『OUT OF SIGHT!!! Vol.2 アジアの映画と、その湿度』発行のお知らせ
前号、『OUT OF SIGHT!!! Vol.1 京都と音楽と、この10年』から377日が経過してしまいましたが、2022年11月4日(金)に開催される『草率季 Taipei Art Book Fair』より、2号目となる『OUT OF SIGHT!!! Vol.2 アジアの映画と、その湿度』をリリースします。
今号の特集テーマは「アジア×映画」。前号では「京都」というドメスティックなエリアを舞台に10年という時間軸でその豊かな音楽の生態系を切り取りましたが、今号では視野を大きく広げ、映画を切り口にアジア各国(東・東南アジア)の暮らしぶりや価値観を、複数の視点から見比べる一冊となりました。
商品情報
タイトル | OUT OF SIGHT!!! Vol.2 アジアの映画と、その湿度 |
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仕様 | B5 / 176ページ |
部数 | 2,500部 |
発行時期 | 2022年11月(随時) |
発行元 | ANTENNA・PORTLA編集部 |
イントロ
絡みに絡みに絡み合った、その姿の一端を垣間見る
断片的な情報を繋ぎ合わせて、その全貌を想像する
今回の特集テーマである「アジア」も「映画」も僕たち編集部にとっては、まだろくに足を踏み入れていない未開の領域だった。その広大さ、奥深さに手を出すことを躊躇していたのだ。機が熟したなんて、とてもじゃないけど言えない。ただ、いずれにせよ、その最初の一歩となる機会を求めていたのは事実である。そして、苦しいながらもなんとかその全貌の一部でもつかめないかと、もがいた制作期間になったと思う。この一冊は私たちがわずかに切り取ることに成功した「映画をテーマにした、アジアの見取り図」であり、そのおすそ分けとなる。
世の中が知らない物ごとで溢れていることは、小学生でも知っているだろう。しかし、僕たちが彼らと違うのは「あまりに知った気になっているものが多い」ということである。特にアジアはその心理的・物理的距離の近さからなんとなく知った気になっているものの代表格ではないか。そんなことを、パンデミックで目まぐるしく情勢が変化する中で感じていた。
一度、知っている(気になった)フォルダに入れたもののほとんどは、その後の人生で出会ったとしても接点を持つことなく手のひらからするりと抜け落ちていく。僕たちはそのことを日常的に知覚することすらできずに暮らしている。そんな当たり前のことを、観たいアジアの映画が配信サービスに存在せず、中古レンタル屋に走るメンバーを見ては思い出した。確かに、隣に存在するはずの文化だが、一つレイヤーが違えば、少し視点が変われば交わらないことがザラにある。
これが「映画の雑誌」であるかは、今でも正直わからない。ただ、純粋に「アジアや、映画のことをもっと知りたい」と感じたときに、朧げながら頭に浮かべた「あったらいいなと思う入り口の一つ」くらいはつくれたのではないかと思う。ただ、先に謝らなければいけないことは、ここまで散々「アジア」と書いてはいるものの、この雑誌で取り扱っている主な範囲は「東・東南アジア(中国を除く)」に限られるということだ。この旅をさらに奥に進めるのであれば、もう一冊分はボリュームが必要であるとの判断から今回は断念をした。その分、一つのトピックでも複数の視点から切り取るよう試みているつもりだ。
実は、3ヶ月ほど前に僕自身が台北に居を移した。暮らしているからこそわかるが、土着的だとか、ノスタルジーだとか、エネルギッシュだとか、そんな言葉でこの土地の営みをパッケージすることはあまりにも陳腐である。アジアを生きる人々は、どうあっても一言で形容できない猥雑な熱気に満ちていて、また都市はそれをすっぽりそのまま覆うような包容力を持つ。ここには紛れもない生がある。真夏なのにろくにTシャツ一つろくに乾かない湿度に嫌になることがあっても、離れがたいのはきっとそんな魔力のせいだ。
OUT OF SIGHT!!! 編集長
堤大樹
今号の見どころ
①専門書とカルチャー誌の間をいくアジア映画の見取り図
