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2日目の『京都音博』に感じた“らしさ”の理由 -『京都音楽博覧会2023』ライブレポートDay2

昨日の雨から曇りへと空模様も変わり、初めての2日目を迎えた17回目となるくるり主催の『京都音楽博覧会(以下、京都音博)』。1日目から司会を務めていたFM COCOLO DJの野村雅夫も驚きながら発言していたが、2日目の出演者すべてが『京都音博』初参加。しかし、今までこのステージに立っていなかったことが意外な顔ぶれが見事にそろったといえるラインナップとなった。くるりを含む7組のアクトが梅小路公園で魅せてくれたステージを振り返るとともに、「資源が”くるり”プロジェクト」の立役者である株式会社梅小路まちづくりラボの足立毅さんとコンポストアドバイザーの鴨志田純さんの視点でみた『京都音博』の環境への取り組みについてレポートする。

MUSIC 2023.11.29 Written By 乾 和代

【アフターレポート】「資源が‟くるり”プロジェクト」の立役者に訊く、2年目だから気づいた『京都音博』のポテンシャルとは?

緑色に染まった京都タワーのライトが消えて、今年の『京都音博』が終わった後も続いているのが「資源が‟くるり”プロジェクト」だ。集められた生ごみはコンポストに投入して終わりではない。投入後の2、3カ月は微生物が生ごみを分解するのに最適な温度を保つために切り返し作業といわれるたい肥をかき混ぜて水分量を調節する作業が人力で行われている。その後、熟成させて4カ月かけてふかふかの土のような完熟たい肥が出来上がるのだ。今年も、このプロジェクトの準備から完熟たい肥づくりまでの一連の取り組みの要として尽力されていたのが梅小路周辺のまちづくりに取り組んでいる株式会社梅小路まちづくりラボの足立毅さん、そしてコンポストアドバイザーの鴨志田純さんだ。『京都音博』終了後に、このプロジェクトの立役者ともいえる二人に今回の手応えや今後について話を訊いた。

左:コンポストアドバイザー 鴨志田純さん、右:株式会社梅小路まちづくりラボ 足立毅さん
足立毅(以下、足立)

「今年、うれしかったのは京都みどりクラブの皆さんがお手伝いしてくれたこと。最初は接点がなかったんですが、声をかけて話すようになったら完熟たい肥づくりにも参加してくれるようになった。実際に、完熟たい肥を使う方が参加してくれるとあんなに意欲が高まるとは思いませんでした」

『京都音博』と同じく梅小路公園を拠点に環境の取り組みをしている『循環フェス』とものつながりが深まったのもこのプロジェクトがきっかけだ。今年、初出店となった「RELEASE ⇔ CATCH 衣服の回収 / ¥0Market」もこの『循環フェス』のつながりによるもの。

足立

「今回、古着もけっこう持ってきてくれました。こんな、地域コラボコーナーを増やしていきたいんですよね」

この2日間で集まった古着の総量は435.5kgになったという。コンポストの取り組み以外にもいろいろなアイデアを出し、今回、実現したのが古着リサイクルだったが、そこには『京都音博』を通じて京都で行われている環境への取り組みを発信したいという、まちづくりという視点からこのイベントに関わる足立さんの思いがあるのだ。

さて、今回2年目の実施となった「資源が‟くるり”プロジェクト」も昨年の経験を糧に、回収をスムーズにするためにリヤカーを導入。1日3回、時間を決めてごみを集めに回った。さらに、チーム感を出すためにおそろいのエプロンをつけ、この活動を認知してもらうためにのぼりもつくったそうだ。さらに、余剰食材がでるフードコート側の回収にも力を入れたという。

足立

「今年はフードコートの後ろにも生ごみ回収用のざる受け付きポリバケツを設置しました。特に2日目の17時台は生ごみが多かったですね。多くは作り過ぎた材料。会場内の小川珈琲さんの珈琲カスは結構量が出ましたね。もともと珈琲カスを回収させてもらおうと思っていたので、紙フィルターを除いて珈琲カスだけにまとめてもらったので回収は楽でした」

そうして集まった食品残さの量は247kg。多いかと思ったが、実は今回、一万人規模の人が2日間集まることを想定して、この食品残さを微生物に分解してもらい完熟たい肥にするために事前に用意した床材は3,000L。最大3tの生ごみを処理できる量であることを考えると思いの外少ない。

鴨志田純(以下、鴨志田) 

「実際にコンポストをやり始めるとゴミが可視化されて、ごみを出さずに食べ残しのないようにしようという思いが働くのか、ごみがでなくなる。他の事例でも、3カ月に1回コンポストがいっぱいになる想定だったのが1年に1回になったこともありました。もしかしたら音博にコンポストが設置されたことで、ごみは出さない方がいいよねという意識が醸成されているかもしれません」

全国各地でコンポストの取り組みに関わっているという鴨志田さんが、他の地域の事例を交えて自身の見解をこのように話す。

鴨志田

「普通、ごみは産廃業者に出したら終わり。見える化すると、その過程がブラックボックスにならないから、はじめから終わりまでは自分の中でどうなっているかわかる。そういう“身体知”みたいなものが今の社会に足りない部分なのではと思うんです。今回、このイベントに参加してる皆さん、それを取り戻してるのではと思いました」

普段からコンポストを通じてごみ問題について考えてもらう機会をつくっている鴨志田さんのその言葉に、改めて『京都音博』はくるりが出るイベントだけで終わらない、環境の事、文化の事、いろいろなことを知る機会にもなっているのだと感じた。

そんな鴨志田さんの話を受けて足立さんも気づいたことがあるという。

足立

「前から音博はエコステーションで9分類にごみをわけていて、その一つが生ごみ。去年初めて『京都音博』で生ごみを回収して思ったのは、もともとごみを分別する、ごみを出さないという意識で参加されているからあんまりごみを出さないのかなと思った」

2007年から『京都音博』が掲げてきた「環境・文化・音楽」というコンセプトがしっかりと息づいているからこそ、自分たちの活動が今、活きているというのだ。

足立

「去年初めて『京都音博』のお手伝いをさせていただいたんですが、くるりが次の世代のアーティストを意識して紹介しているんだなと感じました。僕らがやってるこのプロジェクトも地域の次の世代の方たちの活動を『京都音博』を機にみんなと共有しようとしている。それも、今の『京都音博』とリンクしているのではと思います」

今後の展開について伺うと、完熟たい肥を梅小路公園の中だけで循環させるのではなく、例えば、完熟たい肥で作った野菜を販売することや綿を栽培しTシャツにすること、古着をアップサイクルし衣装をつくることなど、このプロジェクトを起点としたさまざまなアイデアが生まれているという。これらを実現させるためにも、イベントの日だけでなく、水面下で続いている彼らの取り組みを支援し続けることが、この取り組みを育てる‟たい肥”となるでのは、そんなことを思った2年目の「資源が‟くるり”プロジェクト」だった。

Photo by 阿部朋未

『京都音博』1日目のライブレポートと「資源が"くるり”プロジェクト」の当日の様子はこちら

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