感情の昂りは、戦争ではなく踊るエネルギーに
知ってから数日、繰り返し聴いていたら全部歌えるようになってしまった。立て続けに音が重なってくるテンションの高いトランペットと、キャッチーな歌詞。東京を拠点に活動する8人組ブラスロックバンド・少年キッズボウイの新曲“最終兵器ディスコ”は、とにかく楽しく踊れる。だが、ただ楽しいだけではない。過去のアニメや映画、先人の楽曲をサンプリングしながら巧みに構築された、したたかな反戦ソングというのがその正体だ。
2020年に結成された少年キッズボウイは、こーしくん(Vo)が生み出す楽曲を今回から加入した服部(Ba)も含めた8人で演奏する。男女ボーカルの重なりとYouTubeライブやTwitterにアップされる動画からも感じられるメンバーの親しさが楽曲の高揚感に繋がっており、現代のバンドならバレーボウイズやフレンズ、少し前だとTOPSにも近しさを感じる。元ネタがプレイリストで公開されていたり、「楽曲のコミカライズ」としてオリジナルの漫画をアップしたり、TikTokで自分たちを曝け出すなど、伝えるための方法を選ばない全身表現者という点は、愛はズボーンを思い出させる。Webサイトには影響を受けたアーティストも掲載されており、こーしくんは山本精一やBlankey Jet City、「たま」などを挙げているが、楽曲を聴けば聴くほど、音楽だけではなく、映像作品に強い影響を受けているのではないかという考えが浮かぶ。
印象的なサビのメロディーは、アニメ『ちびまる子ちゃん』のテーマソング“おどるポンポコリン”でも引用されている、Redbone(レッドボーン)の“Come and Get Your Love”の参照だろう。この楽曲、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)のオープニングで使用されていたことが記憶に新しく、宇宙戦争の舞台設定は映画と楽曲の共通点となっている。そして一番感情の昂りを生み出している箇所は、最後のサビ前のトランペットのフレーズに違いない。これはアニメ『カウボーイ・ビバップ』(1998年)の主題歌・シートベルツ“Tank!”からの引用である。シートベルツは、菅野よう子がプロデュースする架空のバンド。『カウボーイ・ビバップ』は菅野がサウンドトラックを手掛け、賞金稼ぎが火星を舞台に活躍するストーリーと相まって音楽が強烈に印象に残る作品だ。オープニング曲のフレーズを引用することで、これからアニメが始まる時の興奮を思い出させることに成功している。映像に関する楽曲をサンプリングし、その映像の世界観も楽曲に持ち込む手法は、こーしくんの得意とするところなのだろう。
“最終兵器ディスコ”のコミカライズには、宇宙 vs 地球の戦争を、愛が止めるまでのストーリーが描かれている。少年キッズボウイは、音楽で反戦を訴えたRCサクセションの忌野清志郎へ捧げるように、冒頭で「壊れかけのトランジスタラジオ」と歌う。「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ / ウォー・イズ・オーバー」とJohn Lennon(ジョン・レノン)が歌った言葉を、今なお少年キッズボウイが自分たちの歌で叫ぶ。いつの時代になっても戦争は絶えず、その度に愛の重要さを歌う人がいる。終盤に向けてNEWSの“weeeek”さながら繰り返される転調によって徐々に上がるボルテージが、その重要さを象徴しているようだ。
「Disco,Disco,Last Weapon Disco..」
1975年、ベトナム戦争が終わり、空前のディスコブームが訪れた。人種も国境も超え、人々が音楽に熱狂できる場所。当時と今は悲しくも重なるところがある。“最終兵器ディスコ”が鳴り止まなくなった頃には、きっと愛に救われた世界が広がっている。大袈裟かもしれないが、そう思わせてくれるような、強烈なエネルギーを持った一曲と言えるだろう。
最終兵器ディスコ
アーティスト:少年キッズボウイ
発売:2023年3月15日
フォーマット:デジタル
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WRITER
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97年生まれ、みずがめ座。中央線・西荻窪→小田急線・成城学園前。ANTENNAのほかMusicmanなどで執筆。窓のないところによくいます。
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