)、たなりょー(Dr)の4人。〈KBSホール〉は初めてだというが、そのサウンドは始動して1年とは思えないほど。1曲目の“仰げば尊し”から観客を惹きつける。圧巻だったのがラストに演奏された“蛍”。儚い光のようにメロウなギターリフが奏でられ、マエダの柔らかな声音が響く。しかし、歌の熱量が上がってくるとサウンドも荒々しく変化。スパークするようなギターサウンドが光るロックンロールに舵をきり、間奏では4人が円を描きそれぞれが音を楽しげに鳴らす。厚みのある熟練したバンドサウンドと情景が見えるような歌の力で観客に夏祭りのはじまりを告げ、ステージを後にした。

赤犬

次に登場したのは男だらけのビッグバンド、赤犬だ。赤いジャケットを羽織ったバンド隊がセッションを始めると、コーラス隊のナイトサパーズが青色のタカ・タカアキ(Vo)が白色のジャケット姿で登場。ドリフターズのコントでのセットチェンジを思わせる曲調の”おちょう夫人”では、コミカルなダンスも相まって観客も思わず踊り出す。ベテランの貫禄を感じる演奏に酔いしれていたところ、“めんとこおけさ”でナイトサパーズが歌いながら服を脱ぐ。ついには、股引き一丁、頭にねじり鉢巻きに早変わりし、颯爽とボックスステップをきめる。最後には組体操も飛び出し、笑いも演奏も大人の本気を感じずにはいられない、独自の昭和歌謡の世界を圧倒のパフォーマンスで見せつけた。

今のシーンをも垣間見える、東西の共演

まるでターンテーブルに載せられた2枚のレコードのよう。DJが趣の異なる2曲をシームレスにつなげていくみたいに、両ステージのつながりが見事だったのが新東京とBlack petrolだ。

新東京

2021年に大学在学中に東京で結成した新東京は、杉田春音(Vo)、田中利幸(key)、大倉倫太郎(Ba)、保田優真(Dr)の4人からなるギターレスバンド。1曲目、ヒリヒリとした質感で叩かれるハイハットの硬質な音、無機質で熱情をぐっと抑えた杉田の声で始まったのは“Cynical City”。淡々とした空気は次第に変容し、鍵盤もベースも雄弁にメロディを奏で、ドラムの手数も複雑に。4人がそれぞれ主張しながらも絶妙なバランスでバンドとして音楽を紡いでいく。ユニゾンというよりも、一人ひとりの多彩な動きが重なって生まれるグルーヴの面白さがバンドの核となっているのだ。最後までその姿勢を貫き、観客の心も貫いて、ステージのバトンをBlack petrolへとつないだ。

Black petrol

京大のジャズ研を中心に結成されたBlack petrol。SOMAOTA(Mc)が「新東京からいい流れを受け取って、俺たちは俺たちの花火を打ち上げる」と話していたが、1曲目の“Nite, Ianaltaqi huna”から彼らの個性をゴリゴリに感じる自由度の高いサウンドを展開。同じ自由度でも新東京がメンバーの演奏を縦横無尽につないでいるとしたら、Black petrolはジャズ・ヒップホップ・R&B・ファンク・ポップ・ロック・エレクトロと彼らが参照するジャンルを横断し彼らのサウンドに飲み込み解き放っているよう。編成や出力される音楽は違えど、卓越した感覚で自分たちが面白いと思う音楽を編み出すという共通項が二つのバンドのコントラストを際立て、今のシーンをも象徴しているように見えた。

音楽だけじゃない、社会ともつながるロビーステージ

左から、飯田仁一郎、ユリヤ・ボンダレンコ、オクサナ・リホタ

これまでも“NO WAR”、“ NO NUKES”、“NO DANCE NO NIGHT”と私たちが音楽を分かち合うために、社会へメッセージを発信し、行動を起こす窓口にもなってきた『ボロフェスタ』。その姿勢は『ナノボロ』でも変わらない。今回も“NO WAR”を掲げ、チャリティー活動が行われていた。それだけでなく、主催者の一人である飯田仁一郎が声を上げ、「ウクライナ避難民の方の現状と自分たちに出来ること」というトークイベントが開催。日本に避難してきたウクライナの方の現状を知ろうという趣旨で、飯田がウクライナから京都市に避難してきたオクサナ・リホタさんとユリヤ・ボンダレンコさんにリアルな今の気持ちを聴いていく。私たちが平和のために今すぐ戦争をやめて欲しいとメッセージを送っても、当事者には侵略を受け入れるという意味合いにとられることがあることを知り、これまでたくさんの人たちにインタビューした経験があるという飯田も、何を聴くべきか悩んだそうだ。詳しい内容は、『ナノボロ』のクイックレポートにあがっているのでそちらもぜひ読んでいただきたい。

点から線へ、フロアとステージの境界がつながる世界線

演者がステージという名の境界線を飛び越え、出番以外の時間には観客と同じく自由にフロアで鳴る音楽を分かち合う。これは複数のアーティストたちがブッキングされる〈nano〉でのライブでもよく見られる光景だ。

the engy

そんな光景が次々と飛び込んでくる夜に向かう時間帯に登場したのがthe engyだ。初っ端から“Higher”で観客を大いに盛り上げ、2曲目の“Driver”を歌い終わった時点で山路洸至(Vo)は汗だく。曲が進むにつれ熱量が上がっていくプレイに、最後に演奏された“Headphones”では、境井祐人(Dr)が力強く打ち下ろしたドラムのスティックが折れてしまうほど。地元京都のバンド、よく見知った今日の出演アーティストもいるのだろう。そんな彼らに今度は観客として応えようとステージに向かって手を挙げるフロアの景色が印象深かった。

the McFaddin

さらにフロアの熱い歓声を受けステージに上がったのはthe McFaddinだ。VJによる視覚にも訴えかける演出にも定評がある彼ら。ライブのために持ち込まれた照明機材が舞台上にセッティングされていく。VJと連動しつつも、彼らのライブパフォーマンスは実にフィジカル。この瞬間を楽しんでいることがステージを駆け回り演奏する姿から伝わってくる。途中のMCでRyosei Yamada(Vo)が「去年、コロナででれなかった」と話していたが、彼らを待ち望んでいたファンも多いのだろう、隣のステージで準備中のHue’sのメンバーも彼らのライブに見入っていた。

