自らをすり減らすより、適度なゆるさで戦う99年生まれたち
こんなに伸びやかな女性ボーカルを聴いたのはいつ振りだろう。miwaや木村カエラ、あるいはYUKIにも並ぶインパクトがあり、どんな難解な歌も歌いこなしそうな灯(Vo / Gt)を擁するのは、東京を拠点に活動するバンド・omeme tenten(オメメテンテン)だ。
KamisadoやSubway Daydreamなど、オルタナティブロックやパワーポップの系譜を引き継いだギターロックバンドとも親交が深く、『KNOCKOUT FES』や『下北沢にて』など若い客層に支持されるイベントにも出演している注目株だ。一度聴いたら忘れないバンド名が気になる4人組による1stシングルが本作である。
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“Now & Then”は、Aメロの後すぐにサビに繋がるすっきりとした構成だ。イヤホンのLとRから聴こえる左右のギターの掛け合いが心地よく、ぶつからないように丁寧に作られているフレーズによってそれぞれの音を鮮明に聴くことができるし、サビでさりげなくたえり(Dr)のコーラスが重なるのも心地よい。楽器のアンサンブルがしっかり楽しめるのが魅力だ。
そんなサウンドの中で一言一句聴き逃さないくらい鮮明に、灯の歌が聴こえる。これだけ堂々とした光るボーカルの裏であれば何をしてもよさそうなもので、その自由さが楽器の表現幅を広げているのかもしれない。よく「コロナ禍で就職した若者はすぐ仕事を辞める」なんて言われるが、あながち間違いでもないだろう。そうやって日々誰かが去っていく環境で過ごしていると、かつては同じ場所にいた人のことを思い出すことも増える。でも前に進むしかない。“Now & Then”は去る者を追わず、残された人たちに向けて背中をそっと押す、歌詞にも出てくる「99年生まれたち」の気持ちを代弁している歌だ。そんな中、最後のサビだけ入るクラップ音は、応援の拍手にも聴こえてくる。
そのまま続けて“ブラックホールなう”を再生すると、うまくいかない状況を客観視して、諧謔的に歌っているような1曲として耳に入る。「どうしたって逃げられない / なんだか泣けてきちゃう / これは長い長い物語 / 続きがみえない」という歌詞は投げやりだが、その後は「まるごと消えてたまるか」と控えめな明るさも添えている。見逃せないのはTwitter(現X)黎明期に流行ったネットスラング「なう」がタイトルに入っていることだ。Twitterという名前の終わりを、暗い状況に重ねているようで、なんて憎いセンスだろう。
そしてジャケットの「目が点」になっているキャラクターは、世の中を達観しているように見える。このキャラクターさながら、コロナ禍で大学卒業から社会人への歩みを進めた、一辺倒にはいかないことを認識している世代が身につけたのは、自らを守るゆるさだろう。太刀打ちできない相手を前にして、自らをすり減らして戦うよりも、適度にゆるくなることが、むしろ強さになる時は多い。それを99年生まれは、肌で感じているのだ。omeme tentenは、ゆるさを表に備えながらも、等身大で世代を代弁してくれる。きっとこれからの時代、控えめなヒーローとして多くのZ世代の支持を集めながら、上の世代との架け橋となっていくことを期待する。
Now & Then / ブラックホールなう
アーティスト:omeme tenten
仕様:デジタル
発売:2023年10月4日
配信リンク:https://friendship.lnk.to/NnT-BHN
収録曲
1.Now & Then
2.ブラックホールなう
omeme tenten
Vocal & Guitar 灯(アカリ)
Bass 善太 (ゼンタ)
Drums たえり
Guitar Yuji (ユージ)※新規加入につき、現在のアー写には不在
2022年春、東京にて結成した女性ボーカルの4人組ロックバンドを結成して間も無くEP「 祈りたちよ」を配信にてリリース。夏に初自主企画を下北沢ERAにて開催、満員観客にてライブを行う。同時にCD盤「祈りたちよEP」をリリース。HOLIDAY! RECORDSでは入荷の度にソールドアウト状態に。
X(旧Twitter):https://twitter.com/omeme_tenten
Instagram:https://www.instagram.com/omeme_tenten/
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WRITER
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97年生まれ、みずがめ座。中央線・西荻窪→小田急線・成城学園前。ANTENNAのほかMusicmanなどで執筆。窓のないところによくいます。
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