アジア各国の歴史や、その中でターニングポイントとなる映画を紹介しつつ、アジア映画を追いかけられてきた専門家のコラムやインタビュー、映画産業に様々な立場で関わっている方の記事を掲載することで、近年の「アジアの映画」の流れをおさえられるような立て付けを目指しました。
今号の注力地域
- 日本
- 韓国
- 台湾
- 香港
- 東南アジア(タイ・ベトナム・フィリピン・その他)
②網羅するのではなく、複数の視点から「アジア・映画」を眺める
通常の雑誌制作であれば、極力取り扱う作品やトピックは重複しないようにするのが常ですが、今号ではあえて積極的にかぶりも許容しました。書き手や話し手のスタンスや、ポジションによって評価は変わりうる、またその見え方の違いを断片的に集めることで全体像を捉える試みです。
③現地の湿度を感じられるフォトエッセイ
映画が映し出す都市の喧騒、朝の光、暗闇への恐怖、そしてその土地の営みや文化的な背景をより鮮明にイメージできるよう、アジア各国・地域に住んでいる(住んでいた)写真家のフォトエッセイを掲載。垣間見る生の暮らし、映画作品が撮られた社会の姿を浮かびあがらせます。
流通・配布について
『OUT OF SIGHT!!! Vol.1』では文化を街のインフラとすることを目指して、フリーマガジンとして京都を中心とした全国の文化施設・公共施設に設置させていただきました。ですが、今号よりフリーマガジンとしての発行は取りやめ、販売を流通のメインとしつつ「一部をまわし読み版」として流通を行うことに決定しました。理由は主に2つで、「自分たちの活動の継続性」という観点と、「フリーと名乗ることの弊害を回避」するためです。
「継続性」という観点に関しては、「フリー配布によるカルチャーの裾野を広げる必要性」は理解しつつ、自分たちの取り組みを継続させることそのものが「文化の継続発展のために必要である」と判断しました。端的にいえば、雑誌制作を継続するために費用の回収を行う必要があるということです。
またシンプルに、「自分たちがつくるものにもっと大きな価値を見出してあげたくなった」という気持ちは大きくなっています。
そして、「フリーと名乗ることの弊害」関してです。私たちはこの雑誌が「手に取った誰かが街にある文化施設へ足を運ぶ、関係性を深める機会をつくること」を目指し制作・配布しました。ただ、「フリーマガジンだけを回収しに、営業中の店舗を訪問する」、「フリーマガジンを1人で複数冊回収して帰る」などといった事例をいくつか聞いています。
ご協力いただいた店舗や施設の方々にご迷惑をおかけすることはまったくの本意ではないですし、できるだけ多くの方に「知らなかった文化に出会ってほしい」という願いがあります。ただ、「フリー」と謳う以上こういったことをストップさせることは難しいと判断し、配布方法の切り替えを行うことに決めました。
「通常版」の販売について
赤い表紙が目印の通常版はオンラインもしくは本屋で購入できます。
ANTENNA Webストア
ANTENNAのWebストア・mallで購入可能です。
全国の取扱店舗
書店や映画館をはじめとしたお店で販売中です。取り扱いのお店を、リストにて随時お知らせしていきます。
『OUT OF SIGHT!!!』取扱店舗Googleマップ
「まわし読み版」の配布について
まわし読み版は白い表紙が目印です。
この冊子に関しては販売を行わず、無料で一部配布を行います。大切な一冊を友人や家族、街の仲間との間で、まわし読みいただくことを前提にテイクフリーでお持ち帰りいただけるようにする予定です。この冊子が新しいカルチャーとの出会いを生み出し、この冊子が誰かと誰かの関係性をつなぎ、その輪が広がっていくことを願います。
目次
ネオン・暗室・ニシキヘビ – In the light that illuminates on Hong Kong
Text & Photography: Patrik Wallner
2022 アクションの系譜 From Hong Kong To Asia
Text: Arito Kawabata Illustration: MONKEY STUDIO.
