友達を想って、友達と作った、友達を歌った3曲
4ピースロックンロールバンド、THE 抱きしめるズを聴いたことがあるかい?『最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー』の両A面シングルで、タイトル曲に加えて“友達”が収録された3曲入り。このサブスク時代に、配信では聴くことができない。*紙のジャケットの両面に、贅沢にあしらわれたイラストと写真。紙一枚の歌詞カード。そのこだわりが魅力的ではないか。音楽を手にできるって、嬉しいな。
*2023年11月17日よりサブスク配信開始。
〈新宿レッドクロス〉の店長を務め、バンドからの信頼も厚い篠崎大河(Vo / Gt)がフロントマンのTHE 抱きしめるズ。結成は2007年、タワーレコードのインディーズチャートで2位を記録したこともあり、活動歴は決して短くはない。しかしメンバーの脱退や加入を繰り返し、さらに活動休止も経て現体制での1stアルバム『せかんどふぁーすと』をリリースしたのは2022年だ。結成当初はギターでソングライターだった篠崎大河がマイクを取った、1枚目のアルバムでもあった。
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筆者が先月初めてTHE 抱きしめるズのライブを見たとき、自信が漲るライブに一瞬で心が掴まれた。だからこそMCでバンドがこれまで順風満帆ではなく苦労していた経緯を聞いて、とても驚いた。だって演奏とパフォーマンス、どこを取っても魅力に溢れていたのだから。
観客の視線を一点に集める篠崎大河のスウィートな声とキャラクター。井上大輔(Gt / Cho)のメロディアスなロックンロールギター、そしてシャープでエモーショナルなキモツ(Dr / Cho)のドラムに、サポートメンバーでありながら存在感のある唸るベースはえらめぐみ。そのステージの完成度の高さは完全無敵と言わずしてなんと言えばいいのだろう。きっと、長いバンド旅の中で出会った最高の仲間とだから作ることができる所業なのだと納得した。そうと分かれば、ここに収録された3曲が、仲間や友達について歌っていることは必然だ。
タイトル曲“最強のふたり”は篠崎大河が愛して止まないTHE HIGH-LOWSが歌詞に出てくるが、連想するのはそこばかりではない。少し切ない歌い方は志村正彦(フジファブリック)と通じるところがあり、間奏のギターフレーズからはどうしたってASIAN KUNG-FU GENERATIONの“ソラニン”を想起する。そこからメンバーが次々とバンドを離れていった中でTHE 抱きしめるズを継続させることを選んだ、篠崎の悲しみが垣間見えた。しかし後半にかけて徐々に加速するドラムが自暴自棄を通り越したパワーを帯びている。ヒロトとマーシーのような関係に憧れた。でもそんな関係性を作れる相方は見つからなかった。今まで数多く経験してきた別れもこれからの未来に向けて自分をエンパワーすることに繋げ、吹っ切れたような全能感で1曲を終える。
続いてもう一つのタイトル曲“しんぎんおーるおぶみー”は「自分のことを歌う」という意味ではあるが、歌詞を見ると「君」のために歌っている。君のために歌うことが、自分を歌うことを意味する理由は、3曲目に収録された“友達”を聴いて初めて腑に落ちる。「もしも君がくじけたら / そばにいるのだ」という歌詞は、どこかで聞き覚えがあると思ったら、小学校の頃、合唱曲“Believe”で何度も歌ったフレーズに近しい。
きっとこの3曲を書いた時の篠崎は、これまで以上に友達への愛情を感じる機会が多かったのだろう。友達への想いイコール、自分のことであるし、もはや篠崎は友達への想いだけでできていると言ってもいい。だから篠崎は友達に感謝し続け、友達に愛され、友達と音楽を鳴らし続けていることをただ一つ選んでいるのだろう。
8月13日に〈新宿レッドクロス〉で行われた『最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー』のレコ発ライブには、本作のレコーディングとミックス、マスタリングを担当した夏目創太のバンド・リハビリたちが出演し、ジャケットのイラストを描いたサバシスターのなち(Vo)も遊びに来て、ジャケットの写真も撮った田村優子がライブを撮影。観客にはこれまで対バンしてきたバンドマンや、レッドクロス店長としての篠崎を慕う人、長年のファンだろう人までたくさんの人たちが愛を持ち寄っていた。
そんな人たちの存在によって生まれたとも言える『最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー』に収録された3曲は、初期衝動で感動を生み出す力技では決してない。きっと熱量や勢いを人に確実に届ける丁寧さを、長いキャリアの中で培ってきたのだろう。例えて言うなら、それまで水を火で熱していたところから、今では水にお湯を混ぜて徐々に温めて、観客と同じ温度を共有してから伝えようとする繊細さ。相手に合わせて伝える優しさと熱量を持ち合わせたステージを見れば、誰もが絆されてしまうのも無理はない。友達と本気で向き合ってきた篠崎が自身で導き出した、紛れもない篠崎自身にとっての友達論。それを体現しているのが、現在のTHE 抱きしめるズなのだ。
最強のふたり / しんぎんおーるおぶみー
アーティスト:THE 抱きしめるズ
仕様:CD
価格:¥1,000
発売:2023年8月13日
販売:ライブ会場 / 通販
収録曲
1.最強のふたり
2.しんぎんおーるおぶみー
3.友達
配信リンク
最強のふたり:https://linkco.re/6QQrTqAM
しんぎんおーるおぶみー:https://linkco.re/MSgnRTpU
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WRITER
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97年生まれ、みずがめ座。中央線・西荻窪→小田急線・成城学園前。ANTENNAのほかMusicmanなどで執筆。窓のないところによくいます。
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