『ミッド・サマー』に通じるアンビバレンスな芸術性
Claire=フランス語で明るい、淡い、明瞭といった意味。英語で“so”と強調しておきながらフランス語で言う皮肉なニュアンスは、一筋縄ではいかないサウンドを持つこの楽曲にしっくりくるタイトル。さて、その一筋縄ではいかなさとは?
漂う空気のようなシンセと独り言のような落ち着いたボーカルが、控えめなギターのリズムに乗せられたドリームポップ調で始まる。そのまま夢心地な世界を作るのかと思えば、ドラムとベースは安定感よりも気怠げな不完全さを持ち合わせており、ただ心地よさだけを追求したいわけではなさそうだ。それは複雑に重なるギターとコーラスのアンバランスさと、語弊を恐れず言うならば、少し後味悪い尾を引くような楽曲の終わり方にも現れている。相反する気体が混ざったり混ざらなかったりする不純な空気の中で、どうにか息をするような難しさが癖になるのだろうか。気づくと薄い酸素の中で何度も繰り返し聴いてしまう。
2021年3月に突如Twitterで結成を発表した大阪の4人組バンド、qoomol。今のところリリースしている楽曲はこの1曲だけであり、ライブも数えるほどしか行っていない。しかしこの1曲に現れている、ただ心地よいだけが芸術の美しさではないという姿勢には共感ができる。またこれからの作品にもその姿勢が見られるとしたら、意外性と驚きを求めて追いかけてしまうだろう。
花に囲まれた目から涙が出ているアートワークからはアリ・アスター監督『ミッド・サマー』(2019年)の世界を否応なく想像する。あの映画では白夜の明るさと狂気の気味悪さが同居し、互いに引き立てあっていたが、“You are so Claire”の芸術性はそのアンビバレンスな中毒性と近いところにあるのかもしれない。
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97年生まれ、みずがめ座。中央線・西荻窪→小田急線・成城学園前。ANTENNAのほかMusicmanなどで執筆。窓のないところによくいます。
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