戦後香港の映画にみる、日本イメージ
Text: Chunwah Chin
Illustration: Yusuke Nagaoka
私家版「僕と特撮の10年」 – 断絶していく文脈を再接続する
Text: Hyori Takahashi
【入門編】湿度を探る、アジア映画ヒストリー 1960〜2010年代の映画の潮流
Text: Kazuyo Inui / Arito Kawabata
映画批評家・夏目深雪に聞く、今語るべき2つのこと(前編) – アジアの女性映画の見取り図
Text: Miyuki Natsume
アジア映画の勢力図 – ここ10年の映画産業の変化と、第三国の勃興まで
Interview & Text: Daiki Tsutsumi
ミニシアターのスタッフや、キュレーターに聞いた 本当に面白かったアジアの映画11選
地球空洞説 – The story of a road found in Vietnam
Text & Photography:Moeko Abe
トラン・アン・ユン、アピチャッポンのその先へ – 育て合い、繋がり合う東南アジアの若手映画人たち
Interview & Text: Chihiro Bekkuya
Illustration: Saiko Shiiki
ヤマクニキョウコの「すごいぞ!フィリピン映画!」
Text: Kyoko Yamakuni
A flavor of the movie. – 夏の蜜に染まる蝶
Text: Mio Tsuchiya
Photography: Eichi Tano
モチーフで見る、東南アジア映画
Text: Chihiro Bekkuya / Arito Kawabata
アジアンドキュメンタリーズ伴野智に聞く、タブーへの触れ方
Interview & Text: Daiki Tsutsumi
私たちは、なにを恐れ生きてきたのか? – 恐怖が写しだすのは、社会の歪みか?それとも、
Text: Arito Kawabata
Illustration: Isamu Gakiya
釜山の夏、ソウルの夏 – Two waterside citites in Korea where the seasons come and go
Text & Photograph:Hwang hyojin
Translate: Aya Narikawa
韓国映画と男性性、描かれ方とその変遷
Text: Michiyo Nishimori
Illustration: Takuya Kawaguchi
ポスターは映画をどう表す? – 想像の余白を生む韓国のデザイン会社propagandaの取り組み
Interview & Text: Shino Hikawa
Interpretation / Translate: Aya Narikawa
BTSが開いた知の扉 – 私が声をあげはじめた理由
Text: Emma Maeda
Photography:Kasumi Osada, Ryo Mitamura
自分の人生を生きることは、自分を癒すこと
Text: Shino Hikawa
Photography:Minako Irie
人の想いが巡る10日間 – 釜山国際映画祭が生み出す映画との身近さ
Interview & Text: Shino Hikawa
Photography: Ji Sung Jin
『山形国際ドキュメンタリー映画祭』にみる – 映画がローカリティに育つまで
Interview & Text:Itsumi Okayasu / Shino Hikawa
Photography: Itsumi Okayasu
現実と非現実の境目 – アニメーションが接続するめくるめく今敏の世界
Text: Hiroyuki Kawai
Artwork:Ryo Uchida
映画をこの街のインフラにするために – 下北沢最後の1ピース、シモキタ – エキマエ – シネマ〈K2〉
Interview & Text: Daiki Mine
Photography: Daisuke Murakami
ビジネスとカルチャーの狭間で – 京都の映画撮影所は、なぜ今チャレンジするのか?
Interview & Text: Kazuyo Inui
Photography: Itsumi Okayasu
小さな共同体という灯火 – Individual small endeavors in Japan
Text & Photography: Akihito Yoshida
Welcome to Taipei
Text:Daiki Tsutsumi
躍動する島、海を渡った人々 – Smell of the street, tolerant Taiwan
Text & Photography: Daisuke Tomizawa
台湾在住・栖来ひかりが見る社会 – どうして個人的なことは、政治的なものだと言えるのか?
Text: Hikari Sumiki
Illustration: Kumiko Mon
時間をかけて根付かせる – ロケ地まで巡る映画配給・A PEOPLE流、「その土地の作家」とのお付き合い
Interview: Maki Shibata
Text: Itsumi Okayasu
編集部メンバーが気に入ったアジア映画10作品
台北暮色
Text: Junya Kato
Illustration: Peko Asano
「シネマドリフター」リム・カーワイが映すアジアのアイデンティティ – 交わらなかった人たちが教えてくれた無自覚なわたし
Interview & Text: Yoshiko Hashimoto
Photography:Itsumi Okayasu
映画翻訳家に聞く「言葉」へのはからい
Interview & Text: Ayako Koga
Illustration: Kyoka Tanno
映画に見る昨今の香港アイデンティティ – 変化を続ける都市はどこへ行くのか
Text: Daichi Ishii
Illustration: Kano Komori
映画批評家・夏目深雪に聞く、今語るべき2つのこと(後編) – ユーラシア映画の現在地点~戦争と圧政を描く~
Text: Miyuki Natsume
編集後記
地図にない街 – Thailand, how to draw the line
Text & Photography:Kou Kimura
Edit: Chihiro Bekkuya
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WRITER
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26歳で自我が芽生え、とうとう10歳に。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が持てる荷物の量を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
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