 

そんなHue’sは開催直前で出演できなくなったNo Funのピンチヒッターとして急遽出演が決定したバンドだ。この流れを受け、見事なライブパフォーマンスをみせてくれたHue’sの姿を、土龍が両手を振り上げながらしっかり見届けており、全身で彼らのライブを楽しんでいたことをここに記しておきたいと思う。

多幸感に包まれた二つのフィナーレ

夏の甲子園、9回の裏が終わるまで何が起こるかわからない。それはライブも同じ。アーティストが想定していた筋書きが変わるような引力が会場に生まれることがある。そんな瞬間が、1日目のどすこいSTAGEのフィナーレを飾った幽体コミュニケーションズとORENGE SIDE STAGEでトリを飾ったDENIMSで起こったのだ。

幽体コミュニケーションズ

最後の曲だと言って演奏された“ギ”が終わっても鳴りやまない拍手の中、アンコールに演奏されたのは彼らの代表曲“ショートショート”。きっと、連載は続いてほしかったんだ。歌が終わっても、拍手は続き大きくなっていく。ロビーにこだまする温かい音に応えるように「あと1曲やらしてください」とpayaが答える。セットリストを知らなくても、ほんとに予定になかったんだって思わずにはいられない、タイトルが決まっていないという曲を最後に披露し、ダブルアンコールというとびっきりのサプライズで幕を閉じた。

DENIMS

「トリのDENIMSです」と釜中健伍(Vo / Gt / Key)が観客に和やかに声をかけると、江山真司(Dr)がハイハットをチッチッチと叩く。ここからさらに盛り上げて行くと言わんばかりに1曲目に演奏されたのは“わかってるでしょ”。その後も初期の名曲“DAME NA OTONA”から最新リリース曲の“ひかり”まで新旧を織り交ぜたセットリストで会場を沸かせる。”Goodbye Boredom”ではきっと普段ならみんなでシンガロングするんだろうコーラスパートでは観客から自然と手が挙がる。後奏ではミディアムテンポからスピードを加速させ会場の盛り上がりは最高潮。ここで、釜中が楽器をギターからキーボードへと持ち替える。可愛らしいワルツのリズムにのって”虹が架かれば”、そして「最後の1曲は、やっぱり自分のことを愛することにしたよという曲で終わります」と“I’m”を歌う。クールダウンとでもいうように優しい音の波に包まれ、演奏が終わるとフロアには温かな拍手の波が拡がっていった。

 

お決まりのアンコールのはずだったが、釜中は「急遽、新曲をします。」と宣言。゛way back”と曲名を告げると鍵盤の前に座り演奏されたのは、やさしい空気を纏ったそんな曲。”特別でも無い日を特別にさせてくれた音楽と 平穏な日々が 尊い事に気づいてしまうくらい 揺るがされた日常を 守っていたい”と歌われた歌詞が、今日この日のためにあるような言葉に思えて何よりも心に残った。そして、最後はアップテンポで、絡み合うベースとギターのフレーズが楽しい”Alternative”。彼らの音楽を存分に鳴らして1日目の祭りを多幸感で染め上げていった。

“今年のナノボロ、タイムテーブル考案して、手直しもあったけど、最終俺の作品なんだよな。ボロフェスタは21年目、nanoは19年目の人生の半分近くイベント制作してきた人間の渾身のタイムテーブルです”

これは、土龍がTwitterでつぶやいていたコメントだ。最後の最後に起こった、DENIMSのアンコール曲の変更。これは結成10年という節目の年に、このステージを用意してくれた土龍に、想像以上のものを見せたい。そんな彼らの心意気によって起こった、さよなら満塁ホームランなんじゃないかなと思うのだ。今日この日だけのぶつかり合い、最後まで見届けないとわからないこの瞬間に立ち会うために、私たちは祭りに集うのではないだろうか。

ハレの“ナノボロ”、ケの“livehouse nano”

コロナ禍の渦中、3年にわたって私たちは祇園祭だったり、甲子園だったり、『ナノボロ』のような音楽フェスだったりを続けるために必死でもがいてきた。社会生活を営む上でそれは後回しにせざるを得ない時期も確かにあったと思う。でも、形を変えてでも続けてきたのは、祭りが持つ本質の一つ、コミュニティを守らねばならない、そんな想いがあったからに違いない。日常を続けていく上で、私たちにはハレの日が必要だ。そんな『ナノボロ』というハレの日をこうして迎えることができるのも、ケであるライブハウス、そう〈nano〉のような音楽と人を密接につなげてくれる拠点がしっかりと存在しているから。だからこそ、今日のような奇跡みたいな瞬間に立ち会えるのである。〈KBSホール〉で行われてはいるが、いつものライブハウスにいるような空気感を幾度も感じた『ナノボロ』。願わくば20年目を迎える来年は、いつものような小型サーキット・フェスという形で行えること。それが、最高のハレの日になるのではないかと思わずにはいられなかった